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衝撃的な事実

「そのマフラー…邪聖の十二星座専用の魔道具だ」


 セシリアの衝撃的な言葉を耳にして、レイジは呆然とした。

 言っている意味が分からなかった。

 レイジの首に巻いているマフラーが、【邪神教】物だとは……信じられなかった。


「なにを……言っているんだお前は?」


 動揺しそうになる気持ちを必死に抑えて、レイジは尋ねた。

 するとセシリアは不思議そうに首を傾げる。


「《邪聖の十二星座》になった者は、教皇様から神話級魔道具が与えられる。それは知っているだろう」

「それは……」

「ん?そういえば、そのジャケット……どこかで見たことあると思えば、アルファの魔道具じゃないか」

「アル…ファ?」

「お前の姉だ。《邪聖の十二星座》の一人だ。忘れたのか?

「!なん…だと?」」


 流石のレイジも動揺を隠せなかった。

 セシリアの言葉を聞いたとき、レイジの中にあった一つの疑問が解けたのだ。

 なぜ自分の母が、神話級魔道具を持っていたのか?


 その理由は、ーーー光闇愛花が、アルファという《邪聖の十二星座》の一人だったからだ。


 認めたくなかった。信じたくなかった。

 けれど、認めなければならない。信じなければならない。

 なぜならそれが恐らく……真実だから。


(そんな隠し設定があったとはな)


 額に手を当てて、ため息を吐くレイジ。

 あまりにも衝撃的なことを知ってしまったため、頭痛が起こる。


「おい、大丈夫かシグマ?頭でも痛いのか?」


 心配そうに問い掛けるセシリア。

 彼女はレイジに歩み寄り、顔を近付ける。


「もしかして記憶がないのか?それとも混乱しているのか?だから……シグマじゃないって言うのか?」


 セシリアは眉を八の字にして、瞳を潤ませた。

 本気でセシリアは心配しているのだ。シグマと勘違いしているレイジのことを。

 敵に心配されるのは変な気分だなと思いながら、レイジは口を動かす。


「セシリア……本当に俺がシグマだと思うか?」

「?なにを言っている。そんな当たり前だろう」

「なら…よく見てみろ。例えば……瞳の色とか」

「はぁ?なにを言って…」


 訝しそうにセシリアは、レイジを観察した。

 すると彼女は目を大きく見開き、額から汗を流す。


「…瞳の色が……違う!?」


 セシリアはレイジの深紅の瞳を見て、ようやく気が付いた。目の前にいるのは、自分の友ではないと。

 

「馬鹿な……本当にお前は……シグマじゃない?」


 驚愕した表情で、後退るセシリア。

 そんな彼女にレイジは「そうだ」と答える。


「俺は…あんたが言うシグマじゃない」

「ならなぜシグマとアルファの魔道具を持っている!」

「この二つの魔道具は誕生日に貰ったんだ。お母さんに」

「お母さん……だと?」

「……多分、俺の母はアルファという人物だ」

「なっ!お前が……アルファの子供だと?」

「推測だが……その可能性は高い」

「けど……あのチビと似ていないぞ?むしろシグマに……!そういうことか」


 何かを察したセシリアは、顎に手を当ててブツブツと言い始めた。

 そんな彼女に疑問を抱いたレイジは、眉をひそめる。

 それから少し時間が経った後、セシリアはレイジに声を掛ける。


「君は……シグマではなく、光闇レイジでいいんだな?」

「だからさっきからそう言っているんだが」

「そうか……なら」


 セシリアは真剣な表情を浮かべて、手を伸ばした。


「私と共に来い、光闇レイジ。そして【邪神教】の一員になれ」

「……何言ってんだお前は?」

 

 眉間に皺を寄せ、静な…しかし強い怒りを宿した声を発したレイジ。

 彼が纏う蒼い炎が、怒りに反応して激しく燃え上がる。


「寝言は寝て言えよ。冗談でも笑えないぞ」


【邪神教】は、女神や子供を関係なく殺したり、絶望させる組織。

 そんな奴らの仲間になるのは、死んでもいやだった。


 しかしセシリアは本気だった。


「冗談ではない。君を仲間にしたい」

「それはシグマに似ているからか?それともアルファの……お母さんの子供だからか?」

「……それもあるが、他にもある。それは…君が邪神属性の適正を持っているからだ。我々は見ただけで邪神属性の適正を持っているか、分かるのだ」


【邪神教】は邪神属性の適正を持っている者を集め、仲間にする。

 邪神属性は神の力を宿した属性であり、属性の中で最も危険なもの。

 人間や女神などを苦しめ、絶望させる最悪な属性なのだ。

 そんな邪神属性を【邪神教】は好んで使い、多くの人々を不幸にしている。


(そういえば……アニメのレイジは、【邪神教】の人達にスカウトされて、仲間になっていたな)


 アニメ『クイーン・オブ・クイーン』では、光闇レイジは一時的に【邪神教】の仲間になっていた。

 そうすることで、さらに多くの命を奪えるから。


 きっと……ここでセシリアの手を取り、【邪神教】の仲間になるのが正しい事なのだろう。

 

 しかし、今のレイジは、


「悪いけど……アンタらの仲間になるつもりはない」


 セシリアの手を取らなかった。


 分かっている。分かっているさ。

 こんなことが正しくないことは。

 悪役は悪役でいるのが、正しいのだと。


 けれど俺は……俺がなりたい自分になりたい。


 そのためなら…邪魔するものは殺す。

 例え…どんなに敵が強くても。

 それが例え、運命でも。

 なぜならそれが…今の光闇レイジの生き方だから。


「そうか……」


 残念そうに呟いたセシリアは、手を下ろした。

 そして彼女は背中に背負っている十字架を掴み、目の前に構える。


「ならば力づくで連れて行くのみ!」

「ハハハ…そう来たか。いかにも定番だな」


 顔に手を当てて、笑い声を上げるレイジ。

 彼は深紅の瞳を怪しく光らせて、凶悪な笑みを浮かべる。

 まるで死神のように。


「やれるもんならやってみろ」

「そうさせてもらう!」


 地面が砕けるほどの勢いで踏み込み、セシリアは駆け出した。

 音速を超えた速度でレイジに接近する邪聖の十二星座。

 彼女は十字架を振り下ろし、レイジに叩きつけた。

 大きな衝撃音が鳴り響き、粉塵が舞い上がる。


「やったか?」


 手ごたえを感じたセシリアは、そう呟いた。

 その時、


「いや、まったく」


 レイジの声が響いた。セシリアの背後から。

 慌ててセシリアが振り返った時、蒼い炎が襲い掛かった。

 咄嗟に彼女は十字架を盾代わりにして、蒼炎を防ぐ。


「ぐううううううううう!!」


 歯を食いしばって、蒼い炎撃に耐えるセシリア。

 炎に宿った冷気が十字架を凍らせ、彼女の体温を奪う。


「くっ!舐めるなあああああああああああああああ!!」


 セシリアは気迫に満ちた表情で、雄叫びを上げた。

 すると十字架型魔道具が黒く光り出し、蒼炎を吹き飛ばした。

 蒼い炎撃に耐えたセシリアは、口から荒い息と白い息を漏らす。


「あ、甘く見ていた。まさかこんなに威力があるとは」

「これぐらいで疲れないでくれよ、悪の教会幹部さんよ」

「!!」


 疲弊しているセシリアの目の前に、突然現れて声を発したレイジ。

 セシリアは素早く距離を取り、十字架を構える。

 彼女の中に僅かな恐怖が生まれる。


「強いな……光闇レイジ。そこらへんの魔導騎士よりも」

「褒めてくれるのは嬉しいですね。お礼に……素晴らしいディナーをご招待しましょう」


 レイジは胸に手を当てて、告げる。目の前の敵を排除するために。


「ユニークスキル〔神氷狼〕を肉体に付与」


 彼の身体の表面に銀色の文字が浮かび上がった。

 その次の瞬間、レイジを中心に巨大な蒼い炎の柱が発生。

 冷気の爆風が巻き起こり、周囲の地面や建物などを凍結させていく。

 やがて蒼炎の柱が収まると、そこにいたのは蒼炎の人狼と化したレイジだった。 

 蒼く燃え盛る両腕と両脚に、両手と両足の指から伸びた鋭い炎の爪。

 頭から伸びた蒼炎のケモ耳に、腰から生えた太長い尻尾。

 そして白く輝く鋭利な牙。

 右目には蒼い炎が宿っており、激しく燃えている。

 人狼と化したレイジは大きく息を吸い込み、雄叫びを上げる。


「ワォオオオオオオン!!」


 耳を塞ぎたくなるような大きな咆哮。

 空気が振動し、地面に大きな亀裂が走る。

 普通の人なら思わず気を失っているだろう。

 しかしセシリアはレイジの咆哮を受けても、立っていた。


「スキルを肉体に付与したのか……なるほど、余計に君を仲間にしたくなった!」


 双眼を強く発光させたセシリアは、地面を強く踏み込み、十字架を投擲。

 ブーメランの如く十字架は高速回転しながら、恐ろしい速度でレイジに接近する。

 そして十字架がレイジの身体に直撃した。

 その時、レイジの身体が陽炎とかして消滅した。


「なに!?」


 回転しながら戻ってきた十字架型魔道具を片手で受け止めたセシリアは、驚愕する。

 

「いったいどこに!?」


 セシリアは周囲に視線を巡らせ、レイジを探す。

 しかし、どこにもレイジの姿は見当たらなかった。


「どこに行った!?」

「お客様の真上でございます」

「!?」


 驚愕しているセシリアの真上から、死神の冷たい声が響いた。


「いつの間に!?」


 目を見開いた彼女は、上に視線を向けた。

 その直後、セシリアの右脚の太腿に斬撃が刻まれ、鮮血が舞い上がった。

 そして斬撃を受けた太腿が恐ろしい速度で氷に覆われていく。


「あ、脚が!」


 激痛を感じて、セシリアは顔を歪める。

 レイジは姿を見せないまま、彼女に告げる。


「どうです?俺のアイスの味は?とても冷たくて絶品でしょう」

「ふざけるな!」


 セシリアは声が聞こえた方に、十字架を振り下ろす。

 しかしそこには誰もおらず、十字架が空振りした。

 その時、今度はセシリアの左肩に斬撃が刻まれ、凍結した。

 

「ぐあっ!」


 苦痛の声を漏らすセシリア。

 そんな彼女の背後に―――、忽然とレイジは現れた。

 蒼い炎を纏う狼と化した死神。

 彼は白銀の髪と首に巻いた赤いマフラーを揺らしながら、蒼炎の爪を構える。


「あんたは強いよ……人を殺すことに関しては。だがな……殺すのなら、俺の方が上だ」


 冷たい声でそう告げたレイジは、爪を横に振るった。

 冷気を宿した炎の爪撃が、セシリアの首を切断しようとした。

 しかしその寸前、地面に突き刺さっていた黒い槍が勝手に動き出し、レイジの爪撃を弾く。

 金属音が鳴り、火花が飛び散る。


「マジかよ!」


 まさかのタイミングで攻撃を邪魔されたレイジは、少しだけ後ろに下がってしまった。

 僅かに生まれた隙。

 それが……セシリアの逆転するチャンスへとなってしまった。


「私は……ここで死ねないのだよ」


 双眸を強く発光させたセシリアは、十字架に膨大な魔力を流し込んだ。

 すると十字架が黒く輝き出し、巨大化していく。

 それを目にしたレイジは、背筋を凍らせた。


「マズイ!」


 レイジはセシリアから急いで距離を取る。

 それと同時に、黒く光る十字架型魔道具がガチャガチャと変形を始めた。

 やがて変形が終わると、十字架は巨大な化物へとなっていた。

 その姿を言葉で言い表すなら……蠍。

 四つの大きな鋏に、幾つもの針のような脚。

 鋭利な針を伸ばした太長い尻尾に、黒く光る複眼。

 普通の蠍よりも狂暴そうで、危険な雰囲気を漂わせていた。


「……これを使うのは久々だな」

「そうですか、なら使わないでもらえると嬉しいのですが?」

「そういうわけにはいかない。悔しいが、奥の手を使わないと君を捕らえることができない。そして念には念を入れて……もう一つの奥の手を使わせてもらう」

「させるか!」


 セシリアが奥の手を使うのを阻止するために、レイジは駆け出そうとした。

 だがその時、巨大蠍へと化した十字架が、彼に向かって大きな鋏を振り下ろす。

 

 「チッ!」


 舌打ちをしたレイジは、蠍の鋏に押し潰される寸前に、横に飛んで回避した。

 鋏は地面に激突し、土煙が舞い上がる。

 レイジは右腕を強く振るい、土煙を吹き飛ばす。


「……間に合わなかったか」


 ガリッと歯噛みして、悔しそうに顔を歪めるレイジ。

 彼の深紅の瞳には、蠍の化物と化したセシリアが映っていた。

 鎧の上に覆われた黒い外殻。

 鋭く大きな針を伸ばした八本の尻尾。

 腰から伸びた幾つもの細長い脚。

 それぞれ両手には、黒いオーラを纏う二本の槍が握られていた。

 

「オーバースキル〔死蠍神化(スコルピオン)〕だ。驚いたか?」


 不気味な笑みを浮かべるセシリア。

 彼女は瞳を禍々しく輝かせて、宣告する。


「さぁ、ここからは……本気で行こう」

 読んでくれてありがとうございます。

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