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闇ハッカーの実力

 喧嘩という名の激闘をした後、ルルアは分身体のレイジに色々と説明した。

 迷子になった癒志桃が、秘密基地として活用している廃工場に来たこと。

 そして桃を本体のレイジが、遊園地に送りに来たことを。


「なるほど……本体の俺は今、ここにいるのか」

『はい。ここの監視カメラをハッキングして見たのですが、どうやらマスター達は他の【邪神教】の信者達と戦っていました』

「マスター達……ってことは、俺以外の分身がいるって意味だよな?」


 彼が問うと、ルルアは頷いて「ええ、そうです」と答えた。


『既に【邪神教】の信者達は、マスターの分身達によって全滅させられました。流石は最悪の死神ですね』

「うるせぇよ。でもそうか、他の奴らは全滅したのか。……消えた分身はいるか?」

『いえ、ここに来る時に一度確認しましたが、いませんでした。これからどうしますか、マスター?」

「そうだな」


 レイジは顎に手を当てて、思考する。

 そして数秒後、レイジは口を動かした。


「とりあえず俺はフードエリアに避難させた人達を、ここより安全な場所に避難させる。念のためな」

『その後、本体のマスターと分身達と一緒に、癒志桃と避難し遅れた人達を探す……ですか?』

「そうだ。それと残党がいるかもしれないから、一応確認する」

『相変わらずのお人好しですね。普通、そこまでしますか?』

「俺がそうしたいんだよ」

『まったく……なら私はドローンやカメラをハッキングして探してみますね。そっちのほうが早いですし』

「おお!それは助かる。なら頼む」

『はいはい。ではマスターはあそこにいる人達を避難させてください』

「ああ、わかった」


 分身体のレイジはフードエリアに向かおうとした。

 その時だった。音速を超えた速度で飛んできた黒い矢が、彼の頭を貫いたのは。

 矢によって撃ち抜かれた分身体のレイジは、粒子と化して消滅した。

 そして同時に、フードエリアに張られていたバリアが消え始める。


「!?」


 あまりにも突然のことに、驚愕するルルア。

 分身体とは言え、レイジは化物クラスの強さを持っている。女神なしで。

 そんな彼がやられたということは、敵はレイジ以上の強者だということ。

 急いでルルアは遊園地にある全ての監視カメラをハッキング。

 彼女の目の前に無数のウィンドウが投影された。

 空中投影された画面を見て、ある事に気が付く。


『マスターの全ての分身が居ない!』


 そう、いないのだ。遊園地のどこにも、レイジの分身達が。

 カメラの映像に映っているのは、本体のレイジのみ。

 

 他のレイジの分身達はどこ行ったのか? 

 考えられるのは、ただ一つ。


 何者かに排除された、だ。


 ルルアは嫌な予感を感じながら、視線を向けた。矢が放たれた所に。

 そこにいたのは、大きな弓を持った女性。

 長い黒髪に紫の瞳。身体全身を覆う銀色の鎧に、それぞれ両肩に浮かんでいる二つの蒼い水晶。

 そして左目あたりには、弓矢の紋様が描かれた片眼鏡が掛けられていた。


「最悪ですね。アニメでは遅く登場した奴が、現れるとは」


 大きな弓を持つ女性を見て、ルルアは戦慄した。

 知っているのだ。彼女が何者かを。


「まったく……〈射手座(サジタリアス)〉のカーラがいるなんて、ありですか」


 カーラ。【邪神教】の最高幹部、《邪聖の十二星座》の一人。

 神聖属性の女神メスと契約しており、遠距離攻撃が得意とし、狙った的は必ず当てる弓矢のプロ。

《邪聖の十二星座》の中で、カーラ以上の遠距離攻撃が上手い者はいない。


「そこのぬいぐるみさん。あなた……言葉が通じるのね」

『アハハ、近くで見ると可愛い~!』


 興味深そうにルルアを見つめるカーラ。

 そしてカーラの身体にいる女神メスは、面白そうに笑う。

 ルルアは警戒しながら、「だったらなんなんですか?」と尋ねた。

 するとカーラはニコッと笑って、


「じゃあとりあえず、あなたを苦しませるわ」


 弓を構えて、黒い矢を装填した。

 限界まで弦を引っ張り、そして黒い矢を放った。

 音速を超えた速度で矢は空中を飛び、ルルアに向かう。


『『じゃあとりあえず、あなたを苦しませるわ』じゃないですよ!スキル〔雷砲(らいほう)〕!』


 ルルアがスキル名を唱えると、空中に雷でできた大砲が出現した。

 大砲は大きな音を立てて、雷の光線を発射。

 黒い矢と光線が衝突し、爆発が巻き起こる。


「あらら、思ったよりやるわね。これは苦しませるかいがあるわ」


 邪悪な笑みを浮かべたカーラは、掌に五本の黒い矢を生み出した。

 そして五本の矢をまとめて弓に装填し、一斉に放った。

 五本の矢は雷の大砲に直撃。

 大砲はバチバチと放電し、爆発した。

 爆発の影響で発生した突風が、カーラの黒い髪を揺らす。


「んん~!この爆発、最高ね~♡」


 恍惚とした表情を浮かべたカーラは、もう一度矢を放とうとした。

 その時、百キロ超えの速さで走行していた大型バスが、カーラに突っ込んだ。


「えっ?」


 突然の事に反応できなかったカーラは、バスと激突。

 バスの正面が深くへこみ、フロントガラスに大きな皹が走る。

 カーラの身体は勢いよく吹き飛び、地面の上を何度もバウンドする。

 だがカーラはすぐに体勢を整え、ルルアを睨みつけた。


「いったい……なにをしたのかしら?」

『バスをハッキングして、あなたにぶつけただけですよ?そんなことも、分からないんですか?』

「……ムカつくわね、あなた」


 額に青筋を浮かべたカーラは、片手を前に突き出す。

 するとカーラの両肩に浮遊していた二つの水晶が、強く発光した。


「消し飛べ!」


 カーラの言葉を合図に、水晶から蒼い光線が放射された。

 咄嗟にルルアは回避する。

 だが少し遅かったせいで、ルルアの右腕に光線が直撃。

 ルルアの右腕は細かく分解され、跡形もなく消滅した。


「チッ!やっぱり面倒な魔道具ですね!」


 舌打ちしたルルアは、カーラの両肩に浮かんでいる二つの水晶—――神話級魔道具を睨む。

 カーラが持つ邪聖の十二星座専用の魔道具、〘死光(しこう)水晶(すいしょう)〙。

 二つの水晶から粒子レベルまで分解する光線を放つ強力な魔道具。

 防御することは不可能。

 対処方法はただ一つ。躱すだ。


(まったく……なんでこんな化け物が出てくるんですかね。おかげで片腕が無くなっちゃいました。けど……こいつを倒さないと、マスターが捕まってしまいますし)


【邪神教】は邪神属性の適性を持っている者を、集め、洗脳し、仲間にする。

 レイジには邪神属性の適正があり、しかもその適正LVは10。

【邪神教】がそんなレイジを捕まえないはずがない。


(あ~あ。会ってそんなに時間が経ってないのに……こんな感情を抱くなんて。私って、意外とチョロいんですかね)


 残った片腕を胸に当て、ルルアは心の中で自嘲した。

 アニメ『クイーン・オブ・クイーン』のラスボスに転生した早崎耕平。

 誰よりも強く、家族想いで、優しく、困った人が居たら自分を犠牲にしてでも助ける。

 そんな彼がルルアには眩しく見えた。

 それだけではない。

 レイジはある料理をルルアに与えたのだ。

 

 その料理は―――恋だ。


『あの人を……渡すわけには行かないんですよね』


 アイカメラを強く発光させて、ルルアは静かに声で呟く。

 愛する男性を【邪神教】に奪われないために。

 そして目の前の敵を、徹底的に叩き潰すために。


 闇のハッカーは、本気を出す。


『ハッキング……開始です』


 次の瞬間、ルルアの身体から激しい放電が起こった。

 しかもそれだけではない。

 遊園地に置かれていた機械装置や、駐車場に停まっていた車やバス、バイクなどがルルアに吸い込まれていった。

 吸い込まれた装置や自動車は一度分解し、合わさり、新たな部品へと生まれ変わった。

 合体しているのだ。ルルアと周囲にある機械全てと。

 色々な機械と合体し、ルルアは大きくなっていく。

 数分後、無数の機械とルルアの合体が終わった。


 遊園地に設置された装置と何百台の自動車と合体したルルアの姿はまるで……要塞だった。


 三百メートルはあるだろう大きさに、全身を覆う金属装甲。

 大きな音を立てて起動している巨大なエンジンに、幾つも搭載された大砲。


「こ、これは……」

『うわ~……』


 機械仕掛けの要塞と化したルルアを目にして、カーラとメスは言葉を失った。


『驚きますよね。こんなの見せられたら。けど……驚くのはこれからですよ?』


 要塞に搭載された全ての大砲の砲口をカーラに向け、ルルアは告げる。


『さぁ……あなたもハッキングしてあげましょう。死ぬまでね』


 読んでくれてありがとうございます。

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