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04 式後

 私用にサイズ直しされた結婚式用の豪華な白いドレスは、最高級の素材が使われていて、派手過ぎずどこか古典的クラシカルなデザインも洗練されて美しく、本来着るはずの居なくなってしまった女性に代わって、新婦として私はそのドレスを着用した。


 おそらく一生に一度しか着ない結婚式用のドレスが、王族が着ていてもおかしくない、こんな最高級なドレスで良かったと素直に思った。


 細身な体型の彼女に合わせた式用ドレスを、王室のお針子室が急ピッチでサイズを直してくれたんだけど、本当に元々私用に作られたかのように、まるで生地が吸い付くような着心地だった。


 流石は国内で一番のお針子たちが集う、王室のお針子室。


 モーベット侯爵……いいえ。今では、晴れて書類上の私の夫となったジョサイアは、式まで時間がなく私用に作り直しすることが出来ないことを、いよいよ結婚式が始まろうという、その瞬間までずっと気にしていた。


 まず、彼から渡された招待客リストを見て、私はこの結婚式を「結婚するはずだった人が逃げたので、今回は中止にします」と言えなかった理由を知ることが出来た。


 ジョサイアは、隣国の貴族学校に現王……つまり、その頃の王太子と共に通っていた時、同級生に異国の王子などの錚々たる顔ぶれがうち揃い、なんならその父親、つまり親交国の国王なども結婚式に出席するためにヴィアメル王国にまでやって来ていた。


 学生時代に仲良かった彼らは、今でもとても親しく、お互いの国へ遊びに行くこともあったらしく、家族ぐるみで付き合いがあったらしい。


 間に合わせで選ばれただけなのに「僕の愛する妻、レニエラです」と、直接彼らに紹介をされ、私の笑顔が引き攣ってしまったのは、ほんのご愛嬌だった。


 もちろん、主役の一人である新婦は交替しているので、大事な結婚前に娘が逃げてしまい、あまりの強い衝撃に魂が抜けて無気力になってしまったマロウ伯爵と、私の父ドラジェ伯爵と私が直接相談して、ある程度は招待客の入れ替えは行なった。


 けれど、私たちは同じ国の貴族同士だったので、親しい貴族として縁のある招待客も被っているようだった。


 とは言え、既に招待して予定を空けてくれる人を減らしてしまうことも難しく、マロウ伯爵家のごく近しい血縁だけが多少減って、ドラジェ伯爵家として親しくしている親戚などを招待し、そもそもの人数を大幅に増やすしかやりようがなかった。


 それほど、次期宰相候補として目されているモーベット侯爵ジョサイアが、結婚式に呼ぶほどに親しいと思われたい人が多いのだと思う。


 未来が確定している権力者には、早々から擦り寄っていたいものね。


 なんなら、婚約破棄をされてもう結婚するのは絶望的だと思われていた私が、とても良い相手と結婚をすることが出来て、うちの親族まわりは、ほぼ全員が「本当に良かった」と嬉し涙を流す人も居るくらいに幸せそうな満足顔で帰って行った。


 ほんっとうに、心配かけて、ごめんなさい。その上、一年後には、離婚してしまうんだけど。


「結婚式、お疲れさまでした。ジョサイア」


 結婚初夜だということで、私は当然のように使用人たちに浴室で磨きあげられ、準備を済ませてから夫婦の主寝室へと入った。


 式用の衣装からまだ着替えをしていないジョサイアは、祝いの席で新郎だからと祝い酒を相当飲まされていた。


 今はとろんとした色気ある目つきで、ベッドに腰掛けていた。窮屈だったのか黒い上着だけを脱いで、白いシャツの胸元もボタンを外し大きく広げていた。


 ……あら。いけない。容姿の整った男性の剥き出しの色気は、目の毒だわ。


 これは、利害の一致した契約結婚で、私とジョサイアは愛し合っている訳ではない。死ぬまで添い遂げる本当の夫ではないのだから、子どもが出来てもいけない。私は早々に自室へと引き上げた方が良さそう。


 結婚式でのお祝いムードの醒めやらぬ今では、あんなに多くの親しい方々からの祝福を貰って……と、ついつい罪悪感が湧いてしまうけど、本当に愛し合っていた二人だったとしても離婚する夫婦だって多いんだから、時間が経てば彼だって冷静になれるはず。


「ええ……レニエラ。君は本当に、美しかった……君用に一からドレスを作り直せなかったことは、大変不満だが」


 このところ、ジョサイアをひどく悩ませていたはずの結婚式も、もう既に終わってしまったというのに、彼は私のドレスのことをまだ気にしてる様子。


 契約妻にも気を使う優しい夫に、私は微笑んで肩をすくめた。


「気にしないで。ジョサイア。あんな豪華なドレスを一から作り直すなんて、何ヶ月掛かると思っているの? 王家専門のお針子室が不眠不休でサイズ直しをしてくれて、まるで私用に最初から誂えてくれたみたいだったわ。素晴らしい技術よね。貴方も、素敵だったわね……今日はゆっくり休んで。邸に滞在中の親族の手前、形だけでもここに来ただけで、私はすぐに隣の自室に行くわ」


 そう言って私がこの部屋の続き部屋、つまり自室の扉の方向へ歩き出そうとすると、ぼんやりとしていたジョサイアは慌ててベッドから立ち上がった。


「待って! レニエラ。少し、話をしないか。結婚式まであまりに多忙過ぎて、僕たちはこれまでにろくに話し合うことが出来なかった。ゆっくり話そう。その……僕らの、これからのこととか……」


 そう言ってジョサイアは、私に近くにあるソファを指差した。


 確かに彼が私と話せていないと言ったことは事実なので、それもそうかと軽く頷いて、柔らかなソファへと腰掛けた。


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