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機装

「さてと……俺もここから出ないとな」


 桃と桃髪の女神の姿が見えなくなった後、レイジはふらつきながらも立ち上がった。

 黒炎の弾丸が直撃した左肩と右目が焼けるように痛み、レイジを苦しめる。

 脱出できる可能性は低かった。

 体力と精神力を消費しすぎたせいで、いつ倒れてもおかしくない。

 しかも片眼を失ったことで、遠近感や立体感が掴めにくくなってしまった。

 はっきり言って、最悪な状況だった。


 だが、それでも死神は諦めるつもりはない。


 不可能だろうと無理だろうとぶち壊す。

 そして自分が望んだ未来を掴み取る。

 それが今の光闇レイジなのだから。


「殺してやるよ……クソッタレな運命なんて!」

 

 覚悟を決めたレイジは、駆け出そうとした。

 その時、


「ご主人様」


 後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

 振り返るとそこには黒いドレスを着た黒髪の女神、ハデスの姿があった。


「ハデス!無事だったか!」

「はい。ご主人様…遅れて申し訳ありま!?ご主人様、目が!!」


 酷い火傷を負ったレイジの右目。

 それを見たハデスは顔を青ざめて、口に両手を当てた。


「ちょっとミスってな」

「申し訳ありません!私が……私がもっと早く!」


 自分を責めるハデス。

 主を守れなかったことに、彼女は深く後悔した。

 だがそんな後悔をレイジは優しく否定する。


「違うぞ、ハデス。これは俺のミスだ。だから自分を責めるな」

「ですが!」

「お前は俺がやろうとしていたことをやってくれたんだ。むしろ自分を褒めろ」

「そんなこと……そんなことできませんよ」

「なら俺が代わりに褒めてやる」

「え?」


 レイジは自分の手を、ハデスの頭の上に乗せた。

 

「ハデス、マナリーを倒してくれたんだろう?凄いじゃないか。お前がいてくれて本当によかった。ありがとう。これからもよろしくな」

「!!」


 まるで子供を褒めるようにレイジは、ハデスの頭を優しく撫でた。

 主に頭を撫でられているハデスは、頬を赤く染めて俯く。


「ん?ああ、すまん!前世の癖でつい。撫でられるのは嫌だったよな」


 慌ててレイジは、ハデスの頭から手を離した。

 するとハデスは顔を上げて、切なそうに「あ」と呟く。

 一瞬、違和感を感じたレイジだが、きっと気のせいだろうと自己解決した。


「よし……まずはここから出ないとな。ハデス、ロボットの姿になれるか?」

「え?あ、はい。可能です」

「なら頼む」

「承知しました」


 レイジの命令に従い、ハデスは一瞬で女神の姿から漆黒のロボットの姿へと変えた。

 頭部のバイザー型カメラが怪しく光る。


「ご主人様。言われた通り、ロボットの姿になりましたが……これからどうするのですか?」

「ハデス……お前が宿った魔道具にはな、ある機能が二つあるんだ」

「え?」

「その内一つは……移動するためのものに形を変えるという機能だ」


 レイジはゆっくりと手を伸ばし、触れる。漆黒の装甲に覆われたハデスの胸に。

 冷たい鋼の感触がレイジの手に伝わってくる。


「ご、ご主人様!?」

「いくぞ……ハデス」


 意識を集中させ、レイジは唱える。

 本来、この世界には存在しない呪文を。

 ロボット型魔道具を変形させる名を。


機装(きそう)


 次の瞬間、ハデスの身体が変形を始めた。

 ガチャガチャと音を響かせて、頭からハンドルを伸ばし、二つのタイヤを形成する。

 そして変形を終えた時には、ハデスはーーー大型バイクへと姿を変えていた。

 バイク全体を覆う漆黒の強固な装甲。

 前輪から伸びた鋭い刃。

 獣の唸り声の如く音を響かせるエンジン。

 そしていくつものバイクマフラーが搭載されていた。


 ハデス・騎乗機装形態ーーー大型二輪車(バイク)


『こ、これは!』

「これがお前のもう一つの姿だ。そして……男のロマンの一つだ!」


 キラン!と左目を光らせるレイジ。

 彼は大型バイクに変形したハデスに跨がり、ハンドルを握り締める。

「あ♡ご主人様が私に乗って♡」というハデスの声が、レイジの耳に入った。

 だがきっと幻聴だろうと思った彼は、アクセルを回す。

 マフラーから炎が噴き出し、エンジン音が激しく鳴り響く。

 キュルルルルル!と床が擦れる音を響かせて、後輪のタイヤは高速回転。

 崩壊するデパートの中を、レイジが乗るバイクが爆走する。

 燃え上がる黒い炎と、天井から落下してくる瓦礫を躱しながら、レイジは思考する。


(今いる場所は三階。ならまずは一階に向かわないと!)

 

 膝が床に当たらないギリギリのところまで身体を左に傾けて、スピードを落とさないまま、レイジはカーブ。

 そして下に通じるエレベーターの手すりの上を走り、二階のフロアに下りる。

 

「一度、階段かエレベーターの手すりの上をバイクで走って見たかったんだよね!」

『素晴らしいテクニックです、ご主人様!』

「スキル〔騎乗(きじょう)〕のお陰だけどな!俺、前世でもバイクや車なんて運転したことないし!!」


 運転免許なんて知るかよ!的な勢いでバイクで爆走するレイジは、一階に通じるエレベーターか階段を探す。

 しかし、


「クッ、ほとんど全部壊れている!」


 天井から落下した瓦礫のせいで、階段やエレベーターが崩壊していたのだ。

 しかも一階は、三階や二階よりも瓦礫が多く、黒炎が拡がっていた。

 これでは下に行けない。

 レイジはバイクで走りながら、考える。

 崩壊するデパートから脱出する方法を。


 そして……一つだけ、思い付く。


「ハデス……無茶をするぞ」


 バイクを片手で運転しながら、レイジは左腕を前に突き出す。

 そしてスキル〔装備装着〕を発動。

 レイジの左腕に杭が搭載された大盾ーーーパイルバンカー型魔道具〘一角獣〙が一瞬で装備された。


「残っている魔力と神力。全部くれてやる!」


 体内にある魔力と神力全てを、レイジは〘一角獣〙に流し込んだ。

〘一角獣〙に搭載された杭が、銀色に輝き、激しいスパークを発生させる。

 

「一か八かの賭け、スタートだ!」


 次の瞬間、〘一角獣〙から杭が勢いよく射出された。

 弾丸の如き速さで一直線に飛ぶ杭は、壁を次々と貫き、大きな風穴を開け、外に通じる道を作る。

 だがそれと同時にデパート全体に大きな亀裂が走り、崩壊が激しくなる。


「完全に崩壊する前に外に出るぞ!」

『はい!』


 レイジはさらにアクセルを回し、バイクを加速させる。

 黒い軌跡を描きながら疾走し、レイジは次々と風穴が開いた壁を通る。

 レイジとハデスが通り過ぎた後、床や壁などが崩壊し、瓦礫と化す。

 レイジとハデスが外に出るのが先か、デパートが崩壊するのが先か。

 二つに一つだ。


「いっけえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 深紅の左目を輝かせて、レイジは魂を燃やす。

 己の運命を否定するために、生き残るために、彼は外に向かった。

 その時、一瞬だけ無くなったはずの魔力と神力が回復し、焼け焦げた右目が蒼く光る。

 彼の魔力と神力はハンドルに流れ込み、バイクと化したハデスを強化。

 マフラーから噴き出す炎の勢いが増し、タイヤがさらに高速回転。

 さらに加速したバイクでレイジは、外に通じる風穴に向かって爆走する。


 そして勢いよく、外に飛び出した。


 同時にデパートは崩壊し、大きな粉塵が舞い上がる。

 それをバイクのサイドミラーで見たレイジは、肝を冷やした。


「あっぶね~!マジで間一髪だった!」


 外に飛び出したレイジは、十数メートル斜め下にある駐車場に着地し、スライドブレーキ。

 キキィー!とタイヤが地面に擦れる音が鳴り響く。

 地面にできたタイヤの跡から、白い煙が発生する。


「た、助かった~」


 口から深いため息を吐き、レイジはハンドルにもたれた。

 瓦礫の下敷きにならずに済んだことに、彼は心から安堵する。


(本当にギリギリだったな……それにしてもなんであの時、魔力と神力が回復したんだ?)


 自分の掌を見つめながら、彼は深く考えた。

 無くなってしまった魔力と神力が突然回復した。スキルや魔法などを使っていないのに、だ。


「アニメ主人公だったら突然神力と魔力が回復するって言うのは、よくあるけど……ラスボスにそんな都合のいい事ってあるのか?いやでも、主人公達があと少しでラスボスを倒せそうになった時とかは回復してパワーアップするっていうのもあるから、なくもない……のか?」

「レイジく~ん!」

「ん?」


 遠くから聞こえる少女の声。

 声が聞こえる方にレイジは視線を向け―――頬を緩めた。


「ま、面倒な事を考えるのは後にするか」


 彼の瞳に映っていたのは、走って近づいてくる桃の姿だった。

 どうやらうまく脱出したようだ。

 バイクから下りたレイジはしゃがみ込み、両手を広げた。

 すると桃はレイジの胸に飛び込んだ。


「レイジくん!」

「桃ちゃん……無事でよかった」

「レイジくんも…無事で…無事でよかったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 レイジの胸の中で号泣する桃。

「心配させてごめんね」と謝りながら、レイジは桃の頭を優しく撫でる。

 本来、両親を失い、周囲から虐められるはずだった哀れな少女。

 そんな彼女の運命は死神の手によって変えられた。


「一件落着……かな」


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


「で、なにが一見落着なのかな?」

「はい……マジですみません」


 その後、病院に運ばれたレイジが愛花に説教されたのは言うまでもなかった。

 やはり母親とは…死神でも敵わない相手だと、レイジは心から思ったのだった。

 読んでくれてありがとうございます!

 そして読者の皆様、あけましておめでとうございます。

 これからも悪役転生をよろしくお願いします!

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