モブ兵は救助する。
大気圏を離脱したCL03は、その俊足を生かして貨客船の救助へと向かう。せせこましい地上の都市上空を離れ、クレアドライブの出力に任せて飛び出していく姿は凄まじいの一言。その出力は、地球時代の化学燃料を使ったロケットとは比べものにならない。一瞬にして大気圏を離脱した。解き放たれた怪物は、それでも理性を保って周囲に与える影響を最小限にして宇宙を進む。
その間僕らはブリーフィング。事故を起こした貨客船は1000mクラス。ディーププリンセス号。普通の貨物、普通の乗客を乗せて普通の航路を行く普通の貨客船だ。が、そんな船でもデプリで破損し、遭難する。
訳が無い。これだけの大きさの貨客船は戦闘機能こそ持たないものの、かなり強化された船体とフェイルセーブを備えている。下手な戦艦などより頑丈だ。よほどの事故ででも救助が必要などありえない。そんな状況で救助の要請。しかも民間業者ではなく軍に。かなりの厄介事だろう。
「……艦長、貨客船の被害状況は?」
ゴリラ似のイケメン少尉が質問する。基本的に厄介なことを率先して聞く係だ。
「状況としては厳しい。数ヶ所にダメージ。バイタルパートまで損傷しているそうだ。フェルミオンリアクターまでダメージか来ていたので、即救命挺で乗客退避。なお、救命挺にも損傷か出たらしい」
シルビアさんはアヒル口をさらにアヒル口にして聞く。
「でも、何でこの艦が救助に向かうんですか?」
艦長は、誇らしげに言う。
「CA08と、CA12が救助に向かっているんだが、数が足らないらしい。で、CLクラスが大量にいる式典から回すことになったんだが、ザッコが全備状態の艦が三艦しか無かったんだ」
え、うち全備してなかったんじゃないかな。
「ザッコCL34は部品交換が必要ではなかったですか?」
うん、隊長が指摘する。さすが、ゴリラ似のイケメン。
「今整備員が交換している。現場到着までには完了するはずだ。後で詳しい状況をレポートで送る。結構厳しい状況だ。全員、心して当たれ」
CIC要員全員が了解、と返事した。
ザッコ隊は個別ブリーフィング。通常の発進、および救助体制の確認をは行う。それから現場のレポートが各自の携帯端末に送られて来た。艦長、事務処理は苦手なのに以外と早い、流石に艦長。とおもったら、副艦長のレポートだった。とりあえず目を通す。やっぱり厄介事だった。しかもかなり大ごとだ。
「ブービートラップか……」
同じように、資料を読み込んだ 隊長が忌々しげに呟く。
ブービートラップ。この場合は、戦闘後、故障、もしくは回収不能になったRFを自動戦闘モードで放置することを言う。旧地球時代の地雷にあたるといってもよい。搭載するAIによってはかなりの長期間、作戦行動を行うこともある。
「まあ、量子結合してなければ戦略判断弱いから、たいしたことにはならないでしょう」
トールかほっとした調子で言う、が、隊長は憮然とした態度で注意した。
「装備している武器は本物だ。一歩間違うと死ぬことになる」
トールは隊長の真面目な顔に少し笑った。
「え、僕ら死なないでしょう。量子結合してる遠隔操作機ですから」
隊長は、そんなトールの一言に渋い顔をする。
「周囲の民間人が、だ。救助挺は文字通り救助挺。普通の宇宙船のように動くわけではない。せいぜいドッキング出来るように移動できるくらいだ 軍用の戦闘艦ならコイルガン数発でスクラップにできる」
「隊長、申し訳ありません」
トールは、謝罪したあと、ばつが悪そうに黙った。僕はそれをかばうつもりで疑問を言った。
「しかし、ブービートラップは、両軍が共同して解除したはずてしょう?」
隊長は顔をしかめた。
「残念ながらすべてのブービートラップを処分したわけではない。コストの関係で、被害を与えなさそうな奴は監視対応だった。しかしこの貨客船を襲ったブービートラップは何故か高機動加速で奇襲したらしい。損害を受けたRFらしからぬ性能でな」
僕は唸った。冗談じゃない。
「本物のブービートラップですね。厄介な」
場合によってはほぼ全備状態のRFに対処することになるのだ。
トール軍曹は心許なげに発言する。
「と、すると、武装したままレスキューパックを、もっていかなきゃならないんですか?」
隊長は首をふる。
「あくまで救難の為。戦闘機動するわけではないから、レスキューパックだけでいいだろう」
僕の質問に、さらに顔をしかめる隊長。
「多分、各自二個ずつもってていかないといかんだろう。ほぼ全ての救命挺が射出されているからな。しかもベクトルも速度もバラバラでな」
「ブービートラップは? まだ機能を残してるのですか?」
「いや、今のところ機能を停止している。だが、いつ再起動するかわからん。とは言えCA12が警戒してくれる。再起動開始次第破壊するそうだ。だから我々は救助のみで良い」
「わかりました。ちなみに」
トールの質問を先読みして隊長が説明。
「レスキューパックは50名収容可能。ドールが二機つくから避難するならば問題ない。この艦がCLなのも良かった。直ぐに地表に降りれる。乗客のストレスも緩和できる」
「了解しました」
では、発進する。と、隊長が号令。僕らはザッコの脚部にレスキューパックをつけて発進。正確に言うと、ザッコの脚部のマニュピレーターで固定する。レスキューパックは多人数用のコフィン。人の高速かつ大量輸送の為のもの。コフィンよりは生命維持システムの能力が低いが、短時間ならば使える。
僕は、ザッコCL033を操って救命艇の一隻に接触した。
「こちらはソラ共和国国軍CL3所属ザッコCL033です。皆さんを救助します。順番にこちらに移乗して下さい」
僕はレスキューパックと救助艇を接続。ドールを使って円滑に収容する。対G性能はレスキューパックのほうが高いから早く移送したい。
同時にザッコのセンサで救命艇のスキャン。どれが一番救助が必要か調べる。
「タロー、収容が終わり次第、こちらの救命艇を回収してくれ。その後一旦CL03に戻って予備のレスキューパックを装備しろ。そしてこれとこれを回収してくれ」
ゴリラ似の少尉は、僕に救命艇の位置情報を転送して救助を頼んだ。うん、仕事多い。
「隊長、過剰労働ですよ」
ゴリラ似の隊長は白い歯を見せて笑った。
「お前なら笑ってやれるだろっ」
「出来ないじゃないですけど。」
たしかに、やれるけど。でも、少し納得いかない。
「隊長、先任の言うとおりです。タロー軍曹に我々の2倍の仕事を割り振ってますよ」
トール軍曹が援護。へぇ。
「大丈夫。タローならやれるわ」
シルビアさんはにっこり笑う。
「もし、ご褒美欲しいなら、あたしがちゅーして良いわ」
僕は間髪いれず答えた。
「遠慮します」
「あら、フラレちゃった」
ケラケラ笑うシルビアさん。
僕にとってはもう一人の姉だからね。気恥ずかしいよ。それに、後で何やらされるか分からないからね。
「……タローっ、軍曹。うらまやしい」
トールくんは何か誤解してるかも。だから、シルビアさんは姉みたいなものだって。
取り敢えず乗客に大きなGがかからないようにベクトルを調整してゆっくり加速。そして減速。クレアドライブならば瞬間移動みたいに加速減速出来るのだが、中の人はそうはいかない。いくらクレアドライブのG軽減性能でも完全に相殺できるわけではないし、若干のタイムラグがある。下手な通常機動でも瞬間的に数G。戦闘機動なんてやったら……その上で急がなければならない。大変だ。でも、そのために常日頃からRFを使っているのだ。僕は業務を遂行するだけ。
取り敢えず救命艇二機から移送。二個のレスキューパックを艦に届けた。それから再度レスキューパックを受領しようとすると、艦長から指示が来る。
「タロー。レスキューパックは中止。コイルガン装備。出来るならポジトロンバッテリーのチャージもして。冷却剤タンクも満タンに」
他の機も順次装備交換を、と、艦長は叫ぶ。
「何があったんですか?」
僕の質問に答えてくれたのは隊長。
「CA12が大破。自律機動は可能だがバイタルパートにダメージ。ひとまず母港まで後退するそうだ。戦力が足らないからうちの艦が出る」
まさか。いくらブービートラップでも正規の軍艦にダメージを与えたのか? 全備状態ではないから性能発揮出来ないはず。少なくとも正規艦なら対処できるはず。わけわからない。でも仕方ない。
「了解しました。装備交換後、どの位置に付けば良いのですか?」
うん、カバーする範囲は広い。
「ディーププリンセス号のベクトルを、護衛してくれ。どうやらあの船に集中して襲撃してるみたいなんだ」
同時にベクトル及び速度の指示データ。螺旋状にディーププリンセス号を回るベクトルと速度。及びブービートラップのベクトルと速度が表示。一直線にディーププリンセス号を狙っている。しかし、妙に散発的な機動。その割には組織立っている。
「まるで、その場のRFを拾って使っている?」
その言葉を聞いた副長がそうか、と呟く。
「タロー、そのとおりかもしれない。強力な電子機器を持つやつによるテロだな」
「じゃ、今後もブービートラップが出てくるってことですが?」
「あり得るな、タロー。艦長、RFの固定ロックの強化を申請して下さい」
「わかった。艦隊に伝達。及び司令部にも通信する。ザッコ部隊。貴方達にかかってくるわ。命令よ。ブービートラップは全機破壊」
「了解しました。即補給、出撃します」
それから僕はザッコ整備の手伝いをする。まずザッコのアームで自機の充電ケーブルを接続。それからコイルガンを受け取って正面のマウントラッチに接続。もちろんザッコの手足でだ。ザッコに限らずRFだからこそできること。手足を持つとこんなことが出来るのだ。因みに手足は同じ規格だ。更に冷却剤のタンクを四つ接続。フル装備。
それから電磁カタパルトに乗って射出される。
「あ、ザッコCL033、出ます」
「射出されてから言っても遅いけど」
シルビアさんが笑う。いや、そう言われても。急いでたし。
僕は本艦のデータを元にザッコを加速。ベクトル修正。更に加速。
「俺たちもレスキューパックを艦に置いたら加勢する。それまで頑張れ」
「隊長、ありがとうございます」
そう言われても、
ブービートラップは4機。僕はベクトルを調整し、少しでも相対する位置につく。そして加速。冷却剤を大量に使用。クレアドライブの大出力を遺憾無く発揮して加速。コイルガンの威力を少しでも上げるためだ。
最初の1機にコイルガンを発射。命中後あっけなく爆発して赤外線反応と破片を周囲にばらまいた。続けて2機目も掃射。こちらも即破壊。損傷が多いためにポジトロンバッテリーに命中したらしい。やはりブービートラップと言われるだけあってもともとの性能が落ちている奴が多い。損傷したまま修理も整備もされてないのだ。能力や性能は確実に落ちている。撃破するのは容易だよ。
3.4機目は回避行動をとった。高加速と多様なベクトル変更で赤外線反応が増大する。更に照準を合わせにくくなる。が、次には動きが鈍くなる。冷却剤がなく、放熱器も損傷しているらしい。直ぐに回避行動のパフォーマンスが落ちた。そこをコイルガンで打ち抜く。4機共に破壊。僕は一息ついた。流石に実戦で4機撃墜なんてありえない。いや、相手が弱すぎるからなんだけどな。
僕はザッコの現状を確認。損傷、無し。バッテリー残量75%。コイルガン残弾は三分の一。冷却剤タンク残量70%。けっこう残っている。継続しての戦闘が可能。
突然後方からの射撃。コイルガン。連射に次ぐ連射。僕のザッコは初撃被弾。即シールドでコイルガンを受け流す。手足を1本づつと冷却剤タンク2本、後部放熱器の1基損壊。本体装甲のおかげでクレアドライブとポジトロンバッテリー、センサユニットとシンクロプロセッサは無事。しかしザッコのパフォーマンスは70%まで低下。
更にシールドを指向してコイルガンの射撃を防ぐ。残弾がなくなったか、と思ったら再度連射を受ける。その後方に爆発の赤外線反応。コイルガンの連射が続き、シールドを維持するためにポジトロンバッテリーの残量がみるみる減る。
シールドは、クレアドライブによる防御兵装。クレアドライブは、運動エネルギーを周囲の質量に移転させることができる。その機能を使って運動エネルギーを受け流したり、止めたり加えたりする『場』を作る。それを便宜上シールドと呼んでいる。もちろん効率は悪い為、エネルギーの消耗が激しい。この場合はポジトロンバッテリーの残量だ。
艦長が叫ぶ。
「なんでCA12のザッコがタローのザッコを攻撃するの!」
「おそらく、CA12が凍結して置いていったザッコをブービートラップ化したんですよ」
副長が冷静風に言う。少し声が上ずっているのは動揺してるのだろう。いや、普通ありえないことだけど、もう少し冷静になって。
「もうすぐ換装が終わる! それまで持ちこたえろ。タロー!」
ゴリラ似の隊長が焦って言う。
「大丈夫です。相手は素人。僕でも対処出来ます。このザッコ二機は無力化します。安心して下さい。他のブービートラップを警戒して下さい。それと艦長、すいません」
ごめんなさい、艦長。先に謝ります。
艦長は何のことだ、と言うけど怖いから言わない。どうせ怒られる。
僕はザッコを回頭。二機のザッコと正対する。そしてクレアドライブ最大出力。バッテリーも冷却剤も最大限に消費。ベクトルはお互い近づいて来る運動量。だからこそ武器の威力は増す。
そこで残弾数を気にせず、コイルガンをCA12のザッコに連射。しばらくして赤外反応が検出。反応は増大。構わず全弾射撃。ザッコの赤外線反応が極大に。撃破したのだ。
構わず更にザッコを加速。タンクの冷却剤が尽きた。即空のタンクはパージ。更に本体の冷却剤も使い切り加速。もう一機のCA12のザッコをロックオン。そして、ベクトルをニアミスにして加速。
「ダイレクトアタックします。リンクアウト」
ノリで言いながらザッコCL33との量子リンクを切る。後はザッコのFCS任せ。とはいえもともとザッコはミサイル。本業に戻るのだから命中しないはずがない。
量子リンクを自分で切ったのだから、フラッシュバックはない。だからCICの自分の席で意識が復活。状況を確認。
「ザッコCL033、敵性化したザッコCA126と相打ちになりました……」
CICのオペレーターが僕の戦果を報告する。恐る恐る艦長の方を見ると頭を抱えてた。が次の瞬間我に帰る。そして指揮。
「タロー軍曹、リロード。ザッコのスペアを出せ」
と、ここで艦長はこちらを向く。
「その前にタローは食事とトイレだ。リロード迄に行え。長時間接続になるかもしれない」
「了解しました。艦長」
ここで僕は少しためらう、が、やはり聞いておこう。
「艦長、敵は、スキル持ちなんですね」
艦長は頷く。
「そう推測される。証拠はないが。電子デバイスでのザッコのハッキングなら、かなりの大きさが必要だ。小さいデバイスでも出来るだろうが時間がかかる。瞬時に侵入するならば少なくとも情報戦闘艦が必要だ。脳量子通信を使った現実改変能力、スキルならそんなものは要らない。多分スキル使いだ。電子使い、かAIテイマーの可能性が高い。だから、できるだけ戦力は温存したい。頼む」
「了解しました」
電子使いやAIテイマーは、人が関与していない電子機器やAIを取り込む。しかし、人が関与したらその能力発揮出来ない。正確には量子リンクしているザッコには。故に僕にザッコとリンクをしておくことで戦力を温存したいのだな。
「じゃあ、頑張ります」
問題は、量子リンクしていると休めない、と、言うより眠れない。そのため疲労は半端ないのだ。うん、徹夜みたいなものだって。でも、まあ、学生の時、有志と人型決戦兵器シリーズの画像作品群を数日かけていた鑑賞し続けた時よりは楽だ。面白さを貪欲に求めたあの頃、一フレームも見逃さずに集中していた苦行の果ての快楽と疲労に比べたら。あの晴れ晴れした体の重さと疲労感、達成感は今でも覚えている。そして有志の死屍累々の姿も。
僕はシートから起き上がって食堂に行く。食事の時間ではないが携行食くらいはあるはず。
艦橋からは狐顔のハンサムな副長、の注意。
「周囲のオブジェクトに気をつけろ。まだ何かある。これだけでは終わらない」
メガネザルみたいな美人の艦長が顔をしかめる。副長はけっこう切れ者なんだけどな。意外と色々口にするからね。
オペレーターが突然叫ぶ。
「所属不明のRF探知。ディーププリンセス号に接近するベクトルと加速度です。数は12」
「こちらからザッコ回せるか」
「距離的に無理です。CA08からザッコ出ます」
CA08からザッコ発進。警告文を放送しながら加速している。多分、CA08が損傷を受けた際に兵装換装をした機体だろうけど。
僕は、拳を握りしめた。もし、もう少しうまく戦っていたら、まだ僕はザッコであの場にいられたろうか。
「ザッコCA086光学センサからの映像、最大望遠です」
センサの有効半径などからすると、レーダーや赤外線センサが効率がいい。しかし目標の情報をより多く手に入れるには光学センサの画像が望ましい。
センサの画像をみたCIC要員全員が息を呑む。
「なんでミッカが12機もいるんだ! 戦争行為だぞ。オペレーター! 周囲に軍艦はいないか!」
艦長の怒声にリス顔の美人のオペレーターは慌てて確認する。
「現在確認できている状況では、共和国の軍艦、RF以外の軍用宇宙飛翔体は存在してません。オブジェクト12機は現在、ディーププリンセス号に対して加速」
「ザッコ隊! ミッカからディーププリンセス号を守れ。ザッコつぶしてもかまわん。ミッカを撃墜しろ!」
隊長が、CICのスピーカーを通じて声を出す。
「了解しました。今から加速します」
艦長はサイドレストを叩く。
「間に合わん! くそ、ミッカを撃墜しなければ!」
ここで副長が顔色を変える。
「駄目です、艦長。ミッカの目的がわかりません。救助の可能性もあります。撃墜したら国際問題、戦争です! しばらく様子を見ましょう」
副長の焦る声に怒鳴る艦長。
「どう見ても戦闘行動状態だろうが。第一、攻撃されたら間に合わない!」
「それでも、敵が攻撃しないと我々は何も出来ません!」
「アホか! ディーププリンセス号にも人は残っているし、第一救命艇があの周辺宙域にいるんだぞ。確実に死人がでる。防ぐなら今だ」
「それでも、こちらから戦端を開くわけにはイカンのです!」
「我々は軍人だ。政治家ではない。今やるべきことは現在の状況に対応することだ。後のことは政治家に任せろ。その為に奴らも私たちも給料もらってるんだ! ミッカは無人。こちらは人の命がかかっている! どちらが優先か分かるだろう、副長!」
「わかりますよ、わかりますが……」
ここで、オペレーターが叫ぶ。
「新たな宇宙飛翔体の反応! か、加速度が脅威的です。赤外線反応、大。データ照会、」
ここで、オペレーターは叫ぶ。
「ぶ、ブライト、ブライトです! 輝きの悪魔! ベクトル及び加速度からすると、ディーププリンセス号へ向かってます。戦闘速度です!」
「何」
驚く副長。いや、僕も驚いた。冗談じゃない。ミッカ12機にブライト。確実にCL03の戦力では勝てない。もう一度言う。冗談じゃない!
「ザッコ隊! ザッコつぶしてもディーププリンセス号を守れ! 副長、これは連合の戦闘行為だ」
何か言おうとした副長に被せるようにオベレーダーが叫ぶ。
「ブライト、高熱源反応! 粒子砲です! 発射されました!」
僕はわかってしまった。次の瞬間、ディーププリンセス号に粒子砲が命中する。流石に一発では大したことないだろう。しかし数十津発も受ければたとえ巨大な船であっても持たない。
人が、死ぬ。
もう少しうまくやってれば、僕のザッコはあそこにいて、何かできたかもしれない。ビーム一発でも受けられたかも。
僕は、無力だ。
オベレーダーが報告する。
「……ミッカ、撃墜、また、撃墜……」
僕は共用スクリーンの情報を見つめる。ブライトがミッカを粒子砲で撃っている。一撃でミッカを撃墜するブライト。
「ミッカ、全滅……」
同士撃ちの゙戦闘は三分半でケリがついた。
皆が放心している中、オベレーターが機械的に報告する。
「更にセンサ内に未確認宇宙飛翔体現れました。タイプ、不明。新型です」
その新型艦から全中域にブロードキャスト。
「我が艦はアークエンジェル。連合特務艦であります。艦長、ラケシス アルストロメリア第二王女の名において宣言します。私たちはテロリストを追ってここまで来ました。電子使い、ダレル アプライドがこの宙域にいます。その証拠もあります。両国の為に彼の者を逮捕します。それに対しての妨害行為は両国の和平を乱すものとして排除します」
僕はあっけにとられた。なんだ、この非常識な奴は。いや、知ってるけど。五国連合の一翼、高い権力を誇るアルストロメリア王国。そのまだ若い姫様。軍人でもある彼女は、しかし穏健派だったと思うのだが。
この先、どうなるのだろうか?




