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ドラゴン

「はぁ…めっちゃ疲れた」


 月夜の惚気話から解放されたレイジは自分の部屋に戻り、ベットの上に仰向けに倒れた。

 すでに精神的疲労が溜まっており、何もできない。


「少し…眠るか」


 レイジはゆっくりと瞼を閉じて、眠りについた。


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


 吐息を漏らしながら眠るレイジ。

 そんな彼に一人の女性が布団を掛ける。

 その女性は長い銀色の髪を伸ばしており、サファイヤのような綺麗な蒼い瞳をしていた。

 彼女の身体は浅く銀色に輝いており、僅かに透過していた。


「ゆっくりと眠りなさい…レイジ」


 女性はレイジの頭を優しく撫でた後、粒子と化して消え去った。

 それを見ていた者は…誰もいない。


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


 十分睡眠をとったレイジは瞼を開けて、背伸びをする。


「んん~!良く寝た。疲れもとれたし……準備するか」


 ベットから下りたレイジはスキル〔装備変換〕を発動し、私服から戦闘服に一瞬で着替える。

 その戦闘服は装甲付きの灰色ボディースーツ。

 スーツの上には漆黒のジャケットを羽織っており、首には長い真紅のマフラーが巻かれていた。

 戦闘服へと着替えたレイジは、スキル〔成長操作〕を発動。

 彼の肉体が子供の姿から二十代ぐらいの大人の姿へと成長する。


「これでよしっと。ハデス~。そろそろ出発するから来てくれ」

「分かりました」

「出てくるのはっや」


 呼んだ瞬間、一秒も経たないうちにレイジの目の前に現れたハデス。

 最高位の女神は伊達ではないようだ。


「ご主人様に呼ばれたらすぐに行くのは、従者として当然です」

「ははは、それは頼もしいな。さて、それはそうと……アイツの居場所を突き止めるか」


 紫の毛糸玉が入った瓶を掌に召喚し、レイジはスキル名を告げる。


「スキル〔情報特定(じょうほうとくてい)〕」


 レイジの左目が浅く光ると、毛糸玉の構造や性能、そして作成者の居場所が彼の脳内に流れ込んだ。


「……奴の居場所が分かった」

「どこですか?」

「アフリカだ」


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


 自然豊かな広大な大地を、銀髪の青年—――光闇レイジは大型バイクで爆走していた。

 

「こういう広い所で運転するのは気持ちいな、ハデス」

『そうですね、ご主人様』


 大型バイクに変形したハデスと話しながら、レイジは猛スピードで目的地に向かう。

 視界に映る景色が次々と通り過ぎ、レイジの首に巻いてある長いマフラーが激しく揺れる。


(人形師との距離はまだまだあるな。もう少しスピードを上げるか)


 レイジがアクセルを回し、速度を上げようとした。

 その時、なにかが後ろから追いかけてきた。

 気になったレイジはバイクのサイドミラーで後ろを確認する。


「チッ……面倒な奴らが来やがった」


 舌打ちするレイジ。

 彼の後を追いかけてきたのは三体の人型の魔獣。

 LV6の魔獣達だ。


「間違いなく人形師の傀儡だな。仕方ない……ハデス。ここで奴らを潰す」

『了解しました』

「じゃあ行くぞ、機装」


 レイジがそう言うと、大型バイクになっていたハデスの身体が変形を始めた。

 ガチャガチャと音を立てながらタイヤやハンドルを収納していき、大きな両刃の刃を形成していく。

 やがて変形が終わった時には、ハデスはバイクから巨大な剣へと姿を変えていた。

 

 ハデス・武器機装形態―――大剣。


「さぁ、調理開始だ」


 大剣と化したハデスを装備したレイジは複数の強化系スキルを発動。

 己の戦闘能力を大幅に強化した彼は地面を強く蹴り、魔獣達に突撃する。


「まずは一つ」


 レイジは大剣を横に振るい、LV6の魔獣一体を容赦なく叩き切った。

 上半身と下半身が分かれて、行動不能になった人型魔獣。

 残った二体の魔獣は口から光線を放射。

 二つの光線がレイジに直撃しようとした。

 その寸前、レイジの首に巻いてあるマフラーが勝手に動き出し、光線を弾いた。


「次、二つ目」


 レイジは大剣の剣先を前に突き出し、柄に魔力を流し込んだ。

 すると大剣の刃が勢いよく伸長し、人型魔獣の身体を貫き、引き裂いた。

 周囲に鮮血が飛び散る。


「三つ目!」


 そう言ってレイジが大剣を振るうと、伸長した刃が蛇の如く動き出し、三体目の魔獣LV6の身体に強く巻き付いた。

 人型魔獣はまるでレモンが搾られるのように潰されていき、大量の血を流して絶命。

 あっという間に敵を殺したレイジ。

 大剣の刃は元の長さに戻る。


 ハデス・武器機装形態―――大剣はこの世で最も硬い金属、オリハルコンを切断する切れ味を持っている。

 そして一番の特徴は刀身が伸びること。

 どこまでも伸び、想像したとおりに動かせる。 


「もう傀儡はいないようだな……」


 敵が居ないことを確認したレイジは、ハデスを大剣からバイクへと変形させようとした。

 その時、レイジのスキル〔災悪視〕が自動発動。

 レイジの頭の中に映像が流れ込んでくる。

 その映像の内容は、空から降る無数の光線の雨によってレイジが消滅するというものだった。


「!?スキル〔障壁〕!」


 咄嗟にレイジはスキルを発動し、自分を中心に半球状バリアを幾つも展開した。

 その直後、空から赤黒い光線の雨が降り注ぎ、バリアに直撃。

 光線の威力が強すぎるあまり、バリアが幾つも破壊されていく。

 このままではマズイと判断したレイジはスキル〔障壁〕を連続発動し、新たなバリアを次々と展開した。

 破壊されたらすぐさまバリアを展開の繰り返し。

 一分後、光線の雨は徐々に収まっていき、消えていく。

 完全に光線が消えた時には地面は穴だらけになっており、赤熱化していた。


「いったいなんなんだ」


 バリアを解除したレイジは周囲を見渡す。

 そしてあるものを見つけた。


「……嘘だろ、おい」


 目を細めて、額から一筋を流すレイジ。

 彼の視線の先にいたのは、全長五百メートルの巨大生物。

 赤黒い皮膚に、大きな地響きを鳴らす四本の太い脚。

 頭から伸びた鋭い角に、エメラルドのような大きな緑の瞳。

 そして雲を突き抜けるほどの大きさを持つ剣山のような甲羅。

 まるで亀のような姿をしたその巨大生物は、レイジに向かって前進していた。


「魔獣よりも厄介なものを準備したな人形師。まさか……ドラゴンを用意するとは」


 ドラゴン。それはこの世で最も強い生物。

 LV7と同等の強さを持ち、人間や亜人を襲わず、魔獣のみを排除する殺戮者。

 国を滅ぼすことができる魔獣達が多くいるのに、人類が滅びないのはドラゴンの存在が大きい。

 そのドラゴンを人形師は傀儡にしたのだ。


『どうやら人形師も本気のようですね』

「そうみたいだな。しかもあのドラゴン……ドラゴンの中で最も防御力と身体能力が高いべへモスじゃないか。厄介だな」

『どうしますか?ご主人様』

「……無理をしてでも倒す。それだけだ」


 そう言ってレイジは掌に棒付きキャンディーを召喚した。


「神甘・キャンディーバージョン。こいつはできるだけ温存したかったが……仕方がない」


 レイジが棒付きキャンディーを咥えると、彼の身体から白銀の粒子―――神力が発生した。 


「目には目を歯には歯を…そして、ドラゴンにはドラゴンだ。オーバースキル〔天空翼竜神化(ケツァルコアトル)〕」 


 レイジが新たなスキルを発動した。

 その次の瞬間、レイジを中心に巨大な竜巻が発生。

 周囲にある木や岩などが竜巻に呑み込まれていく。

 やがて竜巻が収まると、そこには風の化物と化したレイジが立っていた。

 身体全身を覆う緑と金の体毛。

 背中から伸びた巨大な羽翼。

 頭から伸びた扇状の角。

 そして腰から伸びた細長い尻尾。

 神々しい竜と化したレイジは大剣を構えて、翼を大きく広げる。


「調理開始だ」


 レイジは翼から風を勢いよく噴射し、飛翔。

 緑と金の軌跡を描きながら、レイジはべへモスに突撃する。

 それに対し、べへモスは口から無数の赤黒い光線を放射して迎え撃つ。

 迫りくる光線の雨を、レイジはジグザグに飛行して躱す。


「ハアァァァァァァァァ!」


 気迫が籠った声で叫びながらレイジは斬撃を放ち、べへモスの足に傷を付ける。

 しかし皮膚が硬すぎるあまり、傷は浅い。


「クッ!かってえぇぇぇぇ!これじゃあ時間が掛かるな」

『どうしますか、ご主人様』

「切り札を使う」

『よろしいのですか?』

「ああ。このドラゴンはなんとしてもでも倒さないといけないからな。お前のもう一つの機能を使う……ハデス、力を貸してもらうぞ」

『はい。思う存分…そしてメチャクチャに』

「よし、いくぞ!!」


 ハデスの言葉を遮るように、レイジは大声で叫ぶ。


完全機装(かんぜんきそう)!」


 次の瞬間、大剣と化したハデスの身体が細かく分離。

 分離したパーツはレイジの頭や胸、腕や脚などに装着されていき、鎧となっていく。

 その鎧は常闇の如く黒く、暗黒騎士を連想させる。


「スキル〔装備装着〕」


 レイジはスキルを発動し、左手に大型チェーンソーを転送。

 そのチェーンソーには風車の形をした緑色の魔石が搭載されていた。


「風属性のLV7の魔獣、スピードで作った神話級魔道具—――〘暴風(ぼうふう)〙。こいつとハデスの力でお前の足を斬ってやる」


 そう宣言したレイジは〘暴風〙に魔力を流し込んだ。

 すると風車型の魔石が浅く発光し、チェーンソーの無数の刃が高速回転。

 レイジはチェーンソーを構え、再びべへモスに突撃。

 高速で飛ぶレイジはべへモスの右の前足に向かって〘暴風〙を振るい、叩きつけた。

 高速回転するチェーンソーの無数の刃が、べへモスの強固な皮膚を削り取り、そして肉を裂き、切断した。


「もう一丁!」


 レイジはべへモスの右の後ろ足に向かって斬撃を放ち、切断。

 二本の脚を失ったべへモスはバランスを崩して、右に倒れる。

 砂煙が舞い上がり、べへモスの重さで地面が深く凹む。


「トドメだ」


 レイジは限界まで上空まで上がり、急降下。

 超高速で降下するレイジは〘暴風〙を構える。

 恐ろしい速度でやってくる敵を排除するために、べへモスは口を大きく開けて赤黒い極太の光線を放射。

 突撃するレイジとべへモスの破壊光線が真正面から衝突し、激しく拮抗する。

 

「この程度で…止まるわけねえぇぇぇぇぇぇぇだろうがああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 深紅の瞳を強く輝かせながらレイジは、纏っている鎧からブースターを展開し、炎を噴射。

 光線を斬り裂きながら、レイジは前に進む。

 そしてそのまま彼は〘暴風〙を振り下ろし、べへモスの首を両断した。

 大量の鮮血が周囲に飛び散り、べへモスの頭が地面に落下。

 最硬のドラゴンを倒したレイジは、落ち着いた声で告げる。


「調理……完了」


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


 ドラゴンを討伐した後、レイジとハデスはいつも魔道具製作に使っている廃工場に転移した。

 

「ご主人様。なぜあのまま人形師のところに向かわなかったのですか?」


 疑問に思ったハデスは、レイジに問い掛けた。


「べへモスを傀儡にしたんだ。他にも傀儡にしたドラゴンがいるかもしれない。なら準備をしないと」

「準備って……もう十分以上にしたではありませんか」

「そうだな…だが足りなくなった。だから用意する……新しい神話級魔道具を」

「神話級…それを作るのに時間が」

「時間はあまりかけない。これを使う」


 レイジは自分の掌に赤と白に輝く水晶玉―――神結晶を召喚した。


「こいつを使えば魔道具製作に特化したオーバースキルが手に入る」

「いきなりですか?危険です!」


 オーバースキルは神になることができる能力。

 強力ではあるが扱いが難しい。

 慣れてないうちにオーバースキルを使えば、最悪の場合は死ぬこともある。


「俺の全属性適正LVは10だ。使いこなせる」

「ですが!」

「俺は!!」

「!」

「助けたいんだよ……ルルアをそのためなら俺は無理をする」

「……」


 ハデスはそれ以上何も言えなかった。

 仲間を助けるためなら、無理だってする。

 それが今の光闇レイジ。

 彼を止められる者は…誰もいない。


「悪いハデス、心配かけて。だけど……やらせてくれ」


 そう言ってレイジは神結晶を自分の胸に押し当てた。

 すると神結晶がレイジの胸に吸い込まれてた。

 神結晶の中に宿っていたオーバースキルの名とその効果の内容が、レイジの脳に刻まれる。


「なるほど……女性専用のスキルか。なら…スキル〔性転換〕」


 レイジがスキルを発動すると、彼の胸やお尻が大きく膨らみ、銀色の髪が腰まで長く伸びる。

 女性となったレイジは高い声で告げる。新たなスキルの名を。


「オーバースキル〔炎鍛冶女神化(ヘパイストス)


 直後、レイジの髪が真っ赤に燃え上がり、両腕が炎の手袋に覆われた。

 右手の掌に文字が刻まれた黄金のハンマーが顕現。

 炎と鍛冶の女神と化したレイジはハンマーを握り締める。


「よし、なんとか大丈夫みたいだな」

「そういえばご主人様、いったいどのような魔道具を作るのですか?そもそも材料はなにを」

「材料は…アレを使う」

「アレって…まさか!」

「ああそのまさかだ、ハデス。それぐらいじゃないと、奴を出し抜けない」


 レイジは深紅の瞳を怪しく輝かせて、ハンマーを強く握り締める。


「さぁ…人形師を調理するための道具を作ろうか」


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