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運命ってクソッタレだ

 漆黒の雲—――邪雲に覆われた空の下で、常に赤く輝いている大きな島があった。

 インフェルノ島。そこはマグマが大量に流れている無人島。

 無数の火山から噴き出す溶岩に、激しく流れる熱風。

 そして海に向かって流れる溶岩の滝。

 インフェルノ島はとても熱く、人間が住めるような場所ではなかった。

 そんな場所で……二人の化物が戦っていた。


「くっ!なんなのよこの人間は!?」


 焦った声を出すのは、長い黒髪を伸ばした一人の女性。

 顎から伸びた太く鋭い牙に、頭から生えた小さな耳。

 少し筋肉質の身体に、大きな胸やお尻などを覆う赤い炎。

 まるで猪と女性が合わさったような姿をした彼女の名は、パワー。

 国を幾つも滅ぼすことが出来る、LV7の魔獣である。

 そんな彼女は追い詰められていた。白銀の髪を伸ばした男によって。

 彼の全身には複数の魔道具が装備されており、しかもどれもが神話級。

 強力な魔道具を装備した男に、パワーは逃げるように距離を取る。


「あんたは何者なの!?突然、襲い掛かってきて!」


 黒い地面の上を疾走しながら、パワーは掌から炎を勢いよく噴射。

 赤い炎の津波が男に襲い掛かる。

 しかし彼は動じなかった。


「邪魔だ」


 短く呟いた銀髪の青年は、それぞれ両手に装備した双剣を振るい、斬撃を飛ばす。

 斬撃は炎の津波と真正面から衝突し、爆発が巻き起こる。


「アタシの攻撃を相殺させた!?」


 驚愕の表情を浮かべるパワー。

 そんな彼女の背後に、男は一瞬で回り込んだ。

 彼は双剣に搭載された銃口を、パワーに向ける。


「失せろ」


 深紅の瞳を怪しく輝かせて、銀髪の青年は引き金を引いた。

 直後、銃口から虹色の極太光線が放射された。

 咄嗟にパワーは身体を斜めにして、光線を紙一重で躱す。


「危ないねぇ!」


 攻撃を躱したパワーは素早く男の懐に飛び込む。

 そして彼女は、彼が持っていた双剣を蹴り飛ばす。

 二つの短剣がクルクルと空中で回転し、地面に突き刺さった。

 武器を一つ失った敵に、パワーは不気味な笑顔を向ける。


「ざまぁないね!」

「ああ、本当にそうだな―――お前がな」


 低く冷たい声を発した青年は、両腕を覆う機械仕掛けの籠手から砲身を展開。

 二つの砲口をパワーの顔に向け、彼は告げる。


「消えろ」


 その言葉を合図に、砲口から透明なクリスタルの砲弾が放たれた。

 二つの砲弾がパワーの顔に直撃し、爆発が起こった。

 パワーの身体は後ろに向かって吹き飛び、火山に激突。

 大きな衝撃音が鳴り響き、砂煙が舞い上がる。


「痛いじゃないか……今のは」


 砂煙の中から聞こえてくるパワーの声。

 その声にはマグマのような憎悪と殺意が宿っていた。

 少しずつ砂煙が収まると、そこには顔半分が無くなったパワーの姿が。

 猛獣のような唸り声を上げ、男を睨む付ける。


「絶対に……殺す!」


 鬼のような形相でパワーは、地面に拳を打ち込んだ。

 すると島全体に流れていた大量のマグマが、空中に浮かび上がった。

 浮遊するマグマは、パワーの目の前に集まり、丸くなっていく。

 そして大きな球状となったマグマに彼女は口を付け、吸い込む。

 ゴクゴクと音を立ててマグマを飲むたびに、無くなった顔半分が再生していき、全ての筋肉が膨張していく。

 全てのマグマを飲み込み、体内に吸収したパワー。

 彼女は口を大きく開けて、雄叫びを上げる。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

!!」


 魔獣の女神の叫び声が島中に響き渡り、火山から大きな噴火が発生した。

 パワーは怒りの炎を宿した赤い瞳で、男を睨む。

 

「見せてやる、あたしの本気の一撃を!」


 そう言ったパワーはまるで陸上選手のように、クラウチングスタートのポーズを取った。

 彼女の身体から紅蓮の炎が噴きだし、熱風が巻き起こる。


「行っくわよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 地面が砕け散るほど強く踏み込み、パワーは駆け出した。

 爆炎の軌跡を描きながら、高速で男に突撃する猪人型魔獣。

 彼女は更に熱く、大きく燃え上がり、加速する。


「これで終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 赤い瞳を強く発光させて、パワーは男の胸に頭突きした。

 その直後、嵐のような衝撃波が起こり、地面が崩壊。

 島全体が大きく揺れ、地響きが鳴り響く。

 勝利を確信したパワーは、笑みを浮かべた。


 その時、白い外殻に覆われた手が彼女の顔を鷲掴みし、持ち上げた。


 宙刷りにされたパワーは、驚愕の表情を浮かべる。


「な、なんで!?というかその姿は!?」


 彼女の瞳に映っていたのは、全身に白い外殻と氷が覆われた青年の姿だった。

 背中や肩から噴き出している冷気に、肘や膝から伸びた鋭い氷柱。

 そして額から生えた細長い氷の一本角。

 まるで氷の魔神のような姿をした青年を見て、パワーは恐怖を覚える。


「離せ!その手からあたしを解放しな!!」


 自分の顔を掴んでいる男に、何度も殴打するパワー。

 しかし彼は微動だにせず、平然としている。まるで彼女の打撃が効いていないかのように。


「なんなのよ…あんた。本当に人間なの!?」

「……さぁな」


 短くそう答えた男は鷲掴みしているパワーを、地面に強く叩きつけた。

 地面にめり込んだパワーは、口から大量の血を吐き出す。


「ガハッ!」

「正直、人間なのか化物なのか……俺にも分からない。ただ一つ、言えることは―――俺はお前を狩り殺す死神だ」

「まっ、待って!」

「じゃあな、魔獣の女神パワー」


 死の宣告をした銀髪の青年は、パワーを鷲掴みしている手から白い冷気を放射。

 冷気はパワーの身体を高速で凍らせ、氷の像へと変える。

 しかもそれだけではない。

 島全体が恐ろしい速度で氷に覆われ始め、火山から流れていたマグマが黒く固まっていった。

 LV7の魔獣だけでなく、島をも凍結させた男。

 彼は口から白い冷気を息を吐き出し、凍結したパワーを見下した。


「オーバースキル〔氷魔神化(コキュートス)〕…相変わらず強力だな。それはそうと、魔石回収だな」

 

 男はパワーの胸に左手を突き刺し、ある物を取り出す。

 それは、燃えるように赤く輝いている掌サイズの魔石。

 青年は魔石をじっくりと観察する。


「よし……これでまた魔道具が作れる」


 そう言って男は踵を返し、その場から去っていった。

 彼の名は光闇レイジ。

 己の死の運命を殺すために生きる、白銀の死神だ。 


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


 魔獣LV7パワーを倒したレイジは、秘密基地として使っている廃工場にやってきた。

 彼は錆びた重厚な扉を()()()()、工場の中に入る。まるで幽霊のように。


「スキル〔通過(つうか)〕…便利だな」


 そう呟いたレイジは通路を歩き、奥へ進んだ。

 しばらく歩くと、カチャカチャとキーボードを連続で叩く音が聞こえてきた。


「アイツ…もう来ていたのか」


 レイジは音が聞こえる方へと向かうと、そこにはルルアがいた。

 ルルアはぬいぐるみの手で器用にキーボードを叩き、空中に投影された幾つもの映像を見つめていた。


「ようルルア、なんか調べ物か」

『ええ。アニメと違うことが起きてないか調べているんです』

「そうなんだ…で、結果は?」

『今のところは異常なしですよ』

「そうか」

『マスターがインフェルノ島を凍らせた以外は』


 ルルアは投影されたウィンドウに、とあるニュースを表示させた。

 そのニュースはインフェルノ島が凍結したというものだった。


『またLV7の魔獣を倒したんですか?よく倒せましたね。これで三回目ですよ』


 オーバースキルが使えるようになってからレイジは、魔獣LV6と魔獣LV7を狩っていた。本来、女神の力を使わず、単独で討伐をするのは無理なのだが。


「俺でも倒せそうなやつだけを倒している。アニメで弱点や有効なスキルも知っていたし…なんとか倒せたよ』

『だからって島全体を凍らせる人がいますか?ネットで大騒ぎですよ』

「俺には関係ない。騒ぎたければ騒げばいい。それに……LV7の魔獣は早いうちに狩らないといけない」


 アニメ『クイーン・オブ・クイーン』では、主人公とその仲間たちが色々なLV7の魔獣と戦うことになる。

 そして殆どの戦いで、LV7の魔獣に敗北し、多くの人達が命を失うことになった。

 レイジはそんなことが起きないために、主人公では勝てないLV7の魔獣を倒しているのだ。パワーを殺したのも、それが理由だ。


「強力な魔道具を作るためっていう理由もあるが、アニメのような悲劇を起こさないようにしないといけない」

『いいんですか?アニメとは違う未来になったら』

「今更だろ。覇道親子と接触してしまったし、アニメが始まるよりも早く、狂神化が起こった。それにお前を助けるために、サルマールにヒールエメラルドを渡してしまった。今頃、ミルマールの病気は完治しているだろう」

『……すみません。私のせいで』


 頭を下げて、謝罪するルルア。

 そんなルルアに、「気にするな」とレイジは声を掛ける。


「とにかく…今までアニメの設定にはないことが起こり続けてきたんだ。これからも起こらないとも限らない。ならば」

『最悪を想定して、出来る限りのことをする…ですか』

「そうだ」


 首を縦に振って、肯定するレイジ。

 彼の望みは、平穏に家族と暮らすこと。

 そのためにも強くなり、女神ロキとは違う女神と契約しなければならない。

 だがそれだけでは駄目だ。

 何かしらで家族が巻き込まれ、死ぬかもしれない。

 実際、夕陽と朝陽は魔獣に襲われたり、誘拐されたりした。

 家族が死なないためにも、可能な限りできることはしないといけない。

 例え、強敵と戦うことになっても。

 

『マスターが言いたいことは分かります……ですが、あなたはまだ女神と契約していない。いくら強力なスキルをたくさん持っているからとはいえ、無理はしないでください』


 ルルアは心配していた。レイジのことを。

 今のレイジはアニメの光闇レイジと違い、人を思う優しい心を持っている。

 故に彼は他人を優先する。自分が傷ついたとしても。


『お願いですから無理はしないでください』

「ああ、分かっている。けど……無理をしてでも一匹でも多く魔獣を狩らないと。そしてどんな時でも対処できるようにならないといけない」

『でもアニメとは違うことが起こらないようにしないといけない時もあります』

「そうだな」


 この世界ではアニメ主人公や仲間達だけしか対処できない問題がある。

 もし問題が解決しなければ、大変ないことが起きるだろう。

 そうならないためにも、アニメ通りに進めなければならないものは、なにがなんでも進めなければならない。 


「変えないといけないものと変えてはならないもの……面倒くさいな」


 頭をガリガリと掻きながら、レイジは舌打ちする。


「とにかく俺はアニメに干渉しないようにしないとな」

『できるんですか?』

「やるしかないだろう。ラスボスにならないためには、主人公達と接触しないようにしないとな」

『……あの一つ聞いてもいいですか?』

「ん?なんだ」

『魔獣LV6やLV7をここ最近、狩っているのは……あのキャラが隣に来たからですか?』

「……まぁな」


 ルルアの問いに肯定するレイジ。

 彼は目を細めて、思い出す。二週間前の事を。


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


 ゲームとの戦いで重傷を負ったレイジ。

 彼は暫くの間、近くの病院で入院し、治療を受けていた。

 本来、レイジが回復系スキルを使って自分の身体を治せば済む話。

 なのだが、愛花と裕翔が入院してゆっくり休めと言ったのだ。

 仕方なくレイジは、両親に言われた通りに医者に治療を任せた。

 そんなある日のことだ。


「え?家の隣に引っ越しに来た人が?」


 ルルアと一緒にテレビゲームをしていたレイジは、お見舞いに来た裕翔の話を聞いて、少し驚く。

 裕翔は頷いて、「そうなんだよ」と言う。


「僕たちの家の隣に家を建てて、そこに住んでいるよ」

「因みにいつ建てたの?」

「昨日」

「昨日!?……ってそうか、この世界では当たり前か」


 この世界の大工や建築士は、女神や魔法の力を作って作業する。

 そのおかげで、たった一日で家やビルなどが建つのだ。


「それで、その家に住む人はどんな人なの?」

「桃色の髪を伸ばした若い男性と赤い髪を伸ばした女神さん。あと、レイジと同い年の半人半神(ハーフ)の子かな」

「へぇ~半人半神か」


 半人半神。それは女神と人間の男の間に生まれた存在。

 神力と魔力の両方を持っており、身体能力や属性適正LVなどが非常に高い。

 そして必ず半人半神として生まれてくる子は女性で、覚醒者になりやすい。

 半人半神は普通の魔導騎士よりも強く、LV5の魔獣であれば倒すことが出来る。

 まさに魔導騎士として生まれてきた存在。


(あまりその子と接触しない方が良いかもな)


 アニメ『クイーン・オブ・クイーン』のラスボスである光闇レイジ。

 彼の天敵は、アニメ主人公であるアリア・アストラル。

 だがそれ以外にも、レイジにとって脅威となる存在がいる。

 その内の一つが、半人半神なのだ。


(アニメでは半人半神のアイツに、レイジは殺されかけていたからな。気を付けないと)


 レイジが思考していると、裕翔が半人半神の少女の名前を言う。


「えぇ~と名前は確か……癒志桃(いやしもも)ちゃんだったかな?」


 父の言葉を聞いた瞬間、レイジは石像のように硬直した。

 手に持っていたゲームのリモコンをベットの上に落とし、彼は額から嫌な汗を流す。

 レイジの隣にいたルルアもリモコンを操作していた手を止めて、裕翔に視線を向ける。


「……ごめん、お父さん。もう一回言ってくれない?女の子の名前を」


 自分の耳がおかしくなったか?と思いながら、レイジは父に問い掛けた。

 どうか聞き違いであってくれと彼は願う。

 しかし、その願いは叶わなかった。


「癒志桃ちゃんだよ」

「そう…なんだ……そっか。あの子が」


 頭に右手を当てて、深いため息を吐くレイジ。

 新たな問題が発生したことで、頭痛が起こる。


(最悪だな……まさかあのキャラが家の隣にいるなんて)


 レイジはこれが夢なら覚めてくれと、心から願う。

 しかし、残念なことに現実。夢ではない。


 癒志桃。アニメ『クイーン・オブ・クイーン』に出てくるキャラクター。

 彼女はレイジに致命傷を負わせた数少ない実力者だ。

 

(退院は明日だってのに……運命のクソったれ)


 深いため息を吐いたレイジは、心の中で悪態を吐いた。


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


「なんでこうも会いたくない人と会うんだろうな」


 肩を落として嘆息するレイジ。

 彼は退院してから、癒志桃と接触しないようにしていた。

 アニメ『クイーン・オブ・クイーン』の設定で、幼い頃にレイジと桃が出会ったことなど書かれていなかったからだ。

 なにが起きるか分からない以上、不用意に接触しない方が良い。

 それがレイジの考えだった。

 しかしその考えを、ルルアの発言が台無しにする。


『あの~…マスター。愛花さんから伝言があるんですが…その~…』


 とても言いにくそうに口篭もるルルア。

 そんな彼女に違和感を覚えたレイジは、首を傾げる。


「伝言?お母さんはなんて?」

『えぇ~と…実は明日…癒志家と一緒に遊園地に行くからちゃんと準備してね…と』

「え?」


 ルルアの言葉を聞いて、レイジの頭が真っ白になった。

 会わないようにしていたキャラと遊園地。

 それがあまりにも衝撃的過ぎて、レイジは一瞬だけフリーズする。

 

「マジで?」

『マジで』

「冗談抜きで?」

『冗談抜きで』

「拒否権は?」

『ないです』

「……」

『……』


 二人の間に静寂が拡がる。

 アニメとは違うことが起こるかもしれない。

 それは分かっていた。

 だが、あまりにも起こるのが早すぎて、レイジは吐血しそうになった。


「ルルア」

『はい。なんでしょう』

「運命って……クソったれだわ」

『そうですね』

 読んでくれてありがとうございます。

 次回も楽しみにして下さい。

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