7-1
なだめる表情で肩をぽんぽんと叩いてくるナッチの手を払いのけて、アーシィが詰め寄る。
「大事なことで冗談言うなよ! そりゃ、もう二級までいってるお前は良いさ。一つ飛ばして初段でも受かるだろうけど、僕は……!」
「本気だよ。お前さ、五級の試験全然受けないだろ? いつかいつかじゃ永久に叶わないって知れよ。それよりナタリーさんがいる間に上達してさ、勢いで初段受けた方が絶対良いって」
「いつの間にナタリーさんをそんなに信頼してんだよ、裏切り者っ」
「裏切っちゃいないさ。昨日、話したんだお前が出ていってから。あの人、何て言ってたと思う?」
「?」
「一ヶ所直せば、初段は楽勝だってさ。お前」
「!?」
立ったまま固まってしまったアーシィの肩をすれ違いざまにもう一度叩いて、ナッチは自分の席に戻っていく。チャイムが鳴るまで突っ立っていたアーシィは授業中もずっとナッチから聞かされたことが頭から離れなかった。
* * *
放課後、すぐには部室へ向かえなかったアーシィをナッチが引っ張っていくと、皆が遠出の支度を始めていた。学校の敷地を出て練習する場合は、ジャージに着替えた後の制服や通学鞄は持参して出発し、練習が終わり次第流れ解散する。部活用のバッグに制服を詰めている部員に聞くと、ナタリーの発案で彼女がいる間は実践練習に切り替えるとのこと。これまでにも実践はあったが月に一度で、しかも参加は自由だった。アーシィには初めての試みとなる。制服を脱ぎながら途方に暮れてうなだれているアーシィにナッチが軽く体当たりする。
「一体どうしろと……」
「試験でも段の方は実践形式だぞ〜。今のうちに慣れとけよ。数撃ちゃ当たるって」
「くそ。やるけどさ」
当たるわけがない。アーシィはそう口の中でだけ呟いてジャージを着込んだ。
* * *
ナタリーが先導してたどり着いた先は森だった。
エストと食事をしたり手負いのあの子と別れたりした思い出の場所だが、あれ以来立ち入ることはなかった所だ。
湖のほとりにあるベンチやテーブルの上に鞄が載せられていく。アーシィもそれにならって鞄を置き、弓の準備を始めた。
「皆、グループ分けはできたか? 先生は二年生と、ナタリーは一年生Aグループ二人と。部長は一年生Bグループ二人と。副部長は三年生と。何かあったら笛で知らせること。獲物を仕留め次第、これも笛で知らせてからここに戻ってきて全員が集まるまで待機。仕留められなくても五時半の鐘で練習は終了。ここに集合して六時には解散。いいな? では出発!」
有段者の部長は喜々として出発していった。その後を慌てて一年が追いかける。全員がハンティング一級の三年生グループも、いつもとは違うフィールドに気分が変わっていいなと言いながら余裕のある空気を漂わせて悠々と歩き出した。級や段を取ることに積極的でない二年生たちは普段と変わらない様子でのたのたとしているのを顧問に急かされている。アーシィとナッチはナタリーの後ろを他の生徒には見られないほど真剣な面持ちで着いていった。