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少女の正体は!

 シチューを食べ終えたレイジは、オレンジジュースをストローで飲みながら少女に視線を向ける。


(不思議なシチューだったな。味は普通なのに今まで食べてきたシチューの中で一番だった。……いや、違うな。シチューがめちゃくちゃ美味く感じたのはこの女の子の優しさだろう)


 特別な調味料は愛情という言葉がある。

 前世では美味しい料理を作る為に、スパイスや酒など細かく調節する技術を学んだ。

 だが、料理に愛情を込めるということだけは、レイジには理解できなかった。


(だけどようやく分かった。これが愛情という味なんだろうな)


 心の中でそう思ったレイジは、自然と頬を緩ませる。

 彼の顔を見て、少女は嬉しそうに問い掛ける。


「そのオレンジジュースも美味しい?」

「うん。とっても美味しいよ」

「そっか。気に入ってもらえて()()嬉しい♡」


 次の瞬間、レイジは口からオレンジジュースを噴き出した。


「だ、大丈夫!?」

「ゲホゲホ……ちょっと気管にジュースが入っただけ」


 平静によそおうレイジだが、内心では混乱して、驚愕していた。


(はぁ!?ママ?今ママって言ったよこの人!つまりこの人が俺の母親の光闇愛花?どう見ても小学生だろう!?)


 自分の背中を優しくさする少女に、レイジは信じられないといった様子で視線を向けた。

 愛花は心配そうに眉を寄せて、レイジに尋ねる。


「本当に大丈夫?昨日の夜はうなされていたから余計に心配」

「うなされていた?」

「うん。『なんで調理場に猛毒蛇がいるんだよ!』とか『動物の脳みそを料理するなんて』とか、『大丈夫か、フラーラ!?』とか言っていたよ」

「それって!」


 昨日の出来事を聞いて、レイジは目を大きく見開いた。

 愛花が言ったことは全て、前世の時に喋った言葉だった。

 レイジは顎に手を当てて、自分の状態を予測する。


(多分、俺は熱の影響で前世の記憶を思い出したんだな。じゃあ、光闇レイジの記憶は一時的に忘れているだけで時間が経てばそのうち……!!)


 突然頭痛が襲いかかり、レイジは頭を押さえる。

 息子の異変に愛花は狼狽する。


「ど、どうしたの!?」

「頭が……痛い!!」


 今まで味わったことが無い頭痛がレイジを苦しめる。

 同時に知らない記憶が頭に流れ込んでくる。


(なんだ、これ!?もしかして、光闇レイジの記憶か!?)


 激痛に耐えながら、忘れていた記憶が蘇る。

 呼吸が荒くなっていく。

 やがて頭痛が収まった頃には、レイジは額から大量の汗を流していた。


「し、死ぬかと思った」

「大丈夫!!本当に大丈夫なの!?」


 涙目になって顔を近づける愛花。

 彼女の表情からは息子を深く心配しているのが伝わってくる。

 乱れた呼吸を整えたレイジは、クスリっと微笑む。


「……今まで迷惑かけて来た悪ガキの俺を心配してくれるんだ」

「あたりまえだよ!あなたは私の大切な子供だもの!」

「そっか……ありがとう。お母さん」

「え?」


 愛花は呆然とした。まるで夢でも見ているのではと。


(まぁ、今まで散々ロリババァって言っていたから無理もないか)


 レイジが前世の記憶を思い出すまで、家族全員には酷く迷惑をかけてきていた。

 故に彼は自分の過ちを正すためにも、


「それと……色々とごめん」


 愛花に向かって頭を深く下げた。


「え?レイくん…どうしたの急に?」


 硬直が解けた愛花は謝罪するレイジに困惑した。

 当然の反応だから仕方ないと思いつつ、レイジは言葉を続ける。


「俺は今まで悪いことをしてきたから、ちゃんと謝りたくて。こんなバカな俺を心配してくれる良い親なのに口悪く言ってきた。本当に後悔している……だから、これからはちゃんとしてっ!?」


 顔を上げたレイジは、驚愕の表情を浮かべた。

 なぜか?理由は母親である愛花が顔をくしゃくしゃにして号泣していたからだ。

 彼女の涙がベットの上に零れ落ちる。


「ちょっ、母さん!?」

「うわあああああああああん!レイくんが…レイくんが……初めて反省したよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

「いや、泣きすぎでしょ!大丈夫?」

「心配もしてくれたああああああああああ!!」

「そこで感動しなくてもよくない!?」


 それから愛花は「今日は赤飯だよ~!」と叫びながら部屋から出て行った。

 走り去っていく母親の姿を、レイジは眺めていることしかできなかった。


「またこのパターンかよ!」

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