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黒炎事件

 アマテラスデパート店。それは服や食器、玩具など多くの商品が売っている有名な大型デパート。

 人間だけでなく、女神にも大人気。

 そんなアマテラスデパート店は、現在、黒い炎に包まれていた。

 店の周りや駐車場などのところに居た人々は、燃え上がるデパートを目にして大騒ぎ。

 ある者は悲鳴を上げ。

 ある者は炎上するデパートを呆然と見つめ。

 ある者は被害にあわないように、その場から立ち去った。

 燃え上がるデパートに取り残された人を、助けようとする者は誰もいなかった。

 二人を除いて。


「ハデス。中にはまだ五百人以上の人達が取り残されている。そして敵は三百人ぐらいだ」

「承知しました」


 黒炎に包まれたデパートの入り口に、堂々と入ろうとするのは銀髪の青年と黒髪の女神。

 彼らは迷いのない足取りで、激しく燃え上がる自動ドアに足を踏み入れようとした。

 その時、


「おい!あんたら、なにやってんだ!?」

「止まりなさい!」


 後ろから制止の声が掛けられた。

 振り返るとそこに立っていたのは、三十代ぐらいの男性と緑髪の女神だった。

 

「そこは危ない!早くこっちに来い!」

「焼けて死んじゃうわよ!」


 デパートに入るのをやめるように、必死な表情で説得する男性と女神。

 二人の言葉を聞いていた銀髪の青年は、無言のまま右の掌に銀色のディナーナイフを召喚した。

 そして目に留まらない速さでディナーナイフを投擲。

 男性と女神に向かって、ディナーナイフは高速で迫る。

 だがナイフは二人に当たることはなかった。

 ナイフは男性の頭と女神の頭の間を通り過ぎ、グサリと肉に刺さる音を立てて空中に制止した。 

 すると黒いフードを被った女性が、何もない所から姿を現す。


「ぐはっ!なん…で…」


 女性は自分の首に刺さったディナーナイフを目にして、動揺する。

 手に持っていた剣型の神装を地面に落とし、血を吐く。

 喉をやられた女性は白目を剥いて、仰向けに倒れ込んだ。


「ヒッ!」

「こ、これは!?」


 ナイフによって命を奪われた女性を目にして、激しく混乱する男性と女神。

 そんな二人に銀髪の青年は、逃げるように声を掛ける。


「早くここから離れてください。死にたくなければ」


 そう言い残した銀髪の青年は、黒髪の女神と共に黒炎の扉を通った。

 燃え上がるデパートの中へと入っていった二人を、男性と女神はただ呆然と見ていることしかできなかった。


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


  炎上するデパートの中に入った青年と女神は、周囲を見渡す。

 黒い炎によって燃え上がる服屋や食品エリア。

 亀裂が走った壁や床。

 そして鼻腔を刺激する血と肉が焼けた臭い。


「スキル〔分身〕」


 銀髪の青年—――光闇レイジが静かな声でスキル名を告げた。

 すると何もない所から、百人のレイジの分身体が出現。

 彼らは真剣な表情で、本体のレイジの指示を聞く。


「俺達……これからやろうとしているのは、本来あってはならないことだ。それを分かったうえでやる……いいな!」

「「「おう!」」」


 力強く返事するレイジの分身達。

 覚悟を決めた己の分身達に向かって、本体のレイジは覇気を宿した声を発する。

 

「いくぞ俺ら!多くの命を救い、敵を皆殺しにしろ!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 裂帛の雄叫びを上げた分身達は、それぞれ分かれて、燃えるデパートの中を走り出す。

 アニメが始まる前の悲しい過去を変えるために。

 レイジの分身達が全員いなくなった後、黒髪の女神—――ハデスは口を動かす。


「それで……私達はどうしますか?ご主人様」


従者の女神の質問に対し、レイジは深紅の瞳を怪しく輝かせながら、答える。


「決まっている……この事件を起こした奴らを殺す」

 

◁◆◇◆◇◆◇◆▷


 激しく黒く燃え上がる大型デパート。

 その屋上で、高級そうな椅子に座って寛いでいるローブ姿の女性と女神がいた。

 響き渡る人々の絶望の悲鳴を心地よさそうに聞きながら、彼女達はグラスに入ったワインを飲む。


「素敵な悲鳴ね」

「そうですね。ふふふ」


 楽しそうに話す女性と女神。

 フードで顔は分からないが、笑っているのは間違いなかった。

 そんな彼女達の首には、邪神教の証である赤い十字架が刺さった黒い骸骨のペンダントを下げていた。

 

「そういえば…パン。教皇様の命令…覚えてるわよね?」


 女性の問いに対し、女神—――パンはグラスに入ったワインを揺らしながら答える。


「もちろんですよナナ。そのために彼女達にも協力を頼んだんですから」


 彼女達は、主である邪神教の教皇から任務を受けていた。

 成功するか、しないかで邪神教の未来が大きく変わる最重要任務。

 それを成功させるために、万全の準備を整えた。

 後は時が来るのを待つだけ。

 二人はグラスに入ったワインを飲み干したその時、ローブを纏った女性と女神が慌てた様子でやってきた。

 

「パン様、ナナ様、大変です!」

「敵襲です!!」


 部下から報告を聞いて、ナナとパンは不気味な笑みを浮かべる。


「ついに来たみたいね」

「そうですね」


 空になったグラスをそこら辺に投げ捨てて、ナナとパンはゆっくりと立ち上がる。


「行くわよ、パン」

「はい、ナナ」


「人間に絶望を」

「女神に恐怖を」


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


 デパートの広々としたフードエリアで、激しい戦闘音と悲鳴が響き渡っていた。


「な、なんなのよコイツ!?」

「こんなに強いなんて聞いてないわよ!」


 震えた声を出すのは、神装を装備した邪神教の使徒達だ。

 彼女達の目に映っていたのは、白銀の軌跡を描きながら疾走する一人の青年の姿。

 その青年は銃と一体化したような双剣を振り回し、次々と邪神教の者達の首を斬り飛ばしていく。


「くっ!舐めるなあぁぁぁぁ!!」


 邪神教の一人が槍型神装を構え、青年に突撃。

 鋭い鏃が青年の首に向かって、高速で迫る。

 だがその時、青年の首に巻いてあった赤いマフラーが動き出し、迫りくる槍を弾き返す。


「なにっ!?」


 驚愕の表情を浮かべた邪神教の使徒。

 そんな彼女の首が、閃光の斬撃によって斬り飛ばされた。

 銀色の髪を揺らしながら、青年は深紅の瞳を爛々と輝かせる。


「この程度か?邪神教共?」


 青年から放たれた強い殺気。

 生き残っていた邪神教達は身体を震わせ、後退る。


「来ないのか?なら終わりにしよう……スキル〔装備装着〕」


 青年は静かな声でスキル名を告げた。

 すると彼の口元に、赤黒い金属製マスクが一瞬で覆われる。


「お前等……全員、死ね」


 低くて冷たく、殺意が籠った声をマスク越しで青年は発した。

 その直後、邪神教達は苦しそうに顔を歪め、手に持っていた神装を手放す。

 呻き声を上げながら、彼女達は床に倒れていく。


「ガハッ!」

「アアアアッ!!」


 口から泡を吐きながら、次々と死んでいく邪神教達。

 それと同時に、床に落ちていた神装が消えていく。

 そして最後の一人になった邪神教の使徒は、死ぬ寸前に青年を見る。

 深紅の瞳を持つ、銀髪の死神。

 そんな彼は誰よりも恐ろしく、美しかった。


「光…闇……レイ…ジ」


 使徒は青年の名を発した後、瞼を閉じて命を落した。 


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


 マスク型魔道具〘死音〙の力で、邪神教達を殺した銀髪の青年—――光闇レイジ。

 彼の周りには多くの死体が転がっており、大きな血だまりが出来ていた。


「ここにもいない……か。クソッ、どこにいるアイツは!」


 舌打ちするレイジ。

 デパートで大火事を引き起こした首謀者を見つけることができなくて、苛立っていた。

 そんな彼に、黒いドレスを着た女神―――ハデスが歩み寄る。


「ご主人様。こちらの敵……全て片付けました」

「ああ、助かった」


 デパートの中には邪神教達が多く存在しており、レイジとハデスが見つけ次第、排除しているのだ。レイジの分身達ができるだけ人命救助に集中できるように。


「悪いな……こんな血生臭いことに付き合ってもらって」

「いえ、気にしないでください。私は貴方の従者。どこまでもお付き合いします」

「……ありがとう、ハデス」


 レイジは心から感謝していた。

 敵とはいえ、人や女神を殺すのは良い気分になれない。

 だからと言って、大切なものを守るには敵は殺すしかない。

 それに付き合ってくれる仲間がいるのは、レイジにとって心強かった。

 

「いえ、当然のことです。……あの、ご主人様。聞きたいことがあるのですが?」

「なんだ?」

「この火災を……ご主人様は知っていたのですか?」

「……知っているよ。この火災は邪神教の奴らが引き起こした事件であり、癒志桃の覚醒イベントでもあるんだ」


 黒い炎で燃え盛るフードエリアを悲しい表情で見つめながら、レイジは語る。


黒炎事件(こくえんじけん)。邪神教最高幹部、《邪聖の十二星座》の一人、〈山羊座(カプリコーン)〉のナナとその部下達が起こした事件だ。デパートにいた多くの人間や女神は黒い炎によって命を奪われた。だけど一人だけ……生き残りがいたんだ」

「それが……癒志桃様ですか?」


 ハデスの問いに対し、レイジは頷いて、肯定する。


「本来、スキル〔災悪視〕で見た死の未来は必ず起こる。見た未来を変えるには、未来を知った者が行動を起こさないといけない。だけど未来を変える方法は、他にもある。その一つが女神の覚醒だ。ハデス、稀ではあるが女神は一定の強さを得なければ覚醒しない。そうだな?」

「はい」

「じゃあ例外はなんなのか知っているか?」

「ええ、勿論。確か命の危険を察した時、女神は覚醒する…!?まさか!」

「そうだ。癒志桃はこの事件がきっかけで覚醒するんだ。あの子には女神の血も流れているからな」

「そうなのですか……だから生き残ったのですね」

「ああ。だけどその後は……癒志桃にとって地獄が始まった」


 マスクの下で忌々しそうにガリっと歯噛みして、レイジは話を続ける。


「黒炎事件で生き残った癒志桃は、恨まれて、虐められるんだ」

「!?なぜですか?」

「八つ当たりだよ。黒炎事件で死んだ人たちの家族や友人からのね。なんでこの子は生きていて、ウチの子は死んだんだー!的な感じだ」

「それは…あまりにも酷すぎます」

「そうだな。だが……そのおかげで癒志桃は強い魔導騎士になれたのかもしれない」


 アニメ『クイーン・オブ・クイーン』に登場する癒志桃がクールで強くなれたのは、恐らく虐められたおかげだろう。

 虐めを受けたことで自然と精神的に強くなり、家族を奪った邪神教を復讐するために魔導騎士になった。

 つまり黒炎事件と理不尽な虐めが、癒志桃を強い魔導騎士にしたのだ。


「きっとアニメの癒志桃がクールだったのは……多くの悲しみと強い憎しみが原因なんだろうな。皮肉な話だ」

「そうですね。ですが……ご主人様はこのイベントを壊すんですよね?」

「当然だ」

 

 強くはっきりと言うレイジ。

 彼の言葉には、迷いがなかった。


「桃ちゃんは夕陽と朝陽の友達だ。なにがなんでも助ける。例え大切な覚醒イベントだとしても。それに」

「それに?」

「気に喰わない未来はぶっ殺す。それが今の俺、光闇レイジだ」


 アニメでは人々の不幸を喜び、多くの命を奪った最凶の死神。

 だが今の死神は多くの命を救い、人々の不幸となるものを殺す。

 そんな主の姿を隣で見ていたハデスは、微笑みを浮かべた。


「どこまでもお付き合いします」

「ありがとう、ハデス。頼らせてもらうよ」


 レイジがそう言うと、ハデスは「はい」と返事をした。

 その時だった。二つの足音が聞こえたのは。

 レイジは両手に持っていた〘血鬼〙を構え、ハデスは足音が聞こえた方向に視線を向ける。


「ご主人様…どうやらお客様が来たようです」

「そうだな。ハデス、お前は手を出すな」

「よろしいのですか?」

「ああ、お前に勝つには多くの戦闘を経験しないとな。ヤバくなったら頼む」

「畏まりました」


 ハデスはお辞儀をした後、後ろへ下がっていった。

 足音が徐々に大きくなり、レイジの警戒心がさらに強くなる。 


「おやおや~?光闇レイジくん発っ見っですね!」


 とても陽気な声を出したのは、長い黒髪をツインテールにした女の子。

 スカートが短い可愛らしいドレスに、ハートの形をしたヘアピン。

 ピンクのハートの紋様を宿したくりっとした瞳に、小さな唇。

 そして左腕全てを覆う血塗れの黒いガントレットに、右手に握り締められたハルバート型魔道具。

 まるで可愛さと凶悪さが合わさったような少女だった。


「そうだな。あいつの話に乗って正解だったな」


 ツインテールの少女の言葉に同意したのは、全身鎧に覆われた女性。

 丸びを帯びた分厚い装甲に、顔全体を隠す強固な兜。

 蟹の紋様が施されたマントに、片手に握り締められた巨大な鋏。

 そして右手首には、黒いブレスレット型魔道具が装着されていた。


「おいおいマジかよ……中ボスが二人同時に登場するか普通?しかも完全神装状態で」


 額から嫌な汗を流すレイジ。

 今、彼の目の前にいるのは邪神教最高幹部、《邪聖の十二星座》の二人。

羊座(エアリーズ)〉のマナリーと〈蟹座(キャンサー)〉のセラだ。


「なんであんたら二人が出てくる?この事件を起こしたのは、〈山羊座〉の奴だけだ」


 レイジの言うとおり、黒炎事件を起こしたのは《邪聖の十二星座》の一人、〈山羊座〉のナナとその部下達のみ。

 マナリーとセラが出てくるなどアニメ設定にじゃなかったはずだ。


「へぇ~。この事件を起こした犯人を知ってるんだ。ますます興味が出ちゃった」

「特別に教えてやろう。ナナに頼まれたのさ。お前を捕らえるのに、手伝ってくれって」

「なんだと?」


 違和感を抱いたレイジは、眉をひそめる。

 基本、《邪聖の十二星座》達は仲が悪く、協力し合うのはあまりない。

 特に〈山羊座〉のナナは誰とも協力せず、自分と部下のみで行動する。

 そんな彼女が同じ幹部に協力を求めた。

 アニメ知識を持っているレイジにとって、信じられなかった。


「なぜ俺を捕らえる?」


 レイジの問いに対し、セラが面白そうにクスクスと笑いながら答える。


「教皇様の命令だ」

「!?教皇……だと?」


 レイジが驚愕していると、マナリーが「そうなんだよ~」と明るい声で喋る。


「どうやら教皇様は貴方のことを気に入ったみたいなの」

「教皇が?……なんで俺を気に入る?」


 アニメに登場するレイジは、邪神教にスカウトされて仲間になった。

 だが教皇にはあまり気に入られていなかった。

 むしろ嫌われていた方だ。


「なぜ教皇が俺に目を付ける?答えろ!」

「知らないよ。そんなこと」

「そうだ。とにかく私達がやることはただ一つ……お前を捕らえることだ」


 マナリーとセラは武器を構え、不敵な笑みを浮かべる。

 本気で彼女達はレイジを捕まえる気のようだ


「…上等だよカス野郎共が」


 深紅の瞳を怪しく輝かせて、レイジは複数のスキルを発動し、肉体を爆発的に強化。

 さら両腕両脚に、機械仕掛けの黒と金のガントレットとブーツを一瞬で装備した。

 籠手型魔道具〘剛絶〙と長靴型魔道具〘羅刹〙だ。

 複数の神話級魔道具を装備した死神。

 リボルバー式拳銃双剣型魔道具〘血鬼〙の剣先をマナリーとセラに向けて、彼は強く宣言する。


「調理してやるから二人まとめて掛かってこい!」

 読んでくれてありがとうございます!

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