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第10話 討伐演習③ 悪意

 演習は終了間際を迎え、集合場所に生徒たちが帰ってき始めたころ。

 誰がどれだけ倒したのか集計され結果が出るたびに賑わいを増していく。


 そこにダグラスが現れ、彼の集計結果が出ると瞬く間に話題の中心となった。


「スゲェェェェェ!!! これ全部ダグラス様が一人でやったんですか!?」

「魔核いっぱい……! 百以上……いや、余裕で二百は超えてる!」

「しかもC級の魔核もいっぱいありますよ!」


 ダグラスは自身の実力を遺憾なく発揮し、歴代でも類を見ないほどのポイントを獲得していた。

 その結果に教師たちは唸る。


「むぅ……。誰とも組まずにたった一人でこれだけの魔物を倒してしまうとは……!」

「我が学園の生徒で歴代最強と言っても過言じゃない実力ですな」

「いかがですか、グレイ殿。ダグラス君の実力は折り紙付きです、演習成果1位は間違いないでしょう! 討伐者として彼以上に相応しい生徒はこの学園におりませんよハハハ」


 生徒も教師も誰もがダグラスを褒め、勝手に討伐局に推薦までしてくれる。

 ダグラスはこの結果がさも当たり前かのようにふんぞり返っていた。


(当然だとも。俺の未来は約束されているのだから。俺が討伐局に入り、最強の男──即ちトップとなって皆がひれ伏すのは決定事項だ)


 賞賛の中心でダグラスは承認欲求と名誉欲の海に溺れ沈む。

 優越感に浸り栄光の未来に酔いしれていると、目障りな人物が視界に映った。


「結果を集計してくれ」


 リヒトが魔法袋(マジックバッグ)を教師に渡す。


 どうせ大したことないだろう。

 ルミナがいるからそれなりにポイントはあるのだろうが俺には及ばない。


 根拠のない思い込みで高をくくってダグラスが眺めていると、魔法袋(マジックバッグ)を開いた教師が素っ頓狂な声を上げた。


「ふぁあっ!?」


 教師は驚きのあまり手を滑らせ魔法袋(マジックバッグ)を落としてしまう。

 魔法袋(マジックバッグ)が地面にぶつかった瞬間ガチャァンッ! と甲高い音が鳴り響き、中からあふれ出た魔核が大量に転がった。


 百個どころではない。

 数百個……下手したら四百近い数だ。


 魔法袋(マジックバッグ)の収納限界ギリギリまで詰め込まれてていた魔核が、落とした衝撃であふれ出てきてしまったのだ。


 その光景に誰もが驚愕し唖然と見ることしかできない。


(大成果だ。あの後、二つもジャイアントキラービーの巣を見つけられたのはデカかったな)


 リヒトは心の中で淡々と告げるが、他の生徒や教師はそれどころではない。


 単純に数が多いのもそうだが、C級の魔核の数もかなり多い。

 一目でダグラスよりも高ポイントだろうとわかってしまうくらいには圧倒的な成果だった。


 これがダグラスの成果なら誰もがすぐ納得しただろうが、やったのはリヒトとルミナだ。

 ルミナは学園ランキング2位の実績があるとはいえ、実力はダグラスより一段低い……と他の生徒や教師たちは認識している。

 そしてリヒトは言わずもがな。


「……リヒトとかいう足枷がいてこんなに稼げるのはおかしい」


 誰かがポツリと呟く。

 それが周囲の皆の考えだった。


「こ、これはどうやって……?」


 教師が混乱しながらも尋ねる。


「俺とルミナで倒してきた」

「このくらい大したことないわよ」


 二人は端的に事実を告げる。

 教師がそれを呑み込もうとして……理解が及ばず何も言葉を返せないでいると、ダグラスの声が静寂を打ち壊した。


「嘘だ! ルミナに守られて威を借るしか能のない雑魚が、リヒトが魔物を倒せるわけがねぇ! 足手まといを抱えたルミナがこれだけの魔物を倒せると思うか!?」

「そ……そうだよな」

「いたって冷静に合理的に考えてこの結果はありえない。それは一目瞭然だ」

「私は教師として皆を教え導いてきたからこそ、全員をこの目でよく見てきたからこそこの結果は違うと断言できる!」


 ダグラスの言葉にポツポツと同調する者が現れ、やがてその声は大きくなっていく。

 さらには教師まで同調する者が現れる。


「その魔核は事前に購入して用意しておいたのだろう! 討伐局にスカウトされる機会だからってズルをするとはなんて卑怯な! こんな奴に討伐局員になる資格はない!」


 ダグラスは勝手に決めつけて罵る。

 が、リヒトが黙って聞くはずがない。


 討伐局にスカウトされるという目標のために絶対必須なこの機会を逃さないためにも、感情に囚われず冷静に論理的に反論する。


「不正ができないように演習前に手荷物検査しただろう。俺たちは問題なく通っている」

「不正対策など簡単に想定できる! 演習エリアのどこかにあらかじめ隠しておいて、演習が始まってから回収したんだろう!」

「その証明はできるのか? 俺たちに『不正をしていない証明をしろ』と言うのはナシだぞ。悪魔の証明になってしまうからな。不正をしていると疑うのであればそちらが根拠足り得る証拠を出してくれ」


 リヒトの隙のない理屈にダグラスは一瞬言葉を詰まらせるが、すぐに言い返す。


「根拠足り得る証拠だぁ? テメェがスキルも魔法も魔力も全部持ってねぇのが何よりの証拠だろうが!」


 その論調に誰も反対しない。

 彼らの中では「魔力を後天的に増やすことは不可能」という思い込みが真実であり、才能のない者が努力だけで強くなれるとは思っていないから。


「なんで誰もあたしたちを信じないのよ! 不正の証拠なんて一つも出てきてないじゃない!」

「でもねぇ……そうは言われても現にリヒトは落ちこぼれじゃん」

「ルミナさんは強いっすけど……足手まとい抱えてその数倒せるとは思えねーし……」

「さすがに見苦しいですよルミナさん」


 だから目の前の事実を見ようとしない。

 リヒトたちの結果を捻じ曲げてダグラスの言い分を呑み込む。


 結果起こるのはリヒトたちに対する不当な弾圧。

 これこそがハイエンドがこの世界から強くなる方法を奪った真の理由だ。


 強くなる方法が限られた人類は生まれつきの才能を重視せざるを得ない。

 するとどうなるか?

 答えは簡単だ。


 強者が弱者を喰らう。

 いじめや差別が横行し、カーストの低い者は強者を妬み恨み憎む。

 そして強者の横暴に不満を溜めた中間層が憂さ晴らしに弱者をいたぶる。


 人類から強くなる方法を奪って反逆者が現れないようにするのはおまけでしかない。

 邪神の力の源、負の感情を人類から効率的に集るための構造を作る。

 それが真の目的だったのだ。


「何か反論してみろよ、リヒト」


 ダグラスはニマリと笑う。

 リヒトとダグラスが同時に意見を言った場合、必ずダグラスの言い分が優遇される。


 周囲の空気の流れが自分に向いたと確信した時、ダグラスを後押しするように声が響いた。



「みんな聞いてくれ! リヒトたちの悪事を今から暴く!」

「こいつらは大嘘つきだ!」

「絶対に不正を許すな!」



 声の主は数刻前にリヒトたちにボコボコにされた取り巻きたち。

 彼らの後ろにはリヒトの足を引っ張ろうとしたカースト下位の二人と、ルミナに好意を向けリヒトに嫉妬していた二人が控えている。


「何があったのか聞かせてみろ」


 ダグラスが話を振ると、取り巻きは悲壮な表情を浮かべて語り出した。


「この二人は魔物を倒していない。どころか俺たちが魔物と戦っている時に妨害してきたんだ! 危うく魔物の攻撃を喰らって大ケガを負うところだった!」

「魔核を事前に用意していたから余裕があったんだろう! じゃなきゃ、僕たちの妨害をしてからそれだけの数の魔核を集めるなんて不可能だ!」

「俺たちはこの二人のせいでろくに魔物を倒せなかった! せっかく討伐局にスカウトされる機会だったのに、この二人はそれを奪ったんだ!」


 場の雰囲気が一気に傾く。


「なんだと!? それは本当かね!?」

「マジかよ!? ルミナさんが他人を害しただなんて……」

「うわー、今までの優しさは演技だったのかよ。本性はそんなだったって……。失望したわ~」


 教師や生徒からの非難がリヒトたちに降り注ぐ。


「この二人は俺たちを助けるためにリヒトを止めようとしてくれたんだ! なのにリヒトはあろうことか無関係なこの二人まで殴り飛ばした!」

「そ、そうだ! 僕たちは暴力を受けた!」

「被害者なんです……っ!」


 続いてルミナに恋心を打ち砕かれた二人が主張する。

 好意が憎しみに反転した表情で。


「俺たちはルミナさんが心優しいと思っていたんです……! だから彼女の力になろうとしたら、突然ルミナさんに槍で殴られて魔核を奪われたんだ」

「裏切られたことがただただ悲しかった。ルミナさんにはこれ以上罪を重ねてほしくないよ……」


 ここまでくればさっそくリヒトたちの反論は通じない。

 思い込みと同調圧力でリヒトたちを非難する。

 これまではそれなりの発言力を持っていたルミナの声すらもはねのけられる。


「お前らはこれでもまだリヒトたちを信じるか?」


 ダグラスの声に皆がノーと答える。


「危うく不正を許してしまうところだった。この者らは討伐者として相応しくない」

「リヒトとルミナは性根が腐りきっておる。討伐局員には相応しくありませんぞ、グレイ殿」

「スカウトするならぜひダグラスを!」


 教師も二人の味方をする者はおらず。

 どころか討伐局にスカウトしないようグレイに進言までする始末だ。


(わかっていたが……この世界は悪意まみれだ。嫌になる)


 リヒトは辟易してため息を吐く。


(俺は邪神を倒して大切な人を守りたいだけなのに……。ただそれだけなのにどこまでも邪魔をされる)


 ふと邪神の言葉が蘇る。


(──悪意は不滅、か。全く持ってその通りだ)


 何をやっても妨害され周りには敵ばかり。


 だからどうした?



(このくらいで諦めてたまるかよ!)



 こんなくだらない悪意とは比べ物にならないくらいルミナと家族が大事だ。

 だからリヒトは決して折れない。


 どうにかして状況を打破しようと思考を回した時、非難の声をかき消して悲鳴が響いた。


「きゃぁあああああああああ!!!」

「助けてくれぇ! このままじゃ死んじまう!」


 数人の生徒がこちらに走ってきている。

 その後ろには体長一メートルを超える巨大な蟻がわんさかと群がっていた。



 周囲が混乱を見せる中、リヒトとルミナが真っ先に動いた。



次回、討伐演習は結着です!

更新は明日です。たくさんの悪意に囲まれた中でリヒトとルミナがどうなるのか楽しみにしていてください!


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