新しい仲間
ハデスとの戦闘を終えたレイジは、スキル〔空間操作〕で自分の部屋に転移。
そして子供の姿に戻り、彼はベットの上に座り込む。
戦いによる疲労が襲い掛かり、レイジの口からため息が漏れる。
「まさかオーバースキルと神話級魔道具を使ったのに、簡単に負けるとは思わなかったよ。こりゃあ、笑うしかないわ」
苦笑するレイジ。
彼が持つオーバースキルの中で、最も攻撃力が高い〔炎魔神化〕。
炎の魔獣LV7の魔石と精霊石で作り出した一撃必殺の槍、〘烈火〙。
この二つの力を合わせることで、島をも消滅することができるほどの破壊力を生む。
しかし、その力を使ってもレイジはハデスに勝てなかった。
かすり傷すらつけられなかった。
(いくらチートのラスボスでも、ライトノベルみたいに俺つえええぇぇぇぇ!とか、無敗無双!とかできないか)
アニメ『クイーン・オブ・クイーン』のラスボスである光闇レイジ。
世界を滅ぼすほどの力を持つ最低最悪にして最凶の存在。
だがレイジは最凶ではあっても、最強ではない。
いくら強いスキルや異常なほど高い属性適正LVなどがあっても、一番強いわけではない。
レイジよりも強い者は、まだまだいる。
その中には、ハデスも入る。
「ハデス…今日は戦ってくれて本当にありがとう。おかげで、直さないといけないところが分かったよ」
ハデスに向かって、深く頭を下げるレイジ。
自分よりも強い者と戦ったことで、自分の直さなければならない事や今度はどのように鍛錬すればいいのか、彼は把握できた。
失敗や敗北は成功や勝利した時よりも、多くの事を学ぶことができ、成長することが出来る。
それをよく知っているレイジは、ハデスと戦えたことを幸運に思っていた。
「礼には及びません。ご主人様のお役にたてるだけで私は嬉しいです」
「そういうわけにはいかない。恩には恩で返すのが礼儀だ。それにこれからも修行に付き合ってもらうつもりだし。なにか欲しいものはないか?」
「欲しいものですか?」
ハデスは顎に手を当てて、思考する。
数秒後、何かを思い付いたのか口を動かそうとした。
しかしとても言いにくい事なのか、口を閉じて黙り込む。
これは強引にでも聞かないとダメだなと察したレイジは、少し圧を込めた声で尋ねる。
「ハデス、言え。命令だ」
「!は…はい」
なぜか身体をビクッと震わせて、頬を赤くするハデス。
喜んでいるように見えるのは、きっと気のせいだろう。
「あの…わ、私が宿っている魔道具と同じ物を三つほど…作ってくれないでしょうか?」
「ロボット型魔道具を三つ?」
「はい」
レイジは難しい顔で、腕を組んだ。
(自分で聞いておいてなんだが、難しいものを頼むな)
ロボット型魔道具を作るには、多くの素材や時間が必要だ。
その中でも一番必要な物は、ロボット型魔道具の動力源である特殊鉱石―――魔神石。
魔神石は精霊石と同じく、神錬成石の一つ。
少し魔力や神力を流し込むだけで、膨大な魔力や神力を生成する効果を持つ。
これを作るには、LV7の魔獣の魔石が必要なのだ。
だがレイジが今所持している魔獣LV7の魔石は一つだけ。
そしてその一つは新しい魔道具を作るために使う予定だ。
「なんで作ってほしいんだ?しかも三つも」
気になったレイジが問い掛けると、ハデスは俯いた状態でゆっくりと語る。
「妹たちを…助けたいんです」
「妹たちを……それって女神の女王ゼウスを含めた三人の最高位の女神のことか?」
ハデスはこくりと頷いて、話を続ける。
「私のように付喪神にして、助けます」
「付喪神って…ちょっと待ってくれ。付喪神になるのって、稀なんだろ?作っても意味ないんじゃないのか?」
「その点は私の力でなんとかできます。それよりも魔道具に妹たちの魂を早く宿らせたいんです」
彼女は唇を強く噛み締め、拳を強く握り締めた。
「妹たちは今も苦しみながら、消えていっています。普通の女神は死ぬと新しい女神へと生まれ変わります。ですが」
「ロキの攻撃は魂をも破壊する。殺された者は、神でも長い間苦しめられ……消滅する」
「!?ご主人様、なぜそれを?」
驚愕の表情を浮かべるハデス。
ロキの事を詳しく知っているのは、神界でもごく一部の女神だけ。
本来、人間であるレイジが知っているはずがないのだ。
だがレイジは―――前世の記憶を持っているレイジは、ロキの事をよく知っている。
「ハデス…お前には話そう。俺の全てを」
それからレイジはハデスに全てを話した。
前世の記憶を持っていること。
この世界は『クイーン・オブ・クイーン』というアニメの世界であると言うこと。
そして自分が女神ロキと契約して、世界を滅ぼそうとするラスボスであるということを。
主の話を最後まで聞いていたハデスは、目を大きく見開いて硬直していた。
「…そんな……ご主人様がロキと」
「信じるのか?自分で話してなんだが、アホらしい話じゃないか?」
「これでも最高位の女神です。相手の嘘を見抜くことなど造作もありません。寧ろ納得しました。なぜ幼い子供であるご主人様があそこまで強くなろうとしていたのか」
ハデスはレイジと戦っていた時の事を思い出す。
「無駄のない動き。スキルの使い方。状況判断。神話級魔道具を作り出すほどの製作技術力。そして諦めず突き進む闘志。とても子供を相手にしている感じではありませんでした。ご主人様が強くなろうとしているのは、ロキと契約しないためですね」
「そうだ。そのためには別の女神と契約できるように実力を上げないと」
レイジが女神と契約できるようになるのは、五年後。
それまでには、強くならなければならない。
「ハデス。俺はロキの危険性はよく理解している。そして奴の凶悪さも」
「はい……」
「今すぐ用意はできないが、ロボット型魔道具を三つ作るのは約束しよう」
「!!本当ですか!?」
瞳を輝かせて、顔を近づけるハデス。
彼女の問いに対し、レイジは力強く頷いて笑みを浮かべた。
「ああ、料理人ってのは、注文されたものを作り、必ずお客様に届けるのが仕事だ。だから……楽しみにお待ちください、お客様」
胸に手を当てて、頭を下げるレイジ。
そんな彼を呆然とした様子で見つめていたハデスは、プッと噴き出して笑い出した。
「料理人関係ないじゃないですか?それ?」
「し、仕方ないだろう!癖なんだから!」
恥ずかしそうに顔を赤く染めながら、レイジは言い訳をした。
ハデスは目尻に浮かんだ涙を指で拭い、微笑む。
「ありがとうございます、ご主人様。楽しみに待たせてもらいます」
「……ああ、そうしろ」
微笑み合う死神と女神。
出会ったばかりだが、彼らの中に確かに強い絆と信頼が生まれた。
「さてと……お前に紹介したい奴がいるんだが…アイツどこ行った?」
キョロキョロと視線を動かして、レイジはルルアを探す。
朝、起きた時にはルルアは部屋におらず、どこにも居なかった。
それどころか、どこに行ったかさえも分からない。
「ご主人様……アイツとは誰の事なんでしょうか?」
「ん?ああ、ルルアって言う兎のぬいぐるみの姿をした奴だ。そいつは俺と同じ転生者だ」
「兎のぬいぐるみが…転生者ですか?」
「色々あってな……まぁ、どうせどっかでほっつき歩いているんだろう。そのうち帰って―――」
レイジが話をしていたその時、
「「「イッヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!」」」
リビングの方から三人の悲鳴が響き渡った。
レイジとハデスは何事かと思い、駆け足でリビングに向かう。
「どうしたの!?いったい…なに…が……?」
「……こ、これは!?」
レイジとハデスは目の前の光景を目にして、驚愕する。
二人の目に映っていたのは、床に倒れた三人の女神。
リオとアイリス、そしてセシーだ。
彼女達は恍惚とした表情を浮かべて、ビクンビクンと痙攣していた。
しかも全員、なぜか裸になっていた。
よく見れば床には破けた服が散らばっている。
「いや本当に何があったのこれ!?」
本当になにがあったのか分からず、レイジは激しく混乱した。
叫び声が聞こえたから来てみれば、家族三人が裸で倒れていた。
まるでコメディのような展開。
ハデスは落ち着いた様子で三人に近付き、しゃがみ込む。
そして細長い指で、痙攣しているアイリスの肌に触れた。
「やはり…でもなんで」
なにか分かったのか、ハデスは驚きを露にする。
「なにか分かったのか、ハデス!?」
「はい、ご主人様……どうやら彼女達は覚醒しようとしている最中です」
「覚醒!?」
女神は一定の強さになると、ごく稀に新たな女神へと覚醒することがある。
身体能力や神力の量など大幅に上昇。
中には最高位の女神になる者もいる。
「本来……覚醒できる女神と覚醒できない女神がいます。この二人の女神と、女神と融合したこの女性は覚醒できないタイプです。ですが……なぜか覚醒しようとしています」
「はぁ!?」
ハデスの言葉を聞いて、レイジは思わず驚きの声を上げてしまった。
覚醒できないはずの女神が、覚醒しようとしている。
アニメでもなかったことが目の前で起きている。
レイジがなぜこんなことになったのか考えていたその時、
「レイくん!ハデスちゃん!」
何枚ものバスタオルを両手で持った愛花が、慌てて様子でリビングにやってきた。
「お母さん!?これはどういう!?」
「分からない……けどとりあえず、三人を寝室まで運ぶよ」
愛花は倒れている三人に、タオルを掛けて肌を隠す。
「レイくん、ハデスちゃん。二人とも手伝って」
「はい、奥様」
「いや…俺は男だからちょっと」
女性の肌に触れるのに抵抗があったレイジ。
そんな息子を安心させるために、愛花は優しく声を掛ける」
「大丈夫だよレイくん。だって私―――」
「レイくんを男だと思っていないから」
「グホッ!」
悪意のない愛花の言葉の刃が、レイジの心にクリティカルヒット!
精神的にダメージを受けて、レイジは口から血を吐きそうになる。
倒れなかったのは、奇跡だろう。
(まさか母親に男だと思っていないと言われる日が来るとは……やっべ泣きたくなってきた)
レイジはなんとか涙を必死に堪える。
だが彼の心に、更にダメージが襲う。
「そうですね。奥様の言う通りご主人様は男というより、女の子ですね」
「ガッハアアァァァァァァァ!!」
ハデスの言葉が炸裂!
白銀の死神の精神に、大ダメージ!
レイジは床に膝をつけ、四つん這いに倒れた。
彼の深紅の瞳から雫がポタポタと零れる。
「女の子みたいな見た目で……すみません」
いくつもの強力なスキルと異常なほど高い属性適正LVなどを、生まれた時から持っている光闇レイジ。
彼に欠点があるとすれば、スキル〔性転換〕を使わなくても、女の子に見える事だろう。
◁◆◇◆◇◆◇◆▷
その後、レイジとハデス、愛花は倒れた三人を寝室に運び、服を着させ、ベットに寝かせた。
一段落した後、レイジは愛花に何があったか尋ねる。
「お母さん。なんで三人はあんな状態になってたの?」
「それが分からないんだ。三人がフレンチトーストをつまみ食いしたら、突然変な声を出したの。しかも服が弾け飛ぶし」
「つまみ食い…つまり俺が原因か」
レイジは眉を顰めて、顎に手を当てる。
愛花の話が本当なら、レイジのフレンチトーストを食べて三人は覚醒するようになったと言うこと。
だが彼女達は今までもレイジの料理を食べていたが、なにも起こらなかった。
(俺の料理には、食べた人のあらゆる性能を上げる効果がある。だけど女神を覚醒させるなんて初めて知ったぞ。なにか条件があるのか?)
自分の料理が原因で三人は覚醒するようになった。
それは間違いなかった。
レイジがブツブツと呟きながら思考していると、ハデスが問い掛けてきた。
「ご主人様…もしかしたら三人が覚醒するようになったのは、ご主人様の料理を食べたからでは?」
「それは分かっている。だけど今までも三人は俺の料理を食べていたが、問題なかった」
「そうなんですか…因みに今まで何を食べさせたんですか?」
「え?えぇ~と、確か飴やクッキーに、チョコレートにミックスジュース、ゼリー、プリン…あとケーキとかかな」
「出来立てですか?」
「いや……出来立てじゃないかな。出来立てのやつは今日が初めてで!!まさか!」
なにかに気が付いたレイジは、机の上にある食べかけのフレンチトーストに視線を向ける。
「女神は俺の出来た手料理を食べると、覚醒するのか!?」
「恐らくそうでしょう」
首を縦に振って、ハデスは肯定する。
レイジは顔に手を当てて、ため息を吐いた。
(こいつは面倒になったな)
レイジが作った出来立て料理を食べるだけで、女神が覚醒する。
それはこの世界では、最強のチート強化アイテム。
もしレイジの料理の事を知れば、国や政府などが黙っていない。
最悪の場合、レイジをめぐって戦争になる。
(面倒なことになったな。とりあえず出来立ての飯は女神には喰わせないようにしないと!?)
レイジが今後の事を考えていたその時、スキル〔災悪視〕が自動発動。
彼の頭の中に映像が流れ込んでくる。
その映像は黒い炎に包まれた大型デパート。
デパートの中にいた人間や女神は、黒炎に焼かれて死んでいく。
そんな地獄のような場所で、一人の桃髪の少女―――癒志桃が瓦礫に埋まっていた。
血を流しており、泣きながら「誰か…助けて」と弱々しく言っている。
「そうだ…あの子は……あの事件で」
スキル〔災悪視〕で人の死の未来を見たことで、あることを思いだしたレイジ。
彼はガリっと歯噛みした後、スキルを唱える。
「スキル〔成長操作〕、〔装備変換〕」
レイジの肉体が少年から青年へと成長。
服装も私服から装甲付きの灰色ボディースーツへと変わった。
スーツの上には、漆黒のジャケットを着ており、首には赤いマフラーが巻いてある。
その姿はまるで死神。
突然、姿を変えたレイジを目にして、なにかを察したハデスは歩み寄る。
「お供します」
「頼む」
レイジがスキル〔空間操作〕を発動しようとした。
その時、
「レイくん……行くの?」
心配そうな表情で愛花は問い掛けてきた。
彼女を安心させるために、レイジは優しそうな微笑みを浮かべる。
「大丈夫、すぐ戻るから」
「でも…心配だよ。そうだ、私も一緒に!」
「お母さんは三人をお願い。それに夕陽と朝陽もそろそろ起きるだろうし……お母さんがいなかった不安になるでしょう?」
「……うん、分かった。いってらっしゃい。気を付けてね」
止めても無駄だと察した愛花は、そう言うしかできなかった。
レイジはスキル〔空間操作〕を発動し、ハデスと共に姿を消した。
どこかに転移して、誰かを助けに行ったんだろう。
見送ることしかできなかった愛花は、息子の無事を祈る。
「お願い…ちゃんと帰ってきてね」
読んでくれてありがとうございます!
気に入ったらブックマークとポイント、お願いします!