プロローグ
「知り合いの子どもを預かって欲しい??」
もうすぐ30歳、20代とももうすぐお別れになるのだと寂しさを覚え出した2月中旬。普段連絡などあまりしてこない母親から唐突に電話がかかってきたかと思えば、内容もこれまた突飛なわけで。
「えぇ…普通に嫌なんだけど…。というか、なんでウチなの?」
流石に二つ返事はできないし、なんなら今すぐに断って通話を終了したい。が、そうとはいかないらしい。
どうにも、その知り合いという人物は近々海外赴任で日本を離れることになるそうだ。で、その知り合いの子どもたちは春から高校生という多感な時期にいきなり海外に一緒に連れて行く決断ができなかった。預けれるほどの信頼関係が築けていた相手がこちらの母だったため、依頼が来た…そうなのだが…
母が現在住んでいる場所が少し遠く、高校までの移動距離が長くなってしまい条件的に厳しいということで、こちらに白羽の矢が立ったというわけのようだ。
「確かにこっちのマンションなら部屋に余裕はあるけどさ。いきなり赤の他人と一緒に生活してくれーってなかなか難しくない?こっちとしても、相手側の子たちからしてもさ。」
自分だったら…と考えたら、正直に言って拒否してしまう。相手のことが嫌いとかそう言ったわけではなく、相手の生活の邪魔をしてしまう気まずさや申し訳なさ、こちらの生活に干渉される面倒臭さ、様々な要因が出てくるのだが…
「マジでかぁ」
なんと相手側の子ども【達】は了承しているとのこと。加えて、預かって欲しいのは1人ではなく2人ということを今更ながら伝えられた。母よ、重大なことはもっと最初に言ってください。
「拒否権を行使してもよろしいでしょうか。…はい、そうですか、ダメですか。」
結局、ゴネようにも拒否ろうにも、母の中で既に決定事項になっているのを感じ、諦めるのが吉という雰囲気を察した。ああ、我が城が。
「…わかりました。引き受けます。」
というか引き受けるしかない状況に思わず溜息が出る。引越し等の詳細は後日メールで連絡するとのことで、今回の通話は終了。なんだかどっと疲れた気がする。思わず天井を仰いで大きく息を吐いた。
「とりあえず空き部屋の掃除と荷物の移動をしとかなきゃだなぁ。後は大家さんに一応報告もかねて連絡か。」
このあとしなければいけない作業を確認しつつ、温めていたのをすっかり忘れていた晩御飯を再度温め直す。
ブーンと電子レンジの機械音が鳴り響くキッチンで、考えを巡らせる人物の名前は、桐嶋忍。もうすぐ30歳。ごく普通に社会人をしている少しオタク気質な一般男性である。
「そういえば相手の子ども達の名前とか聞くの忘れてた…ま、いいか。次連絡してきたときに確認すれば。」
温まったご飯を取り出し、リビングに移動する。
さっさと食べてのんびり携帯を弄ろう。なんて考えをしていたのだが…この時、名前の確認をしなかったことを後々後悔することになるとも知らずに…