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もうダメだ

ここで、妹と一緒に別室にいた嵯峨野玲子が、2人の戦う様子を見るために大部屋へ出て来た。すると、暗黒の霊気に包まれたにゅうめんマンが床に三角座りをしてふさぎ込んでいるので驚いた。


「にゅうめんマン!これは一体どうしたんだ」

 嵯峨野玲子はにゅうめんマンに声をかけたが返事はなかった。それで、多麻林が代わりに答えた。


「俺の術にかかって気分が落ち込み、戦意を喪失したんだ。もはやどうしようもあるまい」

「なんだって。根拠もないくせに、なぜかいつも自信に満ちているにゅうめんマンをこんなに落ち込ませるなんて。どんな術を使ったのか知らないが、あんた相当できるようだな」

「日頃の鍛錬たんれんの成果さ」


戦闘中であることは分かっていたが、にゅうめんマンがあまりひどく落ち込んでいるのでかわいそうになって、嵯峨野玲子は再び声をかけた。


「そんなに落ち込むなんて、あんたらしくないじゃないか。プライドをかけた大事な勝負の最中だろ。このままじゃ負けてしまうぞ。しゃきっとしなよ」

「……もういいんだ」

「え」

「どうせ、にゅうめんなんて一部の奈良県民が食べてるだけのマイナー料理なんだ……」


にゅうめんは奈良県桜井市周辺の郷土料理だ。


「そんなことはない。奈良県の北隣の京都でもときどき食べるぞ」

「どうせ一部の奈良県民と京都府民が食べるだけのローカル料理だ。冷や麦にはかなわないんだよ」

「自信を持て。冷や麦が相手なら、にゅうめんの人気や知名度はいい勝負だと思う」

「冷や麦みたいな中途半端な食べ物といい勝負とか。……もうダメだ。死のう」

「そんなことで死ぬな!」


にゅうめんマンはため息をついた。三角座りをするにゅうめんマンに、嵯峨野玲子は話を続けた。


「今いい勝負だと言ったが、それはうそだ。本当は、にゅうめんこそ最高だ」


にゅうめんマンの表情が少し明るくなった。


「にゅうめんは最高かな?」

 にゅうめんマンはきき返した。それに答えて嵯峨野玲子は適当にほめまくった。


「最高だとも。にゅうめんこそ人類のロマン。子供が好きなものといえば、ピカチュウと地下鉄とにゅうめんだ!」

「本当に?」

「うん」

「そうか……そうだよな。やっぱり、にゅうめんが最高だ。冷や麦に負けるはずがない。……敵の術にかかったせいとはいえ、そんな疑いを抱くなんて俺はどうかしていたぜ!」


こうして、にゅうめんマンはうつ状態から立ち直った。


「もう少しで俺の勝ちだったのに。人の助けを受けて立ち直るなんてずるいぞ」

 多麻林は抗議した。


「俺はついさっきとんでもない強敵と戦ったばかりで、お前と戦う前から体力を消耗していたんだ。これくらいのサポートを受けることは許されるべき。もしコンディションが万全なら、俺の必殺技によって、お前は勝負開始後5秒で消し炭になっていただろう」

「ほんとかよ。どうもうそくさいな……まあいいか」

「それじゃあ勝負再開だ。まずはこのうっとうしい霊気を返してやる!」


にゅうめんマンは、自分を包み込んでいた暗黒の霊気を、多麻林に向かって一気に押し返した。すると多麻林は、日頃の鍛錬が十分ではなかったのか、自分自身が作り出したその霊気を受けて、精神を打ちひしぐ忌まわしき妄想にとらわれた。

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