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第11話 討伐演習④ 成果

 こちらに走ってくる生徒たち。

 彼らの後ろには体長一メートルを超える蟻がわんさか群がっている。


 その光景を見たリヒトは、すぐに状況を把握した。


(おそらく彼らは俺と同じことをしようとしたのだろう)


 社会性昆虫の魔物を狙えば効率的にポイントを稼げるのでは?

 そう考えて実行したはいいものの、予想以上の規模に対応しきれなくなって必死に逃げてきたといったところか。


 巣を攻撃した程度じゃここまで執拗に大群で追われることはない。

 なまじ中途半端に実力があるために、幼虫にまで危害を加えてしまって女王蟻の逆鱗に触れたのだろう。


「つまり全部倒せばいいってことね」

「そういうことだ。この群れの中のどこかに女王蟻がいるから、そいつを倒すぞ」

「了解!」


 リヒトは剣を、ルミナは斧を構えながら突撃する。

 こちらに向かってくる生徒の横をすり抜け、蟻の群れに肉薄した。


「キシ!」

「遅い」


 蟻の噛みつきを躱したリヒトは、その背中に飛び乗り甲殻の隙間を斬る。


 蟻が体液を吹き出して倒れるよりも早く他の蟻の背中に跳び乗り、次々に切り倒していく。


「なんだよあの速さ……」

「どうしてそんな簡単に倒せるんだ……?」


 リヒトの強さを目の当たりにした周囲の人間たちは困惑する。

 ダグラスですらも、直視した現実に驚きを隠せないでいた。


 一方ルミナは。

 生成した斧に炎を纏い、蟻の頭を正面から叩き砕く。


 衝撃で跳ね上がった蟻を斧でフルスイングし、巻き込んだ数匹をまとめて粉々にする。


 さらに斧を投擲して迫ってくる蟻たちを粉砕した。


「やっぱり圧倒的だ……」

「不正をしたとはいえ学園ランキング2位の実力は変わらない。もったいないな、不正をしなくてもスカウトの機会は狙えただろうに」


 好き放題言う周囲を無視し、二人は着実に蟻の数を減らしていく。

 すると、突然蟻たちの動きが変わった。


 前衛の蟻たちは変わらず二人に襲いかかり、中衛以降の蟻たちが一斉に腹部を二人へ向ける。


「あの動きは……!」


 リヒトが口を開くのと同時、蟻の腹部から一斉に透明の液体が射出された。


「〖アシッドボム〗だ! まともに喰らえば大ダメージは避けられない!」

「なかなかやるようね」


 逃げ場のない面での攻撃。

 社会性昆虫の魔物らしい見事な連携だ。


「〖武装展開〗」


 ルミナは眼前に大盾を生成する。

 さらに〖属性付与〗で炎を付与。


 二人は大盾に身を隠す。

 大量の酸が飛来するが、大盾に阻まれ炎で燃やされ二人には届かない。


 すべての酸をしのぎ切り、反撃に出ようとしたところで──


 二人は衝撃の光景を目にした。


「キシッ!」

「キシャ……」「キシィ……」


 群れの中でもひと際大きな腹部を持つ個体……女王蟻が配下の蟻たちを殺していた。


 鎌状になった前足で蟻たちを次々に切り飛ばしていく。


 配下の蟻たちは抵抗することなく殺されていく。

 それが女王蟻の指示通りに動いていることの証左で。


 ……つまり、女王蟻はなんらかの意図があって配下を殺しているということ。

 決して無駄な行動ではないということだ。


「何してんのよ……?」


 集団での〖アシッドボム〗を囮にした仲間殺し。


「まさか──」


 リヒトがその真意に思い至った時、女王蟻が鈍い光に包まれた。


「ッ! この光は……!」


 遅れてルミナも気づく。


 光女王蟻に向けて斧を投擲するが──


「キシイッ!」


 力強い鳴き声と共に一閃。

 斧が弾き飛ばされる。


 光が収まり、中から一回り大きくなった女王蟻が現れた。



「──進化、しやがった……!」



 魔物は基本的に他の魔物を殺すことで強くなっていく。

 技術や戦闘経験などとは別で、生物としての格が上がっていく。


 そして一定まで強くなると進化するのだ。

 味方を殺して進化したこの女王蟻のように。


「キシキシ」


 女王蟻は新たな体の調子を確かめるように軽く動かす。


 漆黒の甲殻に、肥大化した赤色の腹部。

 進化前よりも鋭さを増した鎌状の前足。

 巨大で頑丈な牙。


「キシャアアアアアアアアアアア!!!」



 その魔物は……タイラント・クイーンアントは高らかに叫んだ。


「キシッ! キシッ!」


 叫び声に呼応して残った蟻たちが二人に突撃する。

 二人はこれまで通り難なく処理するが、その一瞬の時間で女王蟻はスキルを発動した。


「キシィ!」


 大きく振り上げられた女王蟻の前足が一瞬光る。


 それを振り下ろし、二人めがけて斬撃を飛ばした。


「〖斬撃波〗だ!」


 リヒトは即座にスキルを看破し伝える。


 剣に魔力をまとって強化し、斬撃を受け止める。

 なんとか防いだが、衝撃でほんの少し後ろに押し出された。


(今の俺の魔力の質と量じゃ、正面から力押しで勝つのは無理か。躱すか受け流しに専念するべきだな)


 加えてあの魔物、タイラント・クイーンアントはB級上位の魔物だ。

 強さで言えばルミナと同格か少し上くらい。


「キシッ」


 女王蟻は続けて〖斬撃波〗を放つ。


 それを捌きながらリヒトは作戦をまとめる。

 知識と【守護神】の解析で女王蟻のスキルを把握する。

 それから倒し方を伝えた。


「あいつの魔核は胸部……一番硬い甲殻で守られた位置にある。狙うにはルミナの力が必須だ」


 リヒトの横を通り抜けた〖斬撃波〗が背後の木に直撃し、スパッと真っ二つに切断する。


「甲殻を正面から破壊して魔核を露出させてほしい。そういうのは得意だろ?」

「よく分かってんじゃない。お望み通りゴリ押してやるわよ!」


 〖斬撃波〗を躱したルミナは、斧に炎を纏って投擲する。


 女王蟻は斧を叩き落とそうと〖斬撃波〗を放つが止められない。

 仕方なく前足の鎌で弾いて被弾を避ける。


 即座に〖斬撃波〗の嵐を再開するが、すでに二人はかなり距離を詰めてきている。

 しかも前後からの挟撃だ。


 さすがに二方向同時に〖斬撃波〗を放つことはできない。

 片方に対処すればもう片方に隙を晒すことになる。


「キシャァ!」


 そのためにこのスキルがあるのだ! と言わんばかりに女王蟻が叫ぶ。

 すると、腹部が一瞬で膨張し形を変えた。


「〖アシッドランチャー〗が来るぞ!」

「ここを凌げばあたしたちの勝ちね」


 腹部に形成された無数の砲口から、一斉に強酸が放出された。


 遠距離から一方的に〖斬撃波〗をお見舞いし、距離を詰められたら範囲攻撃の〖アシッドランチャー〗を放つ。

 強力な戦法だが、リヒトはこうなることを見通して作戦を立てていた。


「大盾生成! 炎付与!」


 リヒトからあらかじめスキルの詳細を聞かされていたルミナは、迷うことなく盾を生み出し炎を纏う。

 配下の蟻に対処した時と同じように身を守る。


 一方リヒトは。


(俺一人でこの酸を凌ぎきる方法はない。だから──)


 リヒトは左腕を魔力で強化する。


 拳を引き絞り、全力で酸弾を殴った。

 衝撃で酸が弾ける。


「ぐ……ッ!」


 左腕が溶けてなくなったが、道はできた。


 リヒトは激痛に怯むことなく酸の合間をすり抜ける。


 右腕で剣を構え、女王蟻の腹部を斬り飛ばした。


(〖アシッドランチャー〗の際に膨張させる必要があるため、腹部は伸縮性と柔軟性が高い。つまり胸部や頭部と比べて硬度はそれほどでもないということ)


 だから簡単に斬り飛ばせる。


「キ……ィ……ッ!」


 大ダメージを受けた女王蟻が一瞬怯む。


 リヒトは返す刀で女王蟻の後ろ脚を斬り飛ばした。


「甲殻の合間を狙えば足を飛ばすなど容易い」


 女王蟻がバランスを崩して隙を晒す。


「今だルミナ!」

「ええ、任せなさい!」


 ルミナは生成したハンマーを大きく振り上げる。


「〖属性付与〗──雷!」


 ハンマーの周囲を電流が迸る。


 雷魔法を付与し速度を引き上げたハンマーで、女王蟻の胸部に渾身の一撃を叩き込んだ。


 甲殻が砕け魔核が露出する。


 それをリヒトが貫いた。


「討伐完了だ」


 どさりと女王蟻が倒れる。

 その身体が灰になって消え、後には一回り大きな魔核だけが残った。


「リヒト! 腕大丈夫なの!?」


 ルミナが心配しながら駆け寄ってくる。

 リヒトは軽く笑って返した。


「平気だ。これくらいのことなんて日常茶飯事だったからな、前は」

「そう。でも早く治療してもらわないと」

「…………おい!」


 と、そこで。

 これまで二人の活躍に圧倒されていた、ただ黙って見ていることしかできなかったダグラスが再び絡んできた。


「少し活躍したからってなんだ! お前らの不正がなかったことになるわけじゃねぇんだぞ!」

「……そ、そうだ! いくらB級以上の魔物を討伐したとはいえ、その事実が消えることはない!」


 ダグラスに釣られて教師たちも再び騒ぎ出す。

 想定外の事態は二人によって完全解決したが、こちらの問題は何も片付いていない。

 むしろこれ以上ないほどに悪化し劣勢な状況に追いやられている。


 どうしたものかとリヒトが悩んでいると、ザッと。


 重厚な足音を響かせてグレイが、討伐局トップの男が前に出た。



「……もういい。充分に見させてもらったよ」



 威厳とオーラに当てられ、ダグラスも教師たちも黙る。

 それを見てグレイは続けた。


「今回の討伐演習を通してスカウトしたい者が決まった」

「そ、それはもちろん俺ですよね!?」


 ダグラスが期待を胸に問う。

 グレイはハッキリと告げた。




「──違う。リヒトとルミナ、この二名だけだ」




「…………は……? え……?」


 ダグラスは呆ける。


 ……いや、ダグラスだけじゃない。

 この場にいる誰もが驚きのあまり言葉を失った。


「……な、なぜっ! なぜ俺じゃない!?」


 ダグラスが錯乱したように叫ぶ。


「そうですぞ、グレイ殿!」

「あのような不正を行う輩に目をつけるなど──」

「煩わしい」


 グレイは騒ぐ教師たちもまとめて一言で黙らせた。


「言葉に大した意味はない。人の想いは行動と瞳に出る。俺はそれを目の当たりにしたからこそ、リヒトとルミナなら討伐局に相応しいと判断したのだ」


 グレイは二人の前に立ち、穏やかな声音で問いかけた。


「二人には是非とも討伐局に来てほしい。スカウトを受けてくれるか?」

「はい! 喜んで引き受けさせていただきます!」

「あたしたちを選んでくれてありがとうございます。人を守るためにこの力を振るうことを約束します」


 リヒトとルミナは地面に片膝をつき頭を下げる。


「快い返事感謝する。討伐局でまた会おう」


 グレイは踵を返す。

 周りが呆気にとられる中、それでもなおダグラスが食いかかってきた。


「グレイ様! なぜ俺じゃなくその二人を選んだ! そいつらより俺のほうが相応しいのに──」

「他者を害そうとする人間がどうして民を、国を守れる?」


 それだけ告げ、グレイは教師たちに向きなおる。


「お前たちもだ。異議を申し立てる前に目の前の事実を認めろ。話はそれからだ」


 ダグラスも、教師も。

 自分たちの信じていた未来を、常識を折られてがくりと膝をつく。


 そんな中、リヒトとルミナだけは喜びでいっぱいになっていた。


 ダグラスによる妨害、それに同調する周囲、蟻の群れによる襲撃。

 様々な出来事が起こったが、ひとまず最初の──



 討伐演習で成果を出し討伐局にスカウトされるという目標は達成したのだった。



討伐演習はこれにて終了です。

無事に最初の関門を突破することができましたね。


本作品が面白いと思ってくださった方はぜひ評価とブックマークをお願いします!

ダグラスとの対立もまだまだ激化していきますのでお楽しみに!

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いつも読んでくださりありがとうございます!
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また、peepにて拙作『不知火の炎鳥転生』がリリースされました!!!

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作品ページはこちら

超絶面白く仕上げているので、ぜひ読んでみてください! 青文字をタップするとすぐに読めます!
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