最強のマフィアのボス
「まったくリオお姉様ったら!」
電灯に照らされた街の中を歩くレイジ。
彼は眉間に皺を寄せて、愚痴を零す。
「ここ最近、遠慮がないだろう!胸を揉みしだくとか!転生してからこんなことばっかだ!……そういえば、もう半年になるのか。前世の記憶を思い出してから」
足を止めたレイジは、空を覆いつくす漆黒の雲—――邪雲に視線を向ける。
早崎耕平がアニメ『クイーン・オブ・クイーン』のラスボス、光闇レイジに転生してから半年が過ぎた。
その半年間で、彼は予想外な事に巻き込まれた。
謎のLV6魔獣ゲームと激闘。
アニメキャラクターの覇道神楽耶と覇道神楽と接触。
狂神化した魔導騎士と死闘。
五歳の子供には、厳しすぎる経験をした。
(特に狂神化した月夜さんと戦ってから、腕試しにやってくる魔導騎士が現れたりして大変だった。今日も店に来ていたし)
深いため息を吐いて、肩を落とすレイジ。
(しかも……女になるようになってから、リオお姉様とアイリスお姉様に露出が多い女の子の服を着させられたり、アイドルの恰好されたりして……なんか、男としての自信が無くなって来たな。ハハ)
光がない瞳で、レイジは乾いた笑みを浮かべた。
もういっそう、女として生きるのもアリかな?と自暴自棄になりかけたその時、
「うぇ~ん!」
「ひっぐ……」
レイジの耳に二人の少女の泣き声が聞こえた。
しかもその声はレイジが知っている声だった。
「この声は……」
レイジは声が聞こえた方に駆け足で向かう。
数十秒後、彼が到着した場所は小さな公園だった。
青いブランコに少し錆びれた滑り台。そしてバケツとスコップが置かれた砂場。
どこにでもあるような普通の公園。
その中心に二人の女の子が地面に座って泣いていた。
一人は茶色い髪を短いツインテールにした女の子。
そして二人目は長い黒髪を伸ばしたタレ目女の子。
彼女達の姿を目にしたレイジは、やっぱりと思った。
泣いている女の子達は、レイジの姉と妹—――光闇夕陽と光闇朝陽だ。
転んでしまったのか、彼女達の膝から血が流れていた。大した怪我ではないが、子供にとってはとても痛いだろう。
「いたいよ~!」
「えっぐ…ひっぐ……」
涙を流す夕陽と朝陽。
そんな二人を見ていたレイジは、
「……しょうがないな」
ポツリと呟き、泣いている姉と妹に歩み寄った。
するとレイジに気が付いた彼女達は、小動物のように身体を震わせた。
「ひっ!」
「レ、レイちゃん!」
怯えた目でレイジを見る少女達。
彼女達にとって、レイジは家族ではない。いつ、自分達を殺すか分からない化物だ。
「くっ……来るな化物!」
夕陽は地面に落ちている丸い石を拾い上げ、レイジに投げつけた。
石はレイジの額に直撃。小さな傷が生まれ、そこから一筋の血が流れる。
それを見た夕陽と朝陽は顔を青ざめた。
殴られると思い、怯えながら目を瞑る。
しかし、レイジは拳を振るわなかった。
彼は両方の掌をそれぞれ、夕陽と朝陽の膝に向けた。
そして、スキルを発動する。
「スキル〔癒しの光〕」
レイジの掌から光り輝く粒子が放出。
光の粒子は、夕陽と朝陽の怪我した膝を優しく包み込んだ。
魔力を宿した粒子が彼女達の怪我を治していく。
そして粒子が消えた時には、彼女達の膝の怪我はなくなっていた。
呆然とする夕陽と朝陽。
そんな姉と妹に向かって、レイジは言葉を発する。
「これでもう歩けるはずだよ。俺は消えるから、安心して。それと……次は怪我をしないようにね」
そう言い残したレイジは踵を返し、公園から離れた。胸に走る痛みを感じながら。
◁◆◇◆◇◆◇◆▷
「あ~いって~」
額に出来た傷を回復系スキルで治すレイジ。
彼は歩道を歩きながら、ポツリと呟く。
「姉と妹と仲良くするのは……無理かもな」
怯えている夕陽と朝陽を思い出し、レイジは落ち込む。
人間は強い力に恐怖する。だから彼女達がレイジに怯えるのは、仕方がない事。
それをレイジは理解している。
けれど、
「やっぱり…キツイな~。あそこまで拒絶されると凹むわ~」
足を止めたレイジは、胸に手を当て、強く握り締めた。
痛みや苦しみ、そして悲しみで胸が張り裂けそうだった。
(きっとアニメの光闇レイジもこんな気持ちを感じていたんだろうな)
アニメ『クイーン・オブ・クイーン』のラスボスキャラクター光闇レイジ。
彼が悪になった原因は、女神ロキと契約したからだけではない。
人や女神を殺すようになったのも。
世界を滅ぼそうとしたのも。
全て、自分に恐怖して拒絶した多くの者達に、レイジが絶望したからだ。孤独が……レイジを化物にしたのだ。
もしアニメの光闇レイジに、誰か手を差し伸べていたなら『クイーン・オブ・クイーン』の物語は変わっていたのかもしれない。
「世界を滅ぼす死神を生み出したのは恐怖した人達……か。皮肉な話だ」
深いため息を吐いたレイジは、歩くのを再開した。
その次の瞬間、
『助けてくださいレイジさん!』
「うおっ!?」
突然、レイジの目の前に大きなタブレットが出現。
驚きのあまり、尻もちを付いてしまうレイジ。
彼は瞬きをしながら、浮遊するタブレットに視線を向ける。
「お前……アイテム屋のタブレット型AI!なんでこんなところに?というか、どうしてボロボロなんだ?」
タブレット型AIはところどころが土や泥で汚れており、画面には大きな皹が走っていた。
ハッキリ言って酷い状態だった。
しかし、タブレット型AIは今の自分の状態を無視して、焦った声を出す。
『そんなのをどうでもいいんですよ!それより、私の画面にタッチしてください!』
タブレット型AIはひび割れた画面に、掌のイラストを表示した。
状況が呑み込めず、レイジは混乱する。
「いや待て待て!本当に何があった!?」
『説明する暇はありません!さぁ早く!』
「なんで急かすんだよ!それよりお前、修理したほうがいいぞ!配線が剥きだして、火花散ってるし!」
『いいからやれクソガキ!』
「誰がクソガキだこのポンコツAI!」
『早くしないと私、大変な目に合うんですよ!お願い助けて!』
「分かった、分かったから画面を顔に押し付けるな!」
レイジは自分の掌を、画面に表示された掌のイラストに重ねた。
直後、タブレット型AIからピロリ♪という音が鳴り響き、画面に無数の文字や数字が映った。
『指紋認証確認。これより当機は光闇レイジの所有物になります』
「え?所有物!?どういうこと!?」
『じ、実は』
タブレット型AIが説明しようとした時、レイジの耳に複数の足音が聞こえた。
嫌な予感を感じながら、レイジは足音が聞こえた方に視線を向けた。
直後、彼は愕然とする。
「なになになになになに!?」
彼の深紅の瞳に映るのは、黒いスーツを着た複数の女性と女神だった。
いかにも裏の世界で生きるマフィアのような彼女達は、レイジ達に歩み寄り、囲い込む。
女マフィア達に囲まれたレイジは、顔から冷や汗を大量に流す。
「おい……これはどういうことだ!」
『実は…この前、私のアイテム屋をネットで馬鹿にした人がいましてね。腹が立った私は、ハッキングして馬鹿にした奴らの個人情報を調べて、ネットにバラまいたんですよ』
「はぁ!?ハッキング!?ネットにバラまいた!?馬鹿じゃないの!?」
『そしたら、バカにした奴の一人がどこかのマフィアの幹部だったんですよ』
「なるほど、お前は超が付くほどの馬鹿だ!」
『私がネットにバラまいたことで、そのマフィア達は大変な目にあったらしくて。その腹いせに私のアイテム屋を潰したんですよ。酷くないですか!?』
「お前の馬鹿さが酷すぎるわ!」
『そして残った私も壊そうとしたので、逃げて来たんですよ。そして……』
「俺を見つけて、助けを求めてきたと」
『よく分かりましたね。百点あげちゃいます♪』
「『百点あげちゃいます♪』じゃねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇよ、このポンコツAIがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
レイジは最悪な気分だった。
なぜ自分は前世も今世もこんなにトラブルに巻き込まれるのだろう。
目尻に涙を浮かべながら、レイジがそう思っていた時、
「なんだいなんだい。クソAIを追ってきてみれば面白い坊やと会っちまったね~」
女マフィア達の中から、煙草を咥えた金髪サイドテールの女性とローブを羽織った女神が現れた。
女性は派手な赤いスーツを着ており、左目には白い眼帯を付けていた。
いかにも悪の中の悪といった雰囲気を纏う彼女は、大きく目を見開いているレイジに声を掛ける。
「はじめまして少年。君の事は友人から聞いているよ。私は」
女性が自己紹介をしようとした。
だがその前に、レイジの口が先に動く。
「ブラック・ブレイカーのボスにして〈九剣の戦乙女〉の一人、〈魔眼の影騎士〉サルマール・カイザー」
「…へぇ~、私を知ってるのかい?」
興味深そうに目を細め、不敵な笑みを浮かべるサルマール。
レイジは彼女をよく知っている。なぜなら、『クイーン・オブ・クイーン』の登場キャラクターだからだ。
サルマール・カイザー。裏世界の半分以上を支配するマフィアのボス。法では裁けない者を排除し、違法薬物を次々と撲滅している。
影から人々の生活を守る魔導騎士。
悪を悪で消す実力者。
それが彼女だ。
そして―――将来、レイジが殺す相手でもある。
(なんで自分が殺す相手がまた出てくんだよぉぉぉぉぉぉぉ!)
平静を装いながら、心の中で絶叫を上げるレイジ。
(つうかなんで女神のカッターまで居るんだよ。いつもは姿を消しているだろう!?)
レイジが深紅の瞳を向けるのは、サルマールの隣にいるローブ姿の女神。
くせ毛がある短い紫髪に刃のような鋭いつり目。黒い肌に幼い顔立ち。そしてレイジと同じぐらいの低い身長。
幼女と暗殺者が合わさったような彼女は、サルマールの契約女神カッター。
カッターは警戒心が強く、普段は人前に現れない。
だが興味を抱いた者には、姿を現し、凝視する癖がある。
そしてカッターが興味を持った者には、必ず不幸が訪れる。
アニメの主人公もカッターに興味を持たれて、酷い目にあっていた。
つまり、レイジは近いうちに不幸な目に合うということだ。
(本当に最悪だぜクソが!)
自分の不運を恨むレイジ。
そんな彼に、カッターは顔を近づける。とても興味深そうに、薄い笑みを浮かべて。
「君…面白いね。確かに強いよ」
「そ…そんな大したことはないと思いますが?」
「ううん。すっごく強い。そこら辺の覚醒者よりも……ますます興味が湧いちゃった」
「そ、そんなことより俺になんか用でしょうか?」
これ以上カッターに興味を持たれると危険だと察したレイジは、強引に話を逸らした。
するとカッターは笑みを消し、浮遊しているタブレット型AIに視線を向ける。
彼女の瞳には強い殺意と怒りが宿っていた。
「そいつを……スクラップにしにきた」
『ヒッ!』
短い悲鳴を上げたAIは、慌ててレイジの背後に移動して隠れた。
ギョッと目を見開いたレイジは、自分の後ろに隠れたAIに怒鳴る。
「おい!俺の後ろに隠れるな!」
『いやですよ!それに私はあなたの所有物です。あなたが何とかしてください!』
「ふざけんなよおい!俺はお前の所有者になったつもりはない!」
『ちゃんと指紋認証しました!そして契約書を作って正式な手続きしました!』
「なにやってくれてんだこのポンコツAI!というかいつの間にやったの!?しかもそんなことできるんだ!」
『いいからさっさと助けろ!それともできないの~?ハッ、雑魚中の雑魚ね』
「ぶっ壊されたいのか貴様!」
激しく言い争う銀髪少年とタブレット型AI。
そんな彼らを見て、女マフィア達は呆れていた。
「だいたいなんなんだよお前!なんで壊されたくないんだ!お前はただのAIだろ!?」
口から少し荒い息を漏らしながら、レイジはAIに尋ねた。
彼は疑問に思っていた。なぜアイテム屋のAIが助けを求めるのか、と。
普通のAIならデータが削除されるのも、スクラップにされるのも拒まないはず。
だというのに、レイジの後ろにいるAIは壊されるのを拒んでいた。まるで……死を恐れる人間のように。
「そ…それは……」
とても言いにくい事なのか、タブレット型AIは口籠ったような声を出した。
本当に人間らしいなと思いながら、レイジは頭をガリガリと掻き、深いため息を吐いた。
「……後でゆっくり聞かせてもらうからな」
『え?それはどういう』
「そのままの意味だよ」
そう言ったレイジは軽く深呼吸し、背筋を伸ばす。
真剣な表情を浮かべた彼は、サルマールとカッターに顔を向ける。
(やるだけやってみますか)
レイジは覚悟を決め、言葉を発した。タブレット型AIを助けるために。
「サルマールさん、カッターさん。俺と取引しませんか?」
「取引?」
「もしかしてそこのAIを見逃してほしい……とか?」
「そうです」
「「……」」
サルマールとカッターは口を開けたまま、呆然とした。
何を言ってるんだ?と言いたげな顔をしていた彼女達は顔を見合わせ、
「あはははははは!」
「ふふふふふふふ!」
腹を抱えて爆笑した。
レイジは笑われるのも仕方がないと思った。
五歳の子供が「取引をしないか」と言えば、誰だって笑うだろう。
当然の結果だ。
周囲にいた女マフィア達も、レイジを嘲るように笑っていた。
だが、彼女達はすぐに笑えなくなる。レイジの言葉を聞いて。
「もしコイツを見逃してくれるのであれば……ヒールエメラルドを提供しましょう」
次の瞬間、周囲から笑い声が止まった。
サルマールとカッターは驚愕の表情を浮かべ、女マフィア達は騒めき始めた。
そんな彼女達の反応を見ながら、レイジは言葉を続ける。
「俺にはヒールエメラルドを生み出せる力があります。その証拠も見せます」
レイジは右の掌を突き出し、スキルを発動する。
「スキル〔神金属生成“ヒールエメラルド”〕」
刹那、レイジの掌に野球ボールぐらいの宝石が出現。
宝石は緑色に美しく発光し、周囲を明るく照らす。
騒然とする女マフィア達。
彼女達のボスであるサルマールとカッターは、額から一筋の汗を流す。
「サルマールさん。それにカッターさん……これが本物か偽物か分かりますよね?」
目を細めて、尋ねるレイジ。
サルマールとカッターは唾を呑み込み、ヒールエメラルドを凝視する。
「……本物だな」
「それに……純度が高い」
「必要なら、もっと生み出しますが?」
レイジが問い掛けると、サルマールは首を横に振った。
「……いや、それで十分だ。本当にそのAIを見逃せば…くれるんだな?」
サルマールの言葉を聞いて、レイジは笑みを浮かべた。
(よし、食らい付いた!)
レイジは知っているのだ。サルマールがヒールエメラルドを探しているのを。
サルマールには大切な娘がいる。その娘の名はミルマール・カイザー。
支援に特化した魔導騎士であり、主人公アリアの仲間の一人だ。
ミルマールは生まれた時から不治の病にかかっており、ベットの上に居ることが多い。
彼女の病を治すには、あらゆる病を一瞬で治す超希少宝石—――ヒールエメラルドが必要だった。
大切な娘を助けるためにサルマールは、血眼で探している。
アニメではサルマールが死んだ後、主人公達がヒールエメラルドを見つけて、ミルマールの病を完治させるのだ。
(正直、アニメよりも早くミルマールの病気が治るとどうなるか分からないから怖い……けれど、こいつを救うにはこれしかない)
最悪なことが起こるかもしれないと覚悟した上で、レイジは縦に頷いた。
「はい。……それと、できれば俺がヒールエメラルドを生み出せることは黙っていてください」
「……分かった」
「交渉成立ですね」
レイジはサルマールにヒールエメラルドを渡した。
緑色に輝く球状の宝石。
それを眺めるサルマールは、嬉しそうに目を細める。
「これで……あの子を」
そう呟いたサルマールは、ヒールエメラルドを懐に仕舞い込んだ。とても大切そうに。
「約束通りそのAIには手を出さない。ヒールエメラルドを生成できることも口外しない。これでいいか?」
「はい。十分です」
レイジは頷いて答えた。
「そうか……お前らも良いな!?」
気迫が籠もった声で部下達に問う裏世界のボス。
女マフィア達は一斉に頭を下げる。誰もボスに逆らう者はいなかった。
「なら撤収!」
ボスの命令に従い、女マフィア達は駆け足で去っていく。
これで一安心とレイジがホッとしたその時、
「またな、光闇レイジ」
「お茶……飲みに行くから、逃げないでね」
裏世界最強のサルマールとカッターがそう言い残した。
そして彼女達は踵を返し、その場から離れる。
残されたレイジは頬を引き攣り、額から一筋の冷や汗を流した。
「完全に……目を付けられたか」
顔に手を当てて、深いため息を吐くレイジ。
面倒ごとがまた一つ増えてしまったと、心の中で嘆く。
勿論、レイジは後悔していない。ヒールエメラルドを渡さなければ、サルマール達はタブレット型AIを破壊していた。
しかし、それとこれとは話が別だ。
後悔はなくとも、警戒が必要になった。
ヒールエメラルドをサルマールに渡したことで、ミルマールの病はアニメよりも早く治る。
それによって、『クイーン・オブ・クイーン』の物語は大きく変わるだろう。
最悪、ミルマールは主人公達の仲間にならないかもしれない。
(さて……どうなるか)
これから起こる予想外な事にどう対処すればいいのか、レイジは考え始めた。
その時、
『どうして…ですか?』
彼の背後にいたタブレット型AIが声を発した。
レイジは振り返り、首を傾げる。
「なにが?」
『どうして……私を助けたんですか?』
「いや、助けろって言ったの、お前だろ?」
『そうじゃありません。なぜ見捨てなかったのかと、聞いてるんです』
AIは画面に『?』を表示して、レイジに尋ねた。
確かにAIが破壊されても、レイジにはなんの影響もない。
アイテム屋は世界中のあちこちに存在する。アイテム屋のタブレット型AIが一機ぐらい無くなっても、レイジには問題はない。
だが、レイジは助けた。
それがAIには分からなかった。
「なぜ見捨てなかったのかって?そんなの決まってるじゃん」
レイジは軽く嘆息した後、当たり前のように言う。
「助けたかったからだよ」
『—――』
彼の言葉を聞いた瞬間、タブレット型AIは画面に『!』を表示する。
『それだけ…ですか?』
「いや、他にもあるが……一番の理由は純粋にお前を助けたかったからだ」
『……』
「まぁ、俺みたいな化け物に助けられても嬉しくないか」
レイジは皮肉を吐いて、肩を竦めた。
すると、
『そんなことはありませんよ』
タブレット型AIは優しい声で、レイジの言葉を否定した。
AIの発言を耳にしたレイジは、目を大きく見開く。きっとウザイ事を言ってくるのかと思っていたため、驚きを隠せなかった。
『あなたのような優しい人に救われて、私は嬉しいです。あなたに救いを求めて正解でした』
「お前……」
『助けてくれて本当にありがとうございます。そしてこれからよろしくお願いします、マスター』
「お、おう…マスターか。なんか恥ずかしいな」
レイジは照れくさそうに頬を掻いた。
(普段ウザイAIが素直に感謝するから調子狂うな。それにしてもこのAI ……なんか人間みたいだな)
この世界のAIは感情など存在しない。
だというのにレイジの目の前にいるAIは、明らかに感情を持っている。
勿論、アニメとは違うという可能性もある。事実、アニメの設定にはないことが幾つも起こった。
だがレイジには、それだけではない気がした。
彼が深く考えていると、AIが少し遠慮がちに問い掛ける。
『あの~マスター。質問があるんですけど…いいですか?』
「え?あ、ああいいぞ」
いったん思考するのをやめたレイジは、タブレット型AIに視線を向けた。
『実は……どうしても確認したいことがあるんです』
AIはタブレットに搭載されたスピーカーから、真剣な声を発する。
『マスターは……転生者ですよね?』
その言葉を耳にした瞬間、レイジは息を呑み、硬直した。