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悪役転生~弟子を庇って死んだらアニメに登場する最凶のラスボスに転生していた~  作者: グレンリアスター
小さな破壊乙女と一人の少年
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小さな破壊乙女とオシャレ

 アルファとリオが裕翔とアイリスの世話になってから、一か月後。

 動けるぐらいまで回復したアルファは、自分の掌を開いたり閉じたりして身体の調子を確かめる。

 

(もう少し時間が必要だな)


 痺れるような痛みを感じたアルファは、舌打ちをする。

 今すぐにでも【邪神教】に戻りたい彼女にとっては、とても腹立たしかった。

 だが同時に……アルファは少しだけよかったと思った。


(まだあの少年の世話になる必要があるのか……)


 光闇裕翔と一緒に居られる。

 そう思うとアルファは目を細めて、僅かに頬を緩めた。

 だがすぐに顔を引き締めて、彼女は自分の額を軽く殴る。


(なにを考えているのだ私は!これでも【邪神教】の幹部なのだぞ!)


 アルファは心の中で己を叱った。

 多くの者達を苦しめ、絶望させてきた最悪の宗教組織【邪神教】。

 その最高幹部である《邪聖の十二星座》の一人、〈乙女座(ヴァーゴー)〉のアルファ。

 彼女は五百年間、あらゆるものを破壊してきた。

 村も、街も、国も、島も、人の心も……何もかもを破壊し続けてきた。

 まさに破壊者。

 それこそが〈乙女座〉のアルファなのだ。


(自分の立場を忘れるな。私は〈乙女座〉のアルファ。それ以上でもそれ以下でもない!まずは大人しくここで体を休めて、そして……)


 アルファが今後の事を真剣に考えていたその時—――突然、部屋の木製の扉が吹き飛んだ。

 扉は壁に激突し、大きな音を立てて砕け散る。

 敵襲かと思ったアルファは拳を構え、警戒する。


「おっ!いい感じだったな!」


 部屋に入ってきたのは、タンクトップと短パンを着用した黄色髪の女神—――リオだった。

 アルファは拳を下ろして、警戒を解く。


「リオか。敵かと思ったぞ」

「悪い悪い。昨日の夜に見た映画で、ドアをぶち壊して部屋に入るシーンがあってさ。それがとてもカッコよくて、真似してみた!」


 悪びれた様子もなく、リオは明るい笑顔を浮かべた。

 相棒の阿保らしさに呆れて、アルファはため息を吐く。

 裕翔とアイリスの家に来てからリオは、【邪神教】ではできなかったゲームや映画鑑賞などをするようになった。


「なにをしているんだ。お前は」

「まぁまぁ、そう言うなよアルファ。どんな時でも楽しまないと」

「しかし」

「それに身体が完全に回復していない以上、結局はジッとしてるしかない。そうだろ?」

「むっ……」


 リオの言葉に一理あるため、アルファは何も言えなかった。

 確かに身体が万全ではない以上、大人しくしているしかない。

 今の状態では【邪神教】の本部に帰るのも困難だ。


「なぁアルファ……せっかくだし、オシャレとかしてみたらどうだ?」

「なぜその必要がある?」

「こういう時しかできないだろう?それに……お前、女性として見出しなみがなっていない!」


 アルファに人差し指をビシッ!と向けて、リオは強く言う。

 彼女の言う通り、アルファは女性らしい格好をしていなかった。

 少しぶかぶかの半袖Tシャツと男性用の半ズボン。

 くせ毛が多く、艶のない長い茶髪。

 一言で言って地味な服装だった。


「何百年も言っているが、せめて化粧しろ!アルファ!」

「戦闘に必要なのか?そんなもの」

「あのな~。ちょっとは人生を楽しめって言ってるんだよ、私は!」

「楽しむ必要はない。私は〈乙女座〉のアルファ。人々を絶望させ、殺す破壊者。ただそれだけの存在だ」

「アルファ……けど」

「リオ。私達に一般人と同じ生き方は許されないのだ」


 鋭い目つきで睥睨し、低い声で注意するアルファ。

 何を言っても無駄だと理解したリオは、眉を八の字にして俯いた。


 アルファは生まれた時から【邪神教】のところに居た。

 教皇の命令に従い、多くの者達を殺し、殺し、殺してきた。

 そして時には、国をも滅ぼしたこともある。

 二人はすでに引けないところまで進んでおり、両手は多くの者達の血で汚れていた。


「私達は【邪神教】の一員だ。リオ……それを」

「アルファさん。リオさん。なんかすごい音が聞こえ……って、ドアが壊れてる!?」

「!!」


 強く念押しするようにアルファが「それを忘れるな」と言おうとした時、裕翔が部屋に入ってきた。

 彼は木端微塵に砕けたドアを目にして、驚愕する。


「どうしたんですかこれは!?いったいなにが」

「……ウチのリオが壊したんだ。すまない。後で弁償する」

「だ、大丈夫ですよ。別に」


 盛大に頬を引き攣る裕翔。

 無理もない。

 まさか看病していた人が、ドアを破壊するなど誰も思わないだろう。

 むしろ「出て行け!」と言わない裕翔は、とても優しい。


「まぁとにかく怪我がなくてよかったです。……って、あれ?アルファさん、顔が赤いですよ?」

「え?」


 アルファは壁に掛けられた丸い鏡に視線を向けて、自分の顔を確かめる。

 鏡に映っていたのは、リンゴのように赤くなったアルファの顔だった。

 しかも僅かに瞳が潤っている。


「…………大したことではない」


 ものすっごく間を開けて、返事をするアルファは顔を逸らした。まるで赤くなった顔を見られないようにするかのように。

 彼女の様子に疑問を抱いた裕翔は、首を傾げる。


「どうしたんですか?本当に大丈夫ですか?」

「ああ……すまないが部屋から出て行ってくれ。服を着替える」

「す、すみません!すぐに出て行きます!」


 裕翔は慌てて、部屋から出て行った。

 彼の姿が見えなくなった後、リオはいやらしい笑みを浮かべて、アルファの肩に腕を回した。

 

「おやおや~?アルファさんどうしたんですか~?顔が真っ赤ですけど?」

「なんでもない」

「何でもないわけないだろ?んん?胸がドキドキしたんだろ?」

「……黙れ、殺すぞ」

「あ、裕翔が戻ってきた」

「!?」


 驚愕の表情を浮かべて、アルファは部屋の出入り口に視線を向けた。

 しかし視線の先には誰もいない。あるのは扉のない部屋の出入り口。

 アルファは悟った。リオは嘘を吐いたのだと。

 その証拠に、リオは面白いものを見たぜ!と言いたげな笑顔を浮かべていた。


「おいおいおいおいおい?ずいぶんと意識してるな、あの少年に?」

「リオ……お前」

「まさかアルファが恋するとは思わなかったな。一目惚れか?」

「………違う」

「かぁ~!そうなのか、そうなんだ!どこがよかったんだ?ねぇねぇ?」


 アルファの頬を人差し指で突くリオ。

 相棒のウザさに腹を立てたアルファは額に青筋を浮かべて、拳を強く握り締める。


「リオ。いい加減にしろ」

「顔か?性格か?んん?どこがよかったんですか?」

「いい加減にしろって言っているだろ!」

「ぶらはっ!!」


 流石に腹を立てたアルファは、リオの腹に拳を撃ち込んだ。

 大きな衝撃音が鳴り響き、リオの身体がくの字に曲がる。

 変な声を漏らしたリオは、床に倒れてピクピクと痙攣する。


「少しは反省していろ」


 そう吐き捨てるように言ったアルファは、Tシャツと半ズボンを脱ぎ始めた。

 彼女の身体にはあちこち包帯が巻かれており、どれだけ酷い怪我をしたのかが分かる。


(あの子娘達のせいで私とリオは怪我を負い、知らないところに飛ばされてしまった)


【邪神教】の計画を台無しにした九人の少女達。

 彼女達の事を思い出したアルファは、ガリッと歯噛みする。


「……次に会ったら確実に殺す」


 怒気を含んだ声で静かに呟くアルファ。

 彼女の身体から黒いオーラが発生し、机の上に置いてあったガラスのコップが砕け散り、窓ガラスに皹が走った。

 その時、


「おい、アルファ。殺気を抑えろ」


 腹をさすりながら立ち上がったリオが、相棒の頭にチョップした。

 アルファの身体から放たれていた殺気と黒いオーラが、静かに消える。


「なにをするリオ?」

「『なにをするリオ?』じゃない。お前の殺気は強すぎるから、周囲の物を壊しちまうんだよ。忘れたのか?」

「う……」

「もしお前の殺気でこの家が壊れたら、裕翔が悲しむぞ」

「!!」


 裕翔が悲しむ姿を想像したアルファは、胸を強くし締め付けるような痛みを感じた。


「そうだな……恩人を悲しませるのは駄目だ」

「分かってくれてなによりだ。あ、私はアイリスに用があるからちょっと行ってくる」

「ああ、分かった」


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


 部屋から出たリオは廊下を歩きながら、楽しそうに笑っていた。


「いや~まさかあのアルファが恋をするとは」


 いつも氷の如く冷たく、戦うことしかしてこなかった小さな破壊乙女。

 そんな彼女が異性に好意を抱き始めたのだ。

 しかも相手は十三歳の少年。

 間違いなく犯罪だが、リオにとってはどうでもいい。

 重要なのは数百年以上も女性らしい事をしてこなかったアルファが恋をしたということだ。


(アルファを救うためにも、裕翔とくっつけないとな。……そうすれば、あんな糞みたいな場所に帰らなくて済むしな)


 リオは【邪神教】を心の底から嫌悪していた。

 人間や女神を絶望させ、恐怖を与え、殺すという狂った宗教。

 攫ってきた子供や孤児院で()()()()子供を洗脳し、使徒にする非人道的行為。

 どれもが最悪で、リオは許せなかった。

 だが抵抗は出来なかった。抵抗すれば間違いなくの脳みそを改造され、最悪な狂人者にされるから。

 そしてなにより……助けたい人物がいたのだ。


 それがアルファだ。


 アルファは【邪神教】の洗脳は効いておらず、強い忠誠心はない。

 ただ命令されたことをやっているだけ。

【邪神教】の使徒として生きることしか知らない彼女を、リオは救いたかった。支えたかった。

 だからこそ嫌でも【邪神教】に従ってきた。アルファを救える時が来るまで。

 しかし何百年も経ち、いつの間にかアルファとリオは【邪神教】の最高幹部―――《邪聖の十二星座》になってしまった。

 リオはもう無理かもしれないと、諦めかけていた。


 けれど……希望は消えてなかった。


 今のアルファは光闇裕翔と出会ったことで、人間らしくなり始めている。

 うまくいけばアルファは、どこにでもいる一人の女性に出来るかもしれない。


(このチャンス……絶対に逃してたまるものか)


 真剣な顔でリオは、アイリスの所に向かった。


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


 着替えを終えたアルファは、唇に手を当ててポツリと呟く。


「光闇…裕翔」


 恩人である少年の名を口にした彼女は目を細めて、頬を朱に染めた。

 裕翔の笑顔を思い出すと、鼓動が高鳴る。

 裕翔の言葉を思い出すと、顔が熱くなる。

 何百年も生きていながら、今まで異性に興味を示さなかったアルファ。

 

 彼女は自分より遥かに年下の少年を……強く意識していた。


「ここに居る間だけ……女性らしいことをした方が良いかもな」

「その方が良いわよ。ロリババア」

「ッ!!」


 突然、聞こえてきた女性の声。

 声が聞こえた方向に視線を向けると、そこには大きなカバンを持ったアイリスの姿が。


「アイリス……いつからいた?」

「あなたが唇に手を当てて、裕翔の名前を言ったあたりからよ。ロリババア」

「……頼むからノックしてくれ」

「それは無理ね。なにせノックをするためのドアが壊されているんだから。そんなことも分からないなんて、哀れすぎるわ」

「……本当にすまない」

「別にいい……わけじゃないけど。そんなことよりアルファ……今すぐオシャレをするわよ」


 アイリスは手に持っていた鞄から一着の服を取り出した。

 その服はフリルが沢山付いた白と茶色のワンピース。

 

「その服を着るのか?私が?」


 可愛さを重視したワンピースを見て、アルファは頬を引き攣った。

 アイリスは「そうよ」と言って、首を縦に振る。


「子供体形であるあなたなら、サイズ的にもピッタリだし。それから化粧道具も持ってきたわ」

「……なぜ私がオシャレをすることになっている。というか、準備が良すぎる」

「リオに頼まれたのよ。『アルファに女の子らしい格好をどうかさせてくれ』って。だから私が来たのよ。そんなことも分からないなんて、脳みそ腐ってるんじゃないかしら?」

「あの馬鹿。余計な事を」


 頭に手を当てて、ため息を吐くアルファ。

 相棒の行動に理解が出来ず、彼女は呆れる。


「さぁ、とりあえず着替えるわよ。ついでにそのボサボサの髪も綺麗にしてあげるわ」

「……頼む」


 せっかくやってくれようとしているアイリスに『必要ない』と言うのは気が引けるため、アルファはお願いをすることにした。


「さぁ~て、どんな風にしてあげようかしら。ウフフフフ」


 不気味な笑みを浮かべるアイリスに、不安を抱きながら。


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


 一時間後、アイリスは満足そうな笑顔を浮かべて、額に浮かんだ汗を腕で拭う仕草をする。(実際には汗など流していない)。

 

「よし、あの狼みたいに怖いロリチビババアを、可愛いロリチビババアにできたわ」

「ババアは余計だ」

「まぁそんな事より、まずは鏡を見なさい」


 アイリスは自分の影に手を突っ込み、姿見鏡を取り出した。

 闇属性の女神である彼女は、影の中に物を収納したり、影を通じて移動することが出来るのだ。


「ほら、アルファ。これが今のあなたよ」


 アイリスは取り出した姿見鏡を、アルファの前に置く。

 鏡に映る自分の姿を見てアルファは目を大きく見開き、呆然とする。


「これが……私なのか?」


 鏡に映っていたのは、可愛らしいワンピースを着たアルファだった。

 三つ編みに結ばれた艶のある長い茶髪。

 花のような甘い香りがする香水の匂い。

 唇には、薄い桃色の口紅が塗られていた。

 まるでお人形のように可愛くなったアルファは、鏡に映っている自分の姿に見惚れていた。


「前の私とは別人だな」

「でしょ?オシャレってのは、人を変えるの。どう?気に入ったかしら」

「……ああ、とてもいいものだな。オシャレとは」


 生まれて初めてオシャレをしたアルファは、高揚感を覚えた。

 その時、


「ど、どうしたんですかリオさん!?急に!!」

「良いから良いから!」


 突然、裕翔を肩に担いだリオが部屋に入ってきた。

 オシャレをしたアルファを目にしたリオは、瞳を輝かせる。


「おお~!可愛いじゃないか!やっぱりアイリスにオシャレを頼んで正解だった」


 満面な笑顔でリオは、グッと親指を立てた。


「ほらほら少年~。アルファの姿を見てみろ。めっちゃ可愛くなっているぞ!」


 リオは担いでいた裕翔を床に下した。

 ズレた眼鏡を手で直して、裕翔はアルファに視線を向ける。

 そして彼は目を見開いて、頬を赤く染めた。


「ゆ、裕翔!?これは…その」

「綺麗です」

「え?」

「とても……綺麗で…可愛いです」

「あ…ああ……うぅ……」


 魚のように口をパクパクと動かしながら、アルファは顔を真っ赤にして俯いた。

 そんな相棒を見ていたリオは「よしっ!」と言って、ガッツポーズを取った。

 

 何百年も生き、あらゆるものを破壊してきた小さな乙女。

 彼女は一人の少年の影響で、変わりつつあった。

 読んでくれてありがとうございます!

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