エピローグ
「あれから一週間……月夜さん。どうなったかな」
実家の部屋の窓から邪雲を見上げていた銀髪の幼い少年―――レイジは、ポツリと呟いた。
狂神化した月夜を人間に戻し、月夜と唯一郎の失った肉体を再生させた白銀の死神。
そんな彼は家で大人しくしていた。セラー服姿の女神アイリスに監視されながら。
「あの~アイリスお姉様?いつになったら監視が解けるんですか?」
「何を言うかと思えば、聞いているだけで吐血しそうな声でどうしようもないことを言うわね。この下等生物。マグマに溺れて死になさい」
「わぁお、心が抉れそう」
アイリスの毒舌に、レイジは思わず頬を引き攣った。
月夜との激闘からずっと、レイジは夕陽と朝陽以外の家族に監視されるようになった。
どうやらレイジと月夜の戦いが、魔導武道館に残っていたカメラが一部始終、全国に生放送していたのだ。
それを見た家族は、レイジを順番に監視するようにしたのだ。またレイジが無茶をしないように。
(ああするしかなかったとはいえ、心配をかけてしまったな)
家族に心配をかけてしまったことに、レイジは罪悪感を感じた。
勿論、彼は月夜と戦ったことは後悔はしていない。
戦わなければ死人が出ていた。
だがそれはそれ。これはこれだ。
後悔していないからと言って、反省しないわけにいかない。
故にレイジは監視が解けるまでは、家で大人しくすることにしたのだ。
(……それにしても、なんで狂神化がこんな時期に起きた?)
レイジは疑問に思っていた。十数年後に起こるはずの狂神化が起こったことに。
アニメ『クイーン・オブ・クイーン』の設定をレイジは全て覚えている。
だからこそ、分からなかった。
なぜアニメが始まる前に、狂神化が起こるのか。
他にも予想外の事はあった。
謎の魔獣LV6ゲームの出現。アニメキャラクター覇道親子の接触。
次々とアニメの設定にはないことが、起こり続けている。
なぜこんなことになったのかと、思考していた時……一つだけ、レイジに心当たりがあった。
(もしかして……俺が原因なのか?)
最低最悪にして、世界を滅ぼす力を持ったラスボスキャラクター光闇レイジ。
そんな彼が前世の記憶を思い出し、平和に生きようとしている。
それにより、アニメの設定にはないことが起こっているのでは?とレイジは推測する。
(もしそうならまずいな……『クイーン・オブ・クイーン』の設定にはないことが起きたら、間違いなく面倒ごとになる)
レイジは顎に手を当てて、思考をフル回転させる。
自分が生き残るためには、どうすればいいのか?
自分が世界を滅ぼす化物にならないためには、どうすればいいか?
これから起こる予想外なことに対処するには、どうすればいいのか?
(どうする…俺はどうすればいい!)
レイジが深く考え悩んでいたその時、突然部屋のドアが大きな音を立てて開いた。
一瞬ビクッと身体を震わせた彼は、ドアに視線を向ける。
するとそこには、浴衣姿の緑髪の少女—――覇道神楽耶がいた。
「レイジくん~!」
「神楽耶ちゃん!?なんでここに」
「遊びに来たの~」
柔らかい笑顔で語尾を伸ばす神楽耶。
そんないつもの彼女を見て、レイジは頬を緩めた。深く考える自分が、アホらしくなったからだ。
(そうだ。アニメの設定にはないことが起きて、大変だけど……悪い事ばかりじゃない)
本来、殺すはずの神楽耶と友人になった。
そして狂神化した月夜を人間に戻すことが出来た。
確かに悪いことは起きているが、同時に良いことも起きている。
だから、何とかなるだろう。
運命に抗う事だって不可能じゃない。
レイジはそう思った。
「よし、遊ぼっか!」
「やった~!」
嬉しそうに何度もジャンプする神楽耶。
レイジはクスリと微笑みながら、彼女に問い掛ける。
「で、なにして遊ぶの?」
「う~んとね~。お外で裸のプロレスごっこ~!」
「ちょっと待って」
「のがいぷれい?っていうのを、やりたい~!」
「だからちょっと待て。神楽耶ちゃんはなぜそれをやりたいの?」
「お母様とお父様がやってたから、私もやってみたくなったの~」
「神楽会長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!あんた実の娘に何見せてんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「レイジ!あなた…あなたは五歳の子供になにしようとしているの!?この変態白銀糞虫下種野郎!!」
「アイリスお姉様、なんで俺が悪い感じになってるの!?あと、最後の方酷くない!?」
「私が先よ!」
「アハハ!やっべーどうしよう、この女神、とんでもない爆弾発言をしやがったぜ!!」
この時、レイジは本当に運命に抗うことができるのか少し……いや、かなり不安になった。
◁◆◇◆◇◆◇◆▷
光がなく、凶暴で巨大な魔獣が大量にいる森林—――魔の森。
そこには、多くの魔獣に恐れられた強力で残酷な魔獣がいた。
その魔獣は、黒い体毛に覆われた人の形をした漆黒の猿—――魔獣LV6ゲームだ。
「フンフンフ~ン♪」
ゲームは鼻歌を歌いながら、魔の森の中を歩いていた。大量の人間と女神の死体が入った網を引きずりながら。
猿人型魔獣の身体には大量の血が付着しており、どれだけ人間と女神を殺したのか物語っている。
「アア…アト少シ……アト少シデ完成ダ」
口元を三日月に歪めながらゲームは、火傷を負った顔を撫でる。
その魔獣は楽しみに待っていた。己の顔に消えない火傷の痕を付けた人間の化物と、殺し合えるのを。
「完成シタラ……思ウ存分、僕ト遊ボウカ。アハハ…アハハハハ……アハハハハハハハハハハハハ!!!」
赤い瞳を不気味に光らせながら、ゲームは笑う。
魔獣の不気味な高笑いが、魔の森全体に響き渡った。
第一章 完。
次回 第二章。