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親友が実は“女の子”だったなんて聞いてないんだがっ!?

作者: 紫龍院 飛鳥


序章



俺の名前は『柳川 宏太郎』都内の大学に通うごく普通の大学二年生、俺は高校時代まで奥手で女の子と普通に話すことすら危うかったスーパーシャイボーイであったが…一年前に待望の彼女をゲット!

相手は同じゼミの『赤城 花実』ちゃん、綺麗でおしとやかで俺みたいなパッとしない男子とも分け隔てなく優しく接してくれる、そんな彼女に俺はゼミの新歓コンパで出会って一目惚れし、そこからなんとか粘って交流を続けて夏休み前にありったけの勇気を振り絞って告白したらまさかの答えは『イエス』だった。

それからというものの、俺は彼女と何度もデートを重ねてお互いの仲を深め合い正に順風満帆な日々を送っていた、そしてこれからもそんなバラ色の大学生活が続いていくとそう信じていた…そんな矢先だった。


「…あのさ、宏太郎君…私達、もう別れよう」


二年生に進級して間もなく、俺は彼女の口からそう告げられた。


「…ちょ、えっ?急にどうしたの?俺、なんかした?」

「…別に、ただ他に好きな人ができたから別れてほしいってだけ、実はもう先月からその人と付き合ってるんだよね」

「そんな…浮気してたってこと?」

「正直宏太郎君ってさぁ、優しいし気の利くイイ人だと思うけどさ…ぶっちゃけ顔だって地味だし、彼氏にしときたいってほどでもなかったんだよねぇ」

「…なっ」

「それに引き換え新しい彼氏は優しくて気が利くのは勿論のこと超イケメンで実家は大地主のお金持ちだし…もう比べるまでもないってゆーか勝負にすらならないって感じ?」

「…酷いよ、好きだったのに…すごく、好きだったのに!!」

「あっそ…とにかくそういうことだから、アタシはもうアンタのことなんて好きでもなんでもないの!これでこの話はおしまい、この後彼氏とデートだからもう行くね…バイバイ」


と、別れを告げて彼女は行ってしまった…あまりの事態に俺は事実を受け止めきれずただ呆然とするしかなかった。



・・・・・



翌日、俺は大学入学以来初めて学校をサボってしまった

とにかく今日は何もする気が起こらず一日中ベッドで布団にくるまっていた。

それに、あんなことがあった手前もし大学で花実ちゃんに出会ってしまったら気まずいどころの問題じゃない…とてもじゃないけどどんな顔して大学に行っていいか分からないままでいた。


…そして、只々時間は悪戯に過ぎていき、もう夕方になろうとしていたその時だった…。



“ピンポーン!”



玄関のチャイムが鳴った、俺はようやっとベッドから体を揺り起こして玄関へ向かう。


「はい…」

「よっス!『コータ』!お前今日どしたん?お前が学校サボるなんて珍しいじゃん?」


彼の名前は『葉山 凪』、俺の数少ない級友だ…彼とは一年の頃の最初の授業でたまたま隣同士になり、そこから共通の趣味もあって仲良くなり今となっては『親友』と呼べるほどの仲となった。

凪はこんな地味で冴えない俺なんかと違いオシャレで中性的な印象のシュッとした超イケメンで、キャンパスを歩いているだけで女生徒達からも黄色い歓声を浴びせられるほど、正に女子達にとっての王子様的存在だ。

そんな俺なんかはというと、女子達からは完全に『王子様の召使い』だの『金魚のフン』呼ばわりされている…まぁ、普通に考えて俺みたいなやつと王子様()が仲良くすること自体周りからすれば面白くないんだろうなぁ…でも凪はそんなことは一切お構いなしで俺に対してフレンドリーに接してくれる、今日だって学校に来なかった俺のことを心配してわざわざ様子を見に家まで来てくれた…本当に持つべきものは心の親友ともだ。


「…どうしたんだよ?すっげー死にそうな顔してっけど?なんかあった?」

「ぐすっ、凪ぃ~…」


それから俺は凪に愚痴をこぼした、彼女に突然別れ話を告げられた挙句彼女は俺を裏切って他の男なんかと付き合っていたこと…洗いざらい全部凪にぶちまけた。


「…そりゃその女が悪いよ!コータの気持ちを平気で踏みにじりやがって!許せねぇ!」

「…ありがとう、そうやって俺の為に怒ってくれるだけで十分だよ」

「もうそんな女のことなんて忘れちまえよ…この世にはそんなゴミくず女よりもイイ女だって星の数ほどいっぱいいんだろ?」

「…もういいよ、もう彼女なんかいらない…今回のことで余計に女が嫌いになった」

「…コータ」

「…お前はいいよな、イケメンだし…毎日毎日飽きるくらい女にキャーキャー言われてさ…羨ましいよ」

「…そ、それはそうなんだけどさ…でも、俺はさ」



“グゥ~…”



「ん?」


と、突然俺の大きな腹の音が鳴り響いた。


「なんだ?腹減ってんの?」

「…そういや、朝から何にも食べてなかった…ショックすぎて食欲湧かなくて」

「しょうがないやつだな…なんか作ってやっから待ってろ」

「凪ぃ~」


と、凪はキッチンに向かい料理を作り始める


「ほい!できたぞ!」

「いただきます」


凪の作った手料理を一口頬張る、その優しくも温かな味に身を心も満たされて自然と涙がこぼれ出た。


「ずすっ、ぐすっ、ひぐっ…」

「ハハハ…泣くか食うかどっちかにしろよな」

「だ、だって…」

「分かった分かった…辛かったよな、うんうん」


と、俺の頭をわしゃわしゃとかき回すように撫でる


「…マジでありがとう、俺お前と友達になれてホンっトによがった!これからも一生親友でいてくれ!」

「…フッ、親友か…いいよ」

「ありがとう!心の友よぉ~!」

「こぉら、抱きつくなって!ほら、冷めないうちに食えよ…」

「うん!」


それから、凪とメシを食ってコンビニでお酒とスナック菓子を買って二人で映画を観たりゲームしたりして過ごした。


「…もうこんな時間か、そろそろ帰るよ」

「えー、なんだよ…泊まってけばいいじゃん?どうせ明日は講義ないんだし」

「…それもそうだな、じゃ!今日は朝まで二人で盛り上がりますか!」

「おう!」


それからも、凪と二人で明け方近くまで飲んでは喋って気づけば二人とも寝落ちしていた。



翌日、目が覚めたのが昼過ぎだった

頭がガンガンして吐き気が止まらない…夕べは明け方ギリギリまで飲んでたから無理もない


「…あれ?凪?」


起きてみると隣で寝てたであろう凪の姿が見当たらない…俺は一瞬帰ったのかと思ったのだがバスルームからシャワーの出る音が聞こえてきた、多分凪が使っているのだろう。


(…なんだ風呂か、そういや俺も夕べは風呂にも入らずに寝ちゃったな…凪が上がったら俺もちゃちゃっとシャワー浴びよう)


すると、バスルームの戸が開いて凪が上がって出てきた。


「ふぃ~、さっぱりした!ん?おぉコータ起きたか、おはよう」

「あぁ、おはよう…」

「悪い、勝手にシャワー借りちまった…」

「いいよ全然…俺もシャワー浴びるわ」

「ん…」


と、起き上がってバスルームへ行こうとした途端、足がふらついて倒れてしまった。


「!?」

「コータ!」


と、倒れそうになった俺を凪が身を挺して受け止めてくれた。


「うわっ!?」


そのままドンと倒れて俺は凪の上に覆いかぶさってしまった。


「イテテ…大丈夫かコータ?」

「俺は大丈夫だけど…お前は大丈夫なのかよ?」

「俺は全然平気だからよ…そ、それより」

「んっ?」



“ぷにっ”



と、俺の頬に“柔らかい何か”が当たってることに気が付いた


「な、何だ?」


ふと気がつくと、俺の頬はあろうことか凪のお胸に触れているではありませんか


「な、凪…?こ、これは一体?」


俺は頬に感じる“男の胸にあるまじき感触”に驚きを隠せないでいる


「…あの」

「ごめんコータ、言いたいことは分かるけど…まずはそこ、どいてもらっていい?」

「!?、ご、ごめん!」


と、俺は慌てて凪の上からどいた

まだ頬にはあの柔らかい感触が残っている


「…あ、あのさ」

「な、何かな?」

「一応聞くけどさ、凪ってさ…男だよね?」

「………」

「いや、なんで黙る?そこはスッと答えてよ」

「いやぁ、その…ゴメン、実は俺…本当は『女の子』なんだ」

「…えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!?」





第一章



衝撃の事実、なんと今まで男だと思って接していた親友はまさかまさかの『女子』だったのです…


「………」

「………」


あまりの気まずさに暫し場に沈黙が流れる


「…その、ホンっトにゴメン!騙すつもりはなかったんだ!でもコータが女苦手だって知ってから段々言い難くなっちゃってそのままズルズルと…ホンっトにゴメン!」


床に両手をついて必死に俺に謝り倒す凪


「も、もういいって…そりゃびっくりしたけどさ、勝手に男だって思いこんでた俺にだって非はあるわけだし…ここはおあいこってことで」

「ホント?怒ってない?」

「うん、怒ってないよ」

「よ、よかったぁ…これでマジで友達やめるって言われたらどうしようかと思った」

「い、言わないよそんなこと絶対!…なぁ、一つ聞いていい?」

「ん?」

「なんで、男のフリなんて…」

「ああこれ?実はこれさ、『男避け』のつもりでさ」

「えっ?」

「俺…アタシさ自分で言うのもなんだけどさ『学校一の美少女』とか呼ばれてすっげー男子達からモテまくってたんだよね」

「…はい?」

「でもさ、実際男なんてアタシの外見だけ見て言いよってくる連中ばっかでさ…それが嫌になって大学からはこうやって男の格好して男らしい振る舞いとかして周りの目を誤魔化してたんだよ…」

「で、それで今度は逆に女から毎日黄色い声を浴びせられるようになったと…」

「そういうこと、まぁ男と違って女はあまりガツガツこないから大分マシなんだけどさ…」

「ふぅん…でもさ、だったらなんで俺なんかと友達になってくれたんだよ…俺だって、一応男なんですけど」

「そりゃあまぁ、仲のいい男友達の一人くらいいた方が女だってバレ難いかなって思ったのと、いざお前にバレたとしてもコータって人畜無害そうだったから」

「そ、そう…」


そんな風に思ってたのか…なんかショック


「でも、話していくうちに段々とコイツとは本気で気が合いそうな感じがしてさ…このままいい友達でいられればなぁなんて思ってた…」

「凪…」

「てなわけでさ…これからもずっと変わらず友達でいてくれる?」

「え、えっと…」

「やっぱり、ダメ?」

「い、いや!そんなわけないじゃん!」

「じゃ、じゃあいいの?」

「う、うん」

「やった!じゃあこれからもよろしく!」


…こうして、重大な秘密を知った後も変わらず友達でいると約束した。



・・・・・



【月曜日】



「よっス!コータ!おはよ!」

「な、凪!お、おはよ…」


と、いつもと変わらず元気に挨拶を交わす

あんなことがあったにも関わらず相変わらず『男装モード』の凪はすごいイケメンっぷりだ…でもこないだ見た素の凪はとても可愛かった、そりゃモテるのも頷ける


「どした?朝から辛気臭い顔して?ほらスマイルスマイル!」


と、いつものように俺の肩に腕を回してじゃれてくる


「!?」

「あ、ゴメン…いやだったか?」

「う、ううん…ちょっとびっくりしただけ…」

「ゴメン、いつものノリでつい…」


そうだよ、こんなのいつものおふざけのはずなのに…いざ凪のことを異性であると意識してしまうとどうにも平静を保つことなんてできなくなってしまい、胸が爆発しそうなぐらいドキドキしてしまう…落ち着け、凪は友達なんだ…凪は友達…凪は友達…。


「…コータ?おい、コータ!」

「はっ!?え、な、何?」

「大丈夫?急に黙り込んじゃってさ…」

「ゴ、ゴメン…大丈夫だよ!ハハハ…」

「そう?ならいいけど…ほら早く行こう!遅刻するぞ!」

「お、おう!」


と、それから普通に講義を受けて凪と一緒に学食でお昼を食べた後は午後も講義を受けて何事もなく一日が過ぎていった。


「コータ!」

「おう、凪…」

「今日はもう終わりだろ?一緒に帰ろう!」

「う、うん…」


すると、その時だった…。


「ねぇ、この後どうする?」

「そうだな、こないだ行ったホテルにでも行く?あそこのベッド超デカかったよな…」


などと話しているカップルを遠目に見かけた、よくよく見てみたら元カノの花実ちゃんで背の高いイケメンと腕を組んで仲良さげに歩いていた。

その光景を目の当たりにした俺は、あの日の記憶がフッと蘇り一気に悲しい気持ちになってしまった…折角凪のお陰でほんの少しだけ立ち直れたっていうのに…そう思った瞬間無性に泣き叫びたくなってしまった。


「コータ?」

「…なんでもない、ゴメン…今日用事あるの思い出したから先帰る」

「え、ちょっ…」

「じゃあ、また明日…」


と、俺は足早に凪の下から去っていく


「コータ…」



…大学を出た後、俺は一人で大学近くにある公園で泣いた

元カノにフラれた悲しみと悔しさで心がいっぱいになってしまい、涙が止まらなかった…もう、いっそのことこの世から消えてしまいたいとさえ思うくらい絶望感に打ちひしがれていた。


すると、その時だった…。



“ぴとっ”


「うひゃあっ!?」


背後からいきなり頬に冷たい何かを押し当てられて思わず変な声を上げてしまった。


「アハハハ!何今の声?変なの!」

「な、凪!?」


振り向いてみるとそこには凪がいた…手には缶ジュースを二本持っていた。


「…お、脅かすなよ」

「悪い悪い、とりあえず…んっ」


と、そう言って俺に片方缶ジュースを差し出す


「とりあえず飲めよ、話はそれから」

「あ、ありがとう…」


と、二人してブランコに腰掛けながら缶ジュースを飲む


「…で、何泣いてんだよ?イイ大人が一人してこんな誰もいない公園でさ…」

「…さっきさ、大学で新しい彼氏と一緒にいた元カノを見たんだ」

「…?」

「それでさ、その男といる元カノの顔が俺といた時よりもなんかすっごく幸せそうに見えてさ…それでまた悲しくなって…」

「…それで、こんなところで一人で泣いてたってわけか」

「うん…」

「…そっか」


すると凪は、残ってたジュースの中身を一気にぐいっと飲み干すとブランコから立ち上がり


「…うしっ!飲みいくか!」

「へっ?」

「何してんだ?いくぞ!」

「ちょ、なんで急に…」

「うちのお父さんが言ってた、嫌なことがあって心がギスギスした時は酒飲んで忘れるに限るって!どうせ明日は講義午後からだけだろ?朝まで付き合ってもらうぜ!」

「凪…なんで?」

「んなもん決まってんじゃん、友達が悩んでんならそいつの気が晴れるまで一緒に傍にいて一緒に笑ってやる!それが真の友達ってもんっしょ?」

「凪…お前」

「ほら、泣いてないで!さっさといくぞ!」

「うん!」


それから、凪に誘われてまた鱈腹お酒を飲まされた…凪は俺を励まそうとして終始楽しそうに笑っていた。

そんな凪の笑顔につられるかのようにいつの間にか俺も一緒になって笑っていた、ホントに不思議なやつだ…。


「ハァ、飲んだ飲んだ…もう飲めない」

「ハァ…今日はありがとうな、お陰で少し気持ちが晴れたかも」

「そっか、ならよかった…じゃあ最後に仕上げだ」

「??」


すると、凪は俺の目の前に立って両腕を大きく広げた


「んっ…」

「へっ?」

「ほら、何ぼさっと突っ立ってんだよ?早く来いよ」

「こ、来いって…抱きしめろってこと?なんで?」

「いいから、んっ…!」

「わ、分かったよ…」


と、凪に流されるままに俺は凪をぎゅっと抱きしめた…すると凪は俺が逃げないようにと言わんばかりぎゅっと抱きしめ返してくる。


「ちょっ…」

「いいから、しばらくこのまま…」

「は、はぁ?」


俺は凪が何を考えてるのか全く分からなかった…心臓がバクバクして今にもどうにかなってしまいそうだった。

凪の胸が俺の体にムニィと押しつけられて胸の柔らかみが伝わってくる…思わず凪の秘密を知ったあの日のことを思い出してしまい更に恥ずかしくなってしまった。


「…ねぇ知ってる?人間ってハグするとストレスがちょっとだけ軽減されるんだってさ、癒し効果があるとかないとか…」

「へ、へぇ…」

「だからさ、これからは気分が沈んだ時はいくらでもぎゅーってしてやるからさ…遠慮すんなよ」

「…い、いいの?」

「いいよ、だって友達だろ?これくらい友達なら当然だろ?」

「…ありがと」


凪と抱き合っている内に次第に心の中で安心感のようなものが芽生えてきた…ハグするとストレスが軽減するか…あながち嘘じゃないのかもしれない。


「じゃ、今日はもう帰るね…また明日!」

「うん、また明日」



・・・・・



それから月日は流れ、季節は初夏…夏休み前のテストも無事に終わり、後は夏休みを待つだけ


「なぁコータ!」

「ん?」

「コータはさ、夏休みなんか予定ある?」

「いや、まだ特に決めてないけど…」

「そっか、じゃあさ…夏休みなんだけどさ、一緒にバイトしない?」

「バイト?どこで?」

「ここ」


と、バッグから一枚のチラシのようなものを出す…そのチラシは海の家のバイト募集の応募チラシだった。


「なっ?いいだろ?しかも賄い付きだってよ!」

「たしかに良さそうだけど…それってまさか泊まり?」

「うん、近くに民宿があってさ…期間は二週間、結構時給もいいしさ…一緒にどう?」

「う、う~ん…」


海か…青い空、照りつける日差し、周りはカップルだらけ…今の俺にはあまりに酷な仕打ちだ。


「悪いけど、俺は遠慮するよ…」

「そっか、じゃあアタシ一人でいこっかなぁ?でも、アタシ可愛いからきっと海で悪い男に捕まってもうあんなことやこんなことされちゃったりして…」

「わ、分かったよ!俺も行くよ!」

「へへ、そうこなくっちゃ!じゃあ、コータの分も纏めてアタシの方で申し込んじゃうね!」

「う、うん…」

「へへ、コータと海かぁ…うんとセクシーな水着でも買っちゃおうかなぁ~?」

「なっ!?」

「嘘だよ、何?もしかしてちょっと期待しちゃった?キャー、コータさんのえっちぃ~」

「し、してない!してないから断じて!」

「フフフ、面白ぉ~♪」

「か、からかうなよ!まったく…」


と、そんなこんなで凪と一緒に泊まり込みのアルバイトにいくことになった。




【バイト初日】



バスに乗って移動する、荷物を一旦民宿に預けてバイト先の海の家へ向かう

俺達の他にもバイトはいて、中には高校生っぽい人もいた…俺ら合わせて全部で六人くらい


「ようこそ少年少女達よ!俺がこの海の家のオーナーだ!よろしくな!ハッハッハッハッ!」


こんがりと焼けた小麦色の肌でサングラスをかけた筋肉ムキムキの中年男性、正に海の男という言葉がぴったりな印象な人だ

とりあえず、一人一人自己紹介を済ませてオーナーさんから仕事の説明を受ける…

俺は厨房で皿洗いやその他雑用を担当、一方で凪は接客を担当することになった。


「いらっしゃいませ~、ご注文をお伺いいたします」


とびっきりのスマイルで接客する凪、ここ最近は男装ルックしか見てなかったのでいざ改めて女子バージョンの凪を目の当たりにして俺は終始ドギマギしていた。


「はい、ご注文の焼きそば二人前です!お待たせしました!」


「おい、この海の家めっちゃ可愛い子いるってよ!」

「マジで?どんな子どんな子?」


凪がいるお陰か海の家にお客さんが殺到して俺らは大忙し、厨房もフロアも目まぐるしく動いていた。


「こりゃ大盛況だな、ハッハッハッ!」


あまりの盛況ぶりにご満悦のオーナーさん


「ありがとうございましたー」


漸くお客さんの波も少し落ち着き、漸く休憩の時間


「つ、疲れた…初日から鬼ハードすぎでしょ」

「お疲れ!ほれ、焼きそばとコーラ持ってきたよ!」

「あ、ありがと…」

「んー!焼きそば美味っ!」


満面の笑みで焼きそばを頬張る凪、その無邪気な笑顔がたまらなく可愛らしい…


「にしても、ホントすごい人の数だったな…初日からこれとか先が思いやられるよ」

「それな、まぁなんとかなるんでない?」

「吞気でいいなお前は…」

「へへへ…」


それから休憩が終わった後は比較的お客さんの波は緩やかでそこまで忙しくはなかった。


「…ふぅ、ここはもう終わり…後は」


すると、その時だった…。


「ねぇねぇ、連絡先教えてよ」

「!?」


見ると、凪がガラの悪そうな男二人に絡まれていた


「君マジで可愛いね~、大学生?どこの大学?名前は?」

「とりあえず連絡先教えてよぉ」

「や、やめてください…」


アイツら、凪が嫌がってるじゃないか…もう見てられない!


「失礼しますお客様、従業員への迷惑行為はどうかご遠慮願います…」

「あ?何?アンタここの店員?」

「コ、コータ…」

「お客様、大変恐縮ではございますが…他のお客様のご迷惑にもなりますのでここはどうかお引き取りを…」

「あん?なんだテメェ?こっちは客だぞ、お客様は神様だろ?そんな態度とっていいと思ってんの?」

「もう一度申します、従業員への迷惑行為はどうかご遠慮願います!」

「あん?別に俺らただ連絡先聞いただけじゃん?何が悪いってんだよ?」

「失礼ですが、彼女は先程あなた方に対して『やめてください』とはっきり主張されていたと思うのですが…?」

「そ、それは…」

「これ以上、店や従業員に対し迷惑行為を働くということであらば…こちらとしても対処せざるを得ませんがよろしいでしょうか?」

「…わ、分かったよ、悪かったよ」


と、足早に去っていく男達


「大丈夫か凪?何もされてないよな?」

「うん、あ、ありがとコータ…」

「いいよ、友達だろ…助けるのは当然だ」

「そっか、だよね!へへへ…」


「二人とも!大丈夫か!?スマンな、ちょっと仕入れで留守にしてる間に…」

「いえ、大事なかったんで大丈夫ですよ…」

「そっか…スマンな、俺がいる時はこんなこと滅多にないからな」


そりゃまぁ、こんなムキムキの強面のガングロのおっさんいたら怖くてナンパなんてできないよなぁ…



日も暮れてきて海の家も今日は店じまい、俺らは民宿に戻って夕食を食べて寝るまでの間自由時間を過ごす

俺も風呂から上がって部屋の窓から夕涼みがてら窓から夜の海を眺めていると…



“ヴヴヴ…ヴヴヴ…”



凪からメッセージがきた…内容は『ちょっと外で話したい』とのことだった。


俺は凪に指定された場所へ急いだ、指定された場所は夜の誰もいないビーチ…俺がそこへ行くと凪は丸太に腰掛けて海を眺めていた。


「凪!」

「おっ、来たねコータ…待ってたよ」

「なんだよ、こんな時間に外に呼び出すなんて…」

「うん、ちょっとね…なんかコータと話したくなって…」

「なんだそら…まぁいいけど」


凪の隣に腰掛ける


「…昼間さ、ホントにありがとね…ナンパから助けてくれて」

「ん?あ、ああ…いいんだって、だってお前ああいう輩嫌いだって言ってたしな…」

「うん、そのせいでアタシ男嫌いになったって話したよね…あの時はホントにダメかと思った、声も震えて助けも呼べなかったし、体も強張って逃げたくても逃げられなかった…ホントに、怖かった」


ふと見ると、凪の目から涙がこぼれていた

凪と友達になってから一年ぐらい経つけど、こうして涙流して泣く姿なんて初めて見た。

その姿はあまりにか弱くて小さく見えて、誰かが守ってやらないと…そう思わせるほどで、ああやっぱり改めて凪は女の子なんだなと、そう思った。


「…凪」

「…?」


と、俺は凪の隣で腕を大きく広げてみせた。


「んっ…」

「コータ、いいの?」

「…早くしろ、俺だって恥ずかしいの我慢してやってんだ…今日だけは、胸貸してやる」

「…ありがと」


と、勢いよく胸に飛び込んでくる凪、俺はそれを優しく抱き留めぎゅっと抱きしめた。


「…あったかい」

「落ち着いたか?」

「うん、でも…もうちょっとこのままいさせて?」

「…五分だけな」

「…ありがと」


…そのまま凪の気の済むまま抱きしめ続け、気が済んだところでその後はそれぞれ部屋へ戻った

その時、俺はふと違和感に気づいた…以前なら凪に触れただけで心臓バクバクものだったが今となっては以前と同じように接することができるようになり、さっきだって抱き合ったのにも関わらず嫌なドキドキのしかたはせず、逆に心地良いとさえ思ってしまった…これはきっと、少しだけ女嫌いを克服しつつあるということだろうか?それとも凪に対してだけなのか…それはまだ定かではない。




…てなわけで、あっという間に二週間が経ちバイトも終わり東京に戻ってきた。


その翌日、凪から呼び出されて駅で待ち合わせる。


「お待たせ!」

「おう、今日はどうした?」

「いやぁ、折角バイト代たんまり入ったからさぁ新しい服欲しくて」

「なるほど、要は買い物に付き合えと…」

「そそっ、そうだ!折角だからコータの好きな好みの服教えてよ!」

「は?俺?なんで俺?」

「いいじゃん、ちょっと男の意見も参考にしたいなぁって…だから今日はコータにアタシに似合うコーデを選ぶ権利を与えます!」

「わ、分かった…女のコーデとか、あんまよく分からんから何選んでも文句言うなよ?」

「え?何ナニ?アタシにどんな服着せようとしてんの~?うっわエっロ!ドえっちじゃん!」

「だ、誰がドえっちだ!?」


…と、いつもの調子でからかわれながらも凪に似合いそうな服を真剣にセレクトする


「んー…結構色々あるんだな」

「でしょ?アタシも女子の服買うの久しぶりだからテンション上がるわぁ」

「まぁ、こないだの海での水着も…その、か、可愛かったしな」

「…ん?なんか言った?よく聞こえなかった」

「べ、別に何も…」


と、何着か服を選んで凪に試着してもらった


「ねぇ?どれが一番いいと思う?」

「正直言うとどれも予想したよりすごく、可愛いよ…やっぱ可愛い娘は何着ても似合っちゃうもんだな…」

「か、可愛いって…」

「い、いやだったか?ゴメン、そういや外見褒められるの嫌とか言ってたよな…」

「ううん、コータなら全然いいよ?」

「えっ?」

「んー、やっぱどれも可愛いなぁ…全部買っちゃおう!」


と、俺の選んだ服を纏めて全部買ってしまった凪


「いやぁ満足満足♪」

「よ、良かったな…」

「コータも折角だから新しい服買えば?なんならアタシが選んでやろっか?」

「いや、俺はいいよ…俺なんかが無駄にオシャレしたところでたかが知れてるだろうし…」

「またそうやって自分を卑下する…なんか彼女にフラれてから卑屈になってない?」

「…そう?」

「もっと自分に自信持ってよ、たとえイケメンじゃなくてもさ…コータはコータ自身が思ってるよりもずっとイイ男だよ!なんていうか、『心がイケメン』なんだよ…コータは」

「…そんな風に言ってくれるのお前だけだよ」

「うん、だったらずっとでも言い続けてあげるよ!コータはカッコイイ!」

「…ありがと」





第二章



夏休みも終わり最初の登校日



「よっス!コータ!おはよ!」

「おう、凪…おは、よ?」


すると、そこに立っていた凪はいつもの男装ルックではなく…ちゃんと女の子らしい服装をした凪だった。


「…な、凪!?どうしたんだよその格好!?」

「びっくりした?へへ、大成功!」

「ちょ、マジでどうしたっての!?そんな可愛い格好してたらまた男に…」

「大丈夫、もしそうなったとしてもコータが守ってくれるっしょ?」

「え、あ、あぁ…」

「だから、今日から大学でも本当の自分をさらけ出すことにした!もう正直男装って疲れちゃったんだよねー」

「そ、そっか…」

「だから、危なくないようにしっかり守ってよ?」

「分かった…」


…それからも大学でも美少女モードで過ごすようになった凪は瞬く間に学校内で話題となった。

ただでさえ男装してた頃から王子様だともてはやされていたわけだからそれが突然絶世の美女に変身したわけだから周りはかなりざわついていた。


「何あの美人?あんな人大学にいた?」

「女性の姿の凪様も素敵~!」


と、男からも女からも注目の的になっていた

当然一緒にいる俺もみんなから注目されるわけですごく恥ずかしかった。


「隣の男は何?彼氏?」

「いやないないない!まるで釣り合ってないっしょ!」


と、陰口を叩かれまくっていたが必死で聞こえてないフリをしていた。


「…なんか、周りからずっと見られてるよな?」

「そうだね、でも気にしなきゃいいだけじゃん?アタシは平気!」

「…強いな、流石凪だな」



…まぁそんなこんなで季節は秋も段々と深まり、大学では『学祭』の準備に追われていた。


「去年の学祭もすっごい盛り上がったからさぁ、きっと今年もすっごい盛り上がりになること間違いなしだね!」

「………」

「コータ?」

「あ、いや…ちょっと、去年の学祭のこと思い出しちゃってさ」

「ひょっとして、例の元カノ?」

「うん…二人で色々見て回ったりして、すごく楽しかったな…」

「………」


と、突然凪が俺の頬をむぎゅっとつねってきた


「イ、イテテテ!何すんだよ急に!」

「折角の学祭なんだからそんな暗い顔しちゃダーメ!もっと楽しくいこっ!」

「…あ、ああ」




【学祭当日】



「いらっしゃいいらっしゃい!チョコバナナあるよー!よってってー!」


学祭には学生だけでなく多くの来場者が訪れた、やっぱり大学の学祭だけあって規模がデカい

ステージではゲストの芸能人のトークや芸人が漫才を披露している。


「ねぇコータ!今ステージの方で『四万頭身』とか『カルビ金星』とか来てて漫才やってるって!」

「…あー、そうらしいね…俺あんまお笑い見ないから全然知らないけど」

「あっそっか、コータってアニメとか映画とか好きだけどそれ以外ほとんど見ないもんね…」

「そ、だから芸能人とかも全然知らない人ばかり…声優なら結構知ってるけどな」

「それな…まぁコータらしいっちゃコータらしいけど」

「だな」

「それよりさ、どう?学祭は?楽しくやってる?」

「ああ、今んとこはな…お前と一緒にいるお陰で気が紛れるよ」

「よかった、また元カノのこと思い出してどんよりしてると思ったけど…楽しめてるならいいや」

「うん、ありがと」

「どういたしまして…」



…夜になり、学祭は閉幕しここからは『後夜祭』となる

ステージ上でカラオケ大会が行われたり、ビンゴ大会が行われたりして盛り上がった

後夜祭のラストには盛大に花火が打ち上がり、みんな空を見上げてスマホで写真を撮ったりした。


…後夜祭の帰り道、凪と二人で駅まで向かう


「キレーだったね…花火」

「うん、いくつになっても花火はみんな盛り上がるよな」

「だね、フフフ…」


などと話しながら駅のホームまで入る


「じゃあ、俺こっちだから…」

「ま、待って!」

「えっ?」


去り際に俺の服の裾を掴んで呼び止める凪


「…待って、まだ行かないで」

「??」

「あのさ、じ、実は…コータに伝えたいことがあって」

「…えっ?」


あ、この雰囲気は絶対“アレ”だ…俺は一瞬で悟った


「アタシ、コータのこと…好きなんだよね」

「…っ!」


やや緊張した面持ちでそう告げられた、頬は赤く染まり瞳は微かに潤んでいる…あの凪が、俺に告白したのだ…男が嫌いだって言ってた凪が、勇気を振り絞って告白してくれたんだ。


「勿論、コータがまだ女嫌いなの分かってるし…無理に関係を迫ろうだなんて思わない、けどコータの気持ちをできれば聞かせてほしいな…」

「凪、お、俺は…」


俺は凪に返事を返そうとしたが一瞬踏みとどまった、凪が俺に自分の気持ちを勇気を出して伝えてくれたのは素直に嬉しい、できればこのままオーケーして凪の彼氏になりたい…けど、俺は所詮前の彼女に浮気をされた挙句惨めに切り捨てられたつまらない男…そんな俺なんかに果たして凪を幸せにすることができるか正直自信がなかった…それに浮気をされた自分自身をまだ許すことができなかった。


「…コータ?」

「凪…ゴメンっ!」

「えっ?」


俺は凪に向けて深々と頭を下げた


「…凪の気持ちはすごく嬉しいし、俺も多分凪のこと好きなんだと思う…できることなら、このままオーケーして彼氏になりたい!」

「じ、じゃあなんで?」

「ゴメン…今はまだ、そういう気分になれないっていうか…怖いんだよ」

「怖い?」

「また失敗したらどうしようって考えちゃって…そんなことは万が一つにもないのかもしれないけど、それでもやっぱ怖くてその一歩が踏み出せなくて…ホント、意気地なしで臆病者でゴメン!折角凪が勇気出して告白してくれたのに…俺は、俺は」

「も、もういいよ!泣かないでって、コータは全然悪くない!言ったでしょ?無理に関係を迫りたいなんて思わないって…だからそんなに謝らないでよ」

「凪…」

「アタシはいくらでも待つよ、コータがアタシのこと本当に好きになって付き合いたいって思うようになるまで…」

「…うん、ありがと」

「その代わり、こっちは本気で惚れさせにかかるから覚悟してよね!」

「お、お手柔らかにお願いします…」

「フフフ…じゃあこの話は一旦これでおしまい!じゃあまたね!」

「う、うん…また」



・・・・・



あの日以来、凪は宣言通り俺に猛烈にアピールしてくるようになった

毎日ベタベタくっついてきたり、手作りの弁当を俺に渡してきたり、日によってメイクや服装などを変えてきたりと、あの手この手で本気で俺のことを落とそうとしてくる。


当然、凪のことを密かに狙っている連中からすれば俺のこの状況は面白くないわけであって時折男達から怨みのこもった視線を浴びせられることもある。

そんなある日のことだった…。


「おい、お前」

「ん?」


俺は突然見知らぬ男子生徒の集団に囲まれた


「柳川 宏太郎だな?」

「あ、ああ…何か用?」

「ちょっとツラ貸せよ…」

「………」


この時点でおおよその見当はついていたのだが、ここでごねたら益々話がこじれそうなので大人しくついていく


…男達に連れてこられたのは今は使われていない空き教室、俺は部屋に入れられるなり男達に逃げられないように囲まれる。


「一体全体どういうつもり?こんなとこに呼び出して、目的は?」

「もう分かってんだろ?単刀直入に言わせてもらうけどな、お前…葉山さんとは一体どういう関係だ?」

「どういう関係って、普通に友達だけど?」

「友達?馬鹿言うなよ、そんなのあり得るわけねぇだろ!あんなにこれ見よがしにイチャイチャしやがって…俺達への当てつけかよ!」

「…だったら何?お前らアイツのこと好きなの?」

「ああそうだ!ここにいる全員、『葉山 凪ファンクラブ』だ!」


ファンクラブまで存在してたのか…学校で生徒のファンクラブなんて、都市伝説か漫画の中でしか存在しないかと思ってた。


「この際だからはっきり言わせてもらうけどな、お前なんかじゃ葉山さんとは比べ物にならないくらい釣り合わないんだよ!身の程をわきまえろよこのモブ野郎!」

「そうだ!お前なんかに葉山さんは渡さない!我々は断固拒否する!」

「…お前ら外野にとやかく言われなくても俺とアイツが不釣り合いだってことは俺が一番よく分かってる、お前らが怒る気持ちも分かるつもりだ」

「だ、だったら大人しく葉山さんから手を引け!それで今回は許してや…」

「その前に一個だけ聞いていいか?お前らの中で、凪のことを外見以外で好きだって言う奴はいるか?」

「なっ…!?」


俺がそう言い放つと、男達はみんな面食らったかのように押し黙ってしまった。


「…やっぱりな、そんなことだろうと思った」

「だ、だからなんだっていうんだよ!?」

「ついでに聞くが、お前ら当然凪がこの学校に入学してからつい最近まで男装してたのは知ってるよな?」

「は?そ、それがなんだよ…?」

「本人がいないところで勝手にこんなことを言うなんて義理に反するからあんま言いたくないけどさ…アイツさ、見ての通りめちゃくちゃ美人で昔から色んな男に言い寄られまくっていたらしい…でも凪は自分の外見でしか判断しないような奴らに嫌気がさして大学じゃ男の格好するようになったんだよ…」

「えっ…」

「凪はそんなお前らに散々苦しめられてんだ…その気持ちが理解できるか?」

「だ、だったらお前はどうなんだよ!?」

「一緒にすんな!俺はお前らなんかとは違う、俺はこの一年『男友達』としての凪と一緒に過ごしてきてアイツのいいところいっぱい知ってる!友達想いの面倒見のイイ優しい奴で、たまにメシとかも作ってくれて…女だってバレてからも変わらず俺に馬鹿みたいに接してくれる明るい奴で、俺が彼女にフラれて死にたいぐらい落ち込んだ時だってアイツは何も言わずに俺を飲みに誘って励ましてくれた!アイツはホントに心の底から男前で、優しくてイイ女なんだ!外見なんて二の次だ、俺はそんなアイツの“心”に本気で惚れたんだ!!それをお前らみたいなただ可愛いからっていうだけの薄っぺらい好きと一緒にすんな!!」

「………」


俺の熱弁を聞いて黙って俯いたままでいる男達


「…俺の言いたいことはそれだけだ、分かったらもう二度とこんなことすんな…分かったな?」

「あ、あぁ…その、悪かったな」

「じゃあ、そういうことだから」


俺はそう言い残し、部屋から出ていく




【翌日】



「コータ!よっス!おはよ!」

「おはよう凪」

「あのさ、後で講義始まる前に悪いんだけどレポート写させてくんない?」

「またか…まぁいいよ」

「ありがとう!心の友よ!」


するとそこへ…


「柳川!」

「ん?」


やってきたのは昨日のアイツらだった…


「何?コータの知り合い?」

「まぁ、ちょっとな…先行っててくれるか?後から行く」

「え?う、うん…」


凪に俺のレポートを先に渡して教室に行くように促す


「…で?今日は何?昨日の報復にでも来たってわけ?」

「違うんだ、聞いてくれ…改めて昨日のことを謝らせてほしい、申し訳なかった!」


と、俺に一斉に頭を下げて謝罪する男達


「も、もういいって…お互いなかったことにしよう」

「ありがとう、それで…あれからみんなで話し合って決めたんだ、これからは二人の仲を陰ながら応援しようって!」

「…へっ?」

「なのでこれからも俺達葉山 凪ファンクラブは、二人の愛が成就するように祈ってる!今日はそれを言いに来た!」

「お前ら…」

「だから、頑張ってくれよ!俺達の分まで!」

「あ、ありがとう…」


…なんか、妙な期待をされてしまった。



「あ、遅かったね…大丈夫だったの?」

「ああ、まぁな…」

「ふーん、ならいいけど…はい、レポートありがと」

「うん…」

「あのさ、コータ」

「ん?」

「来週からさ、三連休じゃんね?」

「ああ、そうだな」

「その、よかったらなんだけど…二人でどっか旅行に行かない?」

「ふ、二人で?」

「うん、二泊三日でさ…」

「二人で、泊まりか…」

「嫌?」

「いや!いやじゃない!でも、ホントにいいのか?」

「うん、アタシはコータと行きたいんだよ」

「分かった、行こうか」

「うんっ!楽しみ!へへへ…」


ということで三連休は凪と二人きりで旅行にいくことになった。



・・・・・



【旅行当日】



今回の旅行の行き先は長野県、この時期は周りの山々が紅葉で綺麗に色づいて山登りやキャンプなどに訪れる人も多いらしい。

俺達も旅行一日目はそんな長野の大自然の中でキャンプすることにした


「空気が澄んでて気持ちいいー、空気が美味しいってこういうことを言うんだね!」

「ああ、都会じゃまず味わえないな…」

「じゃあ、早速バーベキューでもしますか!」

「おう!」


今回やってきたキャンプ場はテントやバーベキューセットなど一式レンタルできるところで予め用意する手間もなく誰でもお手軽にバーベキューを楽しめるというものである。


「よし、火ィついた!」

「よしっ!それじゃあじゃんじゃんお肉焼いていこう!」

「ちゃんと野菜も食えよ」

「分かってるよ、オカンかアンタは…」


そして二人でバーベキューを堪能し、バーベキューの後は川のせせらぎを聞きながら二人でのんびり釣りを楽しんだり都会じゃ味わえないような極上のひと時を過ごした。


「もう大分暗くなってきたね…」

「だな…楽しい時間ってあっという間に過ぎていくもんだな…」


暗くなる前に下山し、今日泊まる予定の宿にチェックインする…ところが


「えー!?予約できてない!?」

「えぇ、本日そのようなご予約は承っておりませんが…」

「うーわ、マジか…」


詳しく確認すると、向こうの手違いで別日の予約となっていた。


「最悪だ…」

「今見たけど、ここら辺の宿全部埋まっちゃってるよ?」

「申し訳ございません、一部屋だけでもよろしければご用意できますが…」

「あ、じゃあそれでお願いします…凪もそれでいいよな?」

「う、うん…」

「ではご用意いたしますので少々お待ちください」


…と、用意された部屋に案内される

部屋はまあまあな広さで、なんと露天風呂までついていた。


「では、ごゆっくりどうぞ…」

「うーわ、すげぇ部屋…」

「露天風呂まである…こんなん初めて」

「ど、どうする?先入りたいなら入っていいぞ…俺、その間後ろ向いてるから」

「…えぇ、別にいいよ?コータだったら一緒に入っても…」

「ば、馬鹿!何言ってんだ!?いくらなんでも、い、一応まだ交際前の若い男女が一緒にお風呂入るなんて、そんな…け、けしからん!」

「昭和の頑固親父かよ…どうせ遅かれ早かれお互い裸見ることになるんだし、いいじゃん」


と、さっさと服を脱いで下着姿になる凪、俺は慌てて目を背けた


「ちょ、待てって!流石にいきなり裸はマズイって!」

「んもう、照れ屋さんだなコータは…ほらいいから早く入ろうよぉ、じゃなきゃいつまでもこの格好でいるよ?」

「わ、分かった!でも、せめて大事なところはタオルで隠してくれ!」



と、結局二人で露天風呂に入ることに


「気持ちいいー!こりゃ極楽だねぇ!」

「………」

「ほら、なんでそんな端っこにいんの?こっちきてごらんよ!景色も超キレーだよ!」

「う、うん…」


いくらタオルで大事なところは隠れているとはいえやっぱり恥ずかしい…俺はずっと凪の方に向けずにいた。


「もう、いつまで恥ずかしがってるの?いい加減慣れなよ…」

「か、簡単に言うなよ…そんなすぐ慣れるぐらいなら誰も苦労なんかしない」

「もう、しょうがないな…アタシ先に体洗うね」


と、湯船から出て体を洗いにいく凪…背中越しに凪が体を洗っている音が聞こえてくる


「……っ」


俺は興奮しそうな気分を必死に堪えて何か別のことを考えて煩悩を打ち払おうとした。


「コータ、次使っていいよ」

「お、おう…」


凪と代わって今度は俺が体を洗いにいく、そうして俺が体を洗っていると…


「ねぇコータ」

「ん?」

「背中、流してあげよっか?」

「いや、いいよ…自分で洗うよ」

「いいからいいから、やらせて」

「………」


湯船から出て俺の背後に立つ、タオルを泡立てて俺の背中をゴシゴシと擦る


社長シャチョサン、気持ちいいデスカ~?」

「なんで急にカタコト?余計変な気分になるからやめろ…」

「ちぇー、じゃあ…もっとサービスしちゃおうかな?」


と、今度は俺の背中にいきなり抱きついてくる

タオル越しに凪の胸の柔らかい感触がダイレクトに伝わってくる。


「なっ!?ななな、凪!?背中に柔らかくてもちっとしたものが二つ当たってるんだけど!?」

「当ててんのよ」

「お、おい…これ以上は、もういいかげん洒落にならんからマジでやめ…」

「…なんでなの?」

「えっ?」

「アタシは、こんなにもコータのこと大好きで一生懸命アピールしてるのに…なんでコータは落ちないの!?今だって恥ずかしいの我慢して頑張ってるのに…」

「…凪、ゴメン」

「…こっちこそゴメン、コータのこと待つって言っておきながらコータのこと困らせるようなこと言って…ゴメンね」

「謝るなって、悪いのはいつまでも一歩踏み出せない意気地なしの俺なんだから」

「じゃあ、またお互い様だね…」

「そういうことにしとこうか…」


…それから風呂から上がり、夕食を食べ終えて布団を敷いて寝る準備を整えていると


「ねぇコータ」

「ん?」

「今日はさ、もう少しくっついて寝ようよ…何もしないから」

「それ、普通は男が女に言うセリフじゃね?」

「たしかに、でもうちらの場合は逆でしょ?仮に今ここでアタシが裸になったってコータはアタシのこと絶対に襲わないでしょ?」

「ぜ、絶対とは…言い切れないよ、俺だって…男だから」

「分かってる、冗談だから…でもアタシはコータのこと信頼してるし、コータもアタシのこと信頼してくれる?」

「凪…」

「じゃあそういうことだから、一緒に寝よ?」

「あ、ああ…」


と、仕方なく一緒にくっついて寝ることにした。




【翌朝】



…結局、その後ロクに眠れないまま朝を迎えてしまった

俺の隣では今も尚、幸せそうな顔で凪が熟睡している。


「むにゃむにゃ…すぅー」


浴衣は大きくはだけてほぼ半裸になってしまっていて、水色のブラジャーとパンツが丸見えになってしまっている…俺は凪の肌に極力触れないように気を付けながらそっと起こさないように隠してあげた。


「…ん、んー」

「お、おはよう…」

「あ、コータ…おはよう」


二人見つめ合いながら至近距離で挨拶を交わす


「あ、浴衣…着せ直してくれたの?」

「あ、あぁまぁ…あまりにもあられもない姿だったから…」

「へぇ、じゃあ見たんだ?アタシの下着姿」

「…ま、まぁちょっとは見たけど、極力肌には触れないように気を付けたし、神に誓ってやましいことはしてないからな!」

「ふぅん、別にコータだったらしてもよかったのに…」

「お、おい!何を言ってんだ!?俺はこう見えても紳士なんだ…いくらなんでも寝込みを襲うなんてするもんかよ」

「ウソウソ!言ったでしょ?ちゃんとコータのこと信じてるって…ありがと」

「お、おう…」


その後、着替えて朝食を食べた後次の目的地に向かう


次に向かったのは山の麓にある牧場、牛や羊など沢山の動物達が飼育されている。


「わぁ、すごい…」

「みんなのびのびとしてるなぁ」

「あ、搾乳体験だってさ!いってみる?」

「へぇ、面白そうだな…」


体験のできる場所へと行ってみる、係員のお姉さんの説明を聞いて牛のミルクを搾る


「おぉ…すごい出る!」


勢いよく出るミルクに興奮する凪


「すごいよマジで、ぶじゃーっていっぱい出た…」

「そりゃ牛だからな…」

「いいなぁ、アタシもこんなおっきいおっぱいほしい…」

「お、おい!何言っちゃってんの!?ほらお姉さんだってリアクション困ってんじゃん…」

「ア、アハハ…ユニークな彼女さんですね」

「あ、いや、その…アハハ」


体験場を後にして売店でヨーグルトを買って食べる


「んっ!めっちゃ濃厚!美味しい!」

「ああ、そこらのヨーグルトとはひと味もふた味も違うな…」

「すごいなぁ、牛さんに感謝だねぇ…本当だったら赤ちゃんに飲ませる分をアタシ達人間が美味しくいただいちゃってるわけだしねぇ…」

「そうだな、最後まで残さず有難くいただこう…」

「うん」



牧場を後にしたあと、向かったのは山梨のワイナリー

そこでは色んな種類のワインが売られていた。


「ん、これ美味しい!ワインってあんまり飲んだことなかったけどこんなに美味しいんだ」

「そっか、よかったな…」

「コータは飲まないの?あ、コータまで飲んじゃったら車運転できないもんね」

「そういうこと、それに俺ワインとかだと悪酔いするタイプでさ…」

「そういえば一緒に飲み行ってもビールとか日本酒とかしか飲まないよね?そういうことだったのか」

「でもお前は俺と違って色々飲むタイプみたいだからさ…ここ連れてきたら喜ぶかなって」

「うん、めっちゃ楽しい!よく分かってんじゃんアタシのこと」

「だろ?親友ナメんな」


色んなワインを楽しめてご満悦な様子の凪



…その後も観光を楽しんでると、雨が降り出した為予定よりも早く今日泊まる宿まで行くことになった。

今回はちゃんと予約も間違いなくちゃんと二部屋とってある。


「…なんだ、また一緒の部屋でも全然よかったのにな」

「アホか、もうあんな奇跡二度と起こらないと思え」

「ちぇー」

「じゃ、また後で…」


とりあえず、部屋に戻って休むことに…だが数分後、凪は俺の部屋にやってきた


「ど、どした?」

「あのさ、アタシの部屋めちゃめちゃ雨漏りしてて最悪なんだけど!」

「何ぃ?」


と、凪の部屋へいってみるとたしかにかなり雨漏りしていてベッドが濡れてぐしょぐしょになっている。


「こりゃフロントの人に言って部屋代えてもらおう…」


早速フロントに連絡して状況を説明して部屋を代えてもらうようにお願いするも、生憎他に空き部屋はなく、やむなく凪は俺の部屋に避難せざるをえなかった。


「…結局こうなるのか」

「大変申し訳ございません、お部屋の代金はお返しいたしますのでご了承ください…」


俺がフロントから部屋に戻ると、凪がニマニマしながら待っていた。


「奇跡は一度だったな?じゃあ、二度目は何だ?」

「お前はどこぞの死神代行か…やれやれ」


結局、その夜も凪と一つのベッドで枕を並べて寝ることとなった…一人用のベッドにぎゅうぎゅうに身を寄せ合い、俺も凪もそこそこ大柄な方なのでかなり狭い


「…コータ、もうちょっとこっちこないと落ちちゃうよ?」

「し、仕方ないだろ…これ以上そっちいったらくっついちまう」

「まだそんなこと言ってんの?夕べだって一緒にくっついて寝たじゃん」

「だけどさ、これ以上くっついたらやっぱりドキドキして眠れないよ…」

「…そっか、ドキドキしてるんだ…えっち♡」

「そ、そういうこというから余計に…」

「余計に、何?」

「もうからかうのはよせ!」

「…相変わらず照れ屋さんなんだから、なんなら触ってもいいよ?コータだけ特別、おっぱいまでなら許す」

「は、はぁ?」


そう言ってTシャツの裾をペロンと捲ってブラジャーを見せてくる…今日は薄ピンクか


「ちょ、しまえって…」

「いいじゃん、昨日と今朝だって見たクセに…」

「だからって…」

「ほら、いいよ…牛さんほどは大きくないけど人間基準でDカップは中々のものですぞ~」

「でっ…」


思いもよらずカップ数を知ってしまった…Dカップ、たしかに結構大きい方かもな…ってダメダメ!何を考えてるんだ俺は!


「…触らないの?」

「触らないよ…」

「なんだ、つまんない」


そう言ってシャツをしまって少しむすっとする凪


「分かったよ…じゃあさ、代わりに抱きしめていいか?」

「…うん、いいよ」


そういって俺は凪をぎゅっと抱きしめた…最初のうちはドキドキしたけど次第に落ち着いて気づいたらいつの間にか眠っていた。



【翌朝】



目が覚める、俺はまだ凪のことを抱きしめたままだった。


「ん、おはよコータ」

「お、おはよ…」

「何?ずっとアタシのこと抱きしめてたの?」

「それは、その…」

「てか、さっきからずっとお腹の辺りに“硬いナニか”が当たってんだけど…これひょっとして、勃っ…」

「ち、違う!いや違くないんだけど、これはその…朝起きた時に起こる生理現象で自分の意思ってわけじゃ…」

「フフフ、大丈夫知ってるよ!ちょっとカマかけてみただけ」

「コ、コイツ…」


…こうして、三日間に及ぶ二人きりの旅行は無事に終わったのだった。






第三章




季節は冬になり、街はクリスマスムード全開となり煌びやかな電飾などが飾られて彩られている

俺と凪はというと、クリスマスイヴに食事にいく約束をしている

そこで俺は、ひそかに一人とある覚悟を決めていた…。


「クリスマス、楽しみだね!」

「ああ、いくつになってもこういう行事ごとはついウキウキしちゃうもんだな…」

「うん!早くクリスマスにならないかなぁ?」


と、二人して話しながら帰っていたその時だった…。


「宏太郎君…」

「!?」


そこへ現れたのはなんと、元カノの花実ちゃんだった…。


「久しぶりね」

「…は、花実、ちゃん」


俺の頭の中にあの日フラれた日の記憶が鮮明に蘇る


「コータ?この人って…」

「ゴメン、ちょっと彼に用事があるから外してもらえるかしら?」

「…わ、分かった」

「悪いな凪、また明日…」

「…うん」


凪の後ろ姿を見送った後、改めて花実ちゃんの方へ向き直す


「ふぅん、あれが噂の新しい彼女ね…可愛い娘じゃない」

「凪とはまだそんな関係じゃない、ただの友達だ」

「そう、そりゃそうよね…あんな可愛い娘と釣り合うはずもないもんね!」

「余計なお世話だ、で?今更何の用?こっちはもう顔も見たくないんだけど…」

「あら、随分なご挨拶じゃない?まぁいいわよ…とにかく、用件を言うわね…宏太郎君、私とヨリを戻さない?」

「…は?」

「あのクソ男、私以外にも三股かけてたのよ!信じられないわ!」

「よく言うよ、自分だって俺と付き合ってたころから平気で浮気してたクセに…自業自得だろ?」

「一緒にしないでよ!私なんて三股もかけられてたのよ!」

「数の問題じゃないだろ、それが何股だろうと浮気は浮気…少しは裏切られる側の気持ちを思い知ったか?」

「ええ、十分すぎるぐらい痛感したわ…宏太郎君もあの時こんな気持ちだったのね」

「ああ…」

「それで思ったのよ、いくらイケメンでお金持ちでも三股するようなクズなんかよりもあなたの方がよっぽど私のこと大切にしてくれたって…失ってから初めて気づいたの」

「…花実ちゃん」

「浮気してあなたの心を傷つけたことなら何度でも謝るわ!そして今後一切浮気しないって誓う!だからお願い、もう一度私達やり直しましょう」


と、深々と頭を下げて俺に謝罪して復縁を申し出る


「…本当に、反省したんだ?」

「もちろん、本当に…ごめんなさい」


今までの俺であったら、ここは迷わず二つ返事でオーケーしたことだろう…けどもう違う、俺はもう今までの俺じゃない、俺はもう…。


「…悪いけど断る、俺はお前を一生許すつもりはない…もう顔すら見たくない、不愉快だ」

「そんな!なんでよ!?私、反省したって言ってるじゃない!」

「くどい!二度も同じことは言わない…分かったらもう二度と俺達に関わるな!」

「ちょっと!何よもう!ふざけんじゃないわよ!下手に出てたらいい気になっちゃってさ!別にアンタみたいな地味男こっちから願い下げだわ!折角ここまで妥協してあげたのに冗談じゃないわよ!ふんっ!」


と、怒鳴り散らして行ってしまった。


「…何だったんだ一体?」


とりあえず気にしないことにした。



(…あの男、この私に恥をかかせた罪は重いわよ!今に見てなさい…)




・・・・・



【クリスマスイヴ当日】



イヴの日の夕方、俺は居ても立っても居られずまだ待ち合わせ時間前にも関わらず集合場所の駅に一足早く来てしまった。


「凪、早くこないかな…プレゼント、喜んでくれるといいな」


そのまま駅で凪を待ち続ける、だが待ち合わせの時間五分前になっても凪の姿は現れなかった…。


「凪、遅いな…いつもだったら十分前には必ず来るのに…」


時間を過ぎてもとうとう凪は現れなかった…俺はもしや凪の身に何かあったと思い凪のスマホに電話する


「繋がらない、メッセージも全然既読にならないし…どうなってんだ?」


すると、その時だった…。


「あ、柳川!」

「アンタ達は…」


と、そこへ現れたのは凪のファンクラブの人達だった。


「た、大変だ!一大事なんだよ!」

「な、なんだ?まさか、凪の身に何か…」

「ああ、実は…」


彼らの話によると、凪はここへ来る途中に特攻服を着た謎の連中に連れ去られてしまったとのこと

偶然、その現場をファンクラブのメンバーの一人が目撃し、メンバー同士のグループチャットで情報を共有したらしい。


「そんな、凪…」

「今、メンバーの一人が追跡してる…何か分かり次第連絡が来るはずだ」

「みんな…ありがとう!」


すると、その時だった…。


「あっ、会長!今連絡来ました!」

「そうか!で、居場所は特定できたか?」

「はい、都内の外れにある廃工場みたいです!」

「分かった!今、メンバーに車を回すように指示する!準備でき次第救出にいこう!」

「ああ、凪…無事でいてくれ」





【廃工場】



「…アンタ達誰よ、アタシを攫ってどうするつもり?」

「アタイらは泣く子も黙る最恐レディース集団『九凛夢存九威院クリムゾンクイーン』!アンタに恨みはないけどアタイらの『姐さん』のご命令だからな、悪く思うなよ?」

「は?姐さん?」

「私だよ…」

「あ、アンタ!?こないだの!」

「そう、九凛夢存九威院 四代目総長(ヘッド)、赤城 花実…夜露死苦!」

「四代目総長?」

「この子達は私の可愛い後輩達、引退した今でも私の言うことなら何でも聞くの」

「それで?アタシのこと攫ったのは差し詰めコータをここにおびき寄せてリンチにでもしようってこと?」

「そういうこと、でもそれだけじゃ物足りないわね…そうだいいこと思いついた!アイツをボコボコにした後アンタの目の前で私があの男の童貞奪ってあげる!」

「や、やめてよそんなこと!」

「フゥゥゥ!流石は姐さん!やることがエグいっすね!」

「お前らにも順番にまわしてやるから、カラッカラになるまで搾り取ってやんなさい!」

「へへ、いいんすかマジで…」

「最近ご無沙汰だったから丁度いいや…」

「…っ」

「抵抗したって無駄よ!アンタはせいぜい自分の愛する男が他の女に嬲られて蹂躙される様を指咥えて眺めてるといいわ!」


(コータ、助けて…)


すると、そこへ…廃工場内に何台もの車が乗りつけてきた。


「なんだ?」

「カチコミじゃあ!」


車から降りてくる男達、ヘルメットを被ってバットやらを持って武装している


「なんだお前ら!?」

「我々は葉山 凪ファンクラブ!我らが敬愛する(葉山さん)を攫った不届き者め!速やかに彼女を解放しなさい!抵抗しても無駄だ!貴様らは完全に包囲されている!観念して彼女を明け渡し給え!」

「フン!ファンクラブだかたまごクラブだかしらないけど、私らに逆らうなら容赦しないよ!アンタ達、やっちまいな!」

「押忍!」


「さぁ同志達よ!今こそ立ち上がれ!必ず我らが姫を救出するのだ!」


レディース達とファンクラブのみんなとで大乱闘となる


「…凪、凪!」

「えっ?コ、コータ!?」


俺は乱闘の混乱の中、隙をついて凪をこっそり奪還に来た。


「シーッ、そのまま静かに…」

「まさかこれ、全部コータが…」

「いや…全部彼らの作戦だ」

「えっ?」


「あっ!アイツ!いつの間に!?」

「いかせない!」

「クソ!どけぇ!このオタクども!」

「さぁ同志達よ!もうひと踏ん張りだ!二人の逃げる時間を稼ぐぞ!」

「おぉー!!」


「さぁ、早く!」

「う、うん…」


ファンクラブのみんなが足止めをしているうちに俺達は裏から急いで逃げる


「逃がすな!追え!」

「一人も行かせるな!我らの意地をみせてやれ!」


「…ハァ、ハァ、ハァ」


俺は凪の手を引いて無我夢中で必死に走った…こんなに全力疾走したのはどれくらいぶりだろう?

とにかく俺達は必死に走った。


…そしてとうとう駅まで逃げ切り、電車に飛び乗って事なきを得る


「…ハァ、ハァ、これでもう一安心だ」

「…ハァ、ハァ、コータぁ」

「大丈夫か?どこも怪我してないよな?」

「うん、大丈夫…でも、怖かったよぉ!」


安心したのか人目も憚らず大泣きする凪


「ちょ、凪!お、落ち着けって!」

「だって、だって…うえぇぇぇぇん!」

「ちょ、落ち着けって!これじゃ傍からみたら俺が泣かしたみたいだから!頼むから落ち着いてくれ!」



…それから、駅を出て一先ず俺の家に避難する


「ハァ、疲れたぁ…兎にも角にも無事に助けられてよかった」

「うん、でも…ファンクラブ?の人達大丈夫かな?」

「心配いらない、今メッセージ来ててあの後全員無事に離脱できたって…ちなみにレディース達はあの後駆けつけた警察に御用になったみたい…元カノも含めてな」

「そっか、良かったね…」

「うん、それでさ…今日、凪に伝えたいことがあったんだ…」

「えっ…」

「長いこと待たせてホンっトにゴメン!漸く俺の中で腹が決まった…」

「コータ…そ、それってまさか」

「ああ、凪…俺もお前のことが大好きだ!俺と、付き合ってほしい!」

「…コータ、遅すぎだよ馬鹿」


そういって凪は泣きながら俺のことをぎゅっと抱きしめた。


「これからはずっとずっと一緒、離れたくなっても絶対に離れてあげないんだから!」

「…離れるわけないじゃん、もう絶対に離れない…離したくない!!」

「コータ…大好き!」

「俺も、大大大大大好きだ!!」


…こうして、紆余曲折を乗り越えた俺達は晴れて結ばれたのだった。


ちなみに、赤城 花実やその他レディース達は…他にも色々と悪事を働いていたそうで余罪がわんさかと出てきてしばらくは塀の中だそうだ。



・・・・・



「というわけで、俺達…晴れて交際することになりました」

「いよっ!柳川“名誉会長”!」

「こうしてコータと付き合うことができたのも一重にみんなのお陰です、ホントにありがとう!」

「なんと、なんと勿体ない…推しの幸せこそが我々にとっての一番の幸せ…我々ファンクラブ一同、これからも誠心誠意お二人の仲を応援します!」

「ちょ、流石にもういいって…」

「いいじゃん、なんか面白そうだし!」

「もう、凪…」

「じゃあ、そんなわけで改めまして…メリークリスマス!乾杯!」

「カンパーイ!!」


こうして、クリスマスはファンクラブのみんなと飲んで騒いで盛り上がった。


「では、お二人とも!お達者で、良いお年を!」

「ああ、みんなまたな!」

「ありがとうみんな!」


みんなと別れて帰路につく


「そうだ、色々あって渡しそびれてたけど…これ、クリスマスプレゼント」

「おっ、マジで?やった!まだギリギリ間に合ったね!開けていい?」

「勿論」


箱を開ける、箱に入っていたのはハート型のイヤリングだ


「可愛い…いいの?」

「うん、改めてメリークリスマス!」

「ありがとう!アタシもプレゼント用意してたんだけどね、アイツらに攫われた時に落としてなくしちゃったみたいでさ…」

「いいよ別に…こうして凪と付き合えただけでも俺にとっては今までの人生で最高のプレゼントだから」

「コータ…ありがとう」

「こちらこそ、ありがとう」

「ねぇ、この後コータんち寄ってもいい?」

「うん、いいよ…」


と、凪を連れて家まで帰る


「お邪魔しまーす」

「どうぞどうぞ、あ、なんか飲むんなら冷蔵庫のもの自由に…」


と、俺が言い終わらないうちに凪がいきなり突撃してきて俺をベッドに押し倒した


「ちょ、な、凪?」

「フフフ、もう彼氏と彼女なんだから遠慮も我慢も必要ないよね?」

「ちょ、待て!まだ、心の準備が…」

「いやです!」


と、半ば強引にキスされてしまった。


「ぷはぁっ、今日は…雪なんか溶かしちゃうくらい熱~い夜にしようね♡」

「は、はひ…」





終章



春になり、今日から俺達も晴れて三年生に進級した…これからいよいよ進路に向けて本格的に忙しくなる。


「コータは進路どうするかもう決めた?」

「んー、いくつか候補はあるけどまだちょっと悩み中」

「そっか、コータもか…」

「なぁ、凪」

「ん?」

「俺がもし就職決まって、働き出して生活が安定したらさ…一緒に暮らさないか?」

「えっ!?い、一緒に暮らすって…ど、同棲ってやつ?」

「そう、それでまだまだ先だけどさ…いずれは、結婚だって考えてる」

「コータ…」

「だから俺、就活死ぬ気で頑張るよ!俺達二人の、明るい未来の為に…」

「フフフ、分かった…頑張ってね!アタシの未来の旦那様っ!」

「おう!」



こうして、俺達二人は…輝かしい未来への道を一歩ずつ歩み始めたのだった。





Fin...

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