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幻獣図鑑239ページ第二部  作者: 夜朝
第7章 初めての狩り
9/13

7-4

「う……」


 頷こうとして、あることを思い出したアーシィは固まった。

 生まれて初めて殺した獲物は毒ヘビだったという事実。


「あれは食べれないな……」

「難しい子ねえ」


 ごちそうさまを言って自室へ戻ったアーシィは、今日は日記に森での出来事をそのまま書いた。その後、次のページも使って思いの丈を吐き出していく。


 『ハンティングを辞めた方が良いのかもしれない。でも、早くエストに会いたい。僕はどうしたら良いのだろう?』


 そこまで書いてノックが鳴った。

 入ってきたのは父親だった。


「父さん……どうしたの?」

「食事中にアーシィが言ってたこと、少し気になってな」

「……父さんの意見は、母さんと違うってこと?」

「母さんが言ってたのも、間違いじゃないよ。ただ……父さんは、立場が違うんだ」

「?」


 首を傾げたアーシィに、サーディスはブランデーを数滴垂らした牛乳を入れたグラスを手渡した。それを両手で受け取ったアーシィが一口、口に含むのを見届けてから父親はブランデーだけが入っているグラスを傾けた。


「ハンティングを続けるか、迷っているんだろう? 獣たちを傷つけたくないけど、ハンティングの段はほしいーーそれはあの獣に早く会いたいからだ」

「うん……」

「どうしてパルミラがハンティングの段を出発の条件につけたのか、分かるか?」


 アーシィは首を横に振った。サーディスが苦々しく笑う。


「旅の途中で野宿することになっても大丈夫なようにさ。その中には、食料を調達する技術も含まれてる。アーシィがこれから身につけようとしているのは、殺しじゃなくて、狩りの技術なんだよ」

「食べたくなくなりそうだよ」

「ははは。それは大丈夫だ。今日の鹿肉、美味しかったろ?」

「うん」

「父さんと母さんの子だからな、アーシィは。大人になったら、『いただきます』の一言でするっと矢が撃てるようになるさ」

「今日、食べれないのを殺したんだ」

「ーー具体的には?」

「毒ヘビ」

「そっか……身を守るためだな?」

「うん。ナッチを助けるため」

「偉かったな」


 グラスの水面を見つめていたアーシィは大きな手が頭に乗せられたのを感じた。その温かさに、涙がにじんできた。目を閉じて涙がこぼれる前に右手の甲でそれを拭うと、ぐいっと牛乳を飲む。サーディスが言った。


「……そうそう、忘れてた。ハンティング試験は実践形式だが、初段では魔法を掛けた木型が獲物だ。食べるところまではやらされないから、安心して取ってこい」

「本当に!?」

「ああ。けど、本音を言えば最低でも二段までは取ってほしいけどな。二段の試験では試験官に食料を振る舞うところまでやるんだ」

「さばくのも自分で?」

「そうだ。さっきも言った通り、あの獣を探す間に宿に必ず泊まれるという保証もないし、生活力を身につけておくのは悪いことじゃないからな」

「……まあ、大人になる頃には、できるかもね……」


 空になったグラス二つ持って父親が出て行った後、アーシィは日記に追加で一言だけ書き込んで一日を終えた。


 『いただきます』


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