第1話 神殺し英雄の回帰~邪神アンラ・マンユ~
新作のダークファンタジーです!
バトル特化の作品です。よろしくお願いします!
「これで終わりだ、邪神!」
“高次元世界”、神の住む世界。
荒廃した大地でリヒトは剣を振り上げる。
「馬鹿なッ!? 儂がっ、人間ごときに負けるなど──」
法衣を身にまとった老人が地面に倒れながらも必死に叫ぶ。
その喉元にリヒトが剣を突き立てた。
「ガッ」
老人は絶命する。
こうして神は死んだ。
「ハァ……ハァ……。ついに……」
「勝った、のか……? 俺たちが……」
神にトドメを刺したリヒトは荒い息を吐きながらその場に腰を下ろす。
リヒトと共に戦っていた仲間たちも釣られて座り込んだ。
──『邪神』。
世界に災いをもたらしている存在。
邪神が存在する限り世界は混沌に包まれている。
リヒトの脳内に過去の映像がフラッシュバックする。
人族と魔族の戦争。無意味な殺し合い。
“覚醒薬”と呼ばれる薬を飲み、化け物のような外見と力を手にした犯罪者たち。いたぶられ、殺される罪のない人たち。
すべて邪神に仕組まれていた。
(……俺たちはついに邪神を倒した。世界は邪神の手から解放された。でも、もう……)
「二十年、か……。長かったわね。ここまで」
リヒトの対面に座っている女性──スノー・ウォーレンが実感のわかない表情で呟く。
その隣の男性が乾いた声で笑った。
「国に戻ったら……さしずめ俺たちは神殺しの英雄ってとこか。ハハ……」
「虚しい称号だな……」
リヒトは掠れた声で返す。
(世界を救ったところで大切な人たちはもういない)
リヒトの脳内に幼馴染と家族の姿が浮かぶ。
(魔族との戦争でルミナも父さんも母さんも死んだ。誰よりも弱かった俺は死に物狂いで努力した)
強くなるためならどんな努力も厭わなかった。
血反吐を吐いてでも、何度も何度も死にかけてまでも強くなった。
(魔王を殺した時、俺は魔族との戦争が邪神によって仕組まれた不毛な争いだったことを知った。これ以上俺みたいに不幸な思いをする人が出てほしくないから邪神を倒した)
リヒトは傷だらけになった自身の手を見る。
「今さら力を手に入れても遅すぎるんだよ……。最初からこの力があれば誰も失わずに済んだかもしれないのに──」
リヒトは悔しそうに呟いて……何かに気づいたようにハッとした。
目に光が、生気が宿る。
(過去に戻ってもう一度やり直す? この力なら──)
その時、知らない男の声が響いた。
「おめでとう」
リヒトたちは一斉に振り向く。
誰もが即座に戦闘態勢に入る。
ニヤニヤと皮肉気な笑みを浮かべた青年が立っていた。
とても人とは思えないような邪悪なオーラを放っていた。
「なんだテメェはッ!?」
仲間の一人が取り乱したように叫ぶ。
リヒトもまた、全身に悪寒が走るのを感じていた。
それも、これまでの人生で味わったことがないほどの悪寒を。
(さっき倒したあの神とは比べ物にならない強さだ……! まさかコイツが本当の邪神だとでもいうのか!?)
リヒトがちらりと老人の死体を見た時、謎のプレートが表示された。
────────
創造神デミウルゴス(死亡)
邪神の眷属
権能
【創造神】
【邪神の隷属者】
────────
(なんだこれは……いや、今はそんなことを考えてる場合じゃない! この情報が本当なら──)
驚愕し警戒を強めるリヒトたち。
最悪の可能性が現実味を帯びていく。
「神殺しを成し遂げたテメェらにご褒美として教えてやる」
目の前の男はあざ笑うように絶望を告げた。
「そいつは邪神じゃない。ただの手下だ」
その言葉を受け、仲間の二人が激情をあらわにする。
「そうかよ。ブッ殺してやる!」
「お前のせいで俺の家族は──」
二人の言葉を遮るように邪神はパンッと手を叩く。
小気味いい音が響く。
「無様に死にましたとさ。テメェらみてェにな」
──死んだ。
たった一瞬で、手を叩いただけで。
ただそれだけで、邪神に斬りかかった二人が殺された。
バラバラになった仲間だったものが転がる。
血だまりが広がっていく。
何が起こったのか誰もわからなかった。
まさしく神に相応しい圧倒的な力。
仲間たちが怯んだ様子を見せる中、いち早く動いたのはリヒトとスノーだった。
邪神を倒すべく挟撃する。
初期メンバーの二人だからこその連携力とこれまでに培った技術で仕留めにかかる。
が、スノーのレイピアは結界で防がれ、リヒトの剣は邪神が生み出した鎌によって止められた。
「通んねェよ」
結界が黒く光り、爆発。
直撃を受けたスノーは吐血しながら倒れる。
「スノー!」
「人の心配してる場合かよ?」
邪神は無造作に腕を振るう。
豪速で弾き飛ばされたリヒトは地面を削りながら進み、巨岩に直撃して止まった。
大ダメージを受けたリヒトに仲間たちが駆け寄る。
その様子を尻目に、邪神はしゃがみ込んでスノーに目線を合わし。
ボロボロの彼女を最大限の悪意で以ってあざ笑い見下す。
「へぇ~。テメェの父親は自分の命と引き換えに魔王を封印して戦争を終わらせた、と。さぞかしたくさんの人間共が救われたんだろうな~」
そこまで喋ったところで邪神はたまらず吹き出した。
「ヒャハハハハハハ!!! 傑作すぎて笑いが止まらねェぜ!」
邪神は心の底から馬鹿にする声音で、腹を抱えながら笑い転げる。
這いつくばりながらも必死で立ち上がろうとするスノー。
邪神は一通り笑ってから、冷たい表情でスノーの顔を覗きこんだ。
「自分を犠牲に誰かを救うだぁ? くッッッだらねェ死に様だな。
正義なんてもんは存在しねェよ。テメェの父親はとんだ勘違い野郎だ」
スノーは激情のままに叫ぶ。
「父上を愚弄するなぁぁぁーーーッ!!!」
レイピアを拾い、邪神の喉めがけて突き出す。
その様子を眺める邪神は、薄笑いを浮かべながらパンッと手を叩いた。
「はい、お終い。楽しませてくれてありがとな」
──ぐちゃり、と。
大量の肉片が散らばる。
また呆気なく殺されてしまった。
「これで三人目。んで、テメェらはどうする?」
邪神は不敵に笑いながら振り向く。
「ふざけるな……! 人間を馬鹿にするのも大概にしろよ……!」
リヒトはボロボロになりながらも邪神に剣を向ける。
能力を──神を殺したことで得た力を全開放した仲間たちが一歩リヒトの前に出た。
「頼んだぞ、リヒト。お前の力しか可能性がないんだ」
「一瞬の時間は稼いでやるさ。だから……成功させろ」
「私たちの中で一番強い貴方にすべて託す。絶対に負けないで」
「……わかった。みんなの命を無駄にはしない」
リヒトは静かに感謝し、自分の力に集中する。
邪神は挑発的に叫ぶ。
「絆、友情、仲間、信頼、どれもくだらねェ。見せてみろよ、人間の強さってヤツを!」
まさしく邪神と呼ぶに相応しい、異常なまでの執念がこもった声で吐き捨てた。
「俺がその全てを否定してやる。夢も希望もこの世にあっちゃならねェんだよ! あるのは絶望だけでいい」
「そんな世界は御免だ!」
全身から闘気をあふれさせた男が真っ先に突撃し、邪神に肉薄する。
そこに極太の光線が、神聖な力を宿した光の矢が迫る。
三位一体の本気の攻撃。
それらは圧倒的な威力を持っているにもかかわらず、結界一枚であっさり止められた。
「人間なんて所詮この程度だ。取るに足らねェ」
結界の反射が仲間たちを貫きリヒトに迫る。
「間に合えッ!」
リヒトは間一髪で結界を貼ることに成功。
貫かれはしたものの、威力を落とすことでなんとか致命傷は免れた。
「残るは死にかけのテメェだけだ。こっからどうやって逆転する──あ?」
邪神は怪訝な声を上げる。
気づけばリヒトの身体が光り輝いていた。
────────
邪神アンラ・マンユ
負の感情を司る神。人の負の感情を喰らい強くなっていく。
権能
【世界渡り】
【隷属】
【邪神】
【禍神】
【悪神の加護】
【悪神武装】
【???】
【???】
【???】
【???】
────────
「邪神アンラ・マンユ!!! 次こそお前を倒す! 世界をお前の好きにはさせないからな!」
リヒトは血まみれになりながらも闘志を失うことなく叫ぶ。
そこで彼の意識は途絶えた。
「悪意は不滅だ。やれるもんならやってみろ」
誰もいなくなった高次元世界に邪神の声だけが残る。
こうして神殺しの英雄は回帰した。
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