プロローグ
―気が付いたら、そこは全てが終わった後だった。
先ほどまで綺麗に並んでいたビル群は無惨にも砕け散り、空中には砂塵と、何かのバラバラになった残骸が風に乗って浮遊している。
私がこの街で唯一好きだった、綺麗な川が流れる河川敷も、ゴミと瓦礫の侵略によってその原型を止めていなかった。
何故?どうしてこうなった?
この有り様になる前、自分は何をしていた?
ふと自分の手を見下ろすと、そこにあるはずの自分の手は存在しなかった。
左と右、両手共に手首から先がまるでガラスを割
ったような切断面を残して失くなっていた。
「―――ッ」
言葉にならない悲鳴とはこの事か。
いや、実際に声は出ていなかった。
「――」
私の喉は潰れていた。
声が出ないほどに、喉がボロボロに崩れていた。
何で、どうして。
追い討ちに追い討ちをかけるような絶望が次々と私の精神を抉る。
どうしてこうなったのか、記憶も定かではない。
ただ一つだけ確信していることがある。
この“破壊”の規模は、こんな“破壊”ができるのは、私が知る限りではこの世でたった一人しかいない。
そこまで考えた時、ふと私の視界に何かが映り込んだ。
瓦礫が散らばる地面に横たわる、一人の少女の姿。
「ァ゛…」
潰れてもう声が出せないはずの喉から絞り出される悲鳴は、この世の理不尽に対する私の精一杯の反抗だった。
「…ァ゛ァ゛…ァ゛ァ゛ァ゛…!」
手も喉も、他の部位もボロボロに崩れていく身体を引き摺って、その少女のもとへと向かう。
直感的に分かっていた。先程まで失われていた記憶も徐々に、少女に近づくにつれて“再生”されていく。
少女は死んだのだ。
私を庇い、そして私に“触れてしまった”せいで。
声にならない声を絞り出し、私は少女の頬にぽたぽたと涙を垂らすしかなかった。
私が一体何をした。
何も分からない。
何も考えたくない。
あまりのショックに思考を止めたくなった。
このまま消えてしまいたい。
消えたら楽になれるかな。
これが私の招いた結果なのだとしたら、もういっそのこと…。
そこまで思い詰めた時、背後でザリ、と地面を踏む音が聞こえた。
「…オメガ」
振り返ると、そこには銃を構えた“誰か”が立っていた。
「よく頑張ったな」
その顔を見るなり私はすぐに知っている人だと認識した。
そうだ、そうだよ。“彼女”も言ってじゃないか。
最後には必ず、“この人”が助けてくれるって。
助けて―――。
「…パ…」
私がその名を呼びかけると同時に、「パァン」と銃声が鳴り響いた。
ボヤける視界にうっすらと硝煙が映る。その硝煙が立ち上る後を追うように私の視界は徐々に上へ、上へとフェードアウトしていった。
最後に瞳に映った空には、禍々しい亀裂が、稲光のごとく広がっていた。
ここは…どこなの…?
私は…一体…