7-4
「う……」
頷こうとして、あることを思い出したアーシィは固まった。
生まれて初めて殺した獲物は毒ヘビだったという事実。
「あれは食べれないな……」
「難しい子ねえ」
ごちそうさまを言って自室へ戻ったアーシィは、今日は日記に森での出来事をそのまま書いた。その後、次のページも使って思いの丈を吐き出していく。
『ハンティングを辞めた方が良いのかもしれない。でも、早くエストに会いたい。僕はどうしたら良いのだろう?』
そこまで書いてノックが鳴った。
入ってきたのは父親だった。
「父さん……どうしたの?」
「食事中にアーシィが言ってたこと、少し気になってな」
「……父さんの意見は、母さんと違うってこと?」
「母さんが言ってたのも、間違いじゃないよ。ただ……父さんは、立場が違うんだ」
「?」
首を傾げたアーシィに、サーディスはブランデーを数滴垂らした牛乳を入れたグラスを手渡した。それを両手で受け取ったアーシィが一口、口に含むのを見届けてから父親はブランデーだけが入っているグラスを傾けた。
「ハンティングを続けるか、迷っているんだろう? 獣たちを傷つけたくないけど、ハンティングの段はほしいーーそれはあの獣に早く会いたいからだ」
「うん……」
「どうしてパルミラがハンティングの段を出発の条件につけたのか、分かるか?」
アーシィは首を横に振った。サーディスが苦々しく笑う。
「旅の途中で野宿することになっても大丈夫なようにさ。その中には、食料を調達する技術も含まれてる。アーシィがこれから身につけようとしているのは、殺しじゃなくて、狩りの技術なんだよ」
「食べたくなくなりそうだよ」
「ははは。それは大丈夫だ。今日の鹿肉、美味しかったろ?」
「うん」
「父さんと母さんの子だからな、アーシィは。大人になったら、『いただきます』の一言でするっと矢が撃てるようになるさ」
「今日、食べれないのを殺したんだ」
「ーー具体的には?」
「毒ヘビ」
「そっか……身を守るためだな?」
「うん。ナッチを助けるため」
「偉かったな」
グラスの水面を見つめていたアーシィは大きな手が頭に乗せられたのを感じた。その温かさに、涙がにじんできた。目を閉じて涙がこぼれる前に右手の甲でそれを拭うと、ぐいっと牛乳を飲む。サーディスが言った。
「……そうそう、忘れてた。ハンティング試験は実践形式だが、初段では魔法を掛けた木型が獲物だ。食べるところまではやらされないから、安心して取ってこい」
「本当に!?」
「ああ。けど、本音を言えば最低でも二段までは取ってほしいけどな。二段の試験では試験官に食料を振る舞うところまでやるんだ」
「さばくのも自分で?」
「そうだ。さっきも言った通り、あの獣を探す間に宿に必ず泊まれるという保証もないし、生活力を身につけておくのは悪いことじゃないからな」
「……まあ、大人になる頃には、できるかもね……」
空になったグラス二つ持って父親が出て行った後、アーシィは日記に追加で一言だけ書き込んで一日を終えた。
『いただきます』