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乙女の願い

「これではっきりしたようだな。冷や麦の方が、にゅうめんなんかよりずっと優れているということが」

 倒れたまま立ち上がれないにゅうめんマンを見下ろして、多麻林は言った。


「うぐぐ。ちくしょう」

「さあ。負けを認めろ。素直にそうすれば、これ以上痛い目にあう必要もない」

「……」

「認めないのか。その根性はさすがだが、気合だけでは勝てないことを知るべきだな!」 


多麻林はにゅうめんマンを繰り返し蹴りつけた。にゅうめんマンは体を丸めて打撃に耐えたが、横たわったままで反撃もできず、最悪のジリ貧だった。


《俺は負けてしまうのか》

 敵の一方的な攻撃に耐えながら、にゅうめんマンは思った。

《いくつもの厳しい戦いを乗り越えて、ようやくここまで来たのに……》


京都に来てから戦った強敵たちのことが、走馬灯のように、にゅうめんマンの頭に浮かんだ。――烏天狗とともに川べりの道を走っていい汗を流したこと。5分後に爆発四散する電車の中で、競馬好きのおっさんと語り合ったこと。美女たち+牛の怪物とカラオケに行ってむちゃぶりをされたこと。霊山電鉄の社長と思しき金ピカのおっさんから思い上がった怪光線を受けたこと。――そうしたいくつもの試練を、にゅうめんマンは乗り越えてきたのだ。


《それなのに、最後の最後で、俺はこの大事な戦いに負けてしまうのか》


さて、2人が激しい戦いを繰り広げるかたわらで、嵯峨野玲子は驚きあきれつつその戦いを見守っていた。落ち込んでいたにゅうめんマンを励ました後は静観していたのだが、ここにきて、にゅうめんマンが床に打ち倒され、敵に繰り返し蹴られて弱っていく様子を目の当たりにすると、惨状を見かねたのか嵯峨野玲子は急に声を上げた。


「にゅうめんマン!真剣勝負をしているときにこんな事を言うと、えこひいきみたいになっちゃうけど、私……私、あんたには負けてほしくなかった!」


絶え間ない攻撃を身に受けながらも、その声はにゅうめんマンの耳に届いた。


《乙女が言っている。俺には負けてほしくなかった。冷や麦になんて負けてほしくなかった。敵を打ち倒して、にゅうめんこそが最高の食品であることを証明してほしかったと。それなのにこんな簡単にやられてしまって、俺はなんて情けないヒーローだ》


そのとき、にゅうめんマンは大切な事を思い出した。ヒーローとは自分のために戦うのではない、にゅうめんを愛する人たちのために戦うのだ。この日にゅうめんマンはそれを忘れて、個人的な意地のために多麻林と戦っていた。そのような私欲で戦っていては負けてしまっても仕方がないのではないか。


自分のためだけでなく人々のために戦っていることを再認識したとき、にゅうめんマンの正義の心が刺激され、新たなる勇気と力とニューメニティが身内に湧き上がった。にゅうめんマンは横の方にすばやく体を転がして多麻林の攻撃から逃れた。


「嵯峨野玲子。にゅうめんは冷や麦に負けてほしくないというお前の熱い気持ち、確かに受け取ったぞ!」

 体を起こしながら、にゅうめんマンは言った。

「そんな事言ってないだろ!ちゃんと人の話を聞け!」


人の話を聞かない無敵のヒーロー。それがにゅうめんマンだ。


起き上がるにゅうめんマンの体からニューメニティがあふれ出て、無駄にきらきらと輝き、にゅうめんマンを美しい光で包んだ。何度も打ち倒された後で、にゅうめんマンは、灰の中からよみがえる伝説の不死鳥フェニックスのように、力強く危機から立ち上がった。


「きらきらしやがって、なまいきな。何回立ち上がっても同じことだ!」

 多麻林は、立ち上がったにゅうめんマンを再び打ち倒そうと殴りかかった。だが、にゅうめんマンはその動きを見切って攻撃を受け止めた。


「この世ににゅうめんを応援する人がいる限り、俺は負けない」

「黙れ!」


多麻林はまたしてもにゅうめんマンに襲いかかった。にゅうめんマンはそれを再び見切ってかわし、必殺のアッパーカットを繰り出した。


「にゅうめんマン奥義 不死鳥雄翔拳ふしちょうゆうしょうけん!!」


にゅうめんマンが放った一撃は、えぐるように多麻林のみぞおちをとらえ、決定的な大打撃を与えた。多麻林は完全なノックアウトをきっし、立ち上がるどころか、横たわったまま動くこともできなかった。――決着はついた。

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