密室の罠
ここは、どこだ?
眠りから覚めた筈が、何も見えなし動けない。目隠しをされ、窮屈な場所に押し込められた様な状態だった。
おかしい、普段なら敵襲にすぐ気付く。いや違うな。身近な者が魔王に操られた……か。
油断した。
特殊な縄はグッと体を締めつけてくる。手さえ動けば聖剣を抜けるのに……と思った瞬間、ハッとした。
朦朧としていた頭が冴えてくると、隣に誰かの気配を感じた。
「あの……勇者様?」
心配そうに囁く、か細い声が聞こえてきた。
「っ! その声は姫ですか!?」
「……はい」
自分の不甲斐なさに唇を噛んだ。
「姫、ご心配にはおよびません。必ずや私がお助けしますので!」
「ありがとうございます、勇者様」
ふとした拍子に肩が触れる。
「ひ、姫も目隠しを?」
「いいえ」
「では、ここが何処か分かりますか?」
「そうですね……狭い密室。移動中の様です」
心なしか震えている姫の声。急いで脱出方法を考えなければ……。
馬車にしては揺れが少ない。
それに、気になるのはこの暖かさ。もう冬だと言うのに異常だ。
もしかして、馬車ごと転移させられているのだろうか?
まさか……魔界。焦りから額に汗が滲む。
――すると突然、馬車は止まった。
「勇者様! 誰か来ますわ」
「姫、どうか私の背後へ」
ガチャッと扉が開き、冷気が襲ってくる。
音のした方へ体を向け姫を庇う。
「勇者よ、姫を助けたくば試練に耐えてみせろ」
耳元で、低い男の声がきこえた。
「くっ、それに耐えれば姫には手を出さないのだな?」
「約束しよう」
「姫、私は絶対に戻ってきます!」
「勇者様……信じています」
そして、目隠しを外すと馬車から降ろされ、引き摺られるようにその場を離れた。
◇
バタンと扉が閉まると、少し冷えた車の中はまた暖かくなる。
「美姫ちゃん、ほんっと面倒な息子でごめんね!」
「はは、全然大丈夫ですよ〜」
助手席から話しかけられ、苦笑しながら返事をした。
寝ぼけたまま車に乗せられた幼馴染の勇太は、毎度面白い。
「予防接種の度にこれじゃ、疲れちゃうわよね」
「慣れてますから気にしないで下さい。勇太くん注射苦手ですもんね」
「美姫ちゃんがいて助かったわ〜」
「でもあの調子だと、おじさん病院で苦戦するんじゃないですか?」
「いいの、いいの。厨二好きはあの人譲りだから。それより、美姫ちゃん勇太の彼女にならない?」
「え〜! そんな、私なんて」
密室の車内では女子トークに花が咲いていた。
そう、勇者への本当の罠はこれから――かも?
お読みくださり、ありがとうございました!
【補足】
目隠し……勇太が愛用しているアイマスク
特殊な縄……シートベルト
誤解のないように念のため(笑)