モブ兵は式典に参加する。
CL3を含む多数の艦船が首都上空を編隊を組んで整然と進んでいる。大気圏内を航行できる最大級の艦隊だ。クレアドライブによる疑似慣性制御により、その動きはゆっくりだ。マイクロワームホールを介在して電磁気的に運動エネルギーを他の質量に移転する推進システム。高効率かつ高出力だからこそ出来る技だ。
最も出力の調整には細心の注意を払う。
「艦長、もう少し左だそうです」
「ああ、もう、副長、調整出来る?」
「何とかなります。機関長、調整お願いします」
「操従手、もう少し安定させろ」
「分かりましたよ。いや、何でこんな微妙なことしなきゃなんないんですか」
副長が疲れた声で笑う。
「戦争か終わったからだよ。その記念式典。勝ったわけではないから、ある程度の目眩ましは必要だからさ」
「目眩ましじゃないよ。副長。国意高揚の為のイベント。お祭りにしたいのよ」
そんな艦長と操艦要員の騒ぎと別に、ザッコ隊の僕らはCICで打ち合わせをしている。既に量子接続しているのでパッと見は四人寝ている様にしか見えない。
「で、全員段取りは理解したな」
と、言うのはザッコCL31のオペレーターの隊長。
「はい、理解しました。
と、生真面目に返事するのはザッコCL32のオペレーターシルビア軍曹。
「了解しました。でも、これって意味あるんですか?」
と、つい愚痴るザッコCL33オペレーターの僕。
苦笑いして隊長は答えた。
「単純に、華が欲しいのさ。偉いさんは。80機のザッコがCL20隻から発進して編隊機動、そして降下、着地、そして敬礼。見映えするだろ」
僕はため息をついて言った。
「確かに、絵的には凄く映えますね。その為の労力が凄く大変ですけど」
「でも、前任は見方厳しいと思います」
ザッコCL34のラッコ似の軍曹トールがのんびり言う。
「ま、もうすぐ本番だ。気を引き締めていくぞ」
そして四人はザッコと量子結合したまま発進の時を待つ。そして。
「ザッコ隊、発進」
四機のザッコはCL3の発射菅から電磁加速で同時に四機発進。クレアドライブを駆動させ、編隊飛行。隊長を先頭にシルビアとタローが両翼、後方にトールが配置されるダイヤモンド編隊で飛行する。更にそれが二十艦分、八十機が編隊飛行する。なおCLとRFは、通常の放熱剤の代わりにスモークを放出している。それが各機の航跡を露にし、ある種の芸術となる。
僕らの隊は超音速で上空を飛ぶ。空気抵抗はシールドで対応。それから上空のある座標に集合。全部隊ある程度の高度と編隊を保維持。全機所定の位置についたら、指揮官の合図を待つ。なんか、ふわふわしてザッコが気球のように思える。旧地球時代の戦車位の重量はあるのだが。
そして、
「全機、降下」
の命令。そのあと、ザッコ全機が一斉に降下する。ただ落ちるだけではない。落ちる速度もあわせるのだ。
「CL3チーム、0,2速度下げ。CL16チーム、速度あげ、あとは、速度調整そのまま。あと、十秒で着地。全機、脚部展開。衝撃緩和。着地用意、着地!」
ザッコ全機が脚部展開。そして高速で着地。余剰の運動エネルギーは、クレアドライブでほぼ軽減化。イメージのために脚部を屈伸させる。何とか全機、動作を揃えることができた。そして、装備していたビームマチエットを展開。右手のマチエットを発光モードで全機一斉に振り回し、演舞する。数分間続いた後、再度姿勢を正し整列、左手で敬礼する。
「ふう、何とかなったな」
隊長はとりあえず自分の受け持ちに問題がなかったらしい。
「こんなのになんか、意味あるの?」とはシルビアさん。
まあ、僕もそう思う。
「統一した行動をとることで、軍の練度を対外的に示す意味があります。まあ、軍事というよりは外交ですね。あとは国民に軍の重要性を示すとか。うちの軍は訓練してますよ。何かあっても大丈夫ですよ。税金泥棒してませんよ。と、言った感じてすね」
そう言うのはドール軍曹。何だか以外と物知り。そういえばガレッジいってからミリタリースクール行った人だった。ミリタリーガレッジ行けば良かったのに。
とりあえず、あとはザッコをそのまま立たせておき、お偉いさんの話や、セージやさんの話を聞く。ついでにアイドルグループのミニコンサートがついてくる記念式典。まあ、お偉いさんの一部がアイドルオタクらしい。セージやさんも変わったものだ。
最後に共和国議長が訓辞する。
「今回、我が国が勝った、負けたの議論をする方も多い。、確かに停戦条約を結んだ時に我が国に不利な条件をつけられた。しかし、あえて言おう。この停戦条約を結んだことで、両国が勝利したと。これ以上の泥沼化する戦争を防ぎ、双方に利益ある前向きな未来を手に入れた。つまり我々は戦争という両国に不幸をもたらす状態に勝利したと私は断言する。この状態を維持するために国民の皆さんには色々負担が増大するかもしれない。しかし、今、この勝利を、安全に未来を守って行こうではありませんか。そしてこの未来を守る為に、我々は恐れることなく胸をはって前進しましょう」
はあ、つまり実際負けたけど、これからは経済立て直そうってことね。はいはい。
隣ではトールが議長の演説に感動していた。おい、こんなので感動するの? まあ、短いし、聞くのは楽だから。
式典が終了したあと、ザッコは一部大型機材の片付け。あとは艦に戻る。ザッコは各発進菅に戻る。昔はカタパルトとか言ってたらしい。ザッコの収用が終わる。それからザッコとの量子接続を切る。
「うう、やっと終わった」
「あーん、身体バキバキ」
「疲れた」
「僕はこの国の為に頑張ります」
約一名、感動している人がいるが、とりあえず無視。とうせ彼も気にしてない。
僕らオペレーターは、CICから出て、ザッコの所に行く。僕はザッコCL33のところ。鷲みたいな無駄にマッチョなイケメンのメカニックとミーティングする。
「ザッコCL33には特に問題はないな。脚部の損耗や、故障もないし。クレアドライブも量子通信機も異常無し。これからすぐ出撃できるぞ。さすがエース」
「ありがとうございます。でも、普通にザッコ動かすだけですから、特に問題出ないでしょう?」
「いや、以外と損耗するもんだ。加減速のタイミングずらして無理させたり、慣性制御失敗して、脚部に負担かけて部品交換とか、良くあるんだよ」
「そうなんてすか」
「他の艦では結構やってるらしい。ああ、ザッコCL34もクレアドライブとか。脚部とかに負担かけてるから、一部部品交換らしい。ま、それが普通なんだがな」
「普通って、他のみんなもザッコの部品交換なんかしてませんよ。まあ、撃墜とかはされるけど」
鷲みたいなメカニック、ホークさんは以外と丁寧に説明する。
「ザッコCL34のあいつも腕はいいんだぞ。と、言うより、あんたら三人かなりの腕だぞ。第一、CL03な、エース艦なんだぞ。何だかんだで生き延びてるからな。次の番号はCL09だからな。巡洋艦の中でも前線で戦って生き延びてるからな」
「じゃ、僕たちエリート?」
「違う。歴戦の勇者だろう。でもな、撃墜数は他の艦のほうが上だ」
僕はそうか、と、思う。まあ、いいか。生き延びてるから。
ソコでCICから連絡。すぐに戻れとの命令だ。
CICでは、艦長が指揮していた。
「急速上昇。大気圏離脱、急げ」
ここで、トールか戻ってきた。そこで、艦長から状況説明がなされた。
「すまない、ラグランジュ1で、事故発生。貨客船がデプリに当たって大破。救命挺で脱出したが、加速度が高い。即時対応可能な艦で救助に向かう。我が艦もその一つだ。常日頃の訓練を見せろ」
全乗員が、了解、と声を上げる。
あんな式典より、こっちのほうがいいか。人助けだし。
「さあ、人助けよ。頑張るわ」
シルビアさんがやる気で僕も嬉しい。
僕らの艦と他数艦が大気圏を離脱し、加速度とベクトルを修正。貨客船の座標まで急進していった。