海の女神ポセイドン
午前三時十五分。
レイジは自分の部屋で新しいロボット型魔道具を製作していた。大人の女性の姿で。
今、彼は複数の製作系スキルを発動し、徹夜で魔道具を作っているのだ。
大人の女性の姿になっているのは、女性専用製作系スキルを使うため。
「ご主人様。コーヒーを持ってきました」
「ああ、ありがとう」
ハデスからコーヒーを受け取ったレイジは一口飲む。
「うん…おいしい。淹れるのうまくなったな」
「ご主人様から教えてもらったおかげです。…少し休まれては?」
「そういうわけにはいかない。ここで頑張らないと教皇には勝てない」
レイジは邪神教の教皇に勝つために、あらゆる準備をしている。
「それにあと少しで完成するんだ。だから……死ぬ気でやる」
珈琲を飲み干した後、レイジは作業に戻った。
そんな主の背中を心配な表情でハデスは見つめる。
◁◆◇◆◇◆◇◆▷
「終わった~……」
ようやく魔道具を完成させたレイジは、後ろに倒れる。
彼の目の下には隈ができており、デジタル時計には午前八時三十分と表示されていた。
新たに作った魔道具は、蒼い装甲に覆われた人型ロボット。
手や脚、背中や肩などには機関銃やミサイルポッド、ロケットランチャーなどの重火器が装備されていた。
「お疲れ様です。後は私が」
「ああ、後は頼むハデス。俺は別の準備を―――」
「ダメです」
ハデスは両手でレイジを持ち上げ、ベットに運んだ。
「お、おい。ハデス?」
「今は寝てください。休むのも大切です」
「だけど」
「寝・て・く・だ・さ・い」
「わ、分かったから。顔を近づけるな」
レイジは仕方なく目をつむり、眠ることにした。
◁◆◇◆◇◆◇◆▷
スースーと吐息を立てて眠るレイジ。
そんな彼を見て可愛いと思ったのか、ハデスは微笑みを浮かべる。
「しばらく寝てください。ご主人様」
レイジの頭をハデスは優しく撫でた。
その時、ハデスの頭の中になにかが流れ込んできた。
「これは……」
頭に流れ込んできたのは、無数の鎖に縛られた巨大なドラゴンの姿だった。
(…そういえばご主人様の実父は竜人族と聞きましたが、これは……)
レイジから感じ取ったドラゴンの力。
その力はまだ眠っているが、近いうちに目覚めようとしている。
「どうやらご主人様は私が思っている以上に凄いお方のようですね…」
ハデスは頬から一筋の汗を流した。
◁◆◇◆◇◆◇◆▷
「ん~、よく寝た」
ベットから起き上がったレイジは、背伸びをする。
「ご主人様…」
「うわぁ!ハデス…ずっといたのか?」
「はい。あの……」
「どうした?」
「……いえ、なんでもありません」
僅かに視線を逸らすハデス。
そんな彼女に違和感を感じたレイジは、首を傾げる。
「本当にどうした?」
「いえ……そんなことより私の妹—――ポセイドンが復活させることに成功しました」
「おお、そうか。今、会える?」
「はい。ポセイドン、入りなさい」
ハデスがそう言うと、部屋の扉が開き、一人の女神が入ってきた。
その女神は青い軍服を着ており、瞳を髪も蒼い。
そして一番の特徴は顔がイケメンというところ。
「へぇ~…ポセイドンってカッコイイ系の女神なんだ」
「貴様が光闇レイジか」
「え?あ、うん。そうだ」
「ほう……」
ポセイドンは興味深そうにレイジを見る。
「ふむ…幼い少年と聞いていたんだが、なぜ女の姿をしている?」
「あ、ごめん。スキルで変身していたの忘れていた」
レイジはパチンと指を鳴らした。
すると彼の身体が大人の女性から幼い少年へと変わった。
「ほう……それが本当の姿か」
「まぁな」
「ではまず自己紹介をさせてもらおう」
ポセイドンは背筋を伸ばし、口を動かす。
「私の名はポセイドン。海の女神だ。姉上とアテナから全て聞いた。貴様のおかげで私は復活できた。感謝する」
「はぁ……」
とても偉そうに話すポセイドンに、レイジは少し呆然とした。
「すみませんご主人様。ポセイドンはいつもこんな感じなんです」
「そうなのか……」
「さて光闇レイジ。命を救ってもらったからには、恩を返さなければならないが……その前にやらなければならないことがある」
「それはなんだ?」
「光闇レイジ。私と―――」
「決闘してもらう」
「…………は?」
いきなり決闘と言われ、レイジは混乱した。
「え?なに…どゆこと??」
「貴様が私の主に相応しいか、見定めさせてもらう」
「いや、なんでそうなる!?」
「姉上とアテナが主と認める貴様がどれほどの実力か知りたい」
「いや……俺はあんたに勝てないぞ?」
「勝つ必要はない。実力を示すだけでいい。それがいやなら協力しないぞ」
「……分かった。決闘しよう」
ポセイドンに何を言っても無駄だと理解したレイジは決闘を受けることにした。
◁◆◇◆◇◆◇◆▷
赤花島。
そこは魔力を宿した彼岸花が大量に咲いた小さな島。
そんな島にレイジとポセイドンはやってきていた。
「ここでいいだろう。ここならどれだけ暴れても問題ない」
「無人島で戦うのか?」
「お前ら最高位の女神と戦う時は、全力を出しても問題ない無人島で戦うと決めれいるんだ」
レイジと最高位の女神の力は絶大だ。
本気で戦うだけで周囲の建物や山など吹き飛ぶ。
だから人に被害が出ないようわざわざ無人島に転移するのだ。
「さて……やるか」
レイジはスキルの力で肉体を成長させ、一瞬で戦闘服に着替える。
「ほう……それが貴様の戦闘服か。なるほど装備は良い……だが実力はどんな感じなのか、見せてもらおう」
「ああ。そうさせてもらおう」
レイジはポセイドンを見ながら、考える。
(ハデスの妹にしてアテナの姉。髪の色からして水属性……普通のやり方をやってもきっと俺を認めないだろう。なら……最初から全力で行くしかない)
レイジはスキルを発動する。
「スキル〔性転換〕」
レイジの身体が浅く輝き出し、彼の胸や尻が大きく膨らむ。
白銀の髪は腰まで長く伸びる。
女性の姿になったレイジを見て、ポセイドンは眉を顰めた。
「なぜ女になる?」
「本気を出すためだよ。エクストラスキル〔戦女神化〕!」
次の瞬間、レイジの身体が眩しく輝き出した。
やがて光が収まると、そこにいたのはドレスアーマーを着た白銀の女神。
彼女の右手には美しい長剣が握り締められていた。
「……スキルの力で肉体を女神にしたのか。面白い」
ニヤリと笑みを浮かべるポセイドンは左手をレイジに向ける。
「まずは小手調べだ」
ポセイドンがそう言った直後、彼女の掌から大量の水が―――いや、海が放出された。
大きな津波がレイジを呑み込もうとする。
だが……これぐらいでレイジは止まらない。
「ハアァァ!」
レイジは長剣を横に振るい、海を吹き飛ばす。
「なるほど……そのスキルの力は途轍もないようだな。なら、これならどうだ」
ポセイドンが指をパチンと鳴らすと、レイジの周囲に水の槍が無数に現れた。
何百ものの水の槍は一斉にレイジに襲い掛かる。
迫りくる無数の水槍をレイジは、
「舐めるな!」
長剣で全て切り裂いた。
「…ほう」
「次はこっちの番だ」
レイジは一瞬でポセイドンの背後に移動。
そしてレイジは音速を超えた速さで長剣を振り下ろした。
しかし、
「速さだけなら最高位女神クラス…だが」
神速の一撃をポセイドンは中指と人差し指で挟み、止める。
「他が甘い」
ポセイドンはレイジの腹に膝蹴りを叩き込む。
レイジは口から空気を全て吐き出し、長剣を離す。
「残念だったな」
「……まだ」
「?なんだ?」
「まだ終わってないぞ」
レイジがそう言った時、彼の身体が粒子と化して消えた。
「!分身か。本体は」
「ここだ」
「!!」
ポセイドンは声が聞こえた方向に視線を向けた。
視界に映ったのは、短剣と合体したような拳銃の銃口。
その銃口から虹色に輝く極太光線が放たれた。
「クッ!」
ポセイドンはぶ厚い水の壁を生み出し、光線を防ぐ。
「流石は最高位の女神。これぐらいじゃあ倒せないか」
光線を放ったのは拳銃双剣型魔道具〘血鬼〙を装備したレイジだった。
「今のは肝が冷えた……それが貴様のメイン武器か」
「ああ。俺は長剣や大鎌よりも短剣二本のほうが性に合ってる」
アニメの光闇レイジが使っていた武器は大鎌だった。
だが前世が料理人だったと思い出した今のレイジには、包丁に似ている短剣のほうが合っていた。
「ほら……いくぞ!」
レイジは〘血鬼〙を構え、ポセイドンに高速接近。
そしてレイジは〘血鬼〙を振るい、怒涛の連撃を放つ。
迫りくる無数の斬撃。
それを前にしてポセイドンは―――、
涎を垂らしながら、笑った。
「!!?」
なぜ笑うのか?なぜ涎を流すのか分からなかったレイジは一瞬、困惑する。
「良い。最高に良い!これこそ戦い!これこそが決闘!!貴様と―――いや、主殿と戦えて最高だ!これなら……少し本気を出しても問題ないな」
レイジの連撃を全て躱したポセイドンは、囁くような声で呟く。
「来い、〘海神の槍〙」
空中に蒼い紋様が出現。
その紋様から三又の槍が現れた。
その槍を見て、レイジは嫌な予感を感じた。
「まずい!」
レイジは双剣をクロスさせ、防御態勢に入る。
さらに複数の防御系スキルを発動した。
「受け止められるなら受けてみろ、主殿!」
ポセイドンは笑みを浮かべながら、刺突を放つ。
彼女の槍撃がレイジの〘血鬼〙に直撃。
直後、〘血鬼〙が粉々に砕け散り、レイジの身体が吹き飛んだ。
吹き飛ばされたレイジは山に衝突し、口から血を吐く。
「ガハッ!つよ…すぎだろ」
気を失いそうになったレイジ。
だが気絶することは許されなかった。
「まだまだこれからだろ?主殿!!」
「!」
たった数秒でレイジのところまでやってきたポセイドンはもう一度、刺突を放つ。
慌ててレイジは槍の刺突を紙一重で躱す。
(やばい!こいつ…俺を殺す気で来てる!)
どういうわけか殺すつもりで攻撃してくるポセイドンに、レイジは混乱した。
だがすぐに気持ちを切り替え、今の状況を解決する方法を考える。
(今のポセイドンは暴走状態みたいなもの。なら……止める方法は一つ)
レイジはスキル〔装備装着〕を発動。
銀と黒の短剣二本―――〘陽月〙を両手に装備し、構える。
(一度、ぶっ飛ばして正気に戻す)
レイジは双剣を高速に振るい、斬撃を放つ。
閃光の如き速さで放たれた斬撃をポセイドンは〘海神の槍〙で防ぐ。
「速いな!」
ニヤリと笑みを浮かべ、ポセイドンは瞳を輝かせた。
「もっと見せてくれ!」
ポセイドンは槍から怒涛の刺突を放つ。
襲い掛かる連続刺突をレイジは〘陽月〙で全て受け流す。
(すごい……これが〘陽月〙の力。身体が速く動く!)
四種の龍神器の一つ、〘陽月〙の力によってレイジのあらゆる動きが速く強化されていた。
今、エクストラスキル〔戦女神化〕と双剣型魔道具〘陽月〙のおかげでレイジは本気を出しているポセイドンと戦えていた。
「素晴らしい!もっと…もっと私に力を見せてくれ!」
「そんなに見たいなら見せてやるよ!」
槍と双剣を何度もぶつけ合うポセイドンとレイジ。
武器同士がぶつかる度に火花が飛び散り、衝撃波が発生し、地面に亀裂が走る。
(クソ…このままじゃあ埒が明かない。なら!)
ポセイドンを止めるために、レイジは限界を超えることにした。
「ユニークスキル〔神炎鳥〕!オーバースキル〔炎魔神化〕!」
二つの強力なスキルを発動した直後、レイジの身体が激しく燃え上がった。
頭から二本の角が伸び、腰から長太い尻尾が生える。
両腕と両脚が赤く輝き、背中から炎の翼が生える。
炎の怪物と化したレイジは双剣に炎を纏わせ、斬撃を放つ。
炎の斬撃はポセイドンの〘海神の槍〙を溶かし、切断した。
それを見てポセイドンは危険を感じ、レイジを蹴り飛ばす。
「いってぇ…流石に武器を失うと焦るか」
ポセイドンの武器を破壊したレイジはニヤリと笑みを浮かべた。
対してポセイドンは、
「ハ…ハハ……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
笑い出した。
「本当に……本当に素晴らしい!武器を壊されたのは生まれて初めてだ。主殿になら見せてもいいかもな……奥の手を」
「奥の手?」
嫌な予感を感じながら、レイジは双剣を構える。
「真化」
ポセイドンがそう呟いた直後、壊されていた〘海神の槍〙が蒼く輝き出した。
壊されていた槍は一瞬で直り、柄が長く伸び、槍頭が形を変える。
新たな姿へと変わった〘海神の槍〙。それを見て、レイジは汗を流す。
「なんだよ……それ」
槍から感じる強い力。
レイジには分かる。今の〘海神の槍〙は先程の時よりも強力なものになったと。
「一部の女神にしか使うことができない力…真化。分かり易く説明すると武器を女神にする能力だ」
「武器を…女神化だと!?」
「話はこれぐらいにしよう。それより……これをお前はどう防ぐか」
ポセイドンは女神と化した〘海神の槍〙を構える。
「見せてくれ」
笑みを浮かべながら、ポセイドンは地面を強く踏み込み、槍を素早く…そして強く突き出した。
迫りくる槍撃をレイジは〘陽月〙で防ぐ。
しかし、
(だ…だめだ。受け止きれない!)
レイジの身体は後ろへと吹き飛び、地面の上を何度もバウンドした。
そして大きな硬い岩に激突する。岩は砕け、レイジの口から血が流れる。
(これがポセイドンの…力……勝てる気が…し…ない…)
レイジは双剣を手から離し、意識を失った。
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