7-3
「そんな! まだ一度もまともに当てられたことないのに!」
「当てられるはずだあんたは。今までのはーー当てたくなかっただけだろう? 命中することで怪我をさせるのが怖かったんだ」
「それは」
「命を奪うかもしれない、一生治らない傷を負わせるかもしれない、それだけの覚悟がつけられなかったんだ。それはあんたの優しさなんだろう」
「……そう、だろうか。僕には……」
「分からないなんて言ってる場合じゃないよ。何しろ早くしないと、お友達が見殺しになるかもしれないんだからね」
「ああ、もう! もしナッチに当たったら?」
「安心おし。ナッチには当たらずの風陣を掛けてやれる。魔法なら片手で足りるからねーーそら、構えな! あいつは攻撃の前に必ずとぐろを巻く。その後、頭を持ち上げるから、その時がチャンスだ。一瞬だよ、よく狙いな」
「わかりましたーーよっ」
アーシィは弓に矢をつがえて深く息を吸い込んだ。そして少しずつ息を吐きながら、弓を引きしぼる。
「標的をずっと見つめるんだ。矢が指から離れた瞬間が最後じゃないよ。その後も矢をコントロール下に置いてるつもりで、矢がどこかに当たって止まるまで的から目をそらすんじゃない。それは結果から逃げないってことさね。そうすることで上達の階段も登れるのさ」
ヘビの頭が持ち上がった。アーシィは言われた通り、その頭だけを注視して指を離し、矢が的に突き刺さる瞬間に長い息を吐ききった。頭を地面に縫いつけられたヘビは胴体をしばらくの間じたばたと左右に打ち付けてのたうち回っていたが、やがてぴくりとも動かなくなった。アーシィは沈痛な面持ちで木を降りてそこへ近づくと、ヘビへ向けて祈りを捧げた。
その後、ナッチの側へいって彼の肩をそっと揺する。
「ナッチ……起きれるか? 無事か? 起きて……くれよ」
涙声に促されて、寝転がっているナッチが両目を開けた。申し訳なさそうに、その眉根は寄せられている。
「その……ごめんな、アーシィ……」
「……っ。……ふ、あ……っ」
ナッチの胸元に顔を埋めて大きな声で泣き出したアーシィの後ろに降り立ったナタリーは、そっとしておくことにしたのか、何も言わなかった。何事もなかったように両手を使ってヘビの死骸から矢を抜き去り、その口の中に毒牙がないことを確認する。その後、右手の親指を上へ向けてナッチに見せると、彼は複雑そうな表情で一度ゆっくりと瞬きした。
まだ泣いているアーシィをなだめるためにその背中をぽん、ぽんと叩くナッチの耳に、練習終了を知らせる笛の音が届いた。
薄っすらと暗くなりだした空を見上げて、ナタリーが灯した明かりの下に、小さな血だまりが照らし出されていた。それは三人が去った後に少しずつ地面に吸われ、月が昇る頃にはすっかりなくなってしまっていた。
* * *
アーシィは晩ごはんに出た鹿肉を美味しいと感じている自分のことを考えながら、今後のことについて深く考えていた。
ーーこれからも僕は何かの命を奪いながら生きていく。ハンティングをしなくても、それは変わらない。遊びで殺すことはしないというのが我が家の家訓だ。それは裏を返せば、生きるためなら殺してもいいということになる。
「それはそうよ。アーシィ、ハンバーグもから揚げも大好きでしょう? でもそうね……気になるのね? それなら、必ず食べるって、決めたらどうかしら」
「食べる?」
「そうよ。食べる前って、必ず『いただきます』って言うでしょう」
「いただきます……うん」
「あの言葉の中に、『ごめんね』も『ありがとう』も、『君の命に恥じないように頑張って生きていくよ』も、全部込めれば良いと思うわ」