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第16話 ダンジョン攻略③ 屍黒馬討伐

「ブルル……!」


 リヒトはいつものように静かに構えている。

 が、その内側からは怒りのエネルギーがあふれ出していた。


 それを感じ取った屍黒馬は、直接怒りを向けられているわけじゃないにもかかわらず警戒心を強めた。


「まずは──」


 リヒトが取り巻きたちを指さす。

 すると結界が現れ、取り巻きたちを拘束した。


「うぐっ……!?」

「ルミナに手を出したこと許しはしない」


 拘束を一瞬だけ極度に強め、取り巻きたちの意識を刈り取る。

 これで邪魔者に妨害されることはなくなった。


(こいつらはここに放置することになるが……結界で包んでおけば死ぬことはないだろう。あいつも近くにいるしな)


 リヒトは取り巻きたちから視線を逸らす。

 次いでルミナを見た。


「屍黒馬を俺一人で倒すのは不可能だ。手を貸してくれ、ルミナ」


 ルミナは無言で立ち上がる。


 悔しそうに奥歯を噛みしめ、思いっきり自身の頬を殴る。

 それから強い意志を宿した瞳で顔を上げた。


「……もちろんよ。あたしは、あたしのためにも絶対にあいつを乗り越えなきゃいけない」

「ブルゥァァァ!」


 ルミナが復帰するのと同時に屍黒馬がスキルを発動した。

 これまで以上の数で紫炎の魔弾が迫ってくる。


「守護結界発動!」


 リヒトが前面に、坑道を塞ぐように結界を展開する。


 魔弾が大量直撃し、視界が完全に潰れるほどの煙と砂埃が舞う。

 結界越しでも熱が伝わってきた。


「ここは狭すぎて俺たちが不利だ。屍黒馬の物量に特化したあの魔弾を突破できない。だからいったん退くぞ」

「了解!」


 リヒトが先導して走り、二人は広いエリア……最初にジャイアント・スケルトンと戦った場所を目指す。


 背後から魔弾が炸裂する音と屍黒馬のいななきが響く。


「リヒト、あの結界が前言ってた権能の新しい力なの?」

「ああ、そうだ」


 リヒトは魔弾を結界で防ぎながら手短に説明する。


「権能【守護神】の新たな力、その名も“守護結界”。今はまだ普通の結界を張ることしかできないが、【守護神】の力をもっと引き出せれば守護結界も強化されるはずだ」


 リヒトの【守護神】はまだその力を完全に引き出せてはいない。

 能力の一覧に「???」と表記されているものもそうだし、解析も格上には通じにくい。

 名前と種族、ランク程度ならわかるが、スキルなどの詳細は実際に相手が発動したものを見るまで調べられないのだ。


(おそらく神化の強化率も引き上げられるだろうな)


 ジャイアント・スケルトンと戦った大広間に到着した二人は後ろを振り向く。

 荒々しい足音と共に屍黒馬が突撃してきた。


「ブルルァァァアアアッ!」


 再び紫炎の魔弾が放たれる。


 スキル〖ゴーストフレア〗。

 一発一発が高い威力と熱量を持つ攻撃。


 結界無しで直撃すればダメージを受けるのは避けられないが──



「狭い坑道なら脅威だが、この広さなら躱すなど造作もない」

「ッ!」



 魔弾の軌道を読んで躱しながら詰めたリヒトは突きを放つ。


 剣が屍黒馬の胴体を抉るが、瞬く間に修復された。


(屍黒馬の持つスキル〖幽体再構成(アストラルボディ)〗。効果は物理攻撃によるダメージを無効化して自身の身体を修復するというもの)


 リヒトが「屍黒馬を倒すにはルミナの力が絶対必須」と言ったのはこのスキルがあるからだ。


「だが、お前の気を引くことはできた」


 屍黒馬がリヒトに意識を向けた一瞬。


 ほんのわずかでも隙が生まれたその瞬間を逃さない。

 肉薄したルミナが槍に光属性を付与した。


「アンデッドならこの攻撃は無効化できないでしょ?」

「ブル……!」


 リヒトに後ろ蹴りを放とうとしていた屍黒馬は即座に動いた。


 後ろ足ではなく前足を持ち上げ、光の槍で貫かれながらも地面を叩きつける。


 衝撃で地面が隆起し、バランスを崩したルミナは攻撃を中断させられた。


「ヒヒィィィンッ!」


 屍黒馬はアンデッドなので血を流すことはないが、確実にダメージを受けた様子で。

 されどそれで動きが鈍ることはなく後ろ蹴りを放つ。


「ぐっ……!」


 ルミナはとっさに生み出した盾で直撃は避けたが、衝撃を防ぎきれず吹き飛ばされた。


 地面を数回バウンドし、壁に激突して止まる。


 さすがはA級最上位の魔物だ。

 威力はこれまでの相手とは比にならない。

 いくらルミナでも大ダメージは避けられないが──




「……それでいいわ。むしろもっと強くなってほしいくらいよ」


 立ち上がった。

 ルミナは血を流しながらも闘志を失うことなく立ち上がった。


 そして静かに呟く。


「人間なんて弱いやつばっかり。死ぬ覚悟はできてるだなんだ口では言えても、いざ本当に死にそうになったらほとんどの人間は恐怖に負けて死にたくないと逃げようとする。

 最後の最後、死ぬ瞬間まで信念を貫けるような強く気高い人間なんてほんの一握りしかいないのよ……!」


 ルミナは震えるほど強く拳を握り締める。


 取り巻きの悪意で殺されかけたあの瞬間。

 死を悟ったあの瞬間、ルミナは思わず目を瞑ってしまった。


「リヒトと一緒に邪神と戦うって決めたのに……!」


 邪神と比べるなんて烏滸(おこ)がましいほどちっぽけな悪意に。


 恐怖にあんな簡単に負けてしまった。


「……自分の弱さと覚悟の足りなさを痛感した。不甲斐なさに腹が立って仕方ないわ」


 邪神がどれほど強大な悪意なのか。

 想像もつかないほど途轍もない存在であることだけは確かだ。


 そんな相手と戦わなくちゃいけないのに、こんなところで(つまず)いてどうすんのよ!


 その意思を込めてルミナは槍の穂先を屍黒馬へ向けた。



「弱いままのあたしはもう終わりだ。ここであんたを乗り越えて先へ進む。今よりも少し強いあたしになってやるわよ!」



 屍黒馬の攻撃を適当に往なしていたリヒトは、ルミナのその言葉を聞いてから。


 【守護神】の神化を一瞬だけ発動し、超火力の一撃を屍黒馬に叩き込む。



 あまりの威力に屍黒馬の半身が消し飛ぶ。

 まさしく地面が爆発したかのような、巨大な衝撃。

 先ほどの屍黒馬の叩きつけとは比べ物にならない攻撃だった。


 屍黒馬には〖幽体再構成(アストラルボディ)〗がある以上ダメージは与えられない。

 すぐに再構成されるが、とんでもない威力に驚愕した屍黒馬は追撃せず距離をとった。



「そういうことだ。だからお前も出せよ、本気」



 その言葉が通じたのかはわからないが。

 リヒトたちを強敵だと認識した屍黒馬はスキルを発動した。


 ゴポポと、屍黒馬の足元から闇が泥のように湧き出す。

 直後、闇が屍黒馬を包んだ。


 闇の中で屍黒馬は怨念を纏う。


「〖武装展開〗!」


 自身よりも大きなバトルアックスを生み出したルミナが走る。


 光属性を付与し跳躍。

 力いっぱい闇に叩きつけたが簡単に止められてしまった。


「全力を出してもらえたようで嬉しいわ。ありがとね」


 弾かれたルミナは空中でクルクルと回転しきれいに着地する。


 屍黒馬を包んでいた闇が晴れ、中から闇の騎士を背に乗せた屍黒馬が現れた。


『私が呼びだされたということは……あやつらはお主を以てしても油断できぬ相手ということだな?』

「ヒヒン」


 闇の騎士の言葉に屍黒馬が頷く。


(〖カースナイト〗、強力な分身を生み出すスキルだ。ちゃんと本気出してきたな)


『さあ、(いくさ)を始めようではないか! 屍黒馬よ』

「ヒヒィィィィィンッ!」


 カースナイトの言葉に呼応して、屍黒馬は高らかにいななく。


 まずは〖ゴーストフレア〗。

 初手でも使っていた紫炎の魔弾を放ってくる。


 発動速度の速さ、豊富な手数、高い威力。

 強力な攻撃だが、二人には通じない。


 躱しながら距離を詰めた二人が挟撃するが……。


『させぬわ!』


 カースナイトが暗黒魔法を発動する。

 闇の剣を複数生み出し、挟撃を完全に防いだ。


(これが〖カースナイト〗の強みだ。屍黒馬とは独立して動き、手数が豊富な暗黒魔法を自在に操る)


『ヌゥンッ!』


 カースナイトが回転斬りを放つ。

 力ずくで二人を弾き飛ばして距離を作った。


 その隙に、屍黒馬が新たにスキルを発動する。

 紫炎の魔弾が屍黒馬の周りに浮かぶが、すぐに飛んでくることはなかった。


(解析!)


 スキルを認識したリヒトが詳細を調べる。


「〖フレアチェイサー〗、〖ゴーストフレア〗の追尾攻撃版だ!」

「ブルァ!」


 屍黒馬が〖ゴーストフレア〗を放つ。


 紫炎の魔弾が無数に迫る。

 そのタイミングで、〖フレアチェイサー〗の魔弾が回り込むように横から飛んできた。


「ッ!」

「結界!」


 これが〖フレアチェイサー〗の強みだ。

 発動から放たれるまでのタイムラグは大きいが、一度発動してしまえば後はリソースを割かなくとも勝手に敵を狙ってくれる。

 今回のように他のスキルと組み合わせることで、一人で挟撃が可能になるのだ。


『私もいることを忘れるなよ!』


 さらにそこにカースナイトが加わることで。

 〖ゴーストフレア〗、〖フレアチェイサー〗、暗黒魔法の三重奏が二人に襲いかかった。


「上等よ!」


 ルミナは盾で防ぎ、槍で相殺し、跳んで躱しながら攻撃を捌く。

 リヒトは結界で防ぎ、剣で斬り裂き、軌道を見切って躱しながら対応する。


「ブルルルル!」


 屍黒馬が前足を大きく持ち上げる。

 また地面を叩きつけて二人を妨害するつもりだ。


「させるか!」


 屍黒馬が地面を叩きつけるよりも早く、リヒトが屍黒馬の前足を結界で止める。


 屍黒馬は結界を蹴って後ろに跳びながら、再び〖フレアチェイサー〗を発動した。

 カースナイトも暗黒魔法を合わせる。


「〖ゴーストフレア〗は使わなくていいのかしら? さっきより簡単に対処できるわよ!」


 三重奏にも対応した二人が今回の二重奏に対応できないはずもなく。


 弾幕を突破した二人が屍黒馬を狙う。


『そんなことは百も承知だ!』


 カースナイトが二人の攻撃に対処する。

 闇の剣と二人の武器が何度もぶつかり合う。


 激しい剣戟が繰り広げられ、両者は拮抗した。


『今のお主では私の闇は突破できん』

「だったら攻撃が通るまで何度も攻めるだけよ!」

『ふむ……。何か策があるな? 脳筋というわけではなさそうだ』


 カースナイトは巧みな技術で二人の攻撃を捌く。


 だが、リヒトは神殺しを成し遂げたのだ。

 A級の、一魔物の技術が届くはずがない。


「ここだ!」


 リヒトは一瞬の隙をつき、剣を投げる。


 投擲された剣はカースナイトの胸部を貫いた。


(カースナイトには〖幽体再構成(アストラルボディ)〗の効果は適用されない。今のダメージで弱まることは確実だ)


『ぐ……! 強いな……! ……だが!』


 その瞬間、大広間の地面に巨大な魔法陣が広がる。

 屍黒馬の切り札が発動した。



『〖煉獄焦熱陣〗だ。我が相棒の奥義を喰らうがいい!』

「ブルァァァアアアア!!!」



 魔法陣が赤く光り輝く。

 熱気と蒸気が大広間にあふれ出し、一泊遅れてそこら中から火柱が昇った。


 まるで噴火だ。

 絶え間なく火柱が噴出する。


 少しでも触れれば一瞬で灰になるような超火力。

 それが何度も発生することで大広間の温度が急激に上昇していく。


 このままでは、火柱に当たらなくても呼吸するだけで肺が焼かれて焼け死ぬのは明白だ。

 リヒトとルミナは火柱を躱しながら合流する。


「相棒か。いい信頼関係だ」


 ルミナはリヒトの剣の腹に飛び乗る。


「俺たちのコンビネーションとどっちが強いか決めようぜ」

「信頼関係ならあたしたちも負けないわよ。幼馴染だもの」


 リヒトは剣を振り、豪速でルミナを撃ち出す。


「〖武装展開〗──バトルアックス。〖属性付与〗──光」


 空中で大斧を構えたルミナを、火柱と暗黒魔法が呑み込む。


 だが──



「ありがとね、リヒト」

『何ィ!?』



 ルミナは火柱の中から飛び出してきた。


 彼女を包んでいた結界が消え去る。


 直撃は防いだものの、熱までは防げずルミナは全身に大火傷を負っているが……。

 もうルミナは、その程度で折れるほど弱くない。


『ヌァァァアアアアアアアア!!!』


 カースナイトがルミナめがけて突きを放つ。




「今ので死ななかった時点で……、もうあたしたちの勝ちよ!」




 ルミナは大斧を──


 ──〖連撃〗で強化された膂力を以って振り下ろす。



 闇の剣を打ち消し、カースナイトごと屍黒馬を両断した。



「お見、事……」

「ブル……」


 魔核を斬られた屍黒馬が倒れて消える。



 こうして二人は……。

 A級最上位ダンジョン、屍坑道のダンジョンボスを討伐した。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

上がり調子になってきました。次回ざまあ回ですのでお楽しみに!


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また、peepにて拙作『不知火の炎鳥転生』がリリースされました!!!

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超絶面白く仕上げているので、ぜひ読んでみてください! 青文字をタップするとすぐに読めます!
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