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第二部は第一部に合体させました。
もしよろしければ第一部のラストから引き続きご覧ください。
小学校も中学も高校も、この町には一つしかない。
アーシィは獣と別れた次の日から、ごく普通の小学生に戻っていた。以前と違うところと言えば、ペットショップに行かなくなったことくらいだ。そうして小学校を無事に卒業し、中学に上がってハンティング部に入った。銃の扱いは高校に入ってからしか許可が下りないため、弓矢を選択した。近距離の武器は何だか違うような気がしたのだ。小刀使いの父親は残念がっていたが……。
「でも、全然当たらねーじゃんお前の矢。持つ意味あんの?」
ざくっ。と心に言葉の矢が突き刺さった。その痛いツッコミは同じ部活に入った同級生からのもの。
そうなのだ。アーシィは練習には人一倍真面目に取り組んでいるのだが、動かない的にすらろくに当てることができず、もちろん動く獣にもまだ一度も当てたことはないという有様だった。いっそ魔法に転向しようかとも考えたが、遠くにいる標的に狙いを定めるのは魔法も弓矢も同じだと顧問に言われ、進められなくなってしまった。
「ああ、そもそも力づくで捕まえるなんて向いてないんだ。早くエストに会いたいな…」
「出たよ口ぐせ。エストに会いに行く時のために役に立ちそうだからハンター技能を身につけたいんじゃなかったのか?」
頭を小突かれて、それまでかげっていた表情が少し凛々しいものに変わる。膝を抱える腕に寄せた口元が微かに笑う。
「そうさ。一人で旅をしてフィアンタまで行きたいって言ったら、親から付けられた条件なんだ。ハンター技能有段者になったら一人前と認めてあげるって。そうしたら、どこでも好きな所に行きなさいってね」
「そしたら頑張るしかねーな。ほら矢筒」
「ありがと……短剣で順調に級を進めているナッチに取ってもらった矢なら、今日は少しは当たるかなあ」
「情けねーこと言うなよ。当たるも実力、当たらないも実力だぞ」
「くっそぅ。痛いなあ」
アーシィは苦笑いを浮かべながら弓矢を手に立ち上がった。
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部活が終わってから家に帰ると、もう母親は夕飯の支度を済ませている。小学生の頃は寄り道さえしなければアーシィが一番最初に帰宅していた。進学しただけで、変われば変わるものだとアーシィは思う。
「お帰りなさい。今日はどうだったの? 当たった?」
「う……」
「ほら〜。もういい加減、観念して白神格闘術に転向なさい。お母さんが一から教えてあげるわよ?」
「だ、だからあ、部活の中でやりたいんだってば」
白神格闘術というのは白神神殿で加護を受けて治癒魔法を使えるようになる代わり、刃の付いた武器が使えなくなることから代用として編み出された格闘術だ。何気ないツッコミが気絶を呼び、本気の叱りが全治一ヶ月になってしまう母の凶行の数々はそこからきている。父親に言わせれば、『絶妙な手加減』ということになるのだが、あれは惚れた弱みなのだろうとアーシィは見ている。
「もー、つれないんだから。おやつあげないわよ?」
「わぉ、蒸しパンだ! 手作りおやつめずらしい。いただきまーす」
「晩ごはんの前だから、一個だけね。召し上がれ」
好物の蒸しパンを頬張って、アーシィは毎日おやつを食べられるなら格闘術もありかなと天井を眺めながら考えていた。