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30 運命の人(SIde Ophelia)

 どんなに可愛いドレスを着よう凝った髪型をしようが、隣に居る男は私のことは見ていない。


 私だって熱烈に好きって訳でもないし、別に良いんだけど……どうしても面白くない気持ちになってしまうのは、それは仕方ない。


 望んだ訳でもないけど私は幼い時からこの男と結婚することを、両親に決められてしまっているからだ。


 結婚するということは、あれやこれや人に見せないこともして、子どもを産み育て……一生一緒に居るということになる。


 ジョサイア本人は何気なく見ているつもりでも、私は隣に居る訳だから、移動している女性の動きを逐一追いかけていることくらいわかってしまう。


 けど……これって、本当にどうしようもないわ。


 だって、好きな人が居るのに、私と結婚しようとしている男に、何をどう言えば良いの?


 好きでないことを隠しもしない異性に対し、「私のことを好きになりなさいよ!」と泣きわめく行為……どんなに良いように前向きに考えても、それはダサすぎるし、絶対にやりたくない。


 それって、私自身のプライドがどうとか……そんなくだらないものなんて、どうでも良くて、人としての在り方の問題だと思うもの。


 別に人からどう見られて誤解されても構わないけど、自分だけは自分のことをダサいとか嫌いとか思いたくない。


 そして、私がダサい行いだと思う行為の中には、無言のままの不機嫌で人を動かしたり、ただ私の婚約者に好かれているだけで、何も悪くない人を妬んで嫌がらせなどを行うことも含まれる。


 だから私はいつもにこにこしてジョサイアの隣に居るし、レニエラ・ドラジェとは話したこともない。


 ……それにしても、レニエラ・ドラジェの胸は反則だと思うわ。どちらかという可愛らしい顔に、おっとりした垂れ目に、大きな胸なんてっ……いいえ。良くないわね。


 それを自分が持たないからって誰かを妬んでしまうのは、本当に良くなかったわ。


「ねえ。ジョサイア……私、踊りたいんだけど」


「良いよ」


 ジョサイアは綺麗な顔でにっこりと微笑むけど、心中は「もっと彼女を見ていたかったのに」と思っていることが丸わかりよ。


 これって私は誰を見ているか知っているからわかることで、彼はがっかりしていても、絶対に私には悟らせない……ようにしている。


 ジョサイアは、完璧な婚約者だ。


 よくある王家の血を引く貴族と言っても、王女の降嫁先で生まれた王の従兄弟にあたる直系に近いものだし、姿形は整い貴族学校でも首席、極め付けは王の側近という立場。


 幼い頃から彼の婚約者である私は良く羨望の的になり、その立場になりたかった女性に良く妬まれる。苦労したものだと言いたいところだけど、それほど嫌な思いはしていない。


 別に周囲に何言われたって、私は私のことを好きだし、好きに言えば良いと思うもの。


 けど、ジョサイアはそんな婚約者私をさておき、とある女性に片思いをしている。


 今だって踊っているのに、誰かに視線を取られている。


 ……精神的な浮気ならば、罪はないので別に良いと思ってる?


 そうね。確かにそうなのかも……けど、私は目の前のジョサイアが完璧な婚約者であろうが、完璧な夫であろうが、自分を愛さない男とは結婚したくない。


 婚約したからと、義務感で結婚されるなんて、絶対にごめんだと思う。


「……ありがとう。ジョサイア……相変わらず、踊るのが上手ね」


「オフィーリアも……上手いよ。僕のせいで、夜会にあまり出られなくてごめん」


 私は頬笑んで、首を横に振った。ええ。私たちったら喧嘩もしたことのない、仲の良い婚約者同士だと思われているものね。


 ……けど、皆さん。知っています?


 隣に居るこの男は、私がどんな贅沢を望んでも、どんな我が儘を言っても、とりあえず叶えていれば黙ってくれるし都合が良いと思っている嫌な男なのよー!


 好きな女が他に居るのに、親に決められたからって、何も言わず、そのまま結婚することを選ぶような腰抜けなんですよー!


 楚々として歩く私は、周囲の貴族たちに感じ良く微笑み会釈をしながら、大声で断罪したい気持ちでいっぱいだった。


 私はジョサイアに続いて歩きながら、ムカムカした思いを噛み殺すしかない……自己犠牲を選ぶことが尊いなんて、どこの国のおとぎ話なのかしら?


 恋する彼女と幸せになりたいなら幸せになりたいって、正直に言いなさいよ! せめて、婚約している私に相談しなさいよ!


 また……ジョサイアが見ている方向を何気なく見ていれば必ず居るドラジェ伯爵令嬢は、あまり婚約者と上手くいっていないようだった。


 彼女が悲しそうな表情をしているのを見て、私だって胸は痛む。


 可哀想な女の子を見て、助けたくなるという気持ちは、確かに理解出来る。


 ……だから、それを相談しなさいよという私の気持ちだって、わかって欲しいの。


 ジョサイアと私は、周囲から見れば、とても上手くいっているように見える……らしい。全然上手くいってないわよ。まともな話合いも出来ないんだから、婚約者として上手くいくはずもないでしょう。


 私の今の状況を知れば、親はその程度のことは見て見ぬ振りをして黙って結婚しろと言うだろうし、少々の浮気は男の勲章とか意味不明のことを言い出す輩だって居るかもしれない。


 ……鼻で笑っちゃう。なんで私自身でもないのに、私が許す範囲を何処までかを決めようとするのよ。自分のことだけ気にしてなさいよ。


 ジョサイアが彼女と結婚したいから婚約解消してくれと言えば、私はすんなり頷き多額の慰謝料を貰って素敵な男性を探していただろうけど、ここで「私以外に、好きな女性が居るんでしょう?」って言い出すのも、それはそれでおかしくないかしら?


 とてもおかしいと思うの。それを言い出すなら、ジョサイアの方からでしょう。


 別の女性を愛する男と結婚なんて絶対に嫌なんだけど、婚約解消を自分から言い出すなんて絶対に意味不明だという二つの気持ちの中で、私は揺れ動いていた。


「ジョサイア……私、暑くなって来たから、外に出て涼みに行って来るわ」


「わかった。一緒に行こうか?」


「いえ。すぐに戻るわ……それに、そろそろお開きの時間よ」


 私が居なくなれば、気を使わずに彼女を思う存分見られるわよ。良かったわね……なんて、少し意地悪なことを思いつつ、私は身を翻した。


 とは言え、このまま行くと、ジョサイアと私は結婚するしかなくなってしまう。


 嫌だ嫌だと思いながら、単なる貴族令嬢の私は、それから逃げられない可能性が高い。


 張り出したバルコニーは、仲を忍ぶ恋人同士の逢瀬の場だ。そこは避けて私は出入り口から出て、影になっている部分に背中を付けた。


 大体……貴族は好きな人と結婚出来る訳がないから、お互いに不倫することなんて当たり前で……私はその一員になってしまうのが、とても嫌だった。


 それなのに、好きな人に愛されて結婚したいなんて、子どもみたいな夢を捨てきれない。


「……こんばんは。こんな場所に居ると、危険ですよ」


 声を掛けられるなんて思ってもいなかったので、顔を伏せていた私は驚いた。灯りに逆光になって、顔が見えにくい。


 背が高く若い男性のようだ。


「あら。こんな所で襲われても、私が悲鳴をあげればすぐに衛兵に袋だたきにされますよ? ……良ければ試してみましょうか?」


 私がすうっと息を吸い込めば、彼は大きな声で笑い出した。


「これは参った! 後生です。レディ。それは、勘弁してください」


「私が若い女性だと思って声を掛けたなら、ご期待には添えません……既に婚約者が居ます」


「けれど、君は彼のことが好きそうではなかった……違う?」


 私にそういう意味で声を掛けたのなら、他を当たって欲しいと言いたかったんだけど……間髪入れずに返されてびっくりした。


 もっと驚いたのは、目の前に居る彼には、ジョサイアと私が仲睦まじい婚約者に見えていなかったことだ。


「……どういう意味ですか?」


「いいや、君を好きでもなく、君が好きでもない男と結婚するなんて……嫌ではないですか?」


 それはもしかしたら、はっきりした根拠もなく、適当なことを言っていたのかもしれない。明るい光の中で見えた彼は、まるで詐欺師みたいな見た目をしていたもの。


 それでも近い未来の私は結果的には、たった一度の人生を、この時に出会った男性と過ごすことを選んだのだった。





最後まで読んでくださってありがとうございます。

もし良かったら評価を頂けましたら、幸いです。


それでは、また別の作品でもお会いできたら嬉しいです。


待鳥園子

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