6-2
アーシィの当たらない矢を見て大爆笑していた顧問の先生が、自分のハンター仲間だと言って長身で細身の女性を連れてきたのは二日後のことだった。弓の名手だというその女性の手はかなりでこぼこしていて、握手するとしっかりした存在感と強い意志とがその指先から伝わってくるようだった。
「はじめまして」
「はじめまして。よろしく。あんたがアーシィ? 矢が当たんないんだって?」
「……っぐ……。そ、その通りです……残念ながら」
気にしていることをきっぱり言われてアーシィは反論したい気持ちを呑み込んだ。本当のことだし、顧問の談によると彼女を連れてきたのはアーシィのためだということだったので、失礼に当たる口応えはしたくなかったのだ。
「じゃあ、早速見せてもらおうかい。あんたの打つところ。その当たんない理由ってヤツを」
見てわかるのかな。疑う気持ち。
また下手くそなのを笑われそうだ。ためらう気持ち。
まだ練習を始めている人がいない。一人で射場に立つことの気恥ずかしさ。
何だか素直になれず、アーシィは小さい声で言った。
「……先に、お手本を見せてください」
「へーえ? お手並み拝見ってこと? なかなか良い根性じゃないさ」
「す、すみません。そんなつもりじゃ」
「良いよ。よく見ときな」
彼女は、にやにや笑って言うと、矢を二本持って射場に入っていった。
あれ、弓は?
アーシィだけでなく生徒みんなが首を傾げた。訳知りの顧問だけ、涼しい顔で笑っている。
的の前に立つと女性の顔から笑みが消えた。緩く握って筒を作った左手を頭上に掲げる。するとどうだろう。その手から白い靄があふれ出し、見る間に一張りの弓を形作っていく。それが完成するや流れるような動作で矢をつがえ、一瞬も止まることなく一本目、二本目の矢まで一息に放ってしまった。そのどちらもが的の中心付近を射抜く。控えめなどよめきと拍手とが生徒たちから上がった。ノリの良い人なのだろう。彼女は拍手に右手を上げて応えている。アーシィは弓を持ち矢を二本取って射場に足を踏み入れた。
「見ててくれますか。僕のーー」
「さっさとおやり。見るだけじゃない。大事なのはその後だろ」
アーシィは皆の視線が自分に集中しているのがよく分かった。かなり緊張しながら矢をつがえた弓を引きしぼる。手を離すと飛んで行った矢は的まで届かず地面に落ちた。そう、地面に突き刺さりさえしない。残った矢を持ち上げたところで、女性の声が少年の動きをさえぎった。
「あんた本気かい? ハンティングの有段者に? なめるにもほどがあんだろ。そんな気分ならやめちまいな」
「……!?」
そこまで言われるとは思ってなかったアーシィは、弓と矢の両方を取り落として目を見開いた。
「おい!! ナタリー! どういうことだ! どれほど出来が悪くてもそこまでけなされるいわれはない! 今すぐ取り消せ!!」
アーシィは逃げるように射場から駆け出していった。