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ショートショート9月〜4回目

うたう人

作者: たかさば

 ……君を想うたび、僕の中から溢れ出す、アツい気持ち


 笑顔が見たい

 話がしたい

 カワイイ声が聞きたい

 できれば手をつなぎたい


 ……こんなにも愛が溢れているというのに、伝える方法が見つからない


 この気持ちを表す単語を、僕は知らない

 この気持ちを表す言葉が、僕には紡げない


 好きだよとか

 カワイイじゃんとか

 がんばってるねとか

 真剣な眼差しがいいねとか


 拙いセリフで伝わるはずもない

 ダサいボヤキで伝わるわけがない

 女々しい嘆きで伝えるわけにはいかない


 恋に落とすワードが生み出せない

 恋に落ちるきっかけが見つからない


 伝えたくても伝えられない、もどかしい愛


 言葉でしか気持ちを伝える事ができない、世界のシステムが憎くてならない


 もし愛の大きさが目に見えていたならば、確実に自分の真心が伝わるはずなのに


 口のうまいやつがうらやましい

 キザなセリフを吐けるやつが腹立たしい


 心を動かす言葉を使いこなすやつが憎たらしい

 心を奪う文章を書くやつが忌々しい


 有り余る愛を垂れ流しながら、伝わらないもどかしさを抱えて叫ぶことしかできない……


 伝わらない愛をメロディーにして、君に届けよう


 君が好きだ

 君が好きだ

 君が好きだ


 ねぇ、伝わっているかい?


 君が好きだ…君が好きだ…君が好きだ……


 言葉を知らない僕は、一途にうたを君に届ける


 君が好きだ君が好きだ君が好きだ君が好きだ君が君が君が君が………




 ……私が佐和田君から呼び出されたのは…大学の文化学園祭の前日の事だ。


 なんでも、ぜひ私に聞いて欲しい曲があるとのことで、ライブを見に来てと懇願された。絶対に損はさせないからと息巻くので、私のお気に入りのボカロPのカバーでもしてくれるのかなとウキウキしながら軽音部のライブに足を運んだのだけれども。


 まさかの、歌で告白、キタ━━━━(゜∀゜;)━━━━!!


 多分おそらく、これは私に対するサプライズだと思われる。蒼いリボンをこれ見よがしに腕に結んでいるし、おそらく蒼井というわたしの名前をアピールしているのだろう。


 ちょっとまて、アンタそんな素振り…微塵もなかったじゃん!いつも人の書いた恋愛小説を斜めに読んでバカにしてたくせに!目も合わさずにさんざんダメ出ししてきたヤツが…マジか!!


 はっきり言って、意外すぎて混乱がハンパない。もしかしてなんかの罰ゲーム?いや、そんなふうには見えない…。ナニコレ、私、どうしたら良いの?付き合う?まさか!お断り一直線だ!!


 てゆっか、気持ちを伝える言葉が見つからないとかさ、ふざけすぎじゃん!

 ナニ既存の言葉で済まそうとしてんの?

 文学部なんだから自分で言葉を紡がんかい!

 本気で恋をしたというならば、必死になって最後まで諦めずにもがいてなんぼだろうが!


 こちとら恋愛小説家希望なんだよ!

 心が震えるような、一読した瞬間に恋に落とすような文章ぐらい用意してもらわなきゃ、話にすらなんないんですけど!


 つか、とりあえず叫んだら伝わるって本気で思ってる?ナニその手抜き、適当なごまかし、逃げの態度!


 ……あれかな、ゼミで提出してたレポート、いつも『……。』を多用してはっきりしなくて気持ち悪い書き方してたんだよね、この人。ゴリ押しで無知を乗り切ろうとするの、めっちゃキモいんですけど。


 ……しかも、絶妙に歌が下手くそすぎて、音程のブレも不愉快極まりない。


 ♪……君を想うだけで、僕の中から溢れ続ける、アマイ気持ち♪


 ……まさかの2番が始まった。


 これ以上きみの悪い気持ちを伝えられては、私の中に蓄積されている語彙が穢されて…吹き飛ばされて消滅してしまう。


 私はそそくさとライブ会場を抜け出し…。


 恋愛をナメている愚か者に鉄槌を下すべく、今回の出来事をみっちりラブコメにすることを誓ったのだった。

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