第13話 無茶な要求
「……そう。例えば違法薬物を使ったりなぁ! 君があの結果を出せた理由などそれしか思いつかんのだよ!」
担任教師が叫ぶ。
(それが言い分か)
教師たちの言葉を静かに聞いていたリヒトは淡々と否定した。
「俺たちは一切不正をしていません」
まずは確固たる結論を述べてから。
反論しようとする教師たちを言葉で制す。
「そう言っても貴方たちは信じないでしょう。ですから、検査でもなんでもするといい」
「……ほう、えらく強気だな。では、望み通り検査してやろう」
どうやらリヒトたちを検査して違法薬物使用の証拠をつかむことは既定路線だったらしく、スムーズに検査が始まる。
血液検査、魔法検査共に順次行われる。
結果が出るまでの間に、念のためスキルなどの検査も行われることになった。
そして──
「──なっ、なんだこの結果は!?」
教師たちが驚愕をあらわにする。
内容は魔力検査。
二人の魔力量の結果が、入学時に測った時の測定値から大幅に増えていたのだ。
「魔力量が増えているだと!?」
「ありえん! そんなことは絶対にありえん!」
「これこそ不正の証拠ではないのか!?」
教師たちはどよめいていたが、すぐに追及を始める。
リヒトは涼しい表情であらかじめ考えておいたことを告げた。
「身体能力や魔法能力を引き上げる違法薬物はあるが、純粋に魔力を増やすだけの違法薬物は存在しない。それは貴方たちも知っているでしょう?」
「……覚醒薬はどうだ? あれなら魔力量も強化されると聞くぞ!」
“覚醒薬”。
邪神の手下であるハイエンドのガブリエルが製造している薬であり、使用者の悪意を増幅して力を与える効果を持つ。
犯罪者間の闇ルートで出回っている強力な薬だ。
「あの薬を飲んだ者は魔物のような外見に変貌するという話だ。俺たちが飲んでいないことは明らかですよね?」
リヒトは覚醒薬のことをあくまで一般人が知りえる範囲だけで答える。
教師たちの反論を理屈で封殺したところで。
「その魔力計測器が故障しているか不具合が起きたかのどちらかでしょう。魔力を増やす方法などこの世界には存在しないですから」
そう締めくくる。
あくまで機器の故障か不具合ということにしておいて、魔力を増やせること・その方法については伝えない。
(魔力を増やす方法なんてのが知られたら、必ず大きな話題となる。そうなればハイエンドの呪福に目をつけられるのは避けられない)
リヒトは権能という強力な力と一週目による知識を持っているが、今の魔力量ではハイエンドに対抗することはできない。
限界ギリギリまで自分たちの存在を秘匿しておくために、魔力の増やし方は不用意に口外できないのだ。
そうこうしているうちに血液検査、魔法検査の結果が出た。
「これで不正を証明できる! 結果を聞かせてくれ!」
教師たちはリヒトが違法薬物を使用した証拠が出ると確信した様子で検査官に問いかける。
しかし──
「検査の結果、特に異常は見られませんでした」
「…………は……?」
告げられた内容に言葉を失う。
リヒトたちからすれば当然の結果だが、教師たちはよほど信じられないらしい。
それを確認したところでリヒトは。
「これでハッキリしました。俺たちは不正をしていない、と」
今度こそ教師たちは反論できなくなる。
完全に自分たちの言い分を否定されてしまった。
が、担任教師とダグラスだけは別だった。
「……全く、生意気な態度だ。気に食わんな」
担任教師は不愉快気味に呟いてから。
もしもこうなった時のためにあらかじめダグラスと考えておいた策を繰り出す。
「学園内にある訓練用ダンジョンを踏破しないと単位を与えない。もし踏破できたなら二人の不正疑惑もなかったことにしてやろう。……まあ、できるとは思えんがな」
担任教師は貴族である自身の権力を以って、単位要項を捻じ曲げる。
これが貴族の生徒であれば通るわけないが、リヒトのような平民であれば罷り通ってしまう。
ダグラスの横暴が許されていることからもそれは明らかだ。
学園内ダンジョンを在学中に踏破できる者は一握りだ。
ダンジョンボスがB級の魔物だからというのもあるが、ダンジョンにはそれ以外にも危険が多い。
単純にB級の実力があれば踏破できるというほど甘くはない。
かなりの無茶ぶりではあるが──
(──ちょうどよかった)
リヒトは心の中でほくそ笑む。
(次の修行は学園内ダンジョンで行う予定だった。不正疑惑もまとめて解決できるなら都合がいい)
そう判断し、あえて担任教師の無茶ぶりに乗った。
「わかりました。そういうことなら踏破してきますね」
「……ふんっ、つくづく生意気だな」
「ではこれで。失礼いたしました」
リヒトたちは教室を去る。
それを見届けてから、ダグラスが口を開いた。
「討伐演習での成果は違法薬物によるものに違いない。今回はうまく隠したようだが、次はそうもいくまい。
ダンジョンボスはB級だ。道中での危険度も合わせて考えると、雑魚のリヒトは必ずどこかで違法薬物に頼らざるを得なくなる。その瞬間を俺が抑えよう」
今度こそ決定的証拠が手に入るとダグラスは信じて疑わない。
「映像記録の魔道具と簡易検査用の魔道具を俺に貸せ。他に必要なものは自分で用意する」
「よかろう、許可は私が出しておく。頼んだぞ、ダグラス君」
そして翌日。
リヒトとルミナはダンジョンを訪れた。
「始めるか、ダンジョン攻略」
「ここならちょっとは手応えあるかしらね」