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モブ兵の日常。

 巡洋艦の中でタローは起きた。


 宇宙船においては個人用の寝床、コフィンを持ち込むことになる。起きると寝袋から這い出て艦内服に着替える。そして内部の清掃をして寝袋と寝間着を、ランドリーに押し込む。それから新しい寝袋と寝間着を、受けとる。それを自分のコフィンに押し込んだらとりあえず朝のルーチンワークがはじまる。


 戦争は終わった。しかし、やることはそう変わらないのだ。


 食事前にランニングマシンを使い、更に筋トレ。軍人としてのルーチン。そのあと素早く食事。それから勤務に入る。基本的にはザッコのオペレートシミュレーション。とはいえ、ほぼ実戦とおなじだ。


 ザッコとのリンク。そして、疑似訓練。今日は、ザッコ隊隊長とのシフト。ゴリラみたいなイケメンの大尉。ザッコ同士の対戦だ。武器はどちらもコイルガン。


 大尉は、正面から加速してくる。もちろん、冷却剤を、ばらまき赤外線反応を拡散している。宇宙じたいからすると小さな範囲だが、それでも命中率はさがる。


 僕は逆に加速せずに慣性で飛ぶ。クレアドライブによる疑似慣性制御で細かくベクトルや加速度を調整するので効率はいい。


 最初に撃って来たのは大尉。コイルガンの初速に機体の加速度が加わり威力が増す。僕はコイルガンの弾幕を予測して回避軌道をとる。何発かは命中するが、致命傷にはならない。大尉が加速を更に追加。かなりの速度で飛翔。しかし僕は大尉のベクトルと加速度を読む。次にザッコを、最大加速。そしてコイルガンを、大尉の予測軌道上に先読みして撃った。


 赤外線反応が多数発生。あと数発で多分ザッコは落ちる。そして、その通りになった。大尉のザッコが落ちる。


 シミュレーションから上がると、ゴリラ大尉は笑って肩を叩く。痛い。


「さすが、我が艦のエースだな。軍曹」


「大尉どのとの毎日の訓練のお陰です。大尉がいらっしゃらなければここまで成長出来ませんでした」


 僕は頭を下げる。勿論言ってることは本心だ。ロースクールの時、軍のイベントに参加して、特機、有人宇宙戦闘機の機動を見て憧れた。それから宇宙軍に入ることを決めた。そして体を鍛え、勉強した。そう、あの機体を手に入れたいため。テストパイロットになればあの機体が使用できる。それだけを目指して。


 が、入隊して、特機がいかに恐ろしい機体か実感することとなる。パワーが違う。クレアドライブによる疑似慣性制御で制御出来ないGがかかる。それでいて、従来のRF、遠隔操作戦闘機に勝てる訳ではない。訓練で何度も撃墜された。しかし、特機に乗るには全く技量が足らなかった。そして、事故。特機のオーバーロードにより、事故。通信機から流れるパイロットの苦しみ、泣く声に恐ろしくなった。僕は特機のパイロットを諦めた。そしてRFザッコのオペレーターになったのだ。


「嫌みか、エリートたってんだろ、お前」


 僕は隊長の言葉に正直に答える。


「いえ、大尉どのの技量がなければ、ここまで自分はこれませんでした。それにたまたま大尉どのに連勝してますが、本来の技量は大尉どのが上です」


 これは本心だ。最初のころ、多少鼻高々だった僕を完膚なきまでに叩きのめしたのが大尉だ。それ以来、彼を目指して訓練してきた。最近ようやく勝てるようになったか、まだまだ学ぶことは多い。


「全く、可愛げが無いやつだな。少しは頭に乗れよ」


「そうしたら大尉どのに即負けます」


 そうでなくても、薄氷の勝利だ。すぐにひっくり返される。


「そうか、まあ、お互い頑張ろう」


 昼食後も更に数人とシミュレーション。それからブリーフィングと講義。そのあとはザッコのメンテナンスの手伝い。まあ、愛機とは言わないまでも、ミサイル位には愛着はある。ザッコを含むRFは消耗品。愛機なんてマークしても、次には破壊されていることが多い。そのあとは夕食。通常シフトなので、あとは自由時間。普通軍隊ならこのあとも自主訓練なんかするか、宇宙戦争では長い待機時間があったことも多い。そのため意外と乗員同士で遊ぶことが多い。とはいえ狭い艦内やるのは狭いところで出来るゲームくらいだ。なので、ビデオゲームが主流となっている。感覚共有型ゲーム? 容量や電力喰うし、ここは軍艦。そんなのは上陸してからだよ。で、夕食後、有志でビデオゲームをやっている。


「そっちそっち!」


「だめだ、オレ、もたん、あと頼む」


「しかたないですね」


「おを、クリティカル?」


 個人用情報端末に配信されている古いゲームコンテンツ。確か化け物を倒して素材を剥ぎ取り、売ったり装備を強化するゲーム。で、大型ボスを狩りにきた。メンバーは、アヒル顔のザッコオペレーター。蛇顔の防空砲おれらそれとイグアナ顔のメカニック。いつものメンバー。まあ、近接のみしかいないから結果は惨敗。次の連中がボスに挑む。その光景は食堂の共用ディスプレイに写される。


「タロー、あんた、ザッコの扱いは凄腕なのに、何でゲームではへたれなの」


 アヒル顔の美人、シルビアさんが文句を言う。まあ、分かるけど、


「人はそんなに便利になれるわけ無いんだよ。でも問題はチームだよ」


「何言ってるの、みんなこの艦にいるとこらからゲームやってるから、技量は同じじゃない?」


 いや、そんな問題じゃないんだよ。


「前衛四人。全員前に出るならまあ、範囲攻撃受けて大ダメージだよね。せめて、他の支援系やるひとと組まないと」


「タローがやりなさいよ」


「え、なんで?」


 え、出来たら爽快感がある前衛がしたいよ。支援系や遠距離系は攻撃力が今一つなんだよな。


「そうね、タロー軍曹なら、他のキャラでもすぐてきるんしゃない?」


 蛇のような美人さんの準尉さんが言ってきた。結構冷酷そうで怖い。いや、ほんとはいい人だけと。たぶん。


「……次から準備します」


「え、もうしないの?」


 残りのメンバーは言うけど、


「睡眠時間減りますよ」


 そう言うと、二人は残念そうに諦めた。イグアナ顔のメカニックは少しうれしそう。他分、新婚の奥さんに手紙でも書くんだろう。


 僕は皆と別れ、コフィンに入り込む。この艦の中では貴重な個人スペースだ。とはいえ、基本的に何もない。個人端末とわずかな私服位か。脱出ポッドも兼ねているため、非常用の食料もある。不味くはないが、今一つ。消費期限のため、交換品を夕食にすることもある。その時は次の食事が待ちどおしい。


 そして僕は個人端末からコンテンツを出し読み始める。最近のマンガ、暗殺者が恋をして家庭を持ち、でもその因縁が今も足を引っ張るコメディ。とりあえず、続編は次の上陸で手に入れよう。あと、過去の地球時代の鬼退治の話を再度読む。そうこうして一時間。あとは寝る。明日も早いし。


 こんな感じの毎日が続く。どうせ、今のところ戦争は終わったし、次の任務に艦が出るまではこんな感じたろう。


 そして僕の乗艦は母港に帰った。とりあえず最初のシフトで上陸休暇をもらった。ので、実家に帰る。僕の実家は首都郊外。で、シルビアさんも同じシフト。で首都郊外に実家があるので一緒に帰郷することになった。


 実はシルビアさんは幼なじみ、と、言っても二つ年上で、姉と凄く仲がいい。親友と言ってもいい。それにとことこついていくのが僕。そこの関係は変わらない。まあ、姉が二人いる感覚だ。


 帰郷当日、丁度シャトルが取れたので、シルビアさんと乗る。


「アヤカも、おじさまたちも、元気してるかな」


「メールでは特に問題なかったよ。あと、戦時経済が解除されたから、色々活発化してるらしいよ。父さんも忙しくなるってメールにあった」


「うちの両親も、これから景気よくなるだろうって。でも農業は、そんなに変わってないからね。やることは」


 シャトルのなかで僕はシルビアさんととりとめのない話をする。


「そう言えばタローも本当に変わったよね。ちいさいころは小太りだったのに、スラッとしちゃって」


「まあね。特機に乗りたかったからね」


「ホントに候補生までなっちゃったものね」


「結局、落ちたけどね。まだプロジェクト自体は残っているからやってるんだろうけど」


 有人機プロジェクトは今も健在だ。過去、何名かのエースパイロットや、有人機で戦果を上げたパイロットがいる。一応パイロットの募集と機体の準備は行われているが、今のところ基準を越えた者はいない。元敵国のブライト位。


 そんなこんなたわいもない話を続けているうちに、首都近くの空港にシャトルがつき、僕らはリニアウェイで首都まで移動。そこから無人タクシーで家の近所の停留所に下りる。


 そして、住宅街を歩いて僕の家に着く。


「ただいま。お腹すいた」


「おかえり、って、人の家でそんなこと言います?」


 自分の家みたいに言うシルビアさん、それに対して突っ込み入れる僕。奥から姉さんが出てきて、お帰り、とシルビアさんに声をかけた。


「久しぶり、シルビア。また泊まって行くんだよね」


「うん、アヤカ。ここからでもリニアでもかなりかかるからね」


 じつは、シルビアさんちと僕の家は元々隣通し。家族でも仲がいい。まあ、、勤め先が同じだったのだが、シルビアさんちは地方に土地を買って農業を、はじめたのだ。正確にいえば、何人かでお金を集めて起業した。なので、首都の郊外で農業をしている。結構羽振りはよかったのたが、今回の戦争で少し低迷しているらしい。で、少し首都から離れた所に住んでいるので移動に時間がかかるのだ。一応リニアは通っているが。それに、シルビアさんも姉と会えるのが楽しみだからよく泊まる。


「おとーさんもおかーさんも忙しいから、あたしが帰ってもろくに何もしてくれないのよね。逆に家の手伝いさせられる。まあ、わたしも同じだけど」


「とりあえず、わたしの部屋いこ。ユーヤも自分所行け」


「うん、わかった」


 とりあえず僕の部屋に入る。僕の部屋は壁面二つが本棚になっている。残りの面は窓がある方向にはベッド。出入口がある方には情報端末がある。やっと一息つける。


 情報端末で、最新のアニメやマンガ、小説わチェック。最新のマンガはとりあえず購入。アニメで通常放送で録画しているやつをチェック。短編なの気になるやつはみていった。あと、映画は、うん、見にいきたいけど。時間ないかな。


 そうこうしていると夕食。その頃には両親も揃っている。食品商社に勤めている父。なんか内職している母。OLしてる姉の四人家族。


「でも、まあ、シルビアはホントにきれいにはなったわね。学生時代は三人おんなじような小太りな感じだったのに」


 母は、熊のようににこやかだ。しかし、僕を見る眼は厳しい。なんなんだ。


「もう、それ言わないて。あたしもやっぱり軍人になったほうがよかったかな」


 姉さんは、父さん似の面長な顔で文句を言う。まあ、確かにこの前帰って来たときよりもデ、いや大型化しているようだ。ミドルスクールのころは三人僕につられて運動していたから結構軽量化していたのに。


「すまんが、父さんとしてはおまえが残ってくれてよかったよ。まさか戦争になるとは思っていなかったからな。政治的にも経済的にも。正直、ユーヤやシルビアが心配だ」


 父は面長な顔をしかめて言った。母も同じなのか顔をしかめる。父としては、戦争は起こらないと思っていたらしい。まあ、現在の経済的、人員流動的に戦争なんかやったら、短期的な利益はともかく、長期的な損失はかなりのものになる。今回の和平も、どちらかが勝利した、と、言うよりは経済的損失額が大きすぎた為の停戦だ。最も、先のフェルミオンプラントが破壊されていたら、無条件降伏になっていただろう。フェルミオンプラントが失われたらこの恒星系(システム)は崩壊する。その再建には必ずしも宇宙連合の経済力が必要だ。最も、経済的には両国の負担は大きく、下手したら両国とも経済破綻し、収拾がつかなくなる。


 実はシナリオのひとつがそうだ。宇宙連合はフェルミオンプラントを破壊して勝利するが、その結果、経済破綻し、より複雑な内戦状態となる。もちろん、戦闘シナリオも多くなる。まあ、もう関係ないが。


 でもシルビアさんは、笑顔で答える。


「あ、でも、最近の戦争は、RFの打ち合いですから、そんなに死ぬひといませんよ。この間のフェルミオンプラント防衛戦も、RFはどんどんやられたけど、有人艦に損害ありませんでしたから。まあ、戦争ですから、全く損害がないとは言い切れませんけど」


 流石にシルビア先輩。ちゃんと広報通りの説明会をしている。しかし、少し間違いがある。RFの攻撃目標はいわゆる有人艦や各種施設。攻撃を受ければ死人が必ず出る。この間は主な攻撃隊が特機主体だったからそれを止めればよかったから比較的人的被害はなかった。それに場合によってはぼくの乗艦も沈んでいたかもしれない。


「まあ、タローはうちの艦のエースで、今回も活躍したんですよ」


「あら、そう」


「そうなの?」


「そうか」


 三人三様の反応。大概は、あんまり信じてない。いや、父は一応信じてくれてるか?


「とりあえず、タローはうちの艦では、頼りにされてます。すごく出来るんですよ」


 なんか、母がぼくを見る目が一層厳しくなった。


「で、さあ明日帰るのよね。その前にお買い物しない」


「え? 助かる。実は母さんから色々頼まれてるんだ」


 母が僕を見る目かさらに厳しい。なんなんだ。


「ユーヤ、あんたも来なさいよ荷物持ちに」


「え? ああ、まあ、いいけど」



 二人とも結構嬉しそうだ。やれやれ、そんなに荷物持ちがほしいのかい?


 まあ、いいか、と僕は夕食を、かきこんだ。


 もちろん翌日は荷物持ちとしてがんばった。まあ、いいか。残りの休暇で何とかアニメと電子書籍はチェック出来たし。ああ、白いロボットの新作が出ていたのでそれは観賞した。しかし、かなり古いよ。まさかそんなに続いているとはね。


 そんな風に、今のところは穏やかに過ごしていけたのだった。


 

 

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