第14話 ダンジョン攻略① 未踏破ダンジョン
担任教師から「学園内ダンジョンを攻略しないと単位を与えない」という無茶ぶりをされた翌日。
ダンジョンにやって来たリヒトとルミナは入場手続きを済ます。
入場口の転移魔法陣に乗り起動する。
次の瞬間には、二人は洞窟の中に立っていた。
「さあ、ダンジョン攻略開始だ」
「全部あたしたちでブッ飛ばしてやりましょ!」
ダンジョンとは、邪神がこの世界を乗っ取る以前からもともと存在していたもの。
内部には魔物やトラップなどが存在するが、その危険度に見合った報酬……例えば魔物素材やお宝、装備の類いなどが手に入る。
お金稼ぎだったり修行の場所として用いられるのが一般的だ。
このダンジョンも、学園の生徒たちの訓練場として使われている。
中盤以降から難易度が高くなっていくが、序盤は初心者でも攻略できるような難易度。
そのため二人は魔物を無視して最速で深部を目指す。
「やっぱり序盤は楽勝ね。トラップも大したことないわ」
二人はトラップを難なく躱しながら進む。
途中ですれ違った他の生徒たちが羨ましそうに呟いた。
「あいつらなんであんな簡単にトラップ避けながら進めるんだよ……」
もちろんそれには方法がある。
二人は体外に魔力を展開し、進行方向先を常にサーチしている。
ダンジョンはスキルや魔法に近しい性質を持った存在なので、トラップなどを魔力で感知できるのだ。
もちろん二人の魔力感知能力あってのことだが。
「……とはいえ、単純な落とし穴などスキルや魔法が絡んでいない物理的に作った罠は感知できない。油断はしないようにな」
「ええ、もちろんよ」
二人はあっという間に深部まで到達した。
C級の魔物の群れを軽々倒したところで一息つく。
水分補給を終えたルミナが疑問に思った様子で尋ねた。
「あんたからここが次の修行場所って聞いてたけど、今んところなんの手応えもないわよ。ボスもこの前戦った女王蟻と同じランクだし、ホントに修行になるの?」
「それについてだが……」
ちょうどいいとばかりにリヒトは説明する。
「このダンジョンには、まだ誰にも発見されていない区域がある」
その情報にルミナが碧い瞳を見開く。
「より正確に言うと、このダンジョン内に別のダンジョンが存在するんだ」
リヒトがそれを知ったのは一週目で三十を迎えた時。
当時は訓練用ダンジョン内に高難易度の別ダンジョンが存在したと大ニュースになったものだ。
リヒトたちのパーティーも修行の一環で利用したことがある。
「難易度としてはA級最上位。今の俺たちにピッタリだ」
「以前の……魔力が増やせることを知る前のあたしじゃ考えられないくらいスパルタね」
ルミナは新情報に驚いた様子で呟きながらも。
「でも」と不敵に笑う。
「やってるわよ。その程度のこともできないで邪神に勝てるわけないもの」
その言葉を聞いてリヒトも笑う。
「よし、それじゃあ行くか」
そして二人はダンジョンのとある一角へと移動した。
一見すると何もない行き止まりだ。
「ここの壁に強力な一撃を放つと──」
リヒトが魔力で最大まで強化した蹴りを放つ。
すると、大きな音を立てて壁が壊れた。
奥に坑道が伸びている。
「ここがA級ダンジョン、“屍坑道”だ」
「屍坑道……。名前からしてアンデッド系のダンジョンかしら?」
「ああ。アンデッドを中心として闇属性系統の魔物が多く出現する」
二人は坑道に……未踏破ダンジョンに足を踏み入れる。
その様子を離れた場所からこっそり確認していたダグラスたちは──
「──は? 隠しダンジョンだと!?」
衝撃の光景に驚く。
「どうしましょうダグラス様!」
「このままでは作戦が……」
「うろたえるな」
慌てる取り巻きたちを制してからダグラスは考え込む。
(隠密の魔道具でここまで尾行できたはいいが、いまだにリヒトが違法薬物を使った形跡はない)
ダグラスは自身の手元にある簡易検査の魔道具を見る。
これは学園から借りたものだ。
現状で指定されている違法薬物……正確には覚醒薬以外の違法薬物を使用した者が近くにいた場合、反応するように設定されている。
学園からは映像記録の魔道具も借りているため、簡易検査の魔道具がリヒトたちに反応したところを撮るだけでダグラスの勝利は確実なものになるのだ。
簡単だと思っていた。
しかしフタを開けてみれば今の今まで証拠はとれず、リヒトたちは未知のエリアに行く始末。
「……仕方ねぇ。こっちのアイテムを使うしかねぇか」
そう言ってダグラスが取り出したのは、家から持ってきた魔道具。
効果は「使用者を中心として、半径百メートル以内にいる者を任意にダンジョン内のランダム地点へ転移させる」というもの。
「この魔道具であの二人を分断する。守ってくれる人間がいなくなったら、弱いリヒトは生き残るために違法薬物を使うしか手がねぇ。行くぞお前ら」
「「「はい、ダグラス様!」」」
こうしてダグラスたちも未踏破ダンジョンに足を踏み入れた。
◇◇◇◇
「いきなりB級上位か」
屍坑道を少し進んだ先にある大部屋。
そこでリヒトたちは、全長五メートルほどもある巨大な骸骨と対峙していた。
魔物の種族はジャイアント・スケルトン。
先ほどリヒトが言った通りB級上位だ。
「カタ……カタ……」
巨大骸骨がリヒトとルミナを認識すると同時に腕を振り下ろしてきた。
二人は横に跳んで躱す。
腕が叩きつけられて坑道に轟音が響く。
粉塵が舞う中、リヒトは叩きつけられた巨大骸骨の腕を斬りつけた。
が。
「……やはり無理か」
ガキィンッ! と弾かれる。
低級魔物の通常スケルトンとは比べ物にならない強度だ。
(〖魔骨強化〗の効果によるものか)
権能の効果で解析したところ、巨大骸骨はこのようなスキルを所持していた。
魔力と瘴気で自身の硬度を強化するという効果だ。
「これならどうかしら?」
リヒトに続けてルミナが殴りかかる。
光属性を付与した斧による一撃が炸裂。
巨大骸骨の腕にひびが入った。
「アンデッドの弱点は光属性系統。このダンジョンはあたしにとっちゃ絶好の狩場よ!」
瘴気は光属性に弱い。
だからルミナは〖魔骨強化〗を破れたのだ。
(俺も【守護神】の神化を使えば正面から力業で破壊できるが、あれは消耗が激しい。それにゴリ押ししてるだけじゃ修行にならないしな)
その考えからリヒトは神化を積極的には使わないようにしている。
(この状態で俺が勝つには──)
リヒトは巨大骸骨の薙ぎ払いを回避しながら背後へ回り込む。
ルミナが正面から激しく攻めているおかげでスムーズに後ろを取れた。
(アンデッドにはスタミナの概念がない。こいつも例にもれず暴れ狂っている)
巨大骸骨の魔核は胸部……肋骨に守られている。
巨体の上部に位置していることから通常では狙いづらい。
だからリヒトは、足首の骨格のつなぎ目を切断する。
スケールが大きくなっただけで、討伐演習で女王蟻にやったことと変わらない。
「……ォォォォォォォオ!?」
巨大骸骨がバランスを崩す。
リヒトは続けてもう片方の足も切断する。
支えを失った巨大骸骨は、今度こそ耐えきれず轟音を響かせて尻もちをついた。
「ナイスよ、リヒト!」
ルミナが肋骨に向かって跳躍する。
骨の上に着地して、槍で魔核を貫いた。
「もうB級は敵じゃないわね」
崩れ落ちる骨の上からルミナはひらりと舞い降りる。
リヒトのもとに移動しようとした時、二人の足元に巨大な魔法陣が展開された。
「転移魔法陣だ! もう止められない! 転移直後に魔物やトラップにやれれないように気を引き締めろ!」
即座に解析して魔法陣の詳細を読み取ったリヒトが叫ぶ。
ルミナが言葉を返そうとした時には、すでに二人は別々の場所に転移していた。
「ッ!」
ルミナは何が来てもいいように戦闘態勢をとっていたが、転移直後に襲われることはなかった。
それは幸いなのだが……問題は現在地がわからないことだ。
「このダンジョンは一階層だけで広くはないってリヒトが言ってたから、心配しなくてもそのうち会えるはず。
……私がやるべきことは変わらないわ。あいつの隣に立つために強くなる」
ルミナはすぐに現状分析を済ませる。
槍を手に、奮い立った様子で歩き始めた。
「むしろ修行にはもってこいだわ。B級でもA級でもなんでもかかってきなさい!」
一方リヒトは。
「グルゥゥゥ」「ガルァッ!」「キシャー!」「シュゥゥゥゥゥ……」
目の前に大量の魔物がひしめいていた。
「よりによって転移した先がモンスターハウスとはついてないな」
モンスターハウス。
魔物が大量に発生する部屋のことで、すべて倒すまで出られない仕組みのトラップだ。
B級クラスの魔物がうじゃうじゃいるこの状況。
普通の討伐者じゃ絶体絶命の状況だが──
「せめて喰らいついてきてくれよ」
リヒトは修行にはピッタリだと挑発的に笑ってから動き出した。
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