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魔導騎士会長

 覇道神楽耶(はどうかぐや)

 魔導騎士育成学校―――【陸王学園(りくおうがくえん)】の生徒会長にして、学園最強。

 愛想がよく、優しく、成績は優秀。

 生徒達や先生達に慕われる人気者。

 そしてプロ魔導騎士顔負けの実力者。


(そんな子がなんで俺の近くにいるんだろう?)


 深くため息を吐いたレイジは、隣に視線を向ける。

 彼の視線の先には、浴衣を着た緑髪の幼い少女—――覇道神楽耶がいた。


「ねぇねぇ、なんの本を読んでるの~?」


 興味津々な様子で話しかける神楽耶。


「ロボットライトノベルだよ」

「らいとのべる~?」

「小説だよ」

「ふ~ん。ねぇ、なんでこのイラストに描いてある女の子は裸なの~?」

「うん。気にしなくていいよ?」

「じゃあ、なんで男の人が女の子の胸を掴んでいるイラストがあるの~?」

「見なくていいよ?」

「この『セ○クス』っていう文字はどういう―――」

「神楽耶ちゃん?よかったら、俺の特製飴玉食べない?」

「わ~い~!食べる~!」


 糖分補給のために作ったレイジ特製の飴玉を、美味しそうに食べる神楽耶。

 そんな彼女を見て、レイジは改めて思った。

 なぜにこうなる?

 現在、レイジ達はリムジンに乗って模擬戦のイベント会場に向かっていた。

 広々とした綺麗な空間に、柔らかい高級な革製の椅子。

 レイジに同行している愛花は緊張して、硬直していた。

 平民出身だから無理もないだろう。

 リオはどこから持ってきたのか、酒を飲んで酔っていた。


(俺は前世でよく乗ってたから慣れてるし、大丈夫だけど。お母さんはきついだろうな。リオお姉様は……無視しよう。って今はそんなことを考えている場合じゃない!)


 レイジは頭を左右に振って、思考を切り替える。

 

(なんとしても神楽耶と神楽に関わらないようにしないと!) 


 レイジはチラリと視線を向けた。向かいの椅子に座っている神楽に。

 彼女は椅子に座ってレイジ達を眺めていた。

 神楽の瞳には、どこか嬉しそうに、楽しそうに。そして……極上の獲物を見つけた肉食獣のように光っていた。

 

(なんで関わりたくない奴が現れるんだよ!?)


 レイジは心の中で叫んだ。

 覇道神楽(はどうかぐら)。神楽耶の母親であり、魔導騎士協会の会長。

 実力は高く、王族や政府などと深くつながりを持っている。


 親子揃ってチートなのだ。


 そんな覇道親子とうまく距離を取れないかとレイジは考えていた。

 理由は二つ。

 一つ目は、将来、レイジが神楽耶を殺すからだ。

 アニメの光闇レイジは一人の女子生徒を人質にして、神楽耶を殺害。しかもゆっくりと痛めつけて。

 そして死体となった神楽耶を壁に飾り付け、主人公達に見せつけるのだ。

 今のレイジは敵でなければ殺すつもりも、殺す度胸もない。

 だが、世界の修正力というものがある。

 なにかしらでレイジが神楽耶を殺すかもしれない。


(もし、俺が神楽耶を殺したら神楽にやられる!)


 それが二つ目の理由、神楽に殺されるかもしれないからだ。

 大切な娘の命を奪われた神楽は、レイジを殺そうとする。

 部下や仲間と協力し、徹底的に追い詰め、無人島に誘導。

 そして島ごとレイジを爆発させたのだ。

 その時のレイジはうまく脱出できたが、重傷を負ってしまう。


(神楽は娘想いだから娘に何かあったら百万以上の魔導騎士を連れて、敵に襲撃するからな。絶対に敵には回したくない)


 ラスボスであるレイジに致命傷を負わせたのは、神楽を含めて指で数えるほどしか居ない。

 それぐらい神楽は危険なのだ。


 故に……距離を取らなければならない。


(……それにしても、なんで神楽は俺に娘と接触させたんだ?アニメの設定では、娘に悪い虫が付かないように父親以外の男は近づけなかったはず)


 今の神楽のことを疑問に思っていたその時、レイジのスキル〔災悪視〕が自動発動した。

 彼の頭の中に死の映像が流れる。

 

(チッ。面倒な奴が現れたな)


 心の中で舌打ちしたレイジは読んでいたライトノベルを閉じ、椅子から立ち上がる。

 そして彼は戦闘準備を始めた。


「スキル〔装備変換(そうびへんかん)〕」


 スキルを発動した瞬間、レイジの服装が装甲付きのボディースーツへと変わった。

 一瞬でレイジの格好が変わったことに、車内にいた者達が驚愕する。


「ど、どうしたのレイくん!?」


 慌てた様子で問い掛ける愛花。

 そんな彼女を安心させるように、レイジは微笑みを浮かべた。


「ちょっと用事が出来ただけ。すぐに戻るよ」


 そう言い残したレイジはスキル〔空間操作〕で目的の場所に転移した。


◁◆◇◆◇◆◇◆▷


 邪雲に覆われた大空を巨大なクジラが泳ぐように飛んでいた。

 三百メートルの体長に全身を覆う黒い鉱物の外殻。刃のように鋭利なヒレに四つの赤い目。


 哺乳類型魔獣LV5—――メタル・ギガント・ホエールだ。


 メタル・ギガント・ホエールは空を飛びながら探していた。人間と女神という名の食料を。

 眼球をギョロギョロと動かし続け―――見つけた。

 外灯と建物の光に照らされた小さな街。

 それを視界に捉えた魔獣クジラは街に向かおうとした。

 その時、メタル・ギガント・ホエールの目の前に銀髪の少年が現れた。


「お前か……俺が住んでいる居場所を喰おうとしている奴は」


 静かな、しかし強い殺意と怒気が宿った少年の声が響いた。

 感じたことが無い恐怖がクジラ型魔獣に襲い掛かる。

 唸り声を上げながら、少年を睨みつける。

 魔獣の眼光を向けられた銀髪の少年—――レイジは凶悪な笑みを浮かべた。


「クジラステーキにしてやるよ」


 深紅の瞳を怪しく輝かせた彼は、メタル・ギガント・ホエールに向かって駆け出す。

 スキル〔神兎〕で空中を走りながら、肉体を成長させる。

 手足が細長く伸び、目つきが更に鋭くなっていく。

 二十代の大人になったレイジは、白銀の閃光と化してクジラ型魔獣に突撃する。

 危険を感じたクジラ型魔獣は迎撃しようとした。

 しかし、彼はそれを許さない。


「お前に攻撃する時間は与えない」


 レイジはボディースーツに魔力を流し込む。

 するとスーツの表面に銀色のラインが浮かび上がった。

 直後、レイジはさらに加速し、メタル・ギガント・ホエールとの距離を一気に詰めた。

 

「歯を食いしばれ、肉叩きの時間だ」


 拳を構えたレイジは複数のスキルを発動。

 肉体の強度が上がり、全身の筋肉が膨れ上がる。

 限界まで己の強化したレイジは、渾身の一撃を放つ。

 彼の強力な拳撃がメタル・ギガント・ホエールの頭に激突。

 轟音が鳴り響き、衝撃波が発生する。

 メタル・ギガント・ホエールを覆っていた外殻に大きな皹が走る。

 同時に殴打を放った右腕が折れ曲がった。

 血が大量に噴き出し、激痛がレイジに襲い掛かる。

 しかし、彼は歯を食いしばって耐える。


「まだ終わりじゃないぞ!」


 レイジは左の拳でクジラ型魔獣の頭を殴る。

 強い衝撃音が鳴り響き、メタル・ギガント・ホエールを覆っていた外殻が砕け散った。

 そしてレイジの左腕が血を噴き出しながら、折れ曲がった。両腕はもう使い物にならない。

 だが彼はこれぐらいで止まらない。

 気迫が込められた声でレイジは叫ぶ。


「スキル〔超回復(ちょうかいふく)〕!」


 レイジは折れ曲がった両腕を巻き戻すように再生させた。

 そして両手を手刀にし、腰に構える。

 狙う場所は、露になったメタル・ギガント・ホエールの額の皮膚。

 そこにレイジは手刀を突き刺した。

 魔獣の血がレイジの頬に飛び散る。


「最上位の雷属性スキルだ。しっかし味わえよ?このクソクジラ!スキル〔雷獄(らいごく)〕!」


 刹那、レイジの両腕から激しい放電が起こった。

 雷撃はクジラ型魔獣の肉体全体に走り、内臓—――特に脳と心臓、そして()()()()を破壊する。

 メタル・ギガント・ホエールの口から大量の血が噴き出し、四つの赤い瞳から光が消える。

 

 空を泳ぐLV5の魔獣は悲鳴を上げることなく、絶命した。


 魔獣の額に突き刺した手刀を抜いたレイジ。

 彼は冷たい目で死んだメタル・ギガント・ホエールを見つめた。


「調理…終了」


 そう呟いたレイジは、ゆっくりと地上に落下するクジラ型魔獣をスキル〔格納空間〕に収納する。

 故郷を守った彼は子供の姿に戻り、母親達の所に転移しようとした。

 その時だった。

 レイジの背後から拍手の音が聞こえたのは。


「素晴らしいですね~。女神の力を使わないで倒すなんて~」

「ああ、国を滅ぼす災害級の魔獣を一人で討伐……あっぱれだ」


 レイジは背筋が凍るのを感じた。

 なぜ彼女達が居る?

 そんな疑問を抱きながら、レイジは振り返った。

 するとそこには、小さな竜巻の上に乗って浮遊している神楽と雪風がいた。

 二人は嬉しそうに微笑みながら、レイジに近寄る。


「流石だね~レイジくん」

「ああ、驚いた。まさかここまでやるとは」

「……いつから見てたんですか?」


 警戒しながら問い掛けるレイジ。

 そんな彼に対し、柔和な笑顔で神楽は答える。


「君がメタル・ギガント・ホエールに向かって走るところかな~」

「ほとんど最初からですか」


 レイジの感知系スキルの性能は非常に高い。

 だというのに、神楽と雪風の気配を察知できなかった。

 レイジは強い警戒心を抱いた。彼女達は予想以上に強い実力者だと。


「それにしても~本当に凄いよ君は~。まさか―――被害が出ないように自分の腕を犠牲にするなんて~」


 神楽の言葉を耳にしたレイジは、片眉をピクリと動かす。


「……なんのことです?」

「とぼけないでよレイジくん~。衝撃を全て跳ね返す〔衝撃反転(しょうげきはんてん)〕と内部を破壊するスキル〔振動波(しんどうは)〕を使えば腕が折れることなく、ワンパンであの魔獣を倒せたはずだよね~?」

「!!」

「他にもスキル〔絶鎌〕や〔空間操作〕、〔重力操作〕など使えばすぐに終わらせたのに~……君はしなかった~。な・ぜ・な・ら~メタル・ギガント・ホエールを倒すと体内にいた超小型魔獣が大量に飛び出すから~。だよね~?」


 鼻と鼻がぶつかりそうなぐらいまで顔を近づける神楽。

 そんな彼女を見て、レイジは息を呑む。

 額から一筋の汗が頬を伝う。


「全てお見通しか」


 神楽の言っていることは事実だ。

 メタル・ギガント・ホエールの体内には、米粒ぐらいの小さなクジラ型魔獣が大量に生息している。

 メタル・ギガント・ホエールが死ぬとその魔獣達が飛び出し、人間や女神に寄生する。

 寄生された者達は人々に襲い掛かり、共食いするのだ。

 それで過去にいくつもの国が滅んでいる。

 そうならないためにレイジは外殻を破壊し、雷属性スキルで感電死させたのだ。

 電撃を使えば、メタル・ギガント・ホエールだけでなく、体内にいた超小型魔獣も殺すことが出来る。


「君は本当にいいよ~。スキル〔収納空間〕に入れたのも下の街に被害を出さないため~」

「……俺は素材が欲しかっただけです」

「謙遜もするんだ~ますます気に入ったよ~」

「狙いは何ですか神楽さん?いや……〈九剣(きゅうけん)戦乙女(ワルキューレ)〉の一人、〈嵐刃(らんじん)女侍(おんなざむらい)〉さん」

「へぇ~。私の事を知っているんだ~。君は博識だね~」


 十年前、世界の半分を破壊するまで止まらない魔獣の大群の大侵攻—――魔獣大災害進行(モンスターパラダイス)が起こった。

 誰もが絶望する中、勇敢に立ち向かった九人の魔導騎士達が居た。

 彼女達は相棒の女神と共に魔獣達と激闘し、見事勝利。

 多くの国を救った九人の魔導騎士達は後に、〈九剣の戦乙女〉と呼ばれるようになった。

 そんな英雄の一人である神楽に、レイジはもう一度尋ねる。


「教えてください。なにが目的なんですか?」

「そんなの決まっているじゃない~。君を魔導騎士にしたいんだよ~。ねぇ~なってくれるかな~?」

「お断りします」


 レイジは即答した。


「……なんでか聞いても良い~?」


 笑顔を浮かべて問い掛ける神楽だが、目が笑っていなかった。

 彼女の背後から大太刀を握り締めた鎧武者の幻影が現れる。

 とてつもない威圧感を前にしてレイジは、動じることなく口を動かす。


「俺は平穏を望むからです。魔導騎士には興味がない。家族と共に楽しく暮らすのが俺の夢です。それを邪魔するなら……容赦しない」


 深紅の瞳を怪しく輝かせたレイジは、嵐の如き強い殺気を放つ。

 彼の背後から大鎌を持った死神の幻影が現れる。


「どうしてもなの~?」

「どうしてもですよ」


 視線と視線をぶつけ合うレイジと神楽。

 二人の幻影はお互いの敵を睨み合い、武器同士を激しくぶつける。

 数分後、神楽は軽くため息を吐いて幻影を消した。


「分かったよ~。()()諦めるよ~」

「今は……ですか」

「うん~。君の事は絶対に諦めないから覚悟してね~。光闇レイジくん~」


 柔和な微笑みを浮かべる神楽は「リムジンの中で待っているよ~」と言い残し、雪風と共に姿を消した。

 一人になったレイジは深いため息を吐いて、顔を上に向ける。


「面倒なやつに目を付けられたな」

 

 本来、敵対する神楽がレイジを魔導騎士にしようとしている。

 アニメの設定にはないことが起こり、レイジは途轍もなく嫌な予感がした。

 胸騒ぎが収まらない。


「本当……なんでこうなるんだよ」

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