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覚醒者

 とある女性魔導騎士は呆然としていた。

 剣型の神装を握り締めたまま、彼女はただ……立っていた。

 

「なによ……あれ」


 女性は目の前の光景が信じられなかった。

 彼女の目に映っていたのは、千人以上の魔導騎士達と激闘する一人の青年の姿だった。

 白銀の髪を揺らしながら、彼は漆黒の大鎌を振り回す。

 襲い掛かる魔導騎士達の神装を斬り裂く。

 そして得物を失った魔導騎士に青年は掌を向ける。


「スキル〔魔睡(ますい)〕」


 スキル名を告げた直後、彼の掌から大量の白煙が噴射された。

 煙を吸い込んだ魔導騎士達は強い眠気に襲われ、次々と倒れていく。

 眠らせて無力化したのだ。

 青年が次の敵を倒しに行こうとした時、


「調子に乗らないでよね!」

「ここで倒す!」

「賞金はいただき!」


 青年の左右と背後から三人の女性魔導騎士が襲い掛かった。

 彼女達の攻撃が直撃しようとした。

 その時、青年の首に巻いていた赤いマフラーが勝手に動き出し、敵の攻撃を全て弾く。


「「「なっ!」」」


 驚愕する三人の魔導騎士。

 そんな彼女達に青年は大鎌で峰打ちし、気絶させた。

 それから青年は深紅の瞳を怪しく輝かせて、駆け出す。

 白銀の軌跡を描きながら、次々と敵を無力化していく。

 その光景を目にして、女性魔導騎士は戦慄した。

 圧倒的な力で数の暴力をねじ伏せる青年—――光闇レイジ。

 そんな彼に恐怖した女性魔導騎士は震えた声で呟いた。


「し、死神!」


 その時だった。レイジの深紅の瞳が彼女に向いたのは。

 危険を感じた女性は神装を構えた。

 次の瞬間、レイジの顔が彼女の視界を覆い隠した。


「えっ?」


 一瞬で距離を詰められたことに、彼女は反応が出来なかった。

 そして女性の意識は暗闇に呑み込まれた。


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


「これで全員か」


 全ての魔導騎士達を気絶させたレイジは、大鎌を肩に掛ける。

 そんな彼を呆然と見つめる観客達。

 静寂がドームの中を支配する。

 無理もないだろう。女神と契約していない少年が千人以上の魔導騎士を倒したのだから。

 レイジは何度目か分からない深いため息を吐いた。


「それにしても……死神か」


 最後に倒した女性魔導騎士が言っていた言葉。

 それを思い出し、レイジは悲しい表情を浮かべた。

 アニメの光闇レイジも多くの人達に〈虐殺の死神〉と呼ばれていた。

 なにも間違っていない。

 死神と呼ばれるのは正しいこと。

 だけど……なにも感じないわけではない。


(いや……これぐらいで悲しむなよ俺。分かっていたことだろう。力を振るえばこうなることを」


 圧倒的な力は多くの者に恐怖される。

 だが運命を変えるためには必要なこと。

 故に立ち止まるな。例え死神と呼ばれても、突き進め。

 それが今の光闇レイジだ。

 自分に強く言い聞かせたレイジは、その場から去ろうとした。

 その時だった。背筋が凍るような威圧感を感じたのは。


「全員、倒したと思ったんですけどね」


 ボディースーツに魔力を流し込み、強化系スキルを全て発動するレイジ。

 彼は警戒しながら、ゆっくりと振り返った。

 そして、


「……これは、ヤバいな」


 レイジは苦笑を浮かべ、額から冷や汗を流した。

 彼の視線の先にいたのは、左腕がないローブ姿の女性だった。

 くせ毛がある短い黒髪に獣のような鋭い目。そして見た者すべてを畏縮させてしまうような威圧感。

 レイジは彼女を見て、悟った。


 今、自分の目の前にいるのは多くの修羅場を潜り抜けた強者だと。


 漆黒の大鎌を構えたレイジは、隻腕の女性に声を掛ける。


「はじめまして。俺は光闇レイジと申します。そちらのお名前を聞いても?」


 レイジの問いに女性は不敵な笑みを浮かべて答える。


「あたしの名は月夜(つきよ)。よろしくね坊や」

「月夜さんですか。いい名前ですね」

「あたしを口説いているのか?なら諦めな。あたしには惚れた男がいる」

「そいつは残念」


 冗談を言いながら、レイジは月夜を観察する。

 普通の女性よりも高い身長に、無駄がなく引き締まった筋肉。そして拳に出来たタコや傷痕。


(筋肉の付きぐあいからして、格闘系の魔導騎士って感じか……ん?)


 レイジはある違和感を感じた。

 そして気が付く。彼女が神装を装備していないことに。


(なぜだ?神装を使っていないなら女神が近くにいるはずなのにどこにもいない……まさか!)


 嫌な予感を感じたレイジは慌てて振り返る。

 直後、高速で迫りくる拳が彼の視界に映った。

 

「チッ!」


 舌打ちするレイジは慌てて回避。

 音速を超えた拳撃が彼の頬に掠る。

 頬に一筋の傷ができ、血が飛び散った。


「奇襲とはずいぶんと素敵な挨拶ですね!」


 拳を放った敵に向かってレイジは大鎌を振り下ろした。

 しかし、


「無駄だよ」


 白い道着を着た茶髪の女神が大鎌の刃を両手で受け止めた。


「白羽取り!?初めて生で見た!」


 驚愕するレイジ。

 そんな彼に茶髪の女神は自己紹介する。


「やぁ、少年!いや……今は青年と呼ぶべきか?僕の名前は岩鉄(がんてつ)。よろしく」

「こいつはご丁寧にどうも。お二人も賞金が目当てですか?」

「うん、そうだよ。なにがなんでも欲しいんで―――ねぇ!」


 岩鉄は大鎌を掴んだまま、レイジの顔に向かって膝蹴りを放つ。

 無駄のない素早い攻撃。

 彼女の蹴りがレイジの顔に直撃しようとした時、首に巻いていた赤いマフラーが動いた。

 マフラーは岩鉄の攻撃を受け止め、弾き飛ばす。


「嘘っ!?」


 大きく目を見開く岩鉄。

 まさか防がれるとは思っていなかったのだろう。

 レイジは彼女から距離を取り、大鎌を構える。


「マフラーがなかったら危なかった」


 額から冷や汗を流したレイジは、目の前の敵を強く警戒した。

 魔導騎士は神装を使って戦うのが基本。

 だというのに月夜は神装を装備せず、相棒の女神に奇襲をさせた。

 

(明らかに対人戦に慣れている。ランクは……Bってところか)


 魔導騎士には実力を示すランクがある。

 上からS、A、B、C、D、E、Fと分かれており、ランクが高ければ高いほど強く、政府から良い待遇を受けることが出来るのだ。因みにC以上の魔導騎士は一流とみなされる。


「思った以上に強いよ、あの子」

「分かっている岩鉄」


 月夜と岩鉄は歩み寄り、レイジに視線を向ける。

 彼女達も光闇レイジのことを強く警戒していた。

 千人以上の魔導騎士を一人で倒したレイジは、はっきり言って化物の中の化物。

 普通のやり方では勝てないと思った二人は、奥の手を使うことにした。


「いくぞ、岩鉄!」

「ああ、僕達の全力を見せよう!」


 死神に勝つために月夜と岩鉄は心を一つにして叫んだ。


「「完全神装(かんぜんしんそう)!」」


 次の瞬間、巨大な砂嵐が発生し、月夜と岩鉄を呑み込んだ。

 それを目にしたレイジは激しく焦燥する。


「マジかよ!」


 舌打ちするレイジ。

 砂嵐が徐々に収まると、そこには茶色い甲冑を纏った月夜が現れた。  

 右腕は大きな籠手に覆われている。

 月夜から放たれる威圧感がさらに増した。


「まさか覚醒者だったとは」


 契約した女神の力の全てを鎧にして具現化したもの―――完全神装。それを使う者を覚醒者と呼ぶ。

 覚醒者は誰でもなれるわけではない。

 修羅場を何度も乗り越え、限界を超えた者だけがなれる領域。

 そして普通の魔導騎士と覚醒者では天と地の差がある。

 いくらチート能力を多く持っているレイジでも女神と契約していない以上—――覚醒者には勝てない。

 だが、レイジは逃げなかった。

 それどころか勝つ方法を考えていた。

 

(ここで諦めたら運命を否定することはできない。だから―――ここで覚醒者を倒す!)


 レイジは不敵な笑みを浮かべて、闘志を燃やす。

 目の前の敵を倒すために。

 運命を否定するために。

 覚悟を決めるために。

 そして、今まで化物と呼ばれて気にしていた弱い自分を消すために―――レイジは叫んだ。


「かかってこい。俺は……死神だ!」 

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