覚醒
「ここは……」
気が付いた時には、レイジは白い空間に立っていた。
そこはなにもなく、ただ白いだけの場所だった。
「ここは…本当にどこだ?なぜこんなところに」
「ここはあなたの心の中よ、レイジ」
「!!」
突然聞こえた女性の声。
レイジが声が聞こえた方に視線を向けると、そこには一人の女性が立っていた。
腰まで伸びた白銀の髪に、整った顔立ち。
引き締まったお腹に、大きく膨らんだ胸とお尻。
そしてサファイアの如く美しい蒼い瞳。
とても美しく、綺麗な彼女はどこかレイジに似ていた。
「やっほ~、レイジ。こうして会うのは二回目だね」
フレンドリーに話をしてくる女性。
レイジは戸惑い、言葉に詰まる。
「あれ~どうしたの?私のこと分からない?」
「えっと…分かるけど、一応確認させて。あなたはエミリア…さん?」
「ピンポンピンポ~ン!正解!私こそがエミリアさんです!そしてあなたのお母さんです!!」
「えっへん!」と胸を張るエミリア。
彼女のテンションに追いつけず、レイジは呆気にとらえた。
「うんうん!私に似て可愛くてナイスボディしてるね娘よ」
「いや、今は女だけど…一応俺、男だから」
「たっは~、そうだった!でもどっちでもいっか!」
「いやよくないから。ぜんぜんよくないから」
「ナイス突っ込み!」
グッと親指を立てて、エミリアは笑顔を浮かべた。
これが自分の本当の母親なのかと驚いていたレイジは、目頭を指でほぐす。
「色々突っ込みたい気持ちはあるけど、まず聞くね。なんでここに俺はいるの?」
「うん。それはね、私が呼んだの」
「えっと、あなたが?」
「もう……あなたじゃなくて、エミリアママって呼んで」
「いや、それは」
「呼んで」
「いや、だから」
「呼・ん・で!」
「……エミリアママが俺をここに呼んだんですか?」
強い圧に圧されて、仕方なくレイジが呼ぶと、エミリアは満足そうな笑顔を浮かべる。
「むふふ~そうだよ。可愛い息子に私の力をあげようと思ってね」
「力?」
「そ。その力を使えばあの魔獣を倒し、お姉ちゃんを…レイジのもう一人のお母さんを助けることが出来るよ」
「!それは本当!?」
「本当本当……ついでにあなたの右目も治してあげる」
そう言ってエミリアは人差し指を、レイジの額に当てた。
するとレイジの中に力が流れてくると同時に、右目に負っていた火傷が消えていく。
「はい、これで完了……これでお別れだね」
「お別れ?」
「そ……こうやって話せるのも、こうやって会うのももう終わり。私はこのあと消えちゃうから」
「!?そんな、折角会えたのに」
「ごめんね。私はもともと残りカスみたいなものだから。いつ消えてもおかしくなかったの」
「そんな……」
せっかく会えた生みの親。
その人と別れるのは、レイジにとって悲しい事だった。
「本当に……お別れなのか?」
「…ごめんね。本当はもっと話したいんだけどね」
眉を八の字にするエミリア。
彼女の足の先から、銀色の粒子へと変化し始めた。
「レイジは私にとって大切な子供。例え消えてもレイジの幸せを願ってるよ」
消えていくエミリアは微笑みを浮かべて、レイジの頬を優しく撫でる。
「大好きよ、レイジ」
そう言い残して、エミリアは粒子と化して消え去った。
残されたレイジは、蒼い瞳を宿した右目から一筋の涙を流す。
「俺も…大好きだよ」
◁◆◇◆◇◆◇◆▷
「はぁ…はぁ…はぁ…」
片膝をつけて、口から荒い息を漏らす光闇愛花。
彼女の身体はあちこち傷ついており、大量の血を流していた。
纏っていた鎧は皹が走っており、持っていたメイスは砕かれている。
「もう…終わりなの?」
愛花を冷たい目で見下ろすスリープ。
彼女は片手から水の斧を生み出し、上段に構える。
(ここまでみたいだね……)
死を覚悟した愛花は、ゆっくりと目を閉じる。
「バイバイ…人間」
目の前の敵を真っ二つする勢いで、スリープは斧を振り下ろした。
その時、愛華とスリープの間に人影が現れた。
人影は手に持っていた銀色の長剣で振り下ろされた斧を弾く。
弾かれた反動でスリープは後ろに下がり、驚愕する。
「君は!」
「よぉ、スリープ。ちょっと引っ込んでてくれ」
そう言って人影は強烈な蹴りを放ち、スリープを蹴り飛ばした。
そして人影は目を閉じている愛花に声を掛ける。
「お母さん、大丈夫?」
「ん?もしかして…レイくん?」
愛花はゆっくりと目を開けて―――驚愕した。
「レ、レイくん……その姿は!」
愛花の視界に映し出されたのは、銀色のドレスアーマーを着た銀髪美女の姿だった。
手や足などに覆われた装甲に、長いスカート。
右手には美しい長剣が握り締められており、頭には銀色のティアラが乗っていた。
その姿は言葉で表すなら、戦の女神。
「どうして…レイくんがその力を。それに右目が」
愛花が一番驚いたのは、レイジの右目だった。
潰れたはずの右目が治っており、しかも青い瞳を宿していた。
その青い瞳はサファイヤの如く美しい。
「この力と右目は貰ったんだ。もう一人のお母さんに」
「それって……」
「話はまた後でにしよう。今は…」
レイジは歩み寄ってくるスリープに視線を向ける。
「なんなのその力……さっきまで君、倒れていたよね?なんで元気になってるの?なんで死んでくれないの?」
怒りを宿した静かな声を発しながら、レイジを睨むスリープ。
彼女の身体から蒼と黒のオーラが発生していた。
「君は…何者なの?」
「…前も言ったろ。俺は死神。お前を殺す存在だ」
長剣の剣先をスリープに向け、レイジは宣言する。
「調理してやるよ、スリープ」
「……そう、なら私は君を永遠に眠らせてあげるよ」
瞳を不気味に輝かせたスリープは、掌から水の大鎌を生み出した。
凶悪な鎌を構え、スリープはレイジを睨む。
「始めようか、人間」
「ああそうだな、魔獣」
二人は同時に駆け出し、一瞬で距離をつめ、武器を振るった。
長剣と大鎌が激突し、衝撃波が発生。
その後も何度も何度も武器同士をぶつけ合う。
魔獣の女神と激しく戦う光闇レイジ。
彼の勝利を、愛華は強く祈る。
「なんなの…本当になんなの君は!もう死んでよ!」
「悪いけど、そういうわけにはいかないんだよね。俺は抗わなくちゃいけないんだ。己の運命に!」
レイジは強く一歩踏み込み、長剣を力強く振るった。
重い一撃が水の大鎌を弾き飛ばす。
「なっ!」
武器を失ったスリープ。
そんな彼女に向かって、レイジは長剣を振り下ろした。
銀色の一閃。
素早く、美しい斬撃がスリープの胸を斬り裂いた。
傷口から赤い血が噴き出す。
「がっ!」
「スリープ……お前はここで死ぬんだよ」
赤い瞳と青い瞳を輝かせた白銀の死神は、長剣に全てのスキルを付与する。
膨大な力を宿した長剣は、銀色に眩しく輝き出す。
「これで終わりだ」
レイジは横に剣を振るい、一閃。
白銀の一撃を受けたスリープは、口から大量の血を吐き出し、地面に両膝をつける。
「この…私が……」
そう言い残して、スリープは地面に倒れ、命を落した。
周囲で戦っていた魔獣達は動きを止め、死体と化した魔獣の女神に視線を向ける。
そして……ゆっくりと振り返り、その場から去っていった。
魔獣達が見えなくなった後、レイジは地面に座り込み、ため息を吐く。
「終わった~」
魔獣大災害進行を止めることが出来て、レイジは安堵した。
その時、
「レイくん!」
突然、愛花がレイジに抱き付いた。
「うわぁ、お母さん!?」
「よかった…無事で。本当に良かった」
涙を流しながら、レイジを抱き締める愛花。
どうやら母親を心配させてしまったと思ったレイジは、眉を八の字にする。
「ごめんね、お母さん」
「本当だよ。妹や義弟だけじゃなく、息子まで死んだら私…」
「大丈夫だよ、お母さん」
「え?」
「俺は必ず帰る。お母さんたちの元に。なにがなんでも……」
「レイくん」
「帰ろ…お母さん。そしてご飯を食べよう」
「うん!そうだね」
二人は手を繋ぎ、立ち上がった。
そして彼らは向かう。帰る場所に。
この時、レイジは気付いていなかった。
自分が世界を揺るがしてしまったことに。
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