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無茶と無理をする

「がんばれ~!レイジくん~!がんばれ~!」


 観客席からレイジを応援する声が響き渡る。

 その声が気絶しかけたレイジの意識を徐々に呼び起こす。


(この声は……)


 知っている。この声を。

 アニメでも聞いたことあるこの声を!


「まさか!」


 驚愕の表情を浮かべたレイジは、声の聞こえた方に視線を向ける。

 そして視界に映ったのは、観客席の手すりから身を乗り出した浴衣姿の緑髪の少女—――神楽耶の姿だった。

 

「がんばれ~!レイジくん~!」


 レイジに向かって、彼女は大声で応援していた。

 知らないとはいえ、自分を殺すかもしれない相手を応援する神楽耶。

 そんな神楽耶の姿はレイジにとって奇妙に見えた。

 だが、それ以上に―――嬉しかった。

 姉や妹、そして戦った魔導騎士達に化物と言われたレイジを。

 観客達が怯えた目で見ているレイジを。

 神楽耶は恐れず……応援してくれた。

 自然とレイジの頬が緩む。


「まったく……応援されちゃあ頑張らないとな!」


 めり込んだ壁から強引に抜け出したレイジは、神楽耶に向かって親指を立てる。


「ありがとう神楽耶ちゃん。おかげでめっちゃくちゃ元気になった!」


 レイジが感謝を述べると、神楽耶は満面の笑顔を浮かべた。


「どういたしまして~」

「ふふふ。さて……待たせましたね。月夜さん」


 レイジは平然と立っている月夜に向き直った。


「まだやるの?」


 どこか面倒くさそうに尋ねる月夜。

 きっとレイジと戦うのは時間の無駄だと思っているのだろう。


「えぇ、応援してくれる子がいるんでね」

「君はもう分かっているはずだ。あたしに勝てないと」

「そうですね。本当だったら気絶して負けるはずでしたよ。ただ……格好いいところを見せたい子がいるんで」


 首をゴキゴキと鳴らすレイジは、月夜を睨みつける。

 彼は深紅の瞳を怪しく輝かせ、凶悪な笑みを浮かべた。

 勝利する確率は少ない。

 負ける可能性の方が高い。

 しかしレイジは死神のように笑って宣言した。


「悪いけど、俺はまだ白旗を上げるつもりはないぞ、覚醒者!」


 強い意志が宿ったレイジの言葉が響き渡った。

 彼の迫力に月夜は思わず後退る。

 完全神装している自分の方が有利だと言うのに、月夜はレイジに負けるところを想像してしまう。


「だ、だったらどうやって勝つつもりだ、あたし達に!」

『女神と契約していない君には僕達を倒すことはできない』


 月夜と岩鉄が言っていることは間違っていない。

 彼女の言葉を肯定するように、レイジは肩を竦めた。


「でしょうね。だから……無茶と無理をします」


 レイジは自分の胸に手を当てて、目を閉じる。

 そして静かな声でスキル名を告げた。


「スキル〔性転換(せいてんかん)〕」


 レイジの身体の表面が浅く銀色に輝いた。

 するとレイジの胸と尻が徐々に膨らみ、白銀の髪が伸びていく。

 その光景に月夜や岩鉄だけでなく、観客達も驚愕した。

 そして数秒後、銀色の輝きが収まった時にはレイジの身体は大きく変化していた。

 豊満な胸に形が整ったお尻。引き締まった腹に長い美脚。

 そして腰まで伸びた白銀の髪。

 レイジはゆっくりと瞼を開け、深紅の瞳を輝かせる。

 その姿はとても幻想的で妖艶で……とても美しかった。

 

「驚きましたか?俺が女になったことに?」


 呆然としている月夜達に高声で尋ねるレイジ。

 そう。光闇レイジは女性になったのだ。


「た、確かに驚いたがその姿でどうす―――」

「無茶と無理をすると言ったでしょう?」


 月夜の言葉を遮り、レイジは掌を前に突き出す。

 そしてレイジは魔法名を唱えた。


「火属性魔法〔LV6絶炎(ヘル・ファイアー)〕」


 すると掌から巨大な赤い魔法陣が展開。

 そこから蒼い炎が大量に放射された。

 蒼炎は津波の如き勢いで月夜に襲い掛かる。


「なっ!」

『LV6!?』


 驚愕する月夜達は慌てて地面を殴りつけた。

 直後、地面から巨大な土の壁が出現し、蒼炎の津波を防いだ。

 しかし炎の熱が強すぎるせいで、壁が恐ろしい速度で融解していく。


『月夜!』

「分かってる!」


 月夜は上に向かって高く跳躍。

 直後、蒼炎は壁を跡形もなく溶かした。そして全てを燃やし尽くすと言わんばかりに、蒼い炎の津波は草原を呑み込んだ。

 強い熱風が月夜の髪を激しく揺らす。

 炎が収まった時には、草原は酷い有様になっていた。草は一つも残っておらず、地面はマグマのように赤く溶けていた。

 土が焦げた臭いがレイジと月夜の鼻を刺激する。

 

「こんなの……ありえない」


 安全な場所に着地した月夜は、目を大きく見開いていた。

 彼女は信じられないのだ。レイジがLV6の魔法を発動したことに。

 なぜならLV6の魔法など聞いたことが無いからだ。

 観客達も見たことが無い魔法を目にして、愕然としている。

 

(そりゃあ知らないよな。失われた魔法なんて)


 驚いている月夜を見て、レイジは笑みを浮かべた。

 魔法はLV1~LV5までしか存在しない。それが一般常識。


 だが、魔法にはLV10まで存在する。


 それを知っているのは、アニメ知識があるレイジだけ。

 そしてLV6~LV10の魔法全てを()()()()()()()使うことが出来る。

 なぜなら、


「今の俺は女だからな!」


 LV6~LV10の魔法は女性にしか扱うことが出来ない。

 そのせいでアニメのレイジは、LV6以上の魔法を使うことが出来なかった。

 しかし今のレイジは、アイテム屋で買ったスキル〔性転換〕で女になることができる。


 もう、レイジに使えない魔法は存在しない。


「さぁ、ここから魔法のフルコースでございますよ。お客様!」


 凶悪な笑みを浮かべたレイジは、右手を上に向かって突き出す。


「光属性魔法〔LV7天の剣(ホーリー・ソード)〕!」


 バトルステージの上に巨大な黄色い魔法陣が出現。

 そこから五メートル以上はある光の剣が大量に現れた。

 それはとても美しく、神秘的で―――誰もが恐怖するような光景だった。


「まずはナイフをどうぞ」 


 レイジが右手を振り下ろした瞬間、無数の光剣が月夜に向かって飛来する。

 高速で襲い掛かる鋭利の刃。

 だが月夜は逃げも隠れもせず、迎え撃つ。


「舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 叫び声を上げた彼女は、空中に巨大な土の槍を無数に生み出した。

 そして土槍を接近する光剣に向かって飛ばした。

 無数の光剣と無数の土槍がぶつかり合い、甲高い音を響かせて砕け散っていく。


(流石は覚醒者。そう簡単にはいかないか。それにしても……流石に一人でLV6以上の魔法を使うのはキツイな)


 舌打ちするレイジは額から汗を流す。

 本来、LV6以上の魔法は五人以上の女性が居なければ行使できないのだ。

 レイジは全ての属性適正がLV10なのでなんとか使えている。

 だが魔力の消費が激しく、肉体に負担がかかる。


(だけど……ここで頑張らないと応援してくれた神楽耶に悪いからな!)


 応援してくれる女の子のために、レイジは笑みを浮かべて勝利を目指す。


「今度はステーキでございます!雷属性魔法〔LV8雷撃の闘牛(ボルト・ビーフ)〕!」


 魔法を発動したレイジは指を鳴らした。

 すると彼の目の前に金色の魔法陣が出現。

 そこから巨大な稲妻の闘牛が現れた。

 稲妻の闘牛は激しく放電しながら、月夜を睥睨する。


「ウモォォォォォォォォォォォォ!!」


 天に向かって雄叫びを上げた雷牛は、月夜に向かって突進した。

 地面を砕く勢いで疾走しながら、頭から伸びた二本の鋭い角を敵に向ける。

 雷牛の突撃が月夜に襲い掛かった。


「こんなもの!」


 迫りくる稲妻の闘牛の頭に向かって、月夜は拳を放った。

 彼女の拳と闘牛の頭が衝突した瞬間、強い衝撃波が発生。

 月夜と闘牛を中心に地面が捲れ、轟音が鳴り響いた。

 その時、


 ビキッ!


 月夜の右腕を覆ていたガントレットに亀裂が走った。


「!!魔導格闘術―――破砕脚(はさいきゃく)!」


 危険を感じた月夜は回し蹴りを放った。

 彼女の蹴撃が雷牛の頭に直撃。

 そしてそのまま闘牛の頭を地面に叩きつけた。

 衝突した地面が大きく陥没し、衝撃音が鳴り響く。


「ウモォォォォォォォォォォォ!!」


 悲鳴を上げた稲妻の闘牛はバチバチとスパークした後、跡形もなく消滅した。


「あたしの籠手が!」


 ガントレットに走った亀裂を見て、月夜は焦燥した。

 そんな彼女にレイジは容赦なく追撃する。


「お次は魚料理などいかが?水属性魔法〔LV8極寒氷の大鮫(アイス・メガロドン)〕!」


 地面に手を当てたレイジは魔法を発動。

 直後、レイジの足元に蒼い魔法陣が現れ、そこから巨大な鮫が出現した。

 その鮫は氷で出来ており、口には鋭い歯が並んでいた。

 刃のような二つの目が不気味に赤く輝く。

 あまりの迫力に月夜だけでなく、観客達も息を呑んだ。

 レイジは氷鮫の背中の上に立ち 大声で命令する。

 

「喰らいつけ!」


 主の命令に忠実に従い、氷鮫は月夜に向かって突撃した。

 ヒレを動かし、泳ぐように空中を飛ぶ巨大な鮫。

 猛スピードで接近し、月夜のガントレットに嚙みついた。

 ガントレットに走った亀裂が大きくなり、装甲の一部が甲高い音を立てて砕けた。


「このおおおおおお!離せ!」


 月夜は腕に噛みついている氷鮫に膝蹴りを入れる。

 彼女の膝が直撃し、氷鮫の身体に大きな皹が走る。

 だが鮫は離さなかった。

 それどころか噛みついたまま、冷気のブレスを吐き出した。

 絶対零度の冷気が月夜の身体を凍結していく。

 危険を悟った月夜は、氷鮫を地面に強く叩きつけた。

 氷鮫の全身に走っている皹が大きく拡がり、甲高い音を立てて砕け散った。

 鮫から解放された月夜は一瞬、気を緩める。

 その時、


「油断とは随分余裕ですね」


 月夜の耳に死神の囁き声が聞こえた。

 慌てて彼女は振り返った瞬間、拳を放つ。

 しかし月夜の重い一撃を、レイジは片手で軽々と受け止めた。


「なっ!」

「あなたの動きは全て見切りました。もう怖くない」

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 鬼のような形相で月夜は強力な回し蹴りを放つ。

 当たれば致命傷は免れない一撃。

 だがレイジは彼女の攻撃を紙一重で躱し、拳を打ち込んだ。

 レイジの拳撃が月夜の胸に直撃。

 金属音が鳴り響き、月夜の鎧に皹が走る。


「ガハッ!」


 肺に入っていた空気を全て吐き出した月夜は、苦しそうに顔を歪めた。

 そんな彼女にレイジは冷たい声で告げる。


「言ったでしょ?全て見切りました……と」

「クッ!舐めるなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 怒りに満ちた声で叫びながら、月夜は怒涛の連続攻撃を放つ。

 しかしレイジは彼女の攻撃全てを受け流し、蹴りや殴打で反撃する。

 一方的に追い詰められる月夜。

 そんな彼女の姿を見ていた観客達は驚愕する。


「覚醒者を追い込むなんて……」

「しかも相手は子供だぞ?女神とも契約していない」

「こんなこと……ありえるのか?」


 観客達は目の前の光景が信じられなかった。

 そんな彼らをレイジは更に驚かせる。


「全ての属性を両手両足に付与!」


 月夜を攻撃していたレイジの両手両足が、虹色に輝きだした。

 そして眩しく輝く両拳を腰に構え、レイジは静かな声で技の名を告げる。


「魔導格闘術―――連拳砲」


 刹那、レイジの連続殴打が炸裂。

 襲い掛かる怒涛の拳撃を、月夜は咄嗟にガントレットで防ぐ。

 レイジの連打と月夜のガントレットが激しく衝突し、火花が飛び散る。

 ガントレットに走っている皹が徐々に拡がっていく。

 そして―――大きな音を立てて、ガントレットは砕け散った。

 あまりにも衝撃的な事が起こり、月夜は硬直する。

 その隙を白銀の死神は見逃さない。


「魔導格闘術―――破砕脚」


 レイジは音速を超えた速度で回し蹴りを放った。

 彼の神速の一撃が月夜の横腹に直撃する。

 凄まじい衝撃が襲い掛かり、月夜は顔を歪め、苦痛の声を上げた。

 彼女の身体は勢いよく横に吹き飛び、ボールのように地面をバウンドする。

 だがすぐに体勢を立て直した月夜は、レイジを睨みつけた。


「なんで……なんで魔導格闘術が使える!なんで私の攻撃を全部防げる!」


 険しい表情で尋ねる彼女に対し、レイジは不敵な笑みを浮かべた。

 

「俺…ものまねと先読みが大得意なんですよ」


 今のレイジには、アニメのレイジにはない武器がある。

 それは前世で培った技。

 レイジの前世—――早崎耕平が料理修行の旅をしていた頃の話だ。

 耕平は一秒でも早く立派な料理人になる為に、多くの料理人の技を見た。

 呼吸、立ち方、筋肉、関節、視線など全ての動作を細かく観察し、それをまねした。何度も数えきれないぐらい。

 そして耕平は修得した。相手の技を完璧にコピーする技術と相手の行動を細かく先読みする技術を。

 特に先読みする技は、未来予知に近い効果を持っている。

 本来、彼の先読みは共に料理する人とうまく連携するためのもの。

 レイジはそれを戦いに活かしたのだ。


「月夜さん……あなたの技、奪わせてもらいました」


 レイジの挑発的な発言を聞いて、月夜の堪忍袋の緒が切れた。


「だったらマネできないものを見せてやる!」


 血走った目でレイジを睨みつける月夜は、奥の手を発動する。


「ユニークスキル〔土石の巨龍(アース・ドラゴン)〕!」


 彼女の怒声が響き渡った直後、地面から巨大な土と石の怪物が現れた。

 数百メートル以上はあるだろう長太い胴体に石でできた鋭い爪。頭部から伸びた三本の角に鋭い歯が並んだ大きな口。

 その怪物の姿はまさに―――龍だった。

 土龍は双眼を輝かせて、雄叫びを上げる。


「ガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」


 地面の一部に亀裂が走り、空気が振動する。

 多くの観客達が耳を塞ぎ、身体を縮こませる。

 だがレイジは龍の咆哮を真正面から受けても、堂々と立っていた。


「随分とデカいな。よくドームの中に収まったな」


 そんなことを呟いたレイジは、指と首をゴキゴキと鳴らす。

 自分を見下ろす土龍を、レイジは闘志と執念が宿った深紅の瞳で睨みつける。 


「そっちがその気なら……こちらは最高のメインディッシュを提供しましょう」


 長い白銀の髪をたなびかせ、レイジは拳を構える。

 そして彼は、アニメのレイジが()()()()()()()()()を始めた。

 

「スキル〔振動波〕〔衝撃反転〕〔筋肉増強〕〔硬質化〕〔暴君〕〔超加速〕〔神兎〕〔重力操作〕〔自然操作〕〔空間操作〕〔煉獄〕〔雷獄〕を肉体に付与!」


 レイジの顔や腕、脚、背中など肉体全ての表面に銀色に輝く文字が浮かんだ。

 すると彼を中心に白銀の嵐が発生した。

 その光景を目にした月夜と観客達は狼狽する。

 無理もないだろう。なぜなら、レイジがやっていることは自殺行為と変わらないからだ。

 スキルや魔法を肉体に付与してしまうと、力に耐えきれず崩壊してしまうのだ。

 しかし、レイジの肉体は崩壊する気配はなかった。

 理由は、アイテム屋のAIがオススメした三つ目のスキルの効果だ。


 そのスキルの名は〔不屈(ふくつ)〕。あらゆる負担を大幅に減少させる力。


 このスキルのお陰で、レイジの肉体が崩壊せずに済んでいるのだ。

 だが完全に負担がなくなったわけではない。

 スキルで強化した肉体にスキルを付与して、さらに強化しているのだ。

 崩壊せずにいるが、身体に走っている痛みはとても強く、レイジを苦しめる。


 けれどレイジは凶悪な笑みを浮かべて、耐えていた。


(笑え!笑え!笑え俺!前世でもトラブルが起きた時も、辛いことがあっても笑って乗り越えて来ただろう!だがら笑え!笑って目の前の障害をぶち壊せ!!それが―――)


「それが、死神として生きる今の光闇レイジだ!」


 深紅の瞳を怪しく、そして強く輝かせたレイジは強く踏み込んだ。

 刹那、地面が大きく陥没し、レイジは音速を超えた速度で駆け出した。

 白銀の軌跡を描きながら、巨大な土龍に突撃する死神。

 月夜と岩鉄は覇気を宿した声で叫び、迎え撃つ。


「『これで終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』」

「ガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」


 咆哮を上げる土龍は、接近するレイジに襲い掛かった。

 土石の巨龍と白銀の死神はお互いの敵を倒すために、距離を縮める。

 そして土龍の硬質な頭と極限まで強化されたレイジの拳が激突した。

 轟音と金属音が鳴り響き、強い衝撃波が発生。地面に大きな亀裂が走る。

 巨龍と死神の一撃が激しく拮抗し、火花が飛び散る。


 そんな時レイジは、強く!前へ!一歩!踏み込んだ!


「これぐらいで―――止まるかよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 気迫が込められた声で雄叫びを上げたレイジは、拳に魔力を流し込む。

 虹色に輝く拳が更に輝きを増した。

 直後、土龍の身体全体に大きな皹が走り、音を立てて砕け散った。死神の一撃が巨龍を上回ったのだ。

 驚きのあまり硬直してしまう月夜。

 そんな彼女の懐に、レイジは一瞬で飛び込んだ。

 彼は深紅の瞳を輝かせ、告げる。最強の一撃の名を。


「魔導格闘術―――皇覇!」


 地面を粉砕するほど強く踏み込んだレイジは、身体全身を使い、神速の拳撃を月夜の腹に打ち込んだ。

 纏っていた鎧が砕け散り、月夜の身体がくの字に折れ曲がる。

 口から苦痛の声を上げた彼女は、後ろに向かって吹き飛んだ。

 そして壁を貫通し、外にある大きな建造物に衝突した。

 衝撃音が響き、土煙が舞い上がる。

 徐々に土煙が収まると、そこには瓦礫の上に倒れて動けなくなった月夜の姿があった。

   

「俺のフルコースメニュー。ご満足いただけましたか。お客様?」


 レイジがそう言った直後、試合終了のブザーが鳴り響いた。

 観客達はただ呆然とすることしかできなかった。

 静寂が武道館の中を支配する。

 しかしそんな静寂を神楽耶の歓声が破った。


「レイジくん~!カッコ良かったよ~!」


 両手を大きく振り、満面の笑顔を浮かべる神楽耶。

 そんな彼女を見て微笑んだレイジは、感謝の言葉を伝えようと口を開いた。



 その次の瞬間―――レイジの背中を何かが貫いた。



「え?」


 なにが起きたか分からず、呆然とするレイジ。

 彼はゆっくりと下に視線を向ける。

 そして気が付いた。自分の腹から血に染まった黒い腕が生えていることに。


「な…に……!」


 口から大量の血を吐き出したレイジは、振り返る。

 するとそこには、禍々しい漆黒の()()でレイジの背中に突き刺さした月夜が。


「『あ…あた……アタシハ…オ前ヲ倒ス!』

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