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敵は主人公

 僕は自分がオペレートしている宇宙戦闘機、RFザッコを右に動かした。火線が通りすぎるのが拡張された知覚に触る、レールガンの火線であり、この機体、ザッコの装甲で、なんとか耐えることができる威力だ。


 とはいえ、当たらないほうがいい。


 僕は火線の方向を探索。ザッコのセンサーから敵はミッカだとわかる。宇宙連合が使う主力宇宙戦闘機。装甲が厚く、汎用性が高い。


 ザッコの兵装、コイルガンを向け、乱射。コイルガンは、反動が小さい分威力も低いので、撃墜するなら何発も当てなければならない。幸い弾も小さいので携行弾数はかなり多い。だから結構撃ちまくれる。あまりに調子づいていると弾切れするけれど構うものか。RFの本来の役割はミサイルなんだから。現代戦はミサイルの撃ち合い。それに過ぎない。


 着弾の赤外反応があり、少なくともダメージ与えたな、と、思ったら、直ぐに反応が増大した。光学センサーにも強い反応。敵の機体が爆発した。ポジトロンバッテリーにでも当たったのか? まぐれあたりか? ラッキーヒット。やった。給料上がる。


 そう高揚していたので、少し気づくのが遅かった。爆発の赤外反応が消えていく、この中にひときわ輝くRFの反応が現れたのを。僕は背筋がゾッとした。その機体は普通のRFの、三倍以上の赤外線反応を持っていた。単純に出力三倍と考えてもよい。そして、僕が知っている限り、そんな出力を持つRFはここら辺の宙域に一機しかいない。宇宙連合の新兵器実証機体。コードネームは別にある。しかし僕たちはこう呼ぶ。赤外反応が光輝く様を見せるから。


「艦長、ブライトだ。ブライトが来た」


 艦長は、そんな僕に落ち着け、と、低い声で宥める。


「タロー、ブライトのベクトルと加速度を調べろ」


 僕はザッコの赤外線と光学センサー、そしてレーダーを駆使した。ブライトの加速度とベクトルを確定。


「うちの艦がいる方向です。フェルミオンプラントに向かうベクトルと加速度です」


 間髪入れずに艦長命令してきた。


「タロー、すまん、時間稼ぎしろ。」


「了解!」


 僕は、ザッコを加速させて、更に迂回させる。クレアドライブの疑似慣性制御が最大出力。その為放熱剤を機体後方から放出。外からは、一昔前の推進剤の輝きのように見えるはずだ。勿論ブライトからも見える。


 そして、ザッコからコイルガンを乱射する。勿論ブライトの推進方向を予測しての射撃。やってることはさっきと同じ。コイルガンの威力は低い。しかし、多少ともブライトに損耗させられたら御の字だ。 


 もともと基本性能が違いすぎる。ブライトの動力はフェルミオンリアクターなのに、ザッコはポジトロンバッテリー。理論上は同じシステムだが、出力の桁が二つ違う。もともとあっちは小さな航宙艦みたいなものだ。それに対してザッコはある意味その砲台の一つ。火力も装甲も耐久性も機動力ももともと桁違いだ。それでも戦わない選択はできない。艦が沈めばみんな戦死だ。


 ザッコのコイルガンの弾が切れた。即弾倉ごと切り離す。どうせ、ミサイルは使い果たしたし、あとは、体当たりするたけだ。一応ザッコにも手足かあるし。宇宙戦闘機に手足? なぜあるか? 簡単だ。宇宙施設における戦車代わり。歩兵の盾になれ、と、言うことだ。でも宇宙施設は複雑な構造が多く、車輪やなんかよりは手足のほうが効率的だそうだ。障害物を排除するためのビームマチェツトなんかもあるし。この世界の人間バカか? と、おもったりする瞬間。


 かなりブライトまで接近する。がここでブライトが反応した。高熱源反応。ヤバい、ブライトの誇る主力兵器。粒子砲を発射する前兆だ。ビームが命中したらザッコなどあっさり撃破される。


 僕はランダムに加減速を繰り返し、ベクトルをランダムに設定してブライトに接近する。ポジトロンバッテリーの電力残量がみるみる減って行く。それと同時に冷却剤の残量も。四つあったタンクも空になり、切り離す。あとは、本体にある残量だけ。それが尽きると機体後方の放熱機が過熱し、機体自体が下手したら損傷する。まあ、仕方ない。元々RFはミサイルとしての運用だ。僕は敵との距離を詰める。


 が、相手はブライト(輝きの悪魔)と呼ばれたやつ。ビームが放たれ、僕のザッコは直撃をうけた。衝撃や輝き、瞬間恐ろしい情報が僕の中を埋めつくし、暴れ出る。そして暗黒と沈黙。
















「ザッコCL33、撃墜されました」


 僕の機体の撃墜報告が、狭いCIC戦闘情報指揮室内を駆け巡った。中央ディスプレイには、ブライトの予想進路とこちらの艦隊の位置及び速度情報。そしてブライトが目標とする後方のフェルミオンプラントが表示されていた。


「リロードは可能か?」


 メガネ猿に似た艦長が低い声で言う。ザッコの再出撃は可能か、と、聞いている。


「最速で600秒必要です」


 リス顔のオペレーターが情報を取り出し報告する。


「くっ、間に合わん。本艦の位置を、ブライトの正面に移せないか?」


 艦長は、苛立つ。そりゃあっさり主力機体が落とされたからな。


「無理です。あと3000秒あれば可能でしたが」


「他のザッコはとうだ。もうすぐザッコCL32が接触するはずだ」


「ザッコCL32攻撃範囲に入りました。……撃墜されました。しかし、CA1、CA2、のザッコ部隊、攻撃に回ります」


 艦長は、宇宙服の中で唸る。


「さすがにブライトも12機以上のザッコには構うまい」


 しかし、オペレーターは信じられない報告を叫ぶ。


「ザッコCA23撃墜。CA11撃墜、え、CA14、CA16撃墜!」


機体名を挙げていくオペレーター。更にCLのザッコも多数参加するがことごとく撃墜されていく。


「ザッコ隊、全滅しました」


 呆然とするオペレーター及びCIC要員。しかし、艦長は、そんな彼らを叱咤した。


「本艦の主砲で狙撃出来るか!」


 即計算する狐顔の副艦長。そして艦長ににやりと報告した。


「一回だけ掃射可能です。加速度及びベクトル計算終了。エネルギー充電開始します」


 ここで、艦長は怒鳴る。


「そろそろフラッシュバックから戻って来る頃だろ、タロー、シルビア」


 僕はフラッシュバックから半分起きていた意識を戻す。遠隔操作戦闘機の量子通信によって神経的に直結されるため、ザッコが破壊されると情報の過剰供給がなされるため、しばらく思考がまとまらない。それがフラッシュバックだ。よくあること。


「あ、はい? あ、すいません。まだ反応か遅いです」


 艦長は、呆れたように言った。


「まさか、戻って来ているとはな。タロー。シルビアは、まあ、まだ無理か」


 ザッコCL32の、アヒル口の美人さんはまだ、リンク強制解放の情報汚染から回復していない。


 まあ、これには慣れも必要だから。雑魚敵のパイロット、いや、オペレーターは結構経験豊富という話だ。


「タロー、本艦の主砲1管制を頼む。巡洋艦の主砲ならば、たとえブライトでもただではすまん。そのはずだ」


「わかりました。主砲管制、入ります」


 そう言って、僕は中央ディスプレイを、見て、艦隊と敵の位置やベクトル、速度などを読みとった。そう、この時の、敵の戦略目標はフェルミオンプラントの無力化。つまり、破壊。


 フェルミオンプラントは、この恒星系(システム)の生命線だ。単純に軍の主要施設というだけではない。最悪、文明一つを滅ぼすことになる。とはいえ、僕とこの艦の人員の、命を掛けて守るべきかは。


「まあ、頑張りますか」


 決まっている。両方とるんだ。無理なら死ぬだけだ。


 僕はCl3の主砲管制に情報接続する。やっていることはザッコと同じ。ただ今はこの艦の主砲1門となるだけだ。


 とりあえず、艦の連装砲台となる。普通は、こんなことはしない。が、どうやら僕はこの艦のなかでエース的な立場にいるらしい。命中率は他の砲手よりは弱冠良いみたいだ。よくあるゲームのシチュエーションみたいな感じだ。


「リンクよし。データ移送あとは頼む」


「了解」


 僕はブライトと本艦の軌道を読み、ビーム砲のトリガーに指をあてる。実際はCICの砲手席でで微動だにしていない。そういえば、本職の主砲管制官はどうしてのか、と、思ったら、防空砲のリンクをしている。美人だけど蛇みたいだから怖いんだよな。


 ブライトは加速度をあけ、フェルミオンプラントへ向かう。こいつのパイロットの意識がわからないのは有人機だ、ってことだ。いや、大気圏内ならわかる。速度とか爽快感とかあるだろうから。しかし、宇宙空間。景色とかそんなに変わるものではないし、第一、加速度がきつい。そんなに良いものではないしな。自殺志願者としか思えない。


 でも僕には関係無い。


 僕はブライトと本艦との交差軌道の再接近位置から少し遠いところでビームの第一射を放った。続けて第二射。計算通りなら、ブライトは多少減速する。そして、そのとおりとなった。いくら航宙艦並のスペックだとしても、機械は同じ。当たればやれる。しかしそこまでは思っていない。ただ、加速度を減らせればいい。少しでもフェルミオンプラントを守る。


 が、二射後、ブライトの様子か変だ。小さな赤外反応か現れた。それからいきなり加速度とベクトルが変わる。この艦を目指してくる。


 なんとなく予想がついた。ブライトの主砲の粒子砲が破壊されたのだろう。故障したのかもしれない。そして、それをパージしてその原因たるこの艦にやってくる。多分武器がないからビームマチェツトでどつくつもりだろう。


 やった、と、言う歓喜の思いもつかの間、僕はなかなか上がらない主砲のエネルギーゲージにイラつく。せめて、ブライトのセンサだけでもダメージを与えられれば。


 この艦の防空火器がブライトを狙う。が、そのことごとくが当たらない。直撃でもそのシールドで守られているからだ。


 やっと、一門、ビーム砲がチャージされた。拡散モードでブライトを撃つ。しかし、ダメージを与えたようには思えない。最もかなり接近を許してしまった。敵の粒子砲が健在なら、この艦は沈んでいただろう。


 が、ここで、ブライトの動きが大味になる

 よかった、ブライトのセンサに致命的なダメージを与えたのだろう。サブセンサもあるだろうが、精度はかなりおちる。ブライトのパイロットもそんなにバカじゃ無いだろう。戦闘継続は困難だろう。敵も軍人だ。状況が悪くともそれは理解して撤退するだろう。


 僕は、そこで気を抜いた。だから、ブライトが、僕がオペレートしている。砲台に近接し、ビームマチェツトで叩き切ったのに気づかなかった。光と熱と情報の過剰供給が僕を襲う。


 再び暗闇と静寂の中へ。


 



 巡洋艦の目前でドミニオンのパイロットは、怒りをぶちまけていた。


「こいつらのせいで、フェルミオンプラントをぶっ潰して戦争を終わらせることが出来たのに」


 戦略目標、小艦隊に守られたフェルミオンプラントを撃破し、戦争を終わらせる。そして昇進して、出来ることを増やす。そして、奴らを……


 まあ、すべてがうまくいく訳ではない。それにリカバー出来ない訳ではないが。


「戦争に命張れない弱虫めが」


 さっきのビーム砲の一撃がなければ、目的は果たせたのに。


 まあ、いい。これからも俺はドミニオンと共にこの世界を乗り越えてやる。


 彼は自機を転回し、自軍の方へと向かって行った。





 僕が、暗闇と静寂の中から戻ってきたら、艦の皆は放心していた。ブライトが撤退したから。その気になれば僕らは沈んでいたろうから。


 そして、ブライトとの戦闘が終わって三日後。


「みんな、戦争、終わったよ」


 戦略目標は守り抜いたものの、状況的には不利なまま。それでも何とか停戦交渉しそれを通したらしい。とりあえずこの世界においては戦争はなくなった。


「今日は艦長の奢りで飲むぞ」


 副長がにやりと笑う。


 しかし、まだまだ紛争の種はつきない。戦後の混乱やテロリストの起こす騒動が、待っている。


「あたしもお金無いのよ」


 艦長が、大きな瞳を見開いて笑う。


 僕は軍人だから、そんな話に巻き込まれていく。もちろん、ブライトのパイロットとも今後会う機会があるだろう。まあ、ないほうがいいけど。


「宜しくお願いしまーす」


 とはいえ、仕方ない。僕はモブオペレーター。できる限りでこの世界を、支えるしかない。


 そんなことを考えながら、僕らはもみくちゃになって停戦を喜ぶのであった。

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