王女は苦労する。
「まさか最初の任務が奴の逮捕とはな」
ドミニオンのパイロット、ユウ カンバヤシは笑う。彼は今、この宙域を警戒中。アークエンジェルのミッカと共に何か起これば対処することとなる。共和国軍はディーププリンセス号の救助中。増援も来ており、何隻かはこちらの警戒を行っている。
「正直、逮捕してもしなくてもかわりはないの。ただ、ダレルさんの行動を、制限できればいいの 」
アークエンジェルの艦長、ラケシス少佐は穏やかな口調で答える。CICの中は臨戦状態だが、彼女は優雅な仕草で艦の指示を行なっており、温厚な雰囲気を漂わせている。
「まあ、いいけどね。俺はラケシスの指示通りに動けばいいのだろう。しかし、あの男を探知特定できるのか? 」
ラケシスは優雅に笑う。猫のように好奇心旺盛の瞳を動かして。
「ちゃんと個人情報は把握してるの。第一、ダレルさん、実名で運輸会社経営してるの。ディーププリンセス号も彼の会社の所持船よ。自作自演とはこのことだわ。もっともミッカまで用意してるとは思ってなかったの」
「なんだ? 軍人だろ? 確かに自軍の装備ではないが、手に入れられないわけはない」
ラケシスは小さく笑みを浮かべる。
「彼はギリギリだったけど、身体能力軍人としてはは足りたの。でも前線で戦えるだけの体力も技量も手に入れることはなかったの。だから、こちらのエージェントが接触したの。そして彼の希望を叶えたの。その後、スキルが発現し、主計科で頭角を現した。内部での破壊工作が彼の任務だったの。とはいえ、こちらのエージェントと装備までは融通つけることはできなかったはずなの」
ユウは通信画面のラケシスを見る。彼女は少し口元を歪めた。
「彼は王国を裏切ったの。私たちとの連絡を断ち切ったの。なぜかはわからない。だから、共和国に教えて上げたの。彼はテロリストだったのよ、とね。だから自分の船を、テロの目標になったと偽装して、自分は消えるか、どうかするつもりなんでしょうね。、まあ、彼としては多少人が死んだほうが都合がいいし。戦争になればなったでにげだしやすいとおもっているでしょうし。そんなことはないのに 」
「でも、共和国軍と我々が少なくとも大きな被害を防いだ。と、言うことか。あいつの思惑を打ち砕いた」
「まだなの。犠牲がなかったわけじゃないから火種はくすぶっているの。それに、ディーププリンセス号は大破判定。下手したら廃船。どれだけの損失になるかわからないの。交渉次第では戦争になるの」
「ダレルの会社の船だろ。個人の問題として、民間の問題に出来ないのか」
「無理。あの船の資金は共和国主体だけど、一部は王国の資産。何らかの事情で自作自演したと疑われてもしかたないの。一応、正式な融資よ。色々なダミー会社を経由してるけど」
ここで、共和国側から通信が入る。
「じや、ユウ、周辺警戒お願い。少なくともダレルの位置が特定出来るまではそのままお願い」
「わかった」
通信ディスプレイはユウに代わって共和国外相の姿が映る。
「お久しぶりですな。ラケシス王女」
厳しい顔の外相にたいして笑顔の王女。2人は対面した。ディスプレイ越しではあったが。
「国籍不明機からの急迫不正の侵害に対して、そちらの助力によって助けていただいたことについては感謝します」
「そうですね、流石に人命がかかっておりましたので仕方無く。この戦闘行為の責任は私にあります。何か問題あれば 私宛に抗議その他の文書受け取ります」
にこやかな陽だまりの猫のように笑ったラケシスに対して、陰気な山羊のような外相は渋い顔をする。
「そう言うわけにはいきますまい。ラケシス王女の英断にて、多くの人の命が助かった。それに対して抗議を行えるほど、我々は人命軽視は出来ません」
ここで、外相は背筋を伸ばし、口火を切った。
「単刀直入に言いましょう。貴方の目的の人物、ダレル氏は我が共和国の国民。いかにテロリストとしての容疑があろうとも引き渡しは難しい。こちらで調査します。その結果がでるまで、どうかお引き取りを」
「あら、なんの成果もなしに帰らせるの?」
コロコロ笑う王女に対して外相は渋い顔のまま答える。
「正直、そうなるかもしれません」
外相は、ひげをしごきながら続けた。
「この場合、確かに人命救助の一環としてとらえるなら美談。しかし、正体不明機がミッカとされる以上、宇宙五国連合の内部事情に触れるかもしれない。と、なると、我々としてはたまたまラケシス王女が艦長をしていた軍艦に救助要請をした、もしくは救命信号を受け、国家の枠を飛び越えて救助に当たって下さったラケシス王女を我が共和国を持って讃える。それならば国際的にも自由五国連合としても国際世論の上でプラスになる、と、思いますが」
「そして、共和国側としてもディーププリンセス号のテロに対して対応が遅れた事実を隠せる、と」
外相は渋い顔のまま、額の汗を拭う。
「いや、これは手厳しい。たまたま大型艦のシフトが分散しておりまして、」
「ああ、共和国のザッコのパフォーマンス、私も見ましたわ。優美で力強い。長い戦いのあとでもあれだけの戦力を維持している共和国の皆様、素晴らしいわね」
「いや、そう褒めて頂けると我が国としても鼻が高い」
外相の答えに、ラケシスは目を伏せる。
「まさか、その式典の直後にこのようなテロが起こるなんて、恐ろしいですわね」
「そ、そうですな」
「巡洋艦は特に高速展開能力が高いですし、大気圏突入及び脱出能力も持つ。このような事態に対して有効な戦力ですが、それにしては救助の為の数が少ないようですね」
汗を拭きつつ答える外相。
「はい、我が軍の軍機に当たるために詳細は言えませんが、多少トラブルが起こったようで」
「そうですね。、そういえばダレル氏もこの式典の推進者だったのでは?」
山羊のような外相は、悪魔のように目を細めた。が、王女に目を向け笑った。
「まあ確かに軍部にもいろいろありますが、ともかく大きな被害がなくて良かった」
「ともかく、公式非公式に限らずダレル アプライド氏との面談をを要求します。このテロも彼の行動である可能性が高い。面談で彼の容疑が晴れればよし。それ以上干渉しません。それに」
と、ラケシスは声をひそめる。
「自由五国連合の機体が使用されたこと、非常に問題です。我が国の一部勢力が関与しています。アーメル民主国貿易とドノツ共和連邦とのパワーバランスの偏向の為にダレル氏を動かしたと私のほうでは情報が入ってきていますの」
外相は再度目を細める。
「その事を私に漏らしても良いのですが?」
「信頼の証ですの」
にこやかに返す王女。
アーメル民主国は、これまで自由五国連合の代表的な役割の国。共和国と主に戦った好戦的な国でもある。しかし今回の戦争で国力を落とした。そのためドノツ共和連邦に発言力で押されているとされる。ドノツは特に軍事産業、特にRFの生産において自由五国連合内での4割のシェアを誇る。ミッカも主にこの国の基本設計。そして基本的に生産を行っている。
「共和国でダレル氏を調べたら、ダレル氏の発言によってはアーメルやドノツ、そして自由五国連合を巻き込んだ大ごとになります。私ならば、ダレル氏と面会出来れば彼と交渉し、色々な条件を緩和出来ます。単純にどの救命艇、あるいはレスキューパックにいるか教えて頂ければ、こちらからランチを出して接触します。また、この度テロリスト騒動のことは私の一存だったと記者会見を行っても良いです」
外相は、少しの間頭に手を当てた。それから質問する。
「……ダレル氏は、そんな重要人物なのですか?」
「ええ、悪名高き電子使い、ファントムと聞けばわかりますか?」
「……ファントム……我が国に甚大な被害を与えた奴ですな」
外相は唸る。ラケシスは彼に同情を見せた。
「本来ならば貴方方に引き渡す方がよいのでしょうが、自由五国連合にも事情がありまして。表に出すと不都合が生じる。共和国にも同様の事態が生じる恐れがあります」
外相は、しばらくだまったまま。しかし、携帯端末を取り出し文書を入力、送信した。そして、王女に対して確約した。
「公式には面会と言う形になります。持ち船ディーププリンセス号を襲撃された為に事情を聞くと、ごまかして下さい。我々もそのように意図して報道します。テロリスト云々は調査の結果誤報だったと。共和国からも情報不備があり、誤認させてしまったと支援します」
「ご協力、感謝します」
頭を下げるラケシス王女。それに対して外相は汗を拭いたままだ。
「共和国議会は多分、この件を外交的に攻めて来ると思います。その時には私ではなく、次官が対応するでしょう。私ではありませんので」
「安心して下さい。誰であろうとも共和国に大きなダメージは与えません」
「王国に損害を、与えない限り、ですが」
「もしくは利がある限りですわね」
ここで、アークエンジェルのCICに緊張が走る。
「共和国巡洋艦加速。周囲の艦は応答なし!」
「共和国軍に問い合わせを、何? 暴走?」
共和国の巡洋艦は加速。ベクトルを変更。同艦から発進したザッコが二機。発進と言っても艦に取り付く形で固定。赤外線反応と放熱剤の放出量を見るとかなり出力を出して減速しているようだ。
だが、もう一機のザッコが離れて、巡洋艦を固定、減速しているザッコを至近距離で射撃。コイルガンの連射はザッコを破壊、スクラップにする。同時に巡洋艦の自由度が上がり、再度加速、ベクトル変更。
「巡洋艦、共和国名CL19。いきなり加速。共和国側からの情報によると、巡洋艦が突然暴走したとのこと。艦内の制御は40%受け付けるとのことです。いま、クレアドライブの無力化を、行うとのこと」
アークエンジェルの報告を聞く外相と王女。外相は狼狽えた。
「わ、我が国はこんな馬鹿なことはしません!」
「わかってますよ、外相」
ラケシス王女は内心動揺しながらも、外には出さない。笑顔で対応する、
「一番良いのは共和国側で対処して頂けると良いのですが」
どこかに端末で連絡を取っている外相。しかし、ここで青い顔を見せる。
「あの艦のベクトルは、ディーププリンセス号に向かってます。さすがに軍艦の体当たりには、民間船は対処出来ない……」
「副長、状況を知らせて!」
王女は叫ぶ。しばらくたった後詳しい報告が入る。
「巡洋艦はベクトル固定。ディーププリンセス号にニアミスの可能性あり。対処出来そうな艦は、ドミニオンの監視を行ってる巡洋艦二隻。ほかは救助中で対応出来ない……」
「ラケシス! 監視してる奴らに協力を要請してくれ」
ドミニオンからの連絡。
「俺につけてある巡洋艦二隻と協力すれば撃破も可能だ」
「駄目よ。ユウ。たとえ人命救助の為だとしても私たちが動けば国際問題なの。ましては戦闘行為などは」
「かまうもんか!」
ドミニオンは暴走巡洋艦に向けて加速する。
「ユウ! 攻撃を受けるかもしれないの。第一、敵対行為とみなされるの!」
「大丈夫だ。さっきもミッカを撃墜した。第一ザッコ程度は敵にならん。共和国の戦力くらい何とか出来る!」
「ユウ!」
ここでドミニオンはブロードキャスト。周辺宙域に電波を飛ばす。
「こちら王国軍所属特務機ドミニオン。共和国巡洋艦の救助に向かう」
それからドミニオンは加速。ベクトルを暴走した共和国巡洋艦から僅かに逸らして加速。
一隻の共和国巡洋艦も即応してドミニオンに追随。もう一隻も慌てて加速。しかし、ドミニオンとは加速度が違う。距離を離される。
ラケシスはため息をついて外相に頭を下げる。
「信じて頂けるかとうかは別として、彼は巡洋艦救助に向かってます」
外相は端末をいじっていたが、ため息をついて答えた。
「あなたを信じます。どうせこの件で私は罷免されるでしょうから。必要な許可、その他ありましたら言って下さい。現状、私ができることは致します。少なくとも現在のドミニオンの行動に関しては私が要請したと報告しました。ま、退陣案件ですね」
小さな声で五国連合に理する事をしてしまった、と聴こえた。
「ありがとうございます」
ドミニオンに追随する共和国の軍艦からザッコが発進。高加速。そして、ブロードキャストしながらドミニオンに接近する。
「所属不明の宇宙飛翔体、貴機の所属と名称、形式番号を答えよ。更に貴機の進路は民間船と接触する速度とベクトルを待つ。減速するかベクトルを変えよ。繰り返す……」
「ここでAI警告ですか……」
ラケシスは少し呆れる、が、ザッコはドミニオンのベクトルを邪魔する様子はない。アークエンジェルの副長は呆れたハスキーみたいな顔で解説する。
「一応、警告したという記録を取っているのでしょう。なるべく問題にならないように。人的責任を問われた時にAIの誤動作とか言い抜けるつもりでしょう」
ここで、アークエンジェルのオベレーターがチワワみたいな顔で報告する。
「艦長、共和国巡洋艦、CL03より共用周波数で入電。協力を乞う、とのこと」
「わかった。可能ならば我が艦とリンク。無理なら対応計画を教えろ、と送れ」
了解、の声を聞きながら笑う王女。
「……ここで、私は一旦通信を切ります。よろしく頼みます」
外相は、遠慮がちに小さな声で言う。
「わかった。すまないが、あの艦の責任は問わないように」
「かの艦の乗員は、あえて炎の中に飛び込む者たち。どこまで出来るかわかりませんが対処しましょうか」
そう言って外相は通信を切る。
直ぐにラケシス艦長は副官を呼ぶ。
「シムスを呼べ。あと、あの暴走艦を止める作戦計画を作れ。時間は300秒だ」
「了解」
ここでオペレーターが報告。
「共和国巡洋艦、CL03より入電。対処計画受け取りました。更に共和国巡洋艦CL22も協力するとのことです」
「艦長用ディスプレイに送れ」
ラケシス艦長は計画を見る。速読して即応。
「副長、計画作成中止。共和国側の作戦でいく。ユウ、計画を送る」
ユウが通信に出る。
「あっちの計画に乗るのか!」
「私たちが実働するよりは安全よ。第一、彼らの尻ぬぐいは彼らにさせなければ」
「その割にはドミニオンは大役だぞ」
「信頼してるのよ。ドミニオンの性能を良く知ってるわね」
通信しながらラケシスはデータを拾う。そして状況から、CL03は、ドミニオンと幾度となく戦った相手と知る。
「かなり練度が高い艦ね。能力的には信頼できるわ」
各艦に計画伝達。機動開始。ベクトル変更し、加速。更に七機のザッコが発進。ドミニオンと共に先行していく。暴走する巡洋艦、CL19は、ザッコと連携して加減速を繰り返す。が、こちらのザッコが接近した時点で変化があった。
「暴走巡洋艦、高赤外反応」
CL19より粒子砲の発射を確認。ザッコ一機に直撃。完膚なきまでに破壊する。
「ユウ、前進出来る?」
ユウは苦笑い。
「普通は無人機が囮じゃないのか?」
「ドミニオンのフェルミオンジェネレーターなら、粒子砲の数発耐えれるでしょう」
「まあ、そうだけどな。わかった」
ドミニオンは加速。暴走巡洋艦にビームアタック。はたから見たら攻撃をかけるような感じだ。暴走巡洋艦は粒子砲をドミニオンに向けて撃つ。しかし、ドミニオンは粒子砲の火線を正面から受け止める。同時に放熱剤を放出。高熱源の輝きとしてばらまかれる。
同時に暴走巡洋艦に随伴していたザッコが四方からのコイルガンの射撃を受けた。共和国側のザッコ隊による連携射撃。暴走巡洋艦のザッコはシールドによる防御も間に合わず、機体を撃ち抜かれ爆発した。赤外反応があたりに広がる。
「さすがにうまいの」
ラケシスは関心する。四機のザッコが射点をずらして発砲。更に命中弾を与えたら射線を集中。シールドの効果を飽和させて撃破した。
同時にザッコ四機が高加速。ベクトルをこまめに変更して螺旋状に接近。近接火砲が発射されるが、明後日の方向に撃ち出される。間髪入れず、ザッコ四機は暴走巡洋艦の機体に接触。手足を使って自機と固定。ディーププリンセス号から離れるベクトルへと変更する。
「これで、終わりなの」
ラケシスは、ほっと息をつく。それからシムスをそばに呼び、囁く。
「ダレルの特定、できた?」
「後少し近づいて下さい。そうすれば出来ます」
「アークエンジェル、前進。救助に向かう」
が、ここでオペレーターが慌てて報告する。
「暴走巡洋艦が、レスキューパックを投棄しました」
「ユウ、救助を!」
「おい、俺は細かい操作は苦手だ」
そう言いながらもドミニオンはレスキューパックの一機を保護。クレアドライブによる慣性制御でGを相殺する。もう一機はザッコが回収。
それを見越してか、暴走巡洋艦は艦首を別方向に向けた。アークエンジェルの方向に。赤外反応が増大。
「シールド正面に偏向!」
同時に巡洋艦の粒子砲がアークエンジェルに放たれた。
「ラケシス!」
ドミニオンの赤外反応が増大。
粒子砲の火線が……暴走巡洋艦を、固定していたザッコの一機に命中する。飛び出した形で粒子砲の火線に入ったのだ。放熱剤があたりに放出されているため、バッテリー容量のほとんどをシールドに回しているのだろう。しかも粒子砲を受け止めているのではなく、受け流している。火線は方向を変え、虚空へと散っていった。それでもザッコの半身がえぐられている。しかし、全身が消滅していないだけでも奇跡と言っていい。
「CL03より入電。繋ぎます」
艦長用のディスプレイには、キツネザル顔の美人が映る。
「アークエンジェルの艦長、ブライトに先程CL22の砲撃でダメージを受けたザッコを攻撃させて下さい。今すぐに!」
「了解! ユウ、指定のザッコを撃って!」
間髪入れずにザッコに粒子砲を撃つドミニオン。ザッコは爆発四散した。
「感謝します。共和国巡洋艦の艦長」
直ぐにラケシスは指示を出す。
「ダレル氏と話がしたい。どちらかのレスキューパックにいるはずだ。探せ」
アークエンジェルからドミニオン経由で一般放送。ラケシスの名でダレル
氏に会いたいと言う内容。
しばらくして個人回線から入電。秘匿処理をし、王女の通信ディスプレイに繋ぐ。
彼女の前にくたびれた中年男が現れた。
「ラケシス王女、お久しぶりです」
「……苦労してるの?」
男はにやりと笑う。
「いえいえ、それほど苦労してませんや。ところで要件とは?」
「貴方の活動を停止してもらいたいの。これまでの報酬は払うし、アトロにも話はつけるわ」
「共和国側には」
「水面下で交渉するわ。悪いようにはしない。ただし、王国への亡命はしないで」
「拒否したら?」
「私からは何も言えない。でもドミニオンは行動するかもね。多大な犠牲を払って」
「……わかった。条件をのむ」
「じゃ、後で証書を渡すわ」
ラケシスは通信を切る。そして、後ろのシムスを呼ぶ。
「できた?」
「はい。しかし、彼のスキル無力化しなくともよかったのですか?」
「どうせ、共和国が使おうと接触するわ。それならば有効活用しないとね」
「しかし、大きな失敗はしませんよ。少しスキルの精度を狂わしただけですから」
ラケシスはにこやかに笑う。
「もし、ダレルさんがこんなことしなけらば、単純に退職金渡して終わりだったのよ。そう伝えたのに、何故か過剰反応して」
「アトロポス様もあの様な輩を使うから」
「いい駒ではあったのよ。もっともアトロポス姉さまも最近では使わなくなったしね。使い勝手悪いって」
ラケシスは、共用ディスプレイに映るドミニオンに目をやって独りごちる。
「ま、王国の為にも、彼の為にもね、まだまだ活躍して欲しいの」
「しかし、派手にやりましたね」
「そうなの、後片付けが大変なの」
ラケシスは、うんざりした顔をして、それでも正面を見据えていた。
「ほんとに、ただファントムに秘密裏に会うだけのはずか、なんでこんな大ごとになったのやら」
共和国は、ディーププリンセス号の事故を大型デプリによるものと発表。たまたま外交視察に来ていたアルストロメリア王国のラケシス王女が救助協力を受けてくれた為、被害は最小限に留まった。その後、ディーププリンセス号の持ち主で海運業を営むダレル氏と会談。実りが多い会話だったと、双方が公式に発表した。




