表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/133

魔獣LV6

「ハァ…ハァ…お、終わった」


 大樹に背中を預けて座っていたレイジは、口から荒い息を漏らしていた。

 先程まで魔獣の大群と激闘していた彼は疲労困憊だった。

 返り血で髪の毛やスーツは赤く染まっている。

 スーツはボロボロ。体力も魔力もほとんど残っていない。


「さすがに疲れたな」


 レイジはスキル〔格納空間(アイテムボックス)〕から回復薬が入っている瓶を転送。

 口で瓶の蓋を取り、回復薬を飲んだ彼は、あまりにも酷い味に顔を歪める。


「オエッ!マッズ!確かに魔力と体力は回復したけどクソマズいな。これなら泥水飲んだ方がマシだな」


 腕で口を拭うレイジは、大鎌を杖代わりにして立ち上がる。


「それにしても本当に大変だった。一番きつかったのはLV5の魔獣が現れたことだな」


 彼の視線の先には、血を流して地面に倒れている百メートル以上の大蛇の姿が。

 魔獣LV5アース・ギガント・スネーク。

 LV5の魔獣は、体長約百メートルから千メートルある巨大化物。

 一日で国を滅ぼす災害級の魔獣。


(現れた時はマジで焦った。分身達と連携してなんとか勝てたけど……死ぬかと思った)


 良く勝てたなと思いながら、レイジはため息を吐く。

 因みに魔獣の素材回収は分身達に任せていた。


「それにしても……俺って本当に化物だな」


 魔獣の血で赤く染まって掌を見て、レイジは悲しそうな表情を浮かべた。

 本来、LV5の魔獣は女神なしで勝てる敵ではない。

 なのにレイジは勝ったのだ。しかも一人で。

 最早、光闇レイジは化物の中の化物だ。


「流石は世界を滅ぼす寸前までしたラスボスだな」


 自嘲するレイジは吐き捨てるように呟いた。

 

◁◆◇◆◇◆◇◆▷


 その後、魔獣の素材回収を終え、充分に休憩した彼は家に帰ろうとした。


 その時だった。レイジの目の前に―――人の形をした獣が現れたのは。


「!?」


 身体全身に悪寒が走る。

 レイジの視界に映っているのは、人の形をした百八十センチの猿型魔獣。

 黒い体毛に腰から伸びた長い尻尾。そしてぶ厚い氷に覆われた両腕。

 レイジは知っている。目の前にいる魔獣がなんなのかを。


「魔獣LV6……だと!?」


 レイジは驚愕の表情を浮かべた。

 魔獣LV6。それは魔導騎士が一万人いて倒せるかどうかの化物。

 体長は百センチから二百センチ。人間と同じぐらいの大きさ。

 しかし強さは魔獣LV5以上。一晩で国を三つ滅ぼす力を持っている。

 魔獣LV6の最もの特徴は、人型であることと。

 そして、

 

「ネェ……遊ボ?」


 人の言葉を喋れることだ。


「!!」


 男か女か分からない不気味な声音。

 目の前にいる魔獣の言葉を聞いた瞬間、レイジは大鎌を振り下ろした。しかもスキルで肉体を強化した状態で。

 本能が叫んでいる。こいつは危険だ。早く殺せと。

 渾身の一撃が猿人型魔獣に直撃しようとした時—――大鎌を持っていたレイジの右腕が斬り飛ばされた。


「!?」


 一瞬で魔獣から距離をとったレイジは、肩から失った右腕を強く押さえて止血する。

 切断面から大量の血が流れ、激痛が走る。

 分身達は本体のレイジを守るように囲む。

 痛みで顔を歪めるレイジは、LV6の魔獣に睨みつけた。


「お前は……いったい」

「ボク?ボクハ、ゲームッテ言ウンダ。宜シクネ」

「ゲーム……遊戯ってことか」

「ソレヨリ遊ボ!遊ボ!」


 子供のようにはしゃぎながら、ゲームは近寄ってくる。

 そんな魔獣の姿を見て、ガリっと歯噛みするレイジ。

 彼は心の中で混乱していた。

 なぜなら、レイジが知らないLV6の魔獣が現れたからだ。

 アニメ『クイーン・オブ・クイーン』でゲームという名のLV6の魔獣は出てこない。

 

(いや、落ち着け。この世界は現実だ。アニメには登場していない魔獣が現れても不思議じゃない。実際、知らないスキルもあった。今は、目の前の敵を殺すことが最優先だ)


 レイジは戦略を考え、分身達に指示をする。


「お前ら。一分でいい。時間を稼げ!」

『おう!』


 分身達はスキルで己を強化し、突撃する。

 握り締めている大鎌を振るい、斬撃を放つ。

 四方八方から襲い掛かる攻撃にLV6の魔獣は、


「アハハハハハ!遊ンデクレルンダ。ヤッター!」


 楽しそうに笑いながら、全ての攻撃を尻尾で弾き返した。

 驚愕する分身達を、指先から伸ばした氷の爪でゲームは斬り裂く。

 鋭利な爪で切断され、分身達は粒子と化して消滅する。

 その光景を見て本体のレイジは、舌打ちした。


「急いだほうが良さそうだな。スキル〔癒しの光〕!」


 スキルを発動すると、レイジの左手から光の粒子が放出した。

 粒子は切断された右腕に集束し、腕の形をかたどる。

 そして粒子は月のように光り輝いた。

 数秒後、徐々に光が収まるとそこには失ったはずの右腕があった。

 手の平を握ったり閉じたりして、レイジは違和感がないか確かめる。


「よし!再生完了」


 腕を完治させたレイジは、スキル〔格納空間〕から一冊の魔導書を転送。

 彼は素早く魔導書を開き、スキルを収得する。

 準備は整った。


「行くぞ!」


 地面が陥没するほど強く踏み込み、レイジは走り出した。

 白銀の軌跡を描きながら、彼はゲームに突撃する。


「アハ!今度ハ君カ!」 


 接近してくるレイジに気が付いたゲームは、片腕を横に振った。

 すると空中に大量の氷柱が出現。

 氷柱はレイジに向かって高速に飛来した。

 襲い掛かる氷の弾丸を前にレイジは―――さらに加速して突き進んだ。

 氷柱はレイジの皮膚を裂き、スーツに傷を付ける。

 だが彼は止まらない。

 血が流れても、装備がボロボロになっても前に進む。

 深紅の瞳を強く輝かせ、レイジはゲームの頭を鷲掴みにした。

 そして大樹に強く叩きつける。


「何ヲスルノ?」

「火遊びだ、お猿さん!」


 不敵な笑みを浮かべたレイジは、鷲掴みしている掌から赤黒い炎を放った。

 ゲームは爆炎に呑み込まれ、激しく燃え上がる。

 血と肉が焼いたような臭いが充満し、レイジの鼻腔を刺激する。


「ウギャァァァァァァァァ!!」


 味わったことが無い激痛に襲われ、苦痛の悲鳴を上げる猿人型魔獣。

 レイジのスキル〔重力操作〕で圧力をかけられているせいで、逃げることもできない。

 彼は魔力を消費して、さらに火力を上げる。


「流石は五百万した火属性の最上級攻撃スキル〔煉獄(れんごく)〕。効果は抜群だな。さっき読んで正解だった!」


 このまま跡形もなく燃やしつくそうとした時、レイジのスキル〔災悪視〕が自動発動した。

 ぶ厚い氷に覆われた拳がレイジの頭を粉砕する映像が、脳内に流れ込んできた。

 咄嗟にゲームの頭を掴んでいた手を離し、レイジは防御系スキルを発動する。


「スキル〔障壁(しょうへき)〕!」


 レイジは自分を中心に、半球状の光のバリアを無数に展開した。

 直後、炎の中から深い火傷を負ったゲームが現れた。

 笑い声を上げながら、LV6の魔獣は氷に覆われた拳をレイジに向かって放つ。

 拳がバリアに直撃し、金属音と衝撃音が鳴り響く。

 強い打撃を受けた光のバリアは―――皹一つ付いていなかった。

 それを見て、ゲームは嬉しそうに笑みを浮かべた。


「アハハハハ!スゴイ!スゴイヨ!攻撃ヲ防ガレタノハ初メテダ!」

「これで諦めてくれると嬉しいんだが」

「ヤダヤダ!モット遊ブノ!ダカラ……()()()()()()?」


 ゲームは光のバリアに向かって怒涛の連打を放った。

 一発一発が速く、強い殺意が込められていた。

 ダメージが蓄積し、バリアに皹が走る。

 そして遂にバリアは甲高い音を立てて、砕け散った。


「アハ!ヤット壊レタ!」

「くっ!」

「マダ終ワラナイヨ~?」


 口元を三日月に歪めたゲームはバリアを殴り続けた。

 LV6の魔獣の連撃が次々と光のバリアを破壊する。

 脳裏に『死』という文字が浮かんだ時、最後のバリアが砕け散った。

 そしてゲームの拳撃がレイジに襲い掛かる。


「スキル〔成長操作〕!」


 咄嗟に子供の姿に戻ったレイジは、攻撃を回避する。

 彼の頭の上を強力な一撃が通り過ぎる。

 

「危ねぇ!髪の毛掠ったし!」


 ギリギリ攻撃を回避したレイジ。

 そんな彼に、ゲームは渾身の一撃を放つ。


「バイバイ。楽シカッタヨ」


 隕石のような勢いで迫りくる殴打。

 もう回避も防御もできない。

 それを目にして、レイジは悟った。


 今の自分では、LV6の魔獣には勝てないと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ