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潜む新たな敵

「パパ、ママ…怖いよ」

「私達…どうなるの?」

「大丈夫だよ二人とも」

「ああ、きっと大丈夫だ」


 身体を震わせて怯えている夕陽と朝陽。

 そんな二人の娘を抱き締めて、安心させる愛花と裕翔。

 現在、彼らは遊園地のフードエリアに避難していた。突然、襲撃してきた【邪神教】から身を守るために。

 フードエリアには他にも、子供や老人夫婦、従業員、そして怪我を負った魔導騎士とその相棒の女神がいた。

 誰もが怯えており、不安な表情を浮かべている。


「クソ……なんでアイツ等がこんなところに!」


 ガリっと歯噛みして、壁に拳を打ち付けるリオ。

 愛花達と一緒に楽しんでいたというのに、【邪神教】に台無しにされて腹を立てていたのだ。

 そんな彼女に、アイリスは声を掛ける。


「騒いでも仕方ないわ。一旦落ち着きなさい、脳筋バカアホ間抜け生きてる価値なし女神」

「そこまで言う必要ないだろ!それに、こんな状況で落ち着いていられるか!奴らに攻められて、しかも……今、レイジはここを守るために必死に戦っているんだぞ!」


 リオ達が今いるフードエリアは、巨大なドーム状のバリアに覆われていた。

 そのバリアを張ったのは他でもない。

 光闇レイジだ。

 彼は家族や多くの人間、女神をフードエリアに避難させた。

 そしてフードエリアに強固なバリアを張り、レイジは【邪神教】と戦いに行ったのだ。多くの命を守るために。


「お前はアイツが心配じゃないのかよ!」

「それは……」


 アイリスは拳を強く握り締め、唇を噛んだ。

 本当は彼女だって、レイジを助けに行きたくて仕方がなかった。

 だがアイリスは戦闘向きの女神ではない。行ったところで、レイジの足手まといになるだけ。

 故に行けなかった。

 

「とにかく私はレイジを助けに行く。戦える奴はもう私と愛花しかいないからな」


 指をポキポキと音を鳴らしながら、リオはレイジの加勢に向かおうとした。

 だがその時、愛花が言葉を発して、リオを止める。


「リオちゃん、行かなくていいよ」

「なんでだ!」

「あのレイくんは本物じゃない。分身だよ」

「なっ!?」


 相棒の言葉を聞いて、驚愕するリオ。

 彼女は「それは本当なのか!?」と問うと、愛花はコクリと頷いた。


「どういう理由か分からないけど……私達と一緒にいたレイくんは間違いなく分身体だよ」

「じゃ、じゃあ本物のレイジは?」

「無事だよ。分身体が存在しているということは、本体も生きているということだから」

「そ、そうなのか」


 レイジが無事だと知って、リオは胸を撫でおろした。

 その時だった。バリアの外で突然、大きな落雷が起こったのは。

 雷鳴が轟き、多くの人間と女神は反射的に目を閉じて、耳を塞いだ。


「なんだなんだ!?」

「雷!?」


 突然、起こった落雷に驚愕するリオとアイリス。

 愛花は娘を強く抱き締めて、不安な表情を浮かべた。


「レイくん……」


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


 落雷が起こる少し前。

 家族と一緒に遊園地に来ていた分身体のレイジは、苦しそうに顔を歪めていた。


「クソ……なんでこいつらが現れるんだよ」


 悪態を吐くレイジ。

 彼はスキルの力で大人の姿になって戦っていた。突然、襲撃してきた黒いローブ姿の女性たちと。

 女性たちは手に持っていた神装を構え、レイジに襲い掛かる。


「スキル〔絶鎌〕」


 レイジがスキルを発動すると、空中に漆黒の大鎌が出現。

 大鎌の柄を彼は握り締め、迫りくる女性たちに向かって斬撃を放つ。

 鎌の刃は彼女達の神装を粉々に斬り裂き、無力化する。

 しかし、


「これぐらいで!」

「我ら【邪神教】が止まると思うな!」


 女性達—――【邪神教】の信者達は魔法陣を展開し、再びレイジに襲い掛かる。

 彼女達の目には、殺意と狂気が宿っていた。

 それを感じ取ったレイジは、舌打ちする。

 

「面倒くさいな本当に!」


 白銀の髪を揺らしながら、彼は大鎌を高速回転させた。

 そして目に留まらない速さで地面の上を駆け、【邪神教】の信者達を容赦なく細切れにする。チェーンソーの如く回転させた漆黒の大鎌で。

 肉の破片と鮮血が周囲に飛び散り、血の臭いが充満する。


「お前たちのこうなりたいなら、かかってこい」


 身体から白銀のオーラと強い殺気を放ちながら、レイジは鋭く目を細めた。

 彼の威圧に思わず【邪神教】の信者たちは後退る。

 しかしそれは一瞬だった。

 彼女達はすぐに気を取り直して、神装を構える。


(撤退はしない……か。こっちはフードエリアに避難させた家族や他の人を守りながらやってるから、逃げてくれると嬉しかったんだが)


 巨大なドーム状のバリアに覆われたフードエリアを、レイジは横目で確認する。

 あそこには、自分の家族や老人、子供、女神など多くがいる。

 故に負けるわけには行かなかった。


「やってやるよ」


 深紅の瞳に強い意志と覚悟を宿し、レイジは大鎌を構える。


「調理してやるよ、【邪神教】のイカレ野郎ども」


 レイジの言葉を合図に、【邪神教】の信者達は一斉に動き出した。

 その時、突然邪雲から大きな落雷が起こり、彼女達に直撃した。

 眩しい雷の光が発生し、レイジは反射的に目を瞑る。


「「「キャアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」」」


 落雷を受けて、断末魔の悲鳴を上げる【邪神教】の信者達。

 一億ボルトの雷撃が彼女達の身体に激痛を与え、苦しめる。

 やがて落雷が収まると、【邪神教】の信者達はゆっくりと地面に倒れた。

 彼女達全員、身体が黒く焦げており、白い煙を上げていた。

 レイジは恐る恐る目を開け、驚愕の表情を浮かべた。


「こいつは……ずいぶんと派手な事をしたな。ルルア」


 レイジが声を発すると、物陰から白い兎型ロボット人形—――ルルアが現れた。


『いや~バレていましたか』

「まぁあな。あんな強力な落雷を発生することができるのは、俺かお前しかいないと思ってな」

『よく分かりましてね。初めて私の技を見せたのに』

「なに、ただの勘だ。それよりなんでお前はここにいる?」

『ニュース記事で【邪神教】がここを襲っていると書かれていたので、急いできたんですよ。ヘリをハッキングして』

「おい、それ大丈夫なんか?」

『大丈夫です。足跡は完全に消しました。絶対にバレません』

「流石は闇ハッカー」


 少し呆れた表情でレイジは苦笑した。

 ヘリをハッキングして助けに来たルルアが、とても大胆で心強いなとレイジは思った。


「ありがとう、ルルア。おかげで助かったよ」


 助けに来たルルアにレイジは感謝を述べた。

 するとルルアは、


『どういたしまして。お礼にエロい水着を着た女体化マスターを撮らせてください』

「撮らせるわけないだろう」


 即答でレイジは断った。

 ルルアは盛大に舌打ちをして、「クソが」と呟く。


『これだから童貞は』

「童貞は関係ないだろう!童貞は!」

『あるわ!童貞ってことは、ヘタレ野郎ってことです!』

「おい今すぐ俺と世界中の童貞の皆様に謝れ、クソ兎人形!」

『事実だから謝りません~!」

「よし分かった。お前をここで潰す!』

『やれるもんならやってみろ!そして私が勝ち、あなたにエロい水着を着させるです!』


 それから銀髪の死神と白い兎型人形の激しい戦いが、起こった。

 二人の激闘の余波によって、周囲の物が壊れていったのは、言うまでも無い。


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


「桃ちゃーん!いたら返事してくれ、桃ちゃーん!」


 大きな声を上げながら、癒志桃を探す分身体のレイジ。

 彼の身体には返り血がついており、先ほどまで戦っていたのが伺える。


「どこ行ったんだ?【邪神教】の奴らがウヨウヨしてるから、危ないのに。まぁさっき殺したから、大丈夫だけど。きっと他の分身達も同じく【邪神教】と戦っているだろうな」


 深いため息を吐いた分身体のレイジは、頭をガリガリと掻く。


「ああもう!文句言っても仕方ない!とにかく桃ちゃんを探さないと!」


 レイジは気持ちを切り替えて、桃の捜索を再開しようとした。

 その時だった。途轍もなく嫌な悪寒が走ったのは。


「!スキル〔障壁〕!」


 己の本能に従い、レイジは自分を中心に半球状のバリアを幾つも張った。

 その直後、音速を超えた速度で黒い矢が飛んできた。

 矢はバリアに衝突し、激しいスパークが起こる。

 そしてーーー黒矢は何重にも張られたバリアを貫き、レイジの左腕を吹き飛ばす。


「くっ!この矢は!」


 驚愕した表情を浮かべたレイジは、矢が放たれた方向に視線を向ける。

 その直後、彼は蒼い光線に呑み込まれた。

 レイジの身体は粒子分解していき、そして跡形もなく消滅した。

 それを一キロ以上離れた場所で見ていた銀色の鎧を纏った一人の女性。

 彼女の手には、二メートルはあるだろう大きな弓が握られていた。


「ふふ…相当距離があったのに、バリアを張るなんて……分身のくせにやるわね。本体はどんな感じなのかしら」

 

 女性は頬に手を当てて、面白そうに笑みを浮かべた。

 その時、彼女の中にいる女神が、声を発する。


『ねぇねぇ、カーラ。今度はどれを撃ち抜くの?魔導騎士?それとも幼い子ども?』


 可愛らしい声で、残酷なことを言う女神。

 そんな相棒の言葉を聞いて、弓を装備した女性ーーー、カーラは首を傾げる。


「んん~そうね……今度は誰を消そうかしら?」

『なら、あそこにいるぬいぐるみとさっき消した奴と同じ奴なんてどう?』

「え?どこ?」

『ほら、フードエリアの辺りにいる』

「ああ、あれね」


 その言葉を聞いてカーラは、視線を向けた。激しい戦闘をしている兎型ぬいぐるみと銀髪の青年に。

 するとカーラは邪悪な笑みを浮かべる。


「いいわね。偉いわ、メス」

『エヘヘヘ、褒められた~』

「さて、次の的はあの子達ね」


 首に掛けていた十字架が刺さった骸骨のペンダント。それに軽く口づけをし、女性は祈るように告げる。


「この世に絶望と混沌を」

 

 読んでくれてありがとうございます。

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