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魔獣大災害進行の前兆

「何か言うことはあるかな、レイくん?」

「マジで…すんませんでした」


 黒炎事件の後、とある病院に運ばれたレイジは、愛花に説教を受けていた。

 愛花は可愛らしい笑顔を浮かべているが、瞳はどす黒く染まっている。

 病室のベットの上で正座しているレイジは、顔から滝の如く汗を流す。

 近くに立っているハデスは苦笑を浮かべながら、二人の様子を見つめる。


「レイくん」

「は、はい!」


 名前を呼ばれたレイジは背筋を伸ばす。

 顔から流れる汗の量が増える。


「なぜ私が怒っているか分かるかな?」

「えっと……怪我…したからです」

「うん、正解。で、怪我した場所は?」

「……右目です」


 眼帯に覆われた右目に、レイジは片手を当てる。

 狂神化したナナとの戦闘で、レイジは片目を失うという怪我を負ってしまった。

 しかも特殊な力が働いているせいで、レイジの回復系スキルでも治すことはできなかった。

 つまり……一生、片目を失ったままだということだ。


「レイくん大正解。ご褒美を上げないとね」

「ご、ご褒美?因みにどんなの?」

「スカートを更に短くしたメイド服だよ」

「いらないよ!」

「それを着て店の手伝いをしてもらうから」

「やだよ!それ絶対に俺の精神がもたないよ!」

「だからだよ」

「性格わっる!」

「レイくん……拒否権があると思う?」

「はい。喜んでやらせていただきます」


 身体から漆黒のオーラを放つ母に、レイジは土下座した。

 この世に母に勝てる息子はいない。

 レイジは改めてそう思った。


「レイくん。人を助けるなとも、助けに行くなとも私は言わないよ。言っても無駄だからね。だけど」


 レイジの頬に手を添えて、愛花は涙声で伝える。


「お願いだから……怪我しないでよ」


 それは…母が子を想う言葉だった。

 悲しそうな表情を浮かべる母親に、レイジは謝る。


「ごめん。本当に……」


 レイジは深く反省した。

 いくら人を救っても、自分が無事でなければ家族が悲しむ。

 そのことに気付かなかったことに、レイジは後悔と罪悪感を覚えた。


「これからはもう少し自分の身体を大切にするよ」

「少し…じゃなくてもっとだよ」

「分かったよ」

「約束だよ。もし破ったら……バニー服で店の手伝いをしてもらうから」

「え!?いや、ちょっとそれは!!」

「なにか文句ある?」

「いえ、ないです」


 有無を言わせない母の威圧に、レイジは抗うことはできなかった。

 やはり自分では母親には勝てないと、レイジは悟った。

 それから少し時間が経った後、レイジの頬から手を離した愛花は、なにか言いにくそうに口を動かす。


「あ、あのねレイくん。とても大切な話があるの」

「なに?」

「実はね…私は……私はあなたの本当の母親じゃないの」

「……うん、知ってたよ。物心つく頃から」


 前世の記憶を思い出す前からレイジは、愛花が自分の母親ではないと気づいていた。

 圧倒的な戦闘の才能を持つ彼は、普通の人よりも勘が鋭いのだ。


「俺は……前までの俺は、自分が何者なのか分からなくて、それでも頑張って家族になろうと、困ったら家族を助けようと思った。けど……夕陽と朝陽を魔獣から守った結果、嫌われて怖がられた。それが辛くて虐めたり、暴れたりした」

「レイくん……」

「けど今なら分かるんだ。血なんて関係ない。DNAなんて関係ない。俺は……お母さんとお父さんの息子であり、夕陽の弟であり、朝陽の兄なんだって。だから……」


 愛花の片手をレイジは両手で包み、微笑みを浮かべる。


「今の家族は……俺にとって本当の家族だよ」

「レイくん……レイくん!!」


 愛花はレイジに飛びつき、優しく抱き締めた。

 そして嗚咽を漏らしながら、感謝を述べる。


「ありがとう…私の息子になってくれて」

「俺の方こそ…お母さんになってくれて、ありがとう」


 小さな両腕でレイジは愛花を抱き締める。

 血は繋がっていないが、レイジ達は強い絆で繋がっている。

 

 それが……家族愛という名の力。


「ねぇお母さん……いくつか聞いても良い?」

「なに?」

「俺を…生んだ両親は……どんな人なの?なんで……いないの?」


 レイジは気になっていた。

 なぜ自分を……世界を滅ぼす死神を生んだ両親がいないのかを。

 アニメでは語られなかったラスボスの過去を、レイジは知りたかった。


「……本当はレイくんが二十歳になったら言うつもりだったけど」


 レイジから離れた愛花は、尻目に浮かんだ涙を指で拭い取りながら、ゆっくりと口を動かす。


「あなたの……あなたの両親は」


 悲しそうな表情で愛花が話そうとした。

 その時、病室の扉が突然吹き飛んだ。

 扉は壁に衝突し、大きな音を立てて砕け散る。


「よう、レイジ!身体は大丈夫か!?」


 堂々と病室に入ってきたのは、タンクトップ姿のリオだった。

 当たり前のようにドアをぶち壊して入ってきた女神様。

 まさかのタイミングで邪魔が入り、レイジは頭に手を当ててため息を吐いた。


「重要な話をしようとした時にいきなり知り合い登場って…そういうお約束は主人公の時だけにしてくれよ。ってあれ?リオお姉様……少し痩せました?」


 いつのまにか、リオの筋肉質の腕や脚などが少し細くなっていたのだ。

 変わったのは他にもある。

 リオの黄色い髪が所々赤くなっており、微かに光っている。


「お前の料理を食べたことで覚醒し、光属性と火属性の女神になったんだ!どうだ?ワイルドだろう?」

「ワイルド…ではないですね」

「なんだよ~…そこはワイルドになったて言えよ~」


 頬を膨らませて、リオは子供のように拗ねた。

 あれ?前よりもリオお姉様、可愛くなってない?とレイジが思っていると、別の女神が病室に入ってきた。


「まったく……気遣いもできないのかしらゴミ虫以下の害虫。もう生きている価値なんてないから死になさい。苦しみながら、生きていることを後悔して」


 心を抉るような毒舌を吐いたのは他でもない。

 女神、アイリスだ。

 彼女もレイジの出来立て料理を食べたことで覚醒し、姿が変わっていた。

 前よりも背が伸びており、左半分の髪が水色に染まっている。

 

「アイリスお姉様は闇属性と水属性の女神になったみたいですね。とても綺麗です」


 レイジが素直に褒めると、アイリスは微笑みを浮かべて、


「ありがとうクソったれなミジンコ野郎。あなたみたいな虫以下に褒められて私は、まったく嬉しくないわ。あとあなたの声が耳障りだから黙ってくれないかしら。そして死んで消えて」


 ミサイル並の破壊力を持つ毒舌を吐いた。

 覚醒したことでアイリスの毒舌の威力が増加していた。

 レイジの心に大ダメージを受けるが、なんとか意識を保つ。

 彼の口の端から、赤い液体が流れる。


「それでセシーは?セシーも俺の出来立て料理を食べたから、覚醒したはずだけど」

「私ならここだ」

「ん?おおぉ~!セシー、そこにいた……の…か」


 セシーの声が聞こえた方向に視線を向けたレイジは、硬直した。

 あまりにも衝撃的なものを目にして、彼は驚愕しているのだ。


「レイジ……お前には本当に感謝しているよ。私は今まで勝てなかった運命に……勝つことが出来た!」


 力強く語るセシーは自分の―――()()()()()()()()


「胸が!大きくなった!」


 レイジの料理を食べたことで、セシーは胸なしから巨乳へと進化していた。

 女神は覚醒することで肉体が変化する。

 だから女神と融合しているセシーの胸が、大きくなるのは珍しくない。

 今のセシーは、いわゆるロリ巨乳となったのだ。

 ただ……レイジはどう反応すればいいか、分からなかった。


「えっと………そう…なんだ」

「ああ!そうなんだ!胸が…胸が大きくなったんだ!色々なスキルや魔法、薬でも大きくすることはできなかったのにだ!」

「特殊なアンチ能力でもあるのか、あんたの胸は」

「これで愛花に上から目線で貧乳って呼べる!」


 自分の大きな胸を両手で持ち上げて、セシーは満面な笑顔を浮かべた。

 近くにいた愛花は額に青筋を浮かべ、身体から黒いオーラを放つ。


「セシー……死ぬ覚悟はある?」

「ふっ…死ぬつもりはないが、今日は気分がいい。一発だけなら喜んで受けよう……さぁ来い!貧乳ッ!!!!」


「貧乳ッ!」というセシーの言葉が、病院全体に響き渡った。

 愛花は可愛らしい笑顔を浮かべて、腰に拳を構える。


「じゃあ、行くよ」


 刹那、音速を超えた速度で拳をセシーの顎に打ち込んだ。

 プロボクサーが目を大きく見開くほどの、見事なアッパーカット。

 大きな音を立てて、セシーの頭が天井に突き刺さる。

 顎を強く殴られて脳震盪でも起こったのか、セシーの手足がぶら下がった。

 リオは腹を抱えて爆笑し、アイリスは呆れた様子でため息を吐き、ハデスはクスクスと笑う。


「嫌いよ…セシーなんて」


 頬を膨らませてそっぽを向く愛花。

 レイジが苦笑しながら、「まぁまぁ」と母を宥めていた。

 その時、


「おやおや~?ずいぶんと酷い怪我したみたいだね~」

「相当無茶したようだな」

  

 浴衣姿の緑髪の美女、神楽と白いポニーテイルの女神、雪風が病室に入ってきた。

 突然やってきた二人にレイジは警戒する。


「そう警戒しないでよレイジくん~。今日はお見舞いに来たんだから~」


 柔和な笑顔を浮かべる神楽の手には、フルーツバスケットがあった。

 どうやら本当にお見舞いに来たらしい。

 近くにある机の上にフルーツバスケットを置いた彼女は、レイジに歩み寄る。


「話は聞いたよ~。《邪聖の十二星座》の三人を倒して、怪我人を救助しちゃうなんてすごいよ~!」

「……三人の内、一人しか俺は倒してませんよ」

「でも君が動かなかったら、あの化け物達は死ななかったよ~。本当に君は凄いな~♡」


 目を細めて、神楽はクスクスと笑った。

 彼女の言う通り、レイジが行動しなければ【邪神教】の幹部三人は死ななかった。

 今の【邪神教】は半分以上の幹部を失ったことで、戦力は激減。

 しばらく大人しくするだろう。


「ねぇレイジくん~。もしよかったらウチの神楽耶と~」

「神楽会長、息子は疲れているんです。どうかお帰りを」


 突然、愛花とリオが神楽とレイジの間に入り込んだ。

 まるで私の息子を危険な事に巻き込むなと言わんばかりに。


「あらあら~そんなに警戒しなくてもいいではないですか~。愛花さん~。……いや、元【邪神教】の最高幹部の一人、〈乙女座〉のアルファさん~」

「……その名前、呼ばないでくれませんか」


 愛花は刃の如く鋭い目つきで、神楽を睨みつけた。

 彼女から強い殺気が発生し、床や窓ガラスに僅かな皹が走る。

 近くにいたレイジは息を呑み、頬から汗を流す。


(これが…お母さんの殺気)


 今のレイジは魔獣LV7をも殺せるほど、強くなっている。

 そんな彼が恐怖を感じるぐらい、愛花の殺気は凄まじかった。

 だが神楽と雪風は平然としており、笑みを崩さない。


「申し訳ございません~。不愉快な思いをさせました~」

「……いえ、こちらこそ大人げなかったです」


 愛花は放っていた強い殺気を抑えた。

 レイジはホッと安堵する。


「それで……本当にお見舞いに来ただけですか?」

「流石はレイジくん~。勘が良いね~。実はある情報をレイジくんに教えようと思ってね~」


 神楽は浴衣の袖から数枚の写真を取り出し、レイジに渡す。

 写真を受け取ったレイジは、一枚一枚確認する。


「……なるほど、どうやら面倒なことが起こるみたいですね」


 目を細めて呟くレイジ。

 写真に写っていたのは、百メートル以上の魔獣の大群が黒い穴に入る瞬間だった。


「多分、黒い穴はどこかに転移するワープゲートだと思うんだ~」

「でしょうね。どこに転移したか分かりますか?」

「今、捜索中なんだ~。だけど犯人はだいたい分かったかな~」

「……LV7の魔獣ですね」

「正解~。よく分かったね~」

「むしろこんな魔獣の大群を動かせるのは、LV7の魔獣だけですよ」


 LV7の魔獣で一番恐ろしいのは、魔獣達を統率することが出来ることだ。

 魔獣達にとって、LV7の魔獣は女神であり女王。

 もしLV7の魔獣が国を滅ぼせと言えば、魔獣達は従い、国を滅ぼすだろう。


「なぜこれを俺に?」

「さぁ~?なんでだろうね~。強いて言うなら、気まぐれかな~」

「ただの気まぐれでこんな重要な情報を、俺に渡さないでしょう?」

「君の想像に任せるよ~。じゃあ、お大事に~」


 そう言って彼女は相棒の雪風と共に、病室から出て行った。

 二人の姿を見えなくなった後、レイジは真剣な表情で写真を見つめる。


魔獣大災害進行(モンスターパラダイス)の前兆…か。少し調べた方が良いな」


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


「いや~レイジくんには本当に驚かされるな~」

「ああ、まったくだ」


 病院の通路を歩く神楽と雪風は、面白そうに笑っていた。

 今回の黒炎事件のせいで死者が出た。

 しかしレイジが活躍したことで、死者は数人程度にすんだ。


(【邪神教】が関与した事件は最低でも数百人の死者が出るのが当たり前なのに~。本当に凄いな~レイジくんは~)


 まだ女神と契約していないはずの光闇レイジ。

 彼は己の実力のみで、多くの【邪神教】達を倒している。

 魔導騎士協会会長である覇道神楽にとっては、嬉しい事だった。

 

(【邪神教】の人達は魔導騎士よりも殺人能力が高いから面倒なんだよね~。そんな奴らを次々と殺すレイジくんは本当に……素敵だな~ふふふ♪)


 魔導騎士協会が長年抱えていた問題を、レイジは次々と解決している。

 そんな彼を…神楽は手に入れたくて仕方がなかった。


「ふふふ……やっぱり、私の可愛い娘に相応しい旦那さんは強くて優しい子じゃないとだめだね~。これからも頑張ってね~、()()()()()()()()~♪」

 読んでくれてありがとうございます!

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