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模擬戦

 天井のライトに照らされた広い草原のバトルフィールド。

 その上に立つのは、派手な金色のスーツを着た若い青年と赤髪をツインテールにした女神。

 笑顔を浮かべる青年は観客席に向かって手を振る。

 そんな彼を見て、女神は呆れていた。


「ちょっと改。やめてよ、パートナーとして恥ずかしいわ」

「いいじゃないかメリー。僕は目立つのが好きなんだ」

「まったく」


 額に手を当てて、ため息を吐く女神メリー。

 その時、模擬戦の相手である灰色のボディースーツ姿の少年が現れた。

 白銀の髪に深紅の瞳。首に巻かれた赤いマフラーに漆黒のジャケット。そして大人びた雰囲気。

 そんな対戦者である少年をメリーは観察した。


(あれが光闇レイジくんか。フードを被っているから、顔はよく分からないけど……見た目は女の子みたいで可愛らしい少年!?)


 突然、メリーは身体全体が凍るような悪寒を感じた。

 呼吸が乱れ、手が震える。

 嫌な汗が大量に流れる。


(なんなのあの子!?普通じゃない!)


 メリーが危険を感じた時、レイジは深紅の瞳を怪しく輝かせた。

 本能が叫んでいる。目の前にいるのは、化物だと。

 彼女は慌てて相棒に警告しようとした時、試合開始のブザーが鳴り響いた。

 刹那、改の整った顔にレイジのドロップキックが炸裂した。


「ぶはっ!」


 突然、襲い掛かった激しい痛みに驚愕する改。

 彼は勢いよく吹き飛び、地面に何度もバウンドする。

 その光景を見ていた観客達は驚愕した。


「おい、今の見えたか?」

「いや、ぜんぜん。速すぎて分からなかった」

「ブザーが鳴った瞬間、あの改っていう男性魔導騎士が吹っ飛んでいたわ」

「なんなのあの子供は!?」


 人間も女神もなにが起きたか分からなかった。

 一つ分かるのは、レイジが目に見えない速度で改に攻撃したと言う事。

 慌ててメリーは、地面に倒れた改に駆け寄った。


「改、大丈夫!?」

「い、いったいなにが」


 ゆっくりと起き上がる改。

 彼はなにが起きたか分からなかった。

 ブザーが聞こえた直後、顔に強い衝撃を受けたことしか覚えていない。

 困惑する改は自分の顔に手を当てて、気が付いた。歯が折れ、鼻から血を流していることに。


「ぼ、僕の顔が!?」

「あの子の攻撃を受けてこうなったのよ」

「嘘……僕はあんな子供に!」


 驚いた表情で改はレイジに視線を向けた。

 レイジは追撃せず、ただ立っていた。まるで来るならさっさと来いと言わんばかりに。

 舐められていると思った改は、怒りの表情を浮かべた。

 強く歯噛みし、身体を震わせる。

 胸の奥から怒りの炎が沸き上がる。


「メリー!神装(しんそう)だ」

「!?やめなさい、相手は子供よ!」


 メリーは制止するが、改は聞く耳を持たない。


「いいからやるぞ!」

「……分かった」


 なにを言っても無駄だと察したメリーは、諦めて改の言葉に従った。


神装展開(しんそうてんかい)!」


 目の前の少年を倒すために、改は大声で叫んだ。

 するとメリーの身体が光と化して、改の身体に吸い込まれた。


「後悔させてやるよクソガキ!」


 充血した目でレイジを睨みつける改。

 彼の右手に炎のように赤い弓が顕現する。

 神装。それは女神の力の一部を武器として具現化したもの。

 改は左手に生み出した炎の矢を弓に装填する。


「喰らえ!」


 怒声を上げて、改は矢を放った。

 赤い軌跡を描きながら、炎の矢はレイジに高速接近する。

 そして矢がレイジの顔に直撃しようとした。

 その寸前、首に巻いていた赤いマフラーが勝手に動き出し、矢を弾き飛ばした。

 予想外な事が起こり、驚く改とメリー。


「なにっ!?」

『あのマフラー…もしかして魔道具!?』

「だからなんだ!」


 改は気を取り直して、炎の矢を撃ち続けた。

 だが結果は同じだった。

 襲い掛かる全ての弓撃をレイジのマフラーが防ぐ。

 それが改の神経を逆なでする。


「なら、これならどうだ」


 改は巨大な炎の矢を生み出し、弓に装填する。


『駄目よ!改!』


 改の身体にいるメリーは制止の声を上げた。

 しかし、彼の耳には届かない。


「ファイアーアロー!」


 大声で叫んだ改は強力な一撃を放った。

 激しく燃え盛る炎の矢は地面を焼きながら、レイジに向かって飛来する。

 そして矢はレイジに直撃し、爆発した。

 轟音が鳴り響き、土と草が焦げたような臭いが充満する。

 観客達は思わず息を呑んだ。

 誰もが思った。間違いなく、あの子は死んだと。

 その時、燃え上がる炎の中から人影が現れた。


「な…なんだと?」


 目を大きく見開いた改は、額から冷や汗を流した。

 炎の中から出現した人影は、白銀の髪を肩まで伸ばした青年だった。

 改の身体に戦慄が走る。


「なんなんだ……なんなんだお前は!?」


 歯をガタガタさせながら改は、銀髪の青年に矢を放とうとした。

 次の瞬間、銀髪の青年は改との距離を一瞬で詰めた。


「え?」


 なにが起きたか分からず、硬直する改。

 そんな彼の顔を鷲掴みした青年はポツリと呟いた。


「俺は光闇レイジだ」


 刹那、銀髪の青年—――レイジは改の頭を地面に力強く叩きつけた。

 地面に亀裂が走り、土煙が舞い上がる。

 改は気を失い、白目を剝いた。

 すると赤い弓が光と化して消え、改の身体からメリーが飛び出した。


「改!しっかしして改!」


 心配そうな表情でメリーは、気絶した相棒に声を掛ける。


(この子……なんなの!?)


 メリーは怯えながら、レイジに視線を向けた。

 首に巻いているマフラーをマントのように揺らす銀髪の青年。

 女神と契約していない彼は、現役魔導騎士を倒す実力を持っていた。


(この子……人間じゃない!)


 メリーの目には、レイジが化け物に見えていた。

 いや、化物なんて生温い。

 彼、光闇レイジは―――死神だ。


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


「一分も経ってないのに……もう終わりか。おかげで酔いが覚めた」


 VIP席でレイジの模擬戦を見ていたリオは驚愕の表情を浮かべていた。

 敵の攻撃を全て防ぎ、一方的に倒した実力。


(あの改って魔導騎士はそれなりに強いのに、あんなに早く……やっぱりレイジは戦闘の才能があるな)


 リオは心のどこかでこうなることを予想していた。

 レイジは子供でありながら、魔獣LV3を倒したことがある。

 彼にとって今回の模擬戦は遊びと同じ。


(一番驚いたのは、レイジのあの姿)


 スキルの力で肉体を二十代まで成長させたレイジ。

 彼の姿にリオは見覚えがあった。


「エミリア……」


 リオの耳に相棒の涙声が聞こえた。

 大人の姿になったレイジを見て、愛花は口元を両手で塞ぎ、瞳を潤わせていた。

 心配そうな表情でリオは愛花に尋ねる。


「愛花……大丈夫か?」

「うん。大丈夫……ごめんね。情けないところを見せちゃって」


 尻目に浮かんだ涙を指で拭う愛花。

 彼女の背中をリオは優しく撫でる。


「情けなくない。だって今のレイジはアイツによく似て―――」


 励ますようにリオが喋っていた時、放送が流れた。


『皆様にお知らせします。午後の魔導騎士同士の模擬戦を中止し、別のイベントを行います。これより……この場にいる全ての魔導騎士達は光闇レイジ選手と戦ってください』


「「なっ!」」


 突然変わったイベント内容に驚愕する愛花とリオ。

 しかも放送はまだ終わらなかった。


『光闇レイジ選手を先に倒した者には、賞金として五億円が与えられます。早い者勝ちです。飛び入り参加も可能です。それでは、始め』


 試合開始のブザーが鳴った瞬間、バトルフィールドの出入り口や観客席から次々と魔導騎士が現れた。

 誰もが神装を装備しており、レイジに向かって駆ける。

 その光景を目にした愛花とリオは思わず叫んだ。


「レイくん!」

「レイジ!」


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


 多くの魔導騎士達に囲まれたレイジは周囲を見渡す。


「まったく。面倒な頼みを受けてしまったな。千人以上はいるだろ、これ?」


 深くため息を吐いたレイジは、神楽の『お願い』の内容を思い出す。


『お願いは二つ~。一つは模擬戦の相手を一方的に早く倒してほしいの~。で、二つ目は多くの魔導騎士達を全員倒してほしいかな~。準備はこっちでやっておくから~』


 緩い感じで難易度が高い任務を与える。

 それが覇道神楽と言う人物だ。


「そういえば、主人公達も神楽の命令で無茶ばかりやらされていたな」


 深いため息を吐いたレイジは、スキル〔絶鎌〕を発動。

 空中に顕現した漆黒の大鎌を握り締め、肩に掛ける。


「まぁ、やることはやるか」


 闘志を宿した深紅の瞳を輝かせ、レイジは駆け出した。


「調理開始だ」

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