エンドロス
「まったく……今度は厄介な奴が来たな」
額から嫌な汗を流す光闇レイジ。
彼が警戒するのは、突然現れた黒髪の女神。
その女神は一糸まとわぬ姿をしており、白い肌が露になっていた。
だがレイジは彼女の裸を見ても、頬を赤らめて恥ずかしがったり、慌てたりしない。
今、レイジが抱いている感情は―――恐怖だ。
「主…あの女神の事。知ってるの?」
黒髪女神を警戒しながら、アテナがレイジに尋ねた。
「ああ、知っているよ。コイツはシャーラが作り出した戦闘女神型神話級魔道具—――〘エンドロス〙だ」
「〘エンドロス〙……物騒な名前だね」
「〘エンドロス〙は最高位の女神と同等の戦闘能力を持っている。しかもスキルや魔法の攻撃を無効化する。……スキルで戦う俺とは相性が最悪だ」
「つまり?」
「……俺達じゃ倒せない」
「そんな!」
「こいつを殺せるのは主人公だけだ。残念だけどな……」
絶対に倒すことが出来ない女神の化物、〘エンドロス〙。
戦っても勝てないと理解しているレイジは、アテナとルルアを連れて逃げようとした。
その時、ルルアが声を発した。
『いえ…勝ち目はありますよ』
「なに!?」
ルルアの発言に、レイジは目を丸くした。
〘エンドロス〙はアニメ、クイーン・オブ・クイーンの主人公でなければ倒すことが出来ない最強クラスのキャラクター。
そんな奴にルルアは勝てるといった。
レイジは信じられず、自分の耳を疑う。
「お前……〘エンドロス〙がどれだけやばいか知っているだろう?」
『はい。ですが……勝てない敵ではありません』
「本気で言っているのか?」
『この天才ハッカーが言っているんです。信じてください』
「……分かった」
レイジはルルアの言葉を信じることにした。
「なにをすればいい?」
『一分でいいですから、〘エンドロス〙の動きを止めてください』
「一分か……キツイガ、やってやるよ」
レイジは覚悟を決めて、銃双剣型魔道具—――〘血鬼〙を構える。
「さぁ、調理開始だ」
そう言ってレイジは脚に力を込めて、駆け出した。
閃光の如き速さで走る白銀の死神。
彼は〘エンドロス〙の懐に入り込み、〘血鬼〙を振るう。
双剣の斬撃を〘エンドロス〙は紙一重で躱し、右手を前に伸ばした。
すると〘エンドロス〙の周囲に幾つもの黒い穴が出現。
そこから太長い黒い触手が生えた。
無数の触手はクネクネと動きながら、レイジに襲い掛かる。
「ユニークスキル〔竜爪〕!」
レイジはスキルを発動し、双剣から光の五本の爪を形成。
竜の爪を伸ばした双剣で、レイジは迫りくる黒い触手達を全て細かく斬り裂く。
「……」
レイジの戦いを見ていた〘エンドロス〙は、両手に黒い双剣を生み出す。
そして彼女は一瞬でレイジとの距離を縮め、漆黒の双剣を振り回した。
嵐の如き怒涛の連撃を、レイジは双剣で受け流す。
しかし〘エンドロス〙の斬撃を全て受け流すことが出来ず、レイジの身体のあちこちに傷が出来る。
このままではまずい!と思ったレイジはバックステップして、〘エンドロス〙から距離を取った。
「クソ…強すぎるだろ、コイツ!」
敵の圧倒的な強さに、レイジは苦戦する。
(〘エンドロス〙……ここまで強いとは思わなかったな。これじゃ動きを止める前に、俺がやられる。仕方ない……アテナにも手伝ってもらうか)
一人ではどうにもできないと悟ったレイジは、アテナに協力してもらおうことにした。
「アテナ、悪いが手伝ってくれ」
「いいよ。お礼に主の臭いを嗅がせてくれるなら」
「なんでそうなるんだよ!別なのにしろ!」
「え~」
「え~じゃない!」
「む~…分かったよ。で、何をすればいいの?」
「完全機装を使う。ロボットの姿になってくれ」
「了解!」
レイジの指示に従い、アテナは女神の姿からロボットの姿へと一瞬で変わった。
紫色の分厚い装甲に覆われた人型ロボット。
四つのカメラが怪しく光る。
「行くぞ、アテナ!」
『いつでもどうぞ、主!』
「完全機装!」
レイジが覇気を宿した声で叫んだ。
するとアテナの身体が細かく分離。
分離したパーツはレイジの身体のあちこちに装着しき、鎧と化していく。
紫色の機械仕掛けの鎧を纏ったレイジは双剣を構えて、〘エンドロス〙を睨む。
「さぁ……続けようか。ユニークスキル〔竜翼〕」
レイジがスキルを発動すると、彼の背中から大きな光の翼が生えた。
その翼は銀色に輝いており、粒子を放出していた。
「いくぞ、〘エンドロス〙!」
光の翼を羽ばたかせて、レイジは飛翔。
天井ギリギリまで飛んだレイジは急降下し、〘エンドロス〙に突撃。
超高速で飛ぶレイジに向かって、〘エンドロス〙は漆黒の双剣を投擲する。
襲い掛かる双剣をレイジは〘血鬼〙で斬り壊す。
そして彼は〘血鬼〙を手放し、〘エンドロス〙の首と左肩を掴み、壁にぶつけた。
「今だ、ルルア!」
『はい!』
レイジが押さえている間、〘エンドロス〙の右肩に上ったルルアは身体からコードを伸ばした。
『ハッキング、開始します!』
ルルアの身体から伸びたコードが、〘エンドロス〙の頭に突き刺さった。
すると〘エンドロス〙の身体がビクン!ビクン!と痙攣を始めた。
『ハッキングが終わるまで、動きを止めてください!』
「分かってる!」
激しく暴れる〘エンドロス〙を必死に押さえるレイジ。
ルルアは己のハッキング能力で、〘エンドロス〙の脳を支配していく。
『よし、これで―――』
ルルアが勝利を確信した。
その時—――〘エンドロス〙の片腕がルルアの身体を貫いた。
『ガッ!』
「ル、ルルアー!」
『この…ぐらいで……私のハッキングは止まらないんですよおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』
大声で叫んだルルアは、身体から放電。
激しい稲妻が走り、レイジは吹き飛ばされる。
やがて放電が収まると、〘エンドロス〙はうつ伏せに床に倒れ、身体に風穴を開けたルルアは床に転がった。
「ルルア!しっかりしろ、ルルア!」
レイジはルルアを抱えて、声を掛けた。
しかし反応はなかった。
「そんな…ルルア」
動かなくなったルルアを、レイジは強く抱き締めた。
その時、
「あいたたた」
〘エンドロス〙が頭に手を押さえながら、ゆっくりと起き上がった。
レイジは〘エンドロス〙を睨み、戦闘態勢に入ろうとした。
すると〘エンドロス〙は慌てて、制止の声を上げる。
「ま、待ってください!落ち着いて!私です、ルルアです!」
「え?ル、ルルア!?」
〘エンドロス〙の言葉を聞いて、レイジは目を丸くした。
「本当に……本当にルルアなのか?」
「はい。そうです……多分」
「多分って……なんで〘エンドロス〙の中に?」
「恐らく、放電を起こした影響で私の意識が〘エンドロス〙の中に入ったんだと思います」
「ハ…ハハハ。まさかの展開だな」
レイジは苦笑しながら、その場に座り込んだ。
「とりあえず…一件落着かな?」
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