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災厄の手紙

 薄暗い工場の中で、大人の女性になったレイジが片手で黄金のハンマーを振るい、赤熱化した精霊石を叩く。

 金属音が鳴り響き、火花が飛び散る。

 ハンマーを振るう度にレイジの長い白銀の髪が揺れ、汗が空中を舞う。

 そんな彼を離れた所で見ていたタブレット型AI—――ルルアは呆然としていた。


(本当にとんでもないですね、レイジさん。いや……早崎耕平さん。まさか神話級魔道具を作るためにここまでしますか)


 ルルアは心の底から驚いていた。

 現在、レイジは強力な魔道具を製作していた。

 最高級の鍛冶専用ハンマーを使って。


(あのハンマー……高確率で神話級魔道具が作れる超レアアイテムじゃないですか。馬鹿みたいに金が掛かったろうな~。しかも女性専用スキル〔鍛冶女神の祝福〕と〔禁断の鍛冶知識〕の力で製作能力を向上させてるし……化物ですね)


 レイジは最高の魔道具を作り出すために、強力なスキルと高性能な鍛冶道具を使用している。

 しかもそれだけではない。

 彼は百人の分身達に製作能力を向上させるLV10の魔法を掛けてもらっている。

 過剰の強化による肉体の負担は大きい。

 しかしレイジは痛みを無視して、魔道具製作に集中していた。運命に抗うために。

 そんな彼をルルアは素直に凄いと思った。


(なぜ彼が前世で料理人の頂点になったのか……分りました)


 今のレイジの強さを理解したルルアは、画面に『納得』という文字を表示する。

 彼の強さは目的を達成するためなら、努力を惜しまないところだ。

 どんなに辛くても、苦しくても、痛くても前に進む。

 不可能なら可能にし、壁があるなら破壊し、道が無ければ道を作る。


 それが今のレイジーーー早崎耕平という人間だ。


(とんでもない人の所有物になっちゃいましたね、ハハ……面白い)


 ルルアは感謝した。レイジと出会わせてくれた運命に。


(それはそうと……鍛冶するところを見てるのも飽きましたね。少し工場の中を散歩しますか)


 レイジの魔道具製作を邪魔しないように、ルルアは静かにその場から離れた。


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


 タブレットに搭載されたライトで薄暗い道を照らしながら、移動するルルア。

 床には壊れたラジコンの車や脚が無くなった人形が落ちていた。


『まさにおもちゃの墓場……ですね』


 スピーカーから漏れたルルアの声には、哀れみが宿っていた。

 それからしばらく工場の中を探索していたルルアは、気になる部屋を見つける。


『これは……展示室でしょうか?』


 そこはガラス張りの棚が幾つも置かれた部屋だった。

 棚の中にはフィギアやゲーム機、ラジコンなどのおもちゃが綺麗に並べられていた。

 その中でルルアが興味を抱いたのは、部屋の中心にあるガラス張りの箱。

 箱の中には、垂れ耳の白い兎のぬいぐるみが入っていた。


『この兎のぬいぐるみ……確かあのキャラクターが探していた幻のロボット人形。まさかこんな所にあるなんて……』


 ルルアは画面をぬいぐるみに近付け、観察する。


『……使えますね、これ』


 何かを思いついたルルアは、タブレットに搭載されたカメラレンズをキラーンと光らせる。

 ルルアはガラス張りの箱から少し離れ、魔法名を唱えた。


『雷属性魔法〔LV1小雷〕」


 直後、空中に魔法陣が出現。

 そこから小さな稲妻が放たれ、ガラス張りの箱を破壊した。

 甲高い音が響き、ガラスの破片が飛び散る。


『さて、これで乗り移ることが出来ますね』


 画面に『(*^▽^*)』を表示して、嬉しそうな声を出すルルア。

 そんなルルアはタブレットからコードを伸ばし、ぬいぐるみの頭に突き刺した。

 するとタブレットの画面に無数の文字や数字が浮かび上がり、ピロリと音が鳴る。


『データの移送完…了……』


 そう言葉を発したタブレットは床に落っこちた。

 タブレットの画面から光が消えると、兎のぬいぐるみの目が緑色に発光した。

 ぬいぐるみはゆっくりと立ち上がり、自分の身体を確かめるように手足を動かす。


『ぬいぐるみとはいえ、手足があるのはいいですね。性能もタブレットの時よりいいです。浮遊できないのが残念ですが』


 ぬいぐるみに己の魂を転送させたルルア。

 彼女は体操選手のように空中で身体を三回転させ、華麗に床に着地する。


『新しい身体を手に入れたことだし、そろそろマスターの所に帰りますか』


 ルルアはどこか嬉しそうにスキップをしながら、部屋から出て行った。


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


「よし……完成だ」


 額に浮かんだ汗を腕で拭い、軽く息を吐くレイジ。

 目的の物を作ることが出来た彼は、とても嬉しそうに微笑む。

 達成感がレイジの心を満たす。

 

(長かった……神話級魔道具を作るの)


 神話級魔道具を作る為に彼は、作って失敗しての繰り返しだった。

 必要な鍛冶道具や知識を集めたり、制作能力を向上させるスキルや魔法を使うなどして試行錯誤した。

 地道にコツコツと繰り返して……今日、完成したのだ。


 今の光闇レイジの主要武器を。


「性能を確かめるために使いたいところだが……もう時間だな」


 右手首に巻いてある子供用デジタル時計に、レイジは視線を向ける。

 その時計の画面には、『午後5:00』と表示されていた。


「さて、帰る準備をするか」


 肉体を大人の女性から幼い少年へと戻したレイジは、鍛冶道具や完成した魔道具をスキル〔格納空間〕に収納した。

 その時、


『どうやら終わったみたいですね』


 レイジの耳に聞き覚えのある声が聞こえた。

 振り返るとそこには、浮遊するタブレット型AI……ではなく、可愛らしい兎のぬいぐるみが立っていた。


「え?ぬいぐるみ?」


 パチパチと瞬きするレイジ。

 自分の目がおかしくなったのか?と思った彼は、目頭を指でほぐしたり、目を擦ったりする。

 しかし視界に映るのは、兎のぬいぐるみだった。

 レイジが首を傾げていると、 


『私ですよ、ルルアです』


 ぬいぐるみ―――ルルアが声を発した。

 それでようやくぬいぐるみの正体に気が付いたレイジは、目を大きく見開く。


「ルルア!なんだその姿は!?」

『ここを探索していた時に偶然見つけたんですよ。丁度、新しい身体が欲しかったんで、これに乗り移ったんです』


 バレリーナのように身体を回転させたルルアは、可愛らしくポーズを決める。


「いや可愛いけどさ……そのぬいぐるみ、あのキャラクターが探していた奴だよな?お前大丈夫か?」


 ルルアが乗り移ったぬいぐるみ型ロボット人形は、とあるアニメキャラクターが欲しがっている物。

 そのキャラクターはぬいぐるみや人形を集めるのが趣味で、手に入れるためならどんなことだってする。


 それが例え、人を殺すことになったとしても。


『大丈夫ですよ。なにも問題ありません』

「お前……フラグって知ってる?」

『フラグ?ハハハ、フラグ回収はアニメの世界だけですよ?』

「いや、ここも一応はアニメの世界だからな?」

『平気へっちゃら!絶対にフラグ回収は起こりません!』

「はい、今フラグ立ったよ!絶対あのキャラと接触しちゃうな☆」


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


 それからレイジはルルアを連れて家に帰った。

 裏口の扉を開けると、玄関には眼鏡を掛けた男性—――光闇裕翔とセーラー服姿の紫髪の女神—――アイリスが立っていた。


「おかえりレイジ。そろそろ帰ってくれると思っていたよ」

「ただいま、お父さん」

「おかえりなさい、ゴミムシ。あなたを目にした瞬間、吐き気がしたわ」

「んん~、良い笑顔で毒舌言うアイリスお姉様。相変わらずのご様子」

「うるさい黙って死になさい」

「本当に容赦ない女神だ」


 苦笑しながら肩を落とすレイジ。

 アイリスの毒舌が心を抉る。


「それはそうとレイジ。気になっていたのだけど……その肩に乗っているものはなに?」


 レイジの右肩に座っているルルアに、アイリスは訝しげな視線を向ける。


「この子はルルア。色々あって、俺の所有物になった」

『初めまして、ルルアです。どうぞこれからよろしくお願いします』


 深々と頭を下げて挨拶するルルア。

 そんなぬいぐるみ型ロボットに興味を持ったのか、裕翔は瞳を輝かせた。


「すごい、初めて見るぬいぐるみ!それともロボット人形?いや、どっちでもいい。レイジ、この子を少しだけ借りたいんだけど良いかな?」

『え?』

「うん、いいよ」

『ちょっ、マスター!?』

「ありがとう。じゃあさっそく!」


 裕翔はルルアを脇に抱えて、カフェの方に向かった。


「ルルアさん。早速仕事をしよう!」

『仕事って何ですか!?ぬいぐるみに何をされる気ですか?ちょっとマスター見てないで助けてくださいよ!』

「ルルア……ファイト」

『このクソガキ覚えてろよぉぉぉぉ!!』


 まるでアニメによく出てくる子悪党のような台詞を叫んだルルアは、裕翔に連行された。

 二人の姿が見えなくなり、廊下に残されたレイジとアイリスは顔を見合わせて苦笑する。


「どうやら裕翔……あの人形でなにかしようとしているみたいね」

「そうみたいだね」

「あ、そうそう。今、思い出したのだけど……あなた宛てに手紙が来てたわよ」

「手紙?」

「ちょっと待ちなさい」

 

 アイリスはしゃがみ込み、パチンと指を鳴らした。

 すると彼女の影から紐が結ばれた皮製の手紙が出現。

 それを手に取り、レイジに投げ渡す。


「羊皮紙の……手紙?いったい誰から?」


 手紙を受け取ったレイジは首を傾げる。


「知らない、ポストの中に入っていたわ。それにしてもあなたのようなカスに手紙を送る人がいるなんて……その人もとんでもないカスね」

「毒舌すぎるよアイリスお姉様」


 苦笑いを浮かべるレイジは、結ばれた紐をほどき、手紙を広げた。

 すると手紙から何かが床に落っこちた。

 レイジは床に落ちた物を拾おうとして―――絶句する。

 

「レイジ?どうしたの急に黙り込ん……!!」


 レイジの様子に違和感を感じたアイリスは、床に落ちた物を目にして驚愕の表情を浮かべる。

 愕然とする二人の瞳に映った物は、()()()()()()()()()()だった。 


(まさか……!)


 レイジの脳裏に夕陽と朝陽の顔が浮かび上がった。

 嫌な予感を感じながら、慌てて手紙に視線を向ける。

 手紙に書かれている文字は全て拙く、()()()()()

 その文字から血の臭いが漂っており、レイジの鼻を刺激する。

 狼狽しそうになる自分を必死に落ち着かせて、レイジは手紙を読み上げる。


「『ヤァ、光闇レイジ。プレゼントハ気二入ッテクレタカナ?君ノ姉ト妹ハ、僕ガ預カッタカラ。返シテホシケレバ、僕ト遊ンデネ。場所ハ、僕達ガ初メテ出会ッタ所。楽シミニ待ッテイルヨ……ゲーム』……カッターと出会ったから不幸が来るのは知っていたが……一番最悪の不幸が起こるとは」


 魔の森で戦った猿人型魔獣を思い出しながら、レイジは手紙を握りつぶす。

 彼は凶悪な笑みを浮かべて、深紅の瞳を爛々と輝かせる。

 その瞳に宿るのは、怒りの炎と殺意の炎。


「やってくれたな……ゲーム」

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