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人間をやめ、炎の魔神と化す

 レイジに攻撃されたことで魔獣の頂点—――LV7(女神)になったゲーム。

 彼女は圧倒的な強さでレイジを追い詰め、致命傷を負わせた。

 あと少しでレイジを殺すことが出来る。

 ゲームはそう思っていた。しかし、目の前の光景を目にしてそれは違うと悟った。


「ああ、そうだよね。君は……これぐらいで死なないよね」


 まるで恋する乙女のようにゲームは頬を赤く染めて、笑みを浮かべた。

 彼女の瞳に映るのは、先程放った黒い氷柱を右の掌で防いだレイジの姿だった。

 氷柱に貫かれた彼の掌から、血がポタポタと垂れる。


「ゲームオーバー?誰がだよ」


 刃のような鋭い目つきでゲームを睨みつけるレイジ。

 彼は掌が貫かれている状態で、氷柱を強く握り、粉砕した。


「俺は……()()……家族を失うわけにはいかないんだよ」


 自分の腹に刺さっている氷の大剣の柄を、レイジは握り締める。

 そして激痛に耐えながら、剣を一気に引き抜いた。

 氷の床に鮮血が飛び散る。


「今度こそ……守らないと……いけないんだ」


 レイジは両脚に力を込めて、ゆっくりと立ち上がる。

 腹に空いた穴から大量の血が流れ、大きな血だまりができる。


「そのためならば」


 血を吐きながらレイジは言う。己の信念を貫くために。

 

「俺は……本当の化物になってやる」


 もう手段は選ばない。

 大切なものを守るためならなんだってする。

 前世と同じような悲劇を生まないために、敵は排除。

 さぁ光闇レイジ……人間をやめて、魔獣の女神を殺そうか。


「スキル〔格納空間“取出”〕」


 レイジは左手を突き出し、スキル名を唱えた。

 するとレイジの掌に小さな黒い箱が出現した。

 その箱の中には、死の運命を破壊することが出来る希望の力が入っている。


「な~にそれ?」


 不思議そうに首を傾げて、尋ねるゲーム。

 彼女の質問に対し、レイジは低く冷たい声で返した。


「お前を殺す……力さ」


 レイジは黒い箱をゆっくりと開けた。

 箱に入っていたのは、小さなキューブ状のチョコレート。

 それを指でつまんで、レイジは取り出す。


(ここに来る前に急いで作った切り札……成功すれば『()()()』が使える)


 レイジの転生特典は、自分で作った料理に強化効果を与える能力。

 その力を使って作り出したドーピングチョコレート。

 一度も試したことが無い試作品。

 うまくいくか分からない。最悪な結果になるかもしれない。

 けれどレイジは迷わなかった。


「ぶっつけ本番だが……やるしかないよな」


 自分の料理の腕を信じて、レイジはチョコレートを口の中に投げ入れた。

 彼の口の中で濃厚でまろやかな、甘い味が広がる。

 そして口の中で溶けたチョコレートをゴクリと吞み込んだ。

 その時、レイジの身体から白銀の粒子が発生した。

 身体中から魔力とは違うエネルギーが沸き上がる。


「今度は賭けに勝ったな」


 そう呟いたレイジの深紅の瞳が、怪しく輝き出す。


「ここからは……俺のターンだ」


 指をポキポキと鳴らしながら、凶悪な笑みを浮かべるレイジ。

 彼はゲームに人差し指を向けて、強く宣言する。


「ゲーム。お前に教えてやるよ、死神の恐ろしさってやつを」

「死神の恐ろしさ……か。やれるもんならやってみなよ!」


 ゲームは両手を前に突き出し、掌から黒い冷気の光線を放射。

 全てを凍結させる絶対零度の光線が、レイジに高速で迫る。

 しかし、レイジは逃げも隠れもせず、堂々と立っていた。

 まるで真正面から受けて立つと言わんばかりに。


「ああ、そのつもりだ!」


 白銀の髪を伸ばした死神は大きく息を吸い込み、叫んだ。


「オーバースキル〔炎魔神化(イフリート)〕!」


 覇気が宿ったレイジの声が響き渡った。

 その時、レイジの身体から赤黒い炎が勢いよく噴き出した。

 激しい熱風が巻き起こり、迫りくる冷気の光線を一瞬で蒸発させた。

 熱く燃え盛る業火。その中から―――炎の化物と化したレイジが現れる。

 頭から伸びた赤熱状態の二本の角に、全身を覆う漆黒の外殻。

 腰から生えた長太い尻尾に、マグマのように赤く輝く両腕と両脚。

 そして背中と肩から噴き出す煉獄の炎。

 レイジの身体から高熱が発生しており、近づく者は焼けて死ぬだろう。

 その姿はまるで―――爆炎の魔神。


「良いねぇ~良いねぇ~!最高に良いねぇ!!まさか僕の攻撃を防ぐだけじゃなく、そんな隠し玉を隠していたなんて♪」


 ゲームは胸を昂らせた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 彼女の中から、我慢ができないくらい強い衝動が沸き上がる。


「だめだもう……無理……君と遊びたい!遊びたい!!遊びたい!!!遊びたい!!!!遊び殺し合いたい!!!!!」


 赤い瞳を爛々と輝かせ、獰猛な笑みを浮かべるゲーム。

 彼女は音速を超えた速度で駆け出し、一瞬でレイジの背後に回り込んだ。


「こういうのはどうかな!」


 ゲームは手刀を構えて上から下へ振り下ろし、一閃。

 魔獣の女神の斬撃が彼の背中を斬り裂こうとした。

 だがその寸前、レイジの腰から伸びた長太い尻尾が動き出した。

 硬質な外殻に覆われた尻尾は迫りくる斬撃を弾き返す。


「なに!?」

「尻尾は飾りじゃないんだよ」


 冷たく言い放ち、肩越しでゲームを睨みつけるレイジ。

 彼は尻尾を強く振るい、ゲームの横腹に重い一撃を叩きつけた。

 強烈な衝撃と激しい痛みがゲームを襲い、幾つものあばら骨が折れる。

 

「がっ!!」


 強い痛みに思わず顔を歪めて、血を吐き出すゲーム。

 彼女の身体は横に勢いよく吹き飛び、氷壁に激突。

 衝撃音が鳴り、氷の粉塵が舞い上がる。


「アハハハハ…痛い……最高に痛くて…楽しいなぁ~!」


 口から一筋の血を流しながら、ゲームは不気味な笑顔を浮かべる。

 彼女は腕を振るい、氷の粉塵を吹き飛ばす。

 そして、


「もっと遊ぼおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 空中に無数の黒い氷柱を生み出し、一斉に放った。

 鋭利に尖った幾つもの氷柱がレイジに向かって飛行する。

 だがレイジは慌てなかった。迫りくる氷柱を五月蠅い蝿を見るような目で見つめていた。


「ウザイな」


 レイジは落ち着いた様子で指を鳴らした。

 すると彼の目の前に炎の壁が出現。

 炎壁が飛来する無数の氷柱を、跡形もなく蒸発させる。

 全ての氷柱を防いだレイジは、炎の壁を消し、左手を前に伸ばす。

 

「失せろ」


 レイジは左手の指先からガトリング砲の如く小さな炎の球を連射。

 火炎の弾丸の雨がゲームに襲い掛かる。

 しかしゲームは無数の炎弾を踊るように躱す。


「面白い!面白いよレイジ!」


 レイジの攻撃を全て回避したゲームは、自分の両腕と両脚を黒い氷で覆う。

 彼女はレイジと接近戦をするつもりなのだ。


「こっちも行っくよ~!」


 ゲームは姿勢を低くして、走り出した。

 地面すれすれで疾走する魔獣の女神。

 彼女は拳を強く握り締め、レイジの顔を殴打した。


「まだまだ続くよ!」


 そう言ってゲームは右脚を大きく上げ、振り下ろす。

 彼女の踵落としがレイジの頭に直撃し、大きな衝撃音が起こる。


「そしてもう一丁!」


 ゲームは身体全身を使い、拳を下から上へ突き上げるように放った。

 彼女のアッパーカットがレイジの顎に炸裂する。

 並の人間ならゲームの攻撃で頭が潰れて死んでいただろう。

 しかし、レイジは平然としていた。まるで攻撃が効いていないかのように。

 否…効いてないのだ。


「軽いな」

「!ならこれなんてどう!!」


 そう言いながら、ゲームは小指を立てた。

 するとそれに合わせてレイジが、顔を横にずらす。

 その直後、恐ろしい速度でゲームの細長い尻尾がレイジの顔の横を通り過ぎた。

 ゲームは大きく目を見開いて、驚きの声を上げる。


「嘘でしょ!?」

「お前が小指を立てたのは俺の意識を逸らすため。本命は、尻尾で攻撃する……だよな?」

「なんで分かったの!?」

「さっき俺の棍棒を破壊しただろう?」

「!まさか、あの一瞬で!!」

「今はそんなのどうだっていいんだよ」


 逃げられないように、レイジはゲームの尻尾を強く掴む。


「歯を食いしばれ、ゲーム」


 レイジは拳を構え、肘からロケットエンジンの如く炎を噴射。

 炎の推進力を宿した拳でレイジはゲームの顔を殴り、氷の床に叩きつけた。

 大きな震動が起こり、氷の床に亀裂が走る。


「がっ!?」


 強い衝撃によって気を失いそうになる魔獣の女神。

 そんな彼女をレイジは見下ろした。まるでゴミを見るような目で。


「お前は強いよゲーム。特にダメージを受けて強くなるなんて思ってもみなかった。だけど……お前はここで死ぬ」


 死の宣告をする炎の魔神。

 激しく燃え上がる螺旋状の炎をレイジは拳に纏わせる。


「お前は多くの人間と女神を殺し、弄んだ。そして……俺の家族に手を出した。だから」


 赤黒い炎渦を宿した拳を構え、レイジは発する。殺意を込めた低い声で。


「その罰、受けてもらう!」


 レイジは肘から爆炎を大噴射させ、拳をゲームの胸に打ち込んだ。

 その次の瞬間、大きな爆発が起こり、黒煙が舞い上がった。

 氷の空間全体に亀裂が走り、崩れ始める。


「遊びは終わりだ、ゲーム」


 静かな声で呟くレイジ。

 彼の拳はゲームの胸を貫いていた。

 血と肉が焦げた臭いが、レイジの鼻腔を刺激する。


「いくらお前でも心臓を破壊されたらどうしようもないだろう」


 心臓は全ての生物の弱点であり、命の源。

 それを失えば活動することが出来ず、死ぬことになる。

 例えそれが魔獣LV7であっても。


「これでゲームオーバーだ」


 凶悪な猿女神型魔獣の命を奪った獄炎の死神。

 ゲームの胸から拳を抜き取り、レイジはオーバースキルを解除。

 角や外殻が赤い粒子と化して消滅し、彼の身体が人間の姿へと戻った。

 その時、


「ぐっ!流石に無茶しすぎたな」


 レイジは床に片膝をつけ、苦痛の声を漏らした。

 激痛が身体全身に駆け巡り、彼を苦しめる。


「まだだ……まだ倒れるわけにはいかない!」


 レイジは歯を食いしばりながら、立ち上がる。

 そして大切な姉と妹が居るところに彼は向かった。


「今、迎えに行くからな……夕陽、朝陽」

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