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いつもと変わらない、街。人。空。
迫り来る敵。
そして隣には、私の相棒。
「行くぞオメガ」
「うん、アルファ」
お互いに呼び掛け合い、砕けた笑顔を見せる。
一体これで何回目のやり取りだろう。でも関係ない。
この時が、この瞬間が私の人生で一番の幸せなのだから。
「ヴオォォオォオオ…」
こちらに気づいたのか、重く、低い唸りをあげる“敵”。
空中を不気味に漂い、こちらの出方を窺っている。
これが私達の、いつもの日常。
『きっと一生続くのだろう』
そう信じて疑わず、私は彼女と共に、今にも暴れだしそうな敵へと立ち向かって行った。
◆
「いや、雑!」
ひとしきり仕事を終え、帰路に着くアルファとオメガに掛けられた言葉は、意外にも辛辣なものだった。
「ちょっとそれ酷くない?」
「ちゃんと殲滅したよ?」
アルファ達も負けじと抗議をする。しかし彼女・イコールは、通信電話の向こうで御立腹であった。
「誰が“街のど真ん中で殲滅しろ”って言った?私は市街地の外の“旧市街地”で殲滅しろって言ったの!お陰様で市街地が、死骸と血だらけじゃないの!」
「うわぁ、ダジャレかよ」
「うっさい!とにかく、今後はこうならないように気を付けなさい!」
イコールはそう捲し立てると、通信の回線を勢いよく切った。
ツー、と小さいノイズが虚しく鳴り響いた。
「…街の後片付けはやってくれるのかな」
大事なことを聞きそびれたような気がする、という顔でオメガがアルファの顔を覗くと、アルファは気にも止めない様子で笑いながらオメガの肩を叩いた。
「大丈夫、大丈夫!いざ頼まれたって私達の“能力”なら朝飯前だろ?そう気にしなくていいって!」
「いや、それはそうだけど…作業員さんの労力とかの方が気になるっていうか…ていうか私達、今から現場に行った方が良いのでは…」
そこまで言いかけるとアルファは笑いながら
「オメガは心配性だなぁ!」
と、まるで「行きたくない」と遮るように、オメガに抱きついた。
「もう…」
アルファの身勝手さに呆れた溜め息をつくオメガ。
しかし彼女はこの瞬間、とてつもない幸福を感じていた。
「でも、そうだね。アルファ」
「ん?」
「私の中の心配を中和してくれるのは、アルファだけだよ」
そう言うとオメガは、自身に抱きつくアルファの腰にそっと手を回し返した。