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24 情

「騙したのね。ショーン」


 私はそれとなく周囲を見回し、自分が今居る状況を素早く確認した。


 二人が乗っている馬車は走っていて、かなりの速度が出ているみたい。ショーンには私は何も出来ないと見くびられているようで、手も足も縛られてはいない。


 けれど、確かにこの速度の馬車からは、絶対飛び降りられないわ。


「……レニエラ。お前。良い気になるなよ。運が良く結婚出来たかもしれないが、お前は俺が居ないと何も出来ない駄目な人間だ。これからは、俺の言うことだけ聞いていれば良い」


 ……そうだ。婚約している時にも、ショーンにはこの言葉を何度も言われた。その度に嫌だった。


 「お前なんて、俺以外に結婚してくれるやつが居るわけがない」と。


 結局のところ、ジョサイアは彼が望んでくれて結婚した訳だし、ショーンの言っていたことはすべて間違っていたってことになるわ。


「あら……それでは、ショーンにとって、もう既に結婚した私は要らない人間ではないの?」


「それは、俺が決めることだ!」


 私は大きな声に驚いてびくっと身体を揺らしたけど、ここは言わなければいけないことは言うべきだわ。


 ショーンがこんなことをしても、私たちが結婚出来るわけがないもの。


「ちょっと……そう言われると、話にもならないわ。現に私は既に結婚しているし、夫のジョサイアとも上手くいっているじゃない……貴方の言って居たことは……」


「うるさいうるさい!! いい加減、その生意気な口を閉じろ。俺はお前の意見なんて、求めてないんだよ!」


 激昂したショーンは癇癪を起こしたように大声で言って、それを聞いた私は、はあっと大きくため息をついた。


 きっと、ショーンの予想した通り……私は、貴方が何度も言っていたことは、間違いだったじゃないと私は続けて言おうとした。


 ……それが勘に障ったのね。


 ショーンは自分が間違っていたことを、絶対に認めたくないんだと思う。彼にしてみたら、私は完全に下に居るべき存在で、自分には決して逆らわないと思われているから。


 けれど、それは今の私がショーンの過去の暴言を、何もかも間違いに出来たから言えることだ。


 そういった意味で、本当にジョサイアと……オフィーリア様には感謝しかない。


 過去の私はショーンに何度も何度も言われた言葉で、心は頑なになっていた。「お前なんて」と、いつも言われ続けて……ジョサイアから優しさを向けられても、それを受け取れなかったのは、ショーンがかけたこの呪いがあったからだ。


「それでは、私をモーベット侯爵邸へ帰してくれない? 私はもう、貴方の言うとおりに黙っていないわ。ショーン……私は変わったのよ。貴方の婚約者だったレニエラ・ドラジェは、もう居ないの」


「おい。うるさい。黙れと言っているだろう?」


 ショーンに剣呑な視線を向けられて、私はこくりと喉を鳴らした。頭の中では、これ以上彼に何も言ってはいけないと、甲高い警鐘が鳴り響いていた。


 ショーンは婚約していた時には、軽い暴言は良く吐かれたし、「なんだこれは」と髪の毛だって引っ張られていたことは確かにあった。


 けれど、殴られたことはなかった。今、殴られるかもしれないという恐怖を強く感じた。


 ここで私たちは長い間沈黙し、ショーンは何かを考えているのか、真っ暗な窓の外をうつろな目をして見ていた。揺れる馬車は荒れた道を走っていて、きっとここは整備された街道でもない。


 このまま、彼の好きに……連れて行かれる訳にはいかない。


 ショーンとは、幼い頃から婚約者だった。嫌な奴で乱暴者になったけど、幼い頃に優しくて好きだったという感情は、ずっと消せなかった。


 彼が好きだったからこそ、変わってしまって悲しかった。


 今だって、そうだ。幼かったあの少年の部分がまだ少しでも残っているのなら、もしかしたらまだ……私の話を理解してくれるかもしれないと、心のどこかで期待してしまっている。


「……ねえ。ショーン。私へ婚約破棄を、一年前に言い出したでしょう?」


「……ああ」


 馬車の轍の音だけが聞こえる中の、私の質問に投げやりに答えたショーンは、私が居る方を向く気はないようだ……ううん。そうよ。オフィーリア様だって怒っていたように、自分と向き合うことをしない人となんて、一生を添い遂げる結婚するのは無理だわ。


 だって、話し合う気も無ければ、どんな事態でも摺り合わせが出来ない。


「どうして、あんなことをしたの? 婚約を継続するくらいなら……婚約破棄なんて、しなければ良かったのに」


 そうよ。今になって私を連れて逃げるくらいなら、あんなことをしなければ良かったのに。


 ……そうしたら、今頃は結婚適齢期の私たちは、結婚式の準備をしていたはずだわ。


「うるさいな! あの時は捨てられそうになったお前が、俺に縋って来るところだろう!」


「……え?」


 あまりにあり得ないことを言ったショーンに、私は口をぽかんと開けて頭が真っ白になった。


 そんな私の反応がショーンにとっては意外だったのか、彼は私の方へ向き直り、いかにも気に入らないといった様子で言った。


 また大きな声で怒鳴ったショーンは、まるで会ったことのない別の男性のように思えた。今すぐに逃げ出したいと、得体が知れないゾゾっとした恐怖が体中を覆った。


「おい。通常であれば婚約破棄されたら一生、貴族令嬢として結婚も出来ずに、修道女になるか薄給で家庭教師になるくらいしか道はない……レニエラはあのいけすかない弟の影響か、本当に生意気で言うことを聞かなかったから、泣いて謝ってくれば俺は可哀想なお前を庇う予定だった。そこで仲直りすれば、俺の寛容さも際立つだろ?」


 なっ……何言っているの? 言っていることが、本当に意味不明過ぎて、理解が出来なくて……駄目。もう同じ空間に居ることすら、無理なんだけど。


 ショーンは私に言いたいことを言ってやったとでも思ったのか、フンっと鼻を鳴らすと窓へと視線を戻した。


 私はというと、逆に落ち着いていた。


 懐かしいわ。この感覚。一年前に、ショーンの顔にホールケーキをぶつけてやった時以来かしら?


 ……そうね。


 確かに、私はしおらしい性格とは言いがたいし、弟のアメデオが居るから深窓の令嬢と言っても男性と話すことには慣れている。


 可愛がってくれるアストリッド叔母様だって、夫を尻に敷いているタイプの女性だし、父も母を大事にしている……家族の影響を受けて、女性は大事にされるものという考えが根付いていた。


 そういう意味では、私はこのショーンに何を言われてもされても、「何をするのよ!」と彼にちゃんと言い返していた。やられっぱなし、泣かされっぱなしになんて、ならずに。


 ……ああ。私は本当に……ひどい勘違いをしていたんだわ。


 ショーンは私のことを、同じ人間として認識していない。


 まだ、相性が合わずに相手を好きになれないのなら、理解は出来る。けれど、今こうして誘拐しているショーンは私のことなんて全く好きではないわ。


 ただ、幼い頃から、自分のもので……誰かに取られたくなかっただけ。


「……私の自尊心を折るために? だから、あんなことをしたの?」


 私はそれを、確認のつもりで聞いた。


 ショーンは言葉を使わずに、何度か頷いてそれを肯定した。私の方なんて、見てもいない。


 本当であれば、私はここで彼を嫌いになるところなのかもしれない。それとも、悲しい気持ちにされて憎んでしまう?


 けれど、私が感じているのは、単に無の感情だった。


 好きの反対の感情は、無関心だ。私は目の前の自分勝手過ぎる男に対し、それを感じている。


 行き当たりばったりの行動が多かったのも、これでようやく理解出来た。私が結婚したという情報を知り、婚約続行していると、昨日実家へと難癖を付けに行った。


 当たり前だけど、それで私と結婚なんて出来る訳がない。教会で結婚式を挙げて、おまけに正式な書類も提出している。


 モーベット侯爵ジョサイアと私は、正式な結婚しているんだから、不法なやり方で書類上婚約者だったショーンの出る幕なんてないのだ。


 だから、彼は私を誘拐した。


 多分、何も考えていない。どこへ逃げて……どんな生活を営んでいこうなんて、ショーンには関係ないのだ。


 その時その時の感情で動き、やりたいことをするだけ。私の気持ちなんて一切考えていない。


 だとしたら、私だってショーンへの情を、切り捨てるべきなんだわ。

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